シナリオプランニングとは?進め方やシナリオ作成のポイント

環境が絶えず変化し続け、あらゆることが複雑化する現代は、不確実性が非常に高いため将来予測は困難なものとなっています。そのような時代を企業が生き抜くためには、長期的に起こりうる未来を複数想定し、それらに備えることが大切です。そのために有効な手法が「シナリオプランニング」です。以下では、シナリオプランニングとは何か、なぜ重要なのかを解説し、シナリオプランニングの描き方や注意点などを紹介します。

シナリオプランニングとは

シナリオプランニングを実践することは、将来予測が困難なVUCAの時代を生き抜くために重要です。では、シナリオプランニングとは実際にどのようなものなのか、その重要性について述べていきます。

シナリオプランニングとは何か

シナリオプランニングとは、将来起こるかもしれない複数のシナリオを描いたうえで、自社の事業や経営方針、想定される出来事への対処法を導きだす手法です。たとえば、今後日本国内の人口が減少していくのは確実性の高い未来予測です。しかしその結果、国内企業のスタンダードが主にグローバル市場への進出となるのか、少人数国家として小規模で高い品質のプロダクトを国内市場に提供することになるのかは、不確実なシナリオです。

不確実性の高い未来に対し、さまざまな方向から俯瞰し、複数の長期的な戦略を立てるのがシナリオプランニングです。

シナリオプランニングは「こうなったらいいな」といった楽しい未来を予想する「戦略的楽観主義」に基づいたものではありません。最悪の事態を考えておくことで、悪い状況に陥ることを回避する「防衛的悲観主義」であることが前提です。そのため、予想する未来は実際に起こりうる可能性のあるリアリスティックな内容であることが必要です。このリアリズムを活用して発想を転換し、イノベーティブなアクションにつなげるフレームワークです。

なぜシナリオプランニングが重要なのか

現代はVUCA(ブーカ)の時代といわれています。VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉です。変化が激しく、ビジネスを含むあらゆるものを取り巻く環境が複雑化し、想定外のことが発生する、「将来予測が困難な状態」を意味しています。

例えば、石油メジャーといわれるロイヤル・ダッチ・シェルは、1973年10月に起きた第1次石油危機をシナリオプランニングによって予測していたといわれています。石油輸出国が経済力をつけていく中で、石油の支配権が欧米から石油輸出国にシフトする可能性があることを1972年の時点で懸念し、経営者に警鐘を鳴らしていたというのです。

このように、長期的な視点で俯瞰し、複数の可能性を検討するシナリオプランニングは、先行きが不安定なVUCAの時代において有用といえます。はじめから事業を失敗させるつもりで始める経営者はいませんが、成功への筋道を立ててスタートした事業でも、予期せぬ出来事によって失敗することは珍しくありません。それは、事業成功への道筋を立てた際の前提や業界の構造、市場トレンドなどが変化しうる、つまり不確実なものであるためです。

日本でいう日本銀行のような存在であるFRB(アメリカの中央銀行制度の最高意思決定機関)は、2021年4月の時点で米国におけるインフレは一時的であると発言していました。

実際には一時的では済まず、インフレ抑制のために金融緩和政策を打ち出すこととなりました。世界でもトップクラスの頭脳を持った業界の専門家でさえ、未来の予測を読み違えることは少なくありません。ここで重要なのは、インフレが一時的であった場合と長期的であった場合の2つの未来を予想して、しっかり備えるという点です。

100%の未来予測は不可能です。だからといって思考停止状態にならず、不確実な未来に起こりうるリスクを可能な限り予測し、そして回避するために、シナリオプランニングは大いに役立つでしょう。

シナリオプランニングが活用される場面

シナリオプランニングは、目指したい企業像によって「未来適応型」と「未来創造型」の2種類に分けられます。

どんな未来にも適応できる組織づくり

さまざまな可能性を踏まえ、どんな未来にも適応し、生き残ることができる組織を目指すときには「未来適応型」のシナリオプランニングが役立ちます。

未来適応型は、特にすでに取り組んでいるビジネスがあり、組織化された大企業に適した手法です。専門家など有識者の見解を取り入れつつ、市場の観察者として丁寧なリサーチを行い、定量的なデータを分析することにより精密なシナリオを作成します。

シナリオプランニングから出される複数のシナリオは、変革や破壊的なイノベーションを内蔵しています。そのため、経路依存を断つことや発想の転換になり、複数の未来からバックキャストした現状の問題を可視化することにも役立ちます。

インパクト ある未来を創造する組織づくり

不安定な時代において、破壊的イノベーションを創造する組織を目指すならば「未来創造型」のシナリオプランニングが適しています。未来創造型は、自らが新たな未来の価値を生み出して市場のメインアクターとなるために、スタートアップなどに適した手法です。「ビジネスモデルやサービスをどのように変化させていくのか」を考えることは企業のビジョンを創ることや、組織を鼓舞することにつながります。組織の可能性を想起し、社員を動機付けするために、シナリオプランニングが役立つのです。多様なステークホルダーと連携しながら、関係者間の対話を重視し、市場を形作るアクターとしての立場からシナリオを作成していきます。

シナリオプランニングの注意点

シナリオプランニングを実践するときには、長期的なシナリオを考える、大胆すぎるアイデアに注意するなどいくつかの注意点があります。

長期的なシナリオを考える

シナリオプランニングは、予測できない未来の大きなトレンドを把握しようと試みるものです。

しかし不確実性の高い現代においては、3年、5年といった近い未来ですら、予測が難しいのが現実です。とはいえ、企業として「どんな未来を実現するのか」という長期的なシナリオを考えておく必要があります。

具体的な時間軸と地域軸を設定する

シナリオを考える際には、時間軸と地理軸を設定しましょう。

シナリオプランニングが、不確実性が高い未来へのリスク回避であるとしても、30年後や50年後といったあまりにも長期的な期間では、具体的に考える上での根拠に乏しくなってしまうため、10年を目安に考えると良いでしょう。

地域軸は、日本においてのシナリオなのか、アジアもしくは世界などの単位においてのシナリオなのかといったことです。日本の人口がどう変わっていくかについては、情報収集や予想もそれほど難しくないでしょう。しかし、アジアや世界といった大きな括りで分析する際には、それぞれの国の状況の違いを踏まえた上で考える必要があるため、難易度も労力も変わってきます。運営上の観点も含めて、地域軸を決めるようにしましょう。

定期的に見直すことを忘れない

シナリオプランニングは、シナリオを立てれば終わりというわけではなく、定期的に見直すことが重要です。前提として、シナリオプランニングは「その時点で」考えられる不確実な未来の複数の可能性を考えることです。未来は確実でないため、市場や環境は変化し続けます。そのため実際にシナリオプランニングから得たヒントや考察をモニタリングしながら、半年ごと、1年ごとに見直しながら、ブラッシュアップしていく必要があります。

シナリオプランニングの7つのプロセス

シナリオプランニングを実践するには、以下の7つのプロセスを順番に進めていきましょう。なお、シナリオプランニングのプロセスについて詳しくは、新井宏征氏の「実践 シナリオ・プランニング 〜不確実性を「機会」に変える未来創造の技術〜」をご覧ください。 シナリオプランニングの概念を知るためだけではなく、実際に実務に落とすうえで、とても参考になる書籍です。

シナリオテーマ設定

まずは、自社の事業とビジネスモデルを分析し、抱えている課題や競合他社と比較しての優位性を洗い出して整理します。そのうえで、何年後を念頭においたシナリオを作成したいかという「時間軸」と、市場は国内、海外かなどの「地域軸」を検討します。時間軸は身近すぎると単なる予測となってしまい、かといって長すぎると根拠に乏しくなり非現実的です。地域軸も同様に、範囲が広すぎると分析範囲も広大となり、難易度が高まります。これらの点を踏まえたうえで、シナリオプランニングによって、何を決定したいのか目標設定を行います。

外部の環境変化要因を洗い出す

策定した時間軸や地域軸にそって、PESTEL分析などのフレームワークを活用し、未来に影響を及ぼす外部環境要因を洗い出します。

PESTEL分析とは、以下6つの面から外部環境を分析する手法です。

  • 政治面(Political):政府の安定性や税制、政策など
  • 経済面(Economic): 景気サイクル、インフレ率、GNP動向、失業率など
  • 社会面(Sociological): 人口分布、収入格差、生活水準、ライフスタイルの変化など
  • 技術面(Technological):政府や業界の取り組み、通信環境の成熟度など
  • 法律面(Legal):労働関連法、消費者保護法、規制緩和など
  • 環境面(Environmental):環境保護やエコロジーに関する世論、SDGsなど

外部環境要因の洗い出しは、普段は注意を向けていなかった分野面からも考える必要があるため、シナリオプランニングでも困難な部分です。しかしこのように視野を広げられることも、シナリオプランニングに取り組むメリットのひとつです。この段階では情報の取捨選択は行わず、できるだけ多くの情報を収集することを意識しましょう。

経営企画部など、計画策定の実務部門が行う場合、情報の収集の際に費用をかけることも必要です。また、人材開発部門による能力開発などが目的の場合は、個々の部分は、外部講師やコンサルタントなどに情報収集などを頼んだほうが良い場合もあります。専門的な領域になるため、情報取得に時間がかかり過ぎてしまうことを防ぐためです。

不確実性とインパクトから情報を整理

PSTLE分析で集めた外部環境要因を、自社の事業に与えるインパクトの大小と不確実性の高低という二軸で評価し、整理していきましょう。

シナリオプランニングは、インパクトが大きく不確実性の高い内容を選択するアプローチです。不確実が低く、インパクトが大きいものは、中期経営計画に載っているかすでに実施されていることも多いでしょう。外部環境要因がA〜Dのどこに該当するかを整理していき、未来に要因を与える可能性のある外部環境要因を洗い出していきましょう。

ベースシナリオを作成

ベースシナリオとは、ひとつ前のステップでAに該当する外部環境要因を元にして作るシナリオです。A に該当する外部環境要因は、どのような未来になったとしても確実に起きることが予想され、かつインパクトが大きいものです。

例えば、日本における「高齢化」や「人工知能技術の進化」はAに該当すると考えられます。この後のステップで複数のシナリオを考えていきますが、どのシナリオになったとしても「高齢化」や「人工知能技術の進化」は起きていると考えます。

このようにAに該当する外部環境要因は、すべてのシナリオのベースになるものであると考え、これを「ベースシナリオ」と呼びます。

複数のシナリオを作成する

上記で影響力が高いと評価した外部環境要因2つを組み合わせ、それらに基づいた複数のシナリオを描きます。たとえば外部環境要因として「都市集中から地方分散へ」と「平均年収が増加する」を選んだ場合、実際に人口の地方分散が進むか、都市集中が進むか、平均年収が増加するか、減少するかというそれぞれ2つの可能性が考えられます。これらを組み合わせると、「集中×増加」「集中×減少」「分散×増加」「分散×減少」という4つのシナリオを描けます。

シナリオ詳細分析

ひとつ前のステップで複数のシナリオを作成しました。「日本の人口と年収の推移」に関するシナリオが4つできているはずです。作成した4つのシナリオによって、日本の人口と年収の推移における変化の可能性を大きく掴むことはできるかもしれませんが、自社の事業の将来性とを結びつけて考えられるかどうかでいうと、難しいでしょう。

そこでシナリオ詳細分析では、自分たちが考えたいテーマに沿ってシナリオを詳細化していきます。

自社が自動車業界である場合、「各シナリオで、消費者はどのような場面で自動車を使うだろうか?」「各シナリオで B to B の場合はどのような場面で自動車を使うだろうか?」といった具合に、シナリオごとの問いに答えていき、シナリオにおける世界の違いを明確にしていきます。

戦略オプション検討

作成したシナリオを自社のビジネスに紐付けて、事業方針を策定し、組織づくりに活かします。初めに定義した自社の抱えている課題や競合他社と比較した優位性などを考慮し、シナリオプランニングの目的である「不確実な未来に備える」ためには、どのような形でシナリオを活用できるかを考えます。

まとめ

不確実性が高まっているVUCAの時代を生き抜くためには、あらかじめ複数のシナリオを立ててリスクを想定し、戦略を立てるシナリオプランニングが有効です。シナリオプランニングは、どのような事態が起こっても生き残る組織を作る「未来適応型」と、自社が生き残れる未来を創造する「未来創造型」があります。シナリオプランニングを実践するには、自社のビジネスモデルを分析し、外部環境要因を洗い出すなどさまざまなプロセスを踏まなければなりません。シナリオプランニングに興味はあるものの、どう進めれば良いのかわからない、またはVUCA時代を生き抜く組織づくりについてのサポートが必要な際には、どうぞソフィアまでご相談ください。

よくある質問
  • シナリオプランニングとは何ですか?
  • 将来起こるかもしれない複数のシナリオを描いたうえで、自社の事業や経営方針、想定される出来事への対処法を導きだす手法です。不確実性の高い未来に対し、さまざまな方向から俯瞰し、複数の長期的な戦略を立てるのがシナリオプランニングです。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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