【事例紹介】その情報ちゃんと社員に届いてますか?企業にインターナルマーケティングが必要な理由

総務省がとりまとめたデータによると、日本のブロードバンド回線契約者のデータ流通量は、2017年頃より送信・受信ともに急激な伸長を見せています。私たちが扱う情報の量は、一時代前と比べると格段に増加しているのです。

そんな中、各メディア企業や一般企業のマーケティング担当者は知恵を絞り、さまざまなテクノロジーを駆使して「いかに自分たちの発信する情報を届けるか」日々しのぎを削っています。しかし、情報を届ける対象を顧客ではなく社員に置き換えて考えたとき、はたして会社が発信した情報は、対象の社員全員に届いていると言えるでしょうか。そして、その発信の効果をしっかりと実感できているでしょうか。

企業が社員に情報発信を行う際には、「その情報を受け取ることで社員に何を考えてほしいのか、どう行動してほしいのか」という目的があるはずです。確実に目的を達成するためには、情報の受け手である社員をマーケティングの対象としてとらえる「インターナルマーケティング」の手法を取り入れる必要があります。例えば、顧客の思考や行動を分析し、製品・サービスの認知から購入、リピートといったエンゲージメント向上のシナリオを「カスタマージャーニーマップ」として描くように、社内においても社員の意識や行動に着目して「エンプロイージャーニーマップ」を描くことが有効です。

インターナルマーケティングや、エンプロイージャーニーマップについて、詳しくは下の参考記事をご覧ください。


この記事では、組織マネジメントを支援するソフィアの知見を踏まえ、具体的な事例を交えながら効果的なインターナルマーケティングについて解説していきます。

インターナルコミュニケーションがうまくいかないのはなぜか

ソフィアがお客様企業のインターナルコミュニケーションやインターナルブランディングを支援するなかで、「インターナルコミュニケーションがうまくいかない、効果をいまひとつ実感できない」といったお声をよく耳にします。

企業は顧客をはじめ協力会社や取引先、株主、地域の人々など、さまざまな関係者(ステークホルダー)に対して、自社にとって望ましい意思決定や行動を促すため、より効果的にコミュニケーションを図ろうと試行錯誤しています。しかし、情報の発信者と受信者、という点では社内も社外も共通しているのにもかかわらず、社員に対しては「読んで当然」「わかって当然」と情報の発信者である経営層や管理部門側が認識している状態が多く見受けられます。

市場環境の変化のスピードが速く、先行きの見えない「VUCAの時代」と言われる現代において、企業が柔軟に変化に適応して生き残っていくには、会社と社員のベクトルが同じ方向を向いていなければなりません。企業が事業を展開する際に、実際の現場で事に当たり理念や戦略を具体化していくのは社員です。その理念や戦略に対して会社の発信するメッセージが一人ひとりの社員にしっかり伝わっていなければ、社員は期待される役割を果たすことができないのです。

組織においてインターナルコミュニケーションが重要であると会社側が認識していても、発信する側が伝えたいことのみをただ発信し、通り一遍の施策を実施するだけで終わる場合も多々みられます。しかし、インターナルコミュニケーションを成功へ導き、社員に経営の意図を確実に理解・認識してもらうためには、マーケティングの発想で「ターゲット」と「手段」をとらえることが大切です。以下でさらに詳しく見ていきましょう。

情報を届けたい相手(ターゲット)を知ることから始めよう

顧客向けにマーケティングを行う際には、情報発信するメディアやコンテンツなどの手段をターゲットに合わせて的確に使い分けることが重要です。そして、これはターゲットが社員である場合も同じことが言えます。

ソフィアがさまざまなお客様企業を支援するなかで、経営層やコーポレート部門の担当者から
「企業のビジョンや経営方針がなかなか社員に浸透しない」
「(DX推進、働き方改革など)社員の意識・行動変革に取り組んでいるが、なかなか成果が出ない」
といった相談をよく受けます。しかし、一般的な社員の立場に立って考えてみると、いくら会社から沢山の情報を受け取ったとしても

  • 自分が考えたことでも、やりたいことでもないため興味・関心度が低い
  • 未知の情報がたくさん入っていて理解が難しい
  • 現在の自身の業務とあまり関係性が感じられない

などの理由から「とりあえず受け取っておしまい」になるのも無理はないでしょう。ぎっしり情報が詰め込まれたファイルを、メールやイントラ経由で突然送られ、「読み込んで、当事者意識を持ち、行動せよ」と言われても、日々の業務に追われている社員からすると迷惑な話で、つい後回しにしてしまうのです。

会社の理念やビジョン、方針や戦略を社員に理解してもらい、共感してもらい、それらの実現・実践に向けた行動を促すためには、ターゲットとなる社員のことを深く知ることが必要です。まずは、情報の受け手がどのように働き、何に興味を持ち、どのような情報を求め、どこから情報を得ているのかを、アンケートやヒアリング、観察などを通じて理解しましょう。

社員によって受け取りやすいメディア・コンテンツの形は異なる

博報堂が2021年1月に発表した「生活者のメディア環境と情報意識」レポートによると、2010年時点で人々が最も接触していたメディアがテレビであったのに対し、2020年ではスマホがその位置にとって代わっています。特に男性で40歳代以下、女性で30歳代以下の層が最長接触メディアとしてスマホを利用し、全年齢層でメディアへの接触時間が2010年に比べ長くなっています。また、40代では男性と比べて女性の方がテレビへの接触時間が長い等、年齢や性別などの属性により情報取得時のメディア利用状況に差が見られます。スマホの普及で情報源としてのメディアに選択の幅が拡がり、それぞれのライフスタイルや情報取集の目的に応じてメディアを使い分けている様子が、ここからうかがえるでしょう。

同調査によれば多くの人がFacebook、Twitter、InstagramなどSNSの複数のサービスを目的に応じて使い分けており、とくに若年層の女性はInstagram、中年層はFacebookなど、属性による利用率の違いがみられました。なにより、「情報やコンテンツは好きなときに見たい」「SNSでライブ動画を見たり、配信したりする機会が増えた」という人が増加しており、情報取得に対する態度が受動的であった以前と比べ、能動的なものへと変化していることが見て取れます。

これらのことから、会社では情報に対して受動的な社員も、プライベートではさまざまなメディアを使いこなしており、能動的に情報の受発信行動を行っていると考えて良いでしょう。上記の調査では年代や年齢によってメディアやコンテンツの利用状況が異なることがわかりましたが、たとえ同じ世代であっても新しいサービスの登場や流行によって、利用するメディア・コンテンツは変化していきます。そのため、インターナルコミュニケーションにおいても、定期的に社内のメディア・コンテンツの利用状況を調査し、「ターゲットが受け取りやすい情報発信」の経路や手段を更新していく必要があるのです。

社内の情報発信やインターナルコミュニケーション施策に効果を感じられないという場合にこそ、今一度初心に立ち返り、

  • 情報を届けたい相手は誰か(ターゲット)
  • そのターゲットに向けた自社の情報発信は適切か(手段と内容)

などの見直しを通じて、ターゲットをあらためて深く認識することが大切です。そのうえで情報発信の在り方を再設計し、社員の実態に即してインターナルコミュニケーションを更新していくことがポイントと言えます。

社内広報を成功に導くインターナルマーケティング実践に必要な3つのポイント

では、社内における情報発信の在り方を再設計するに当たって、実際どのような点に注意すればよいでしょうか?ソフィアでは、次の3つを重要視しています。

1 「社員は一人ひとり異なる」ということを知る
2 インプット・スループット・アウトプットの枠組みで整理する
3 社員の情報収集スタイルに合ったコミュニケーション手法や表現を考え、精査する

「社員」とひとくくりに言っても、マーケティングの視点で考えればその興味・関心や行動様式は一人ひとり異なります。この章では、適切な情報発信を行い、会社の発信する情報への理解・共感を形成するための具体策を考えていきましょう。

「社員は一人ひとり異なる」ということを知る

前述のように、年代や年齢、時代の流行などによってターゲットに適した情報発信のあり方は異なっており、メディアも多様に存在します。社員の情報に対する感度や接触頻度も一定ではありません。若手だからといって全員の情報感度が高いとは限りませんし、その逆もあります。
情報を発信する側は、わかりやすく30代男性営業職、40代後半女性総合職、といったようなセグメントに分けて考えがちです。しかし、そのセグメントにいる人は、みな同じような人でしょうか。周囲の人に目を向けてみてください。同じような属性だからといって、同じような人ということは決してないでしょう。
もちろん、経験年数や経験職種によっては、行動特性や価値観が似てくることもあるでしょう。しかし、それが同セグメント全てに共通するわけではないことは念頭に置くべきです。

社内広報やインターナルコミュニケーションにおいても、年代や職種などの属性だけでなく、社員の意識や行動に着目して一人ひとり異なった向き合い方を検討していかなければなりません。実際にご自身がプライベートで情報収集するシーンを思い浮かべてみると、スマホには個人個人の好みに合わせてカスタマイズされた情報が手元に届くのが当たり前になっているのではないでしょうか。
これと同じように、本気で社員の心をつかみたいのならば、同じように一人ひとり異なる興味・関心や行動パターンを持った個人としての社員に目を向け、それぞれに合った情報が、受け取りやすい形で届くようにするべきだ、と言えます。

インプット・スループット・アウトプットの枠組みで整理する

的確な情報流通の枠組みを設計するには「ターゲットに情報をどうインプットするのか」だけでなく、インプットした結果としてのアウトプットまで、明確に想定しておくことが大切です。

すなわち、どのようなメディアでどのようなコンテンツを発信し、どんな状況でそれらが受信されることを想定するのか。これに対しどういう反応を期待し、その結果社員の意識や行動にどのような変化をもたらしたいのか、そしてその成果をどのように把握するのか、という一連のストーリーです。

【 インプット→スループット→アウトプット 】 を意識し、ターゲットに応じて話者や表現手法などに工夫を凝らすことで、現実の行動に結びつけるストーリーを組み立てましょう。

ターゲットごとに受け入れやすいインプットを検討

「社員の意識・行動にどのような変化をもたらしたいのかを明確にし、社員が受け入れやすいインプットの仮説を立てることで、実施すべき施策が明確になっていきます。
ここで意識したい点は、情報の受け入れやすさは人によって異なるということです。動画やインフォグラフィックが見やすい・読みやすい・わかりやすいとされるかもしれませんし、社長と外部有識者の対談が社員の関心を引くケースなども存在します。

インプットされた情報への理解を深める、スループットのプロセスを設ける

前述のインプットに対して自らの考えを話したり・周囲の意見を聴いたりするプロセスがスループットです。これは、インプットで受け取った情報に対する理解を深め、当事者意識を醸成することに寄与します。スループットを行わずして、いきなり行動せよ、結果を出せ、というのは、あまり現実的ではありません。

結果としての意識・行動の変化(アウトプット)が生じる環境を作る

そして、最終的にはそれらの結果として期待されるアウトプットとしての行動や実践を促します。個の業務における実践の場はもちろんのこと、業務範囲を超えての提案や自らの考えを元に活動をする機会を提供することも、アウトプットにつながります。
これらのアウトプットをゴールとして設定すると同時にインプットの結果がどれだけのアウトプットをもたらしたのかを把握するための方法と、定量的に計測できる指標(KPI)をあらかじめ設定しておくことで効果測定と改善につなげることができます。

社員の情報収集スタイルに合ったコミュニケーション手法や表現を考え、精査する

繰り返しになりますが「情報の受け取りやすさ」というものは人によって異なります。媒介する手段や、「誰がその情報を伝えるのか」などによっても受け取り方に差が生じます。すべての社員に必ず伝えたい情報であれば、必要に応じてターゲットごとに異なるコミュニケーション施策を講じることも重要な方法です。

受け手に適した情報発信の手法は、社歴や年齢層、地域、部署や職種といった属性だけでなく、趣味嗜好やなじみやすいメディアなど、ターゲットの意識・行動の傾向によっても変わります。あくまで一例ではありますが、意識すべきポイントと伝わり方の差についての例をご紹介します。

  • どの媒体で伝えるのか(メディア特性)
    例)新聞でニュースを読むのは苦痛だが、テレビならすんなり理解できる
  • 誰が伝えるのか(話し手による関与度の差)
    例)アナウンサーと有識者ばかりが出てくる真面目なニュース番組はちょっと疲れるが、自分の好きなお笑いタレントがニュースに関して真剣に話しているものは頭に入りやすい
  • どのように伝えるのか(スムーズに伝わる情報設計)
    例)一方的に話されるニュースは耳を通過していくだけでも、時事ネタ漫才など会話形式になっていれば、共感し、問題意識をもって聞くことができる
  • どのように伝えるのか(信頼性の担保)
    例)冗漫で下世話なおしゃべりは敬遠するが、エビデンスのあるロジカルな資料があれば聞く耳を持つ

など、訴求したいターゲットを意識したうえで適切なコミュニケーションのスタイルを組み上げていくことが大切です。その際に使用する媒体とコンテンツは主に下記の通りです。

紙メディア

ニュースリリースや社内報など、文章をしっかり読んでもらいたい場合に適した媒体です。写真や図表を活用することで社員の目を引くビジュアルに編集し、内容への理解を促すことが可能です。

Web(イントラネットやPC)

動画や参照リンクなどを多面的に活用することができ、セキュリティが担保された社内ネットワークを用いれば、漏えいが心配される内容を取り扱うこともできます。また、閲覧履歴などを用いて、社員のメディア接触度を測ることも可能です。

Web(モバイル)

いつでもどこでもアクセスしやすいため、速報性があり、緊急時の一斉配信などにも適しています。気軽なアンケートなどを実施しやすく、普段の業務にPCを使わない社員との双方向コミュニケーションにも利用しやすいため、活用価値が高い手段です。

掲示

場所ごとにあわせた情報提供ができます。人の集まる場所に掲示することで、掲示に関することを話題にするなど、リアルな場での情報交換につなげられることも強みです。

ミーティング

深く密度の濃い情報の提供や共有、議論に向いています。対面やビデオ会議での口頭のコミュニケーションよりも文字メディアの方が意見を述べやすい、という人にはビジネスチャットを利用する手段もあります。

【インターナルマーケティングの実践事例】アクセス解析で社員の興味・関心を分析し、ターゲット別のコンテンツを発信する

ソフィアが支援を行ったある企業(単体1,500名、グループ20,000名の社員数)では、グループ横断での新規事業コンテストが行われていました。実施すれば常に一定数の応募があるものの、いつも同じような顔ぶれが並ぶことに、担当者は問題意識を持っていました。

そこでソフィアは、これまでとは異なる社員に興味を持ってもらうためにも、インターナルマーケティングの手法を生かし、社員の好奇心や持っている潜在力をする新たな取り組みを提案しました。
まずは、新規事業開発に関するウェブマガジンをイントラネット上に立ち上げるとともに、どんな社員がどのようなことに興味を持ち、どのような閲覧行動をしているのか、解析ツールを用いて分析を行いました。事務局側が発信したいことをそのまま出すのではなく、ユーザーの行動から受信者である社員の興味関心や、見やすい・読みやすいコンテンツのあり方を探ったうえでコンテンツを設計し、事務局が発信したい情報をそこに載せていく、というアプローチです。

ウェブマガジンへのアクセス解析の結果、「時間に余裕はないけれども、会社の新しい取り組みには興味を持つ」という層が一定数いることが明らかになりました。そこで、彼らに向けて、より深く取り組みの裏側や背景を知ってもらうために、関係者の対談を動画で配信。時間がない人たちということがわかっているので、動画には音声なしでも見られるように字幕をつけたり、短いサマリー動画をつくったり、文字起こししたテキスト記事も一緒に配信しました。

一方、「興味はあるけれども、そこまで深く関わる気がない」というセグメントに対しては、まずサイトに親しんでもらうことを目標に、イラストを活用しました。イラストとアニメーションを多用した親しみやすいコンテンツで、事務局の考えていることや、有識者の発言・アドバイスを伝えることで、コンテンツへのアクセスと内容への理解を促進したのです。

このようにターゲットの興味や行動様式を勘案しながらコンテンツを設計・発信するとともに、興味を引くメールマガジンなども併用したことで、閲覧者数が飛躍的に上昇し、幅広い社員を新規事業コンテストへの参加へと導くことができました。

【まとめ】

インターナルマーケティングとは望ましいアウトプット=行動を想定して、それを実現するプロセスを構築することです。そして、このプロセスにおいて社員にとって受け取りやすいインプットを設計し、スループットの場を提供することが重要になります。

うちの社員は受け身だ、受動的だと愚痴をこぼしていても、問題解決にはいたりません。受け身にさせている原因は、会社からの情報発信の問題である場合も少なくないからです。社内のことだから、という枠組みを一旦外して、社員を「会社が発信した情報を受け取ることによって何らかの意識・行動の変化が期待されるターゲット」ととらえ直し、マーケティング視点でコミュニケーション設計を考えることが大切です。社内広報やインターナルコミュニケーションのあり方を見直して、より望ましい情報流通と、発信された情報に対する社員の理解・共感の促進を目指していきましょう。

私たちソフィアは、これまで多くのお客様企業の組織のあり方を見てきました。培った数多くの知見を駆使して、組織がより良い方向を向いて進んでいけるよう、貴社をサポートします。お困りの際は、どうぞお気軽にお問い合わせ、ご相談ください。

よくある質問
  • インターナルコミュニケーションとは何ですか?
  • 社内やグループ会社内など、同一の組織内における広報活動のことです。「社内広報」や「インナーコミュニケーション」とも呼ばれ、社内報や社内セミナー、対話集会などを通して、社内におけるコミュニケーションを活性化する活動全般を指します。
    こうした活動は、組織の価値観や文化に対する社員の知識・理解を深めることにつながります。会社のビジョンを外部に向けて主体的に発信することのできる社員を育成し、組織全体を良い方向へと導く取り組みとして、インターナルコミュニケーションが行われます。

  • インターナルコミュニケーションがうまくいかないのはなぜか?
  • 組織においてインターナルコミュニケーションが重要であると会社側が認識していても、発信する側が伝えたいことのみをただ発信し、通り一遍の施策を実施するだけで終わる場合も多々みられます。社員に対しては「読んで当然」「わかって当然」と情報の発信者である経営層や管理部門側が認識している状態を改善する必要があります。

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