在宅勤務が抱える問題点とは?働き方改革を成功させた企業の事例も紹介

昨今における働き方改革の大きな潮流や、COVID-19新型コロナウイルスの感染拡大など社会情勢の急激な変化に応える形で、在宅勤務が続々と導入されています。しかし多くの企業が十分な準備期間を設けられないまま、半ば突貫工事のように在宅勤務導入してしまったことから、早くも多くの問題点が指摘されるようになっています。本記事では在宅勤務が抱える問題点について解説するとともに、働き方改革を成功させた企業の成功事例についても紹介します。

在宅勤務とは

在宅勤務とは、企業における勤務形態(働き方)の一つを指します。これまでオフィスに出社して行っていた業務を自宅で行うというものです。

広がりを見せる在宅勤務/在宅勤務のできない状況

COVID-19感染拡大の影響により、密閉された空間に人が密集・密接することを避けるために、国や自治体の要請を受けて2ヶ月近い外出自粛が行われています(2020年5月18日現在)。それに伴って企業の在宅勤務導入が急ピッチで行われることとなり、今や都心部だけでなく全国にも広がりを見せています。
しかしながら、企業の方針で導入できていなかったり、業種や職種によってはそもそも在宅での業務が不可能だったりと、実際には大半の企業が在宅勤務になっておらず、まだ在宅勤務は少数派という状況です。

在宅勤務とテレワークの違い

在宅勤務は、働き方改革で推進されている「テレワーク」とは異なります。テレワークは本来「時間や場所に縛られることなく柔軟に働くことのできる勤務形態」を意味しており、在宅勤務はその一形態です。本来のテレワークには、サテライトオフィス勤務などのリモートワークやモバイルワークなども含まれています。
現在は外出自粛が要請されているため在宅勤務しか選択肢がない状況ですが、事態が終息したのちにはテレワーク本来の定義に則った、柔軟な働き方へとシフトしていくでしょう。

在宅勤務における問題点と解決方法

在宅勤務は、本来であれば就業規則も含めた厳格なルールを制定し、試験導入を経た上で全体へと徐々に展開させていくことが理想です。そのため、社会要請にすぐさま応じなければならない中で始まってしまった現在の在宅勤務には、多くの問題が潜んでいます。

勤務時間が伸びてしまう

在宅勤務中は当然ながらオフィス勤務と同じく労働基準法が適用されます。日本企業の場合は8時間勤務が基本です(時短契約の派遣社員などは除く)。しかし、出退勤の概念がなくなるため人によっては作業能率が落ちたり、逆に集中しすぎてしまったりすることがあり、「会社を出る」という強制的な締め切りがない自宅労働においては勤務時間が長くなりがちであるという傾向が指摘されています。参考:(独立行政法人労働政策研究・研修機構 平成27年「情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査」https://www.jil.go.jp/institute/research/2015/140.html

また、労働時間を遵守する意識が管理者側に欠けていると、部下がいつまでも業務を終えられない状況に陥ってしまいます。
オフィス勤務の際は「残業」という手段がありましたが、次に解説する健康への影響から在宅勤務での時間外労働は避けるべきです。これらの問題を解消するには、勤怠管理やプレゼンス(在席)管理、業務管理の機能を備えたグループウェアの活用が効果的です。また、勤務時間以外は業務に関連する情報にアクセスできないシステムを構築することも視野に入れましょう。
ただし、保育園や介護施設等の休所や通所自粛などの事情がある中、家族のケアをしながら在宅勤務をせざるを得ない従業員は、全員一律の強制的な勤怠管理では「時間と場所に縛られない」という在宅勤務のメリットを生かせない場合もあります。管理者がそれぞれのメンバーの家庭環境・勤務環境を把握した上で柔軟な対応ができるよう配慮することも必要です。

心身に不調をきたしやすい

黙々と作業をする人が多くコミュニケーションが活発でない会社もありますが、それでもオフィス勤務は同じ空間の中で他者の存在を感じられることから、自宅に隔離された状況とはまったく異なります。
特に単身者の場合、ひとりで作業する孤独感や疎外感によって心身の不調をきたす「在宅うつ」「テレワークうつ」がネットニュースなどで話題にのぼるようになりました。外出自粛も相まって1週間誰とも会わず私的な会話を一切できないというケースもあり、ストレス発散のために夜のアルコール摂取量が増えている人も多いようです。
また自宅に仕事用のデスクと椅子がないため、座卓と座椅子などPC作業に向かない環境で仕事をしていると猫背になりやすく、首まわりや肩、背中や腰に痛みを感じる原因となります。
在宅勤務を行っている社員へは心と体の健康状態を入念にヒアリングするとともに、健康障害を予防する対策を講じる必要があります。またその際、「自分の評価が下がるのではないか」と不安を抱かせないよう、ヒアリングや対策の意図を明確に伝えることも重要です。
在宅勤務の社員が常時50人以上の企業であれば、健康相談(ストレスチェック)の専門窓口を設けることも有効でしょう。

コミュニケーションに不安や曲解を生じやすい

相手の表情や言葉のトーンを読み取ることのできないテキストチャットやボイスチャットに依存したコミュニケーションは、発言した本人が意図していなくても「自分は信頼されていないのではないか」「これでは評価されないのではないか」「連絡がとれないのはなにか理由があるのではないか」といった疑念を相手に抱かせやすくなります。前述のように心身が弱っている状況ではなおさらネガティブに捉えてしまいがちでしょう。
オフィスでは周囲のやりとりが多少なりとも耳に入ってくるものです。しかしオンライン上のコミュニケーションではそれがなく、他の誰にも知られない一対一のやりとりが多発すると、そのときの内容を別の人に話す際に歪んで伝わってしまう可能性もあります。それが思わぬところでチーム内の不和を招く危険性も孕んでいます。
1つの解決策として、できるだけダイレクトメールや少人数のチャットのような閉鎖的なコミュニケーションを減らし、業務に関するやりとりは誰でもアクセスできるオープンなチャットなどで行いましょう。また、関わっている業務に関係なく雑談や相談や情報共有ができるオープンなオンライン会議室を設けたり、定期的にチームの全員が顔を合わせるミーティングを設けることも有効です。デジタルコミュニケーションのマネジメントは非常に難しく、方法論が確立されているわけでもありません。全体のコミュニケーションを図る時間を意図的に多く設け、それぞれに合ったコミュニケーションの方法を模索してみてください。

仕事とプライベートの切り分けが難しい

育児や介護など家族のケアを担いながらで在宅勤務を行っていると、あらかじめ業務時間を調整したとしても、意図しない突発的なトラブルで予定通りに勤務ができなくなる状況が起こりえます。勤務中に抜ける場合には、その時間を休憩時間として扱うか、時間単位の年次有給休暇とするか、時間外勤務でのカバーを可とするか、在宅勤務の就業規則を整備しておくことが後々のトラブル回避のために重要です。

コミュニケーションに時間がかかる

すでにテレワークを導入している企業および従業員を対象に、独立行政法人労働政策研究・研修機構が平成27年に行った「情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査」によると、テレワークにおいてコミュニケーションに問題があるという回答は約28%と、10人のうち2、3人の人たちが業務中になんらかのコミュニケーション不全を感じることが明らかになっています。
人がコミュニケーションを行うとき、言語(バーバル)による伝達は3割、残りの7割は表情や身振りといった非言語(ノンバーバル)によって相手に伝わるとされています。つまり、会社勤務のときに行われていた10割のコミュニケーションは、ビデオチャットや音声チャット、テキストメッセージでは完全な代替とはなりえず、オンラインで効率的なコミュニケーションを行うには対面時とは異なるスキルが必要とされるのです。
また、会社勤務では普段の会話でやりとりしていたことを含めて打ち合わせが行われるため相互理解が早く進みますが、在宅勤務では雑談を含め会話が一切ありません。そのため、Web会議による打ち合わせは相手との共通理解の程度を想像しながら手探りで話を進める必要があり、その分の事前準備に時間と手間がかかります。
在宅勤務においてもコミュニケーションレベルを会社勤務と同程度まで引き上げるように、雑談用の音声チャットを常にオンにしておきながら仕事をする企業も増えています。また、プロジェクト別やテーマ別のオンラインチャットを立ち上げて、関心のある人は誰でもアクセスできるよう、情報の透明化を進めることも有効です。

従業員が評価への不安を感じる

従業員への評価は、営業職であれば完全に成果主義ということもありますが、そうでなければプロセスと結果の両方を考慮されるはずです。しかし在宅勤務ではプロセスが第三者に伝わりにくく、結果だけにフォーカスされてしまいがちです。また評価する側にとっても、成果物だけで従業員を評価することに懸念を感じることもあるでしょう。
在宅勤務を行う社員に関しては、デジタルワークプレイスの導入などで業務のプロセスを見える化するとともに、明確な評価基準を設け、評価者・被評価者の双方が懸念を抱くことがないよう配慮する必要があります。

在宅勤務の問題点を解決し導入に成功した企業の事例

上述した問題点を解決し、在宅勤務を効果的に導入している企業がサイボウズ株式会社です。同社では、在宅勤務における社員の要望を吸い上げ、理解を得ながら導入を進めていったそうです。具体的には以下のような要望を盛り込んでいます。

  • 各自のスケジュールをオープンにしよう
  • 始業終業をグループウェアで連絡(コメント欄に記入)し共有しよう
  • 各部門に適した運用ができるように各部門で裁量を持とう
  • 各自の稼働時間帯や働く場所については事前に宣言しよう

サイボウズ社は元々グループウェアサービスを販売している企業であり、コミュニケーションや各々の活動の可視化を念頭に置いていることがうかがえます。


まとめ

在宅勤務はこれまでも一部で導入されていたものの、家庭の事情など特殊な状況に配慮して限定的に行われている場合がほとんどでした。フリーランスや内職など在宅を前提とした仕事は以前から存在しますが、組織に所属してチームで仕事をしながら在宅勤務へ移行する、という現在の企業が置かれた状況とは異なります。
今回のCOVID-19感染拡大による応急措置的な導入は、すでに至るところで綻びを見せはじめています。これらの問題点を放置しておくと、従業員の健康被害だけでなく企業活動そのものにも大きな影響を及ぼしかねません。在宅勤務の導入を「感染症拡大防止のための一時的な特別措置」ととらえるのは間違いであり、今後も戦略的に在宅勤務を活用できるよう環境や制度を整えていく必要があります。企業を経営する方々は現場の問題点をしっかりと把握、理解し、早急な改善に努めましょう。

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お問い合わせ

よくある質問
  • 在宅勤務の問題点とは何ですか?
  • 1.勤務時間が伸びてしまう
    2.心身に不調をきたしやすい
    3.コミュニケーションに不安や曲解を生じやすい
    4.仕事とプライベートの切り分けが難しい
    5.コミュニケーションに時間がかかる
    6.従業員が評価への不安を感じる

  • 在宅勤務の問題に有効な解決方法はありますか?
  • 1.勤怠管理やプレゼンス(在席)管理、業務管理の機能を備えたグループウェアの活用が効果的です。また、勤務時間以外は業務に関連する情報にアクセスできないシステムを構築すること
    2.心と体の健康状態を入念にヒアリングするとともに、健康障害を予防する対策を講じる必要があります。またその際、ヒアリングや対策の意図を明確に伝えることも重要です
    3.業務に関するやりとりは誰でもアクセスできるオープンなチャットなどで行いましょう。また、関わっている業務に関係なく雑談や相談や情報共有ができるオープンなオンライン会議室を設けたり、定期的にチームの全員が顔を合わせるミーティングを設けることも有効です。
    4.勤務中に抜ける場合には、その時間を休憩時間として扱うなど、在宅勤務の就業規則を整備しておくことが後々のトラブル回避のために重要です。
    5.在宅勤務においてもコミュニケーションレベルを会社勤務と同程度まで引き上げるように、雑談用の音声チャットを常にオンにしておきながら仕事をする企業も増えています。
    6.在宅勤務を行う社員に関しては、デジタルワークプレイスの導入などで業務のプロセスを見える化するとともに、明確な評価基準を設け、評価者・被評価者の双方が懸念を抱くことがないよう配慮する必要があります。

株式会社ソフィア

ワークショップデザイナー

幾田 一輝

社員意識調査を通じた組織課題の分析から、IT・人事分野の改善施策の企画立案、施策実施に向けた伴走支援を担当しています。改善施策の中では、ワークショップの企画、設計を得意としています。

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