中期経営計画の作り方!作成のポイントや注意点

どのような企業にも実現したい長期的な目標があります。しかし、直接長期的な目標に向かって行動することは難しいため、まずは中期経営計画を策定し、その実現に向けた具体的な取り組みに従業員を巻き込みながら行っていく必要があります。

中期経営計画は、企業経営の将来的な方向性を決める非常に重要なものです。
以下では、中期経営計画の作成のポイントや注意事項を詳しく説明していきます。

中期経営計画とは

中期経営計画は、企業経営の方向性を示す計画として非常に重要な意味を持っています。中期経営計画がなければ、企業経営の方向性を示すことができず、企業内で働く従業員はもちろん、企業外のステークホルダーにも企業がどこに向かっているのかを示せなくなります。本章では、中期経営計画がなぜ必要なのか、その概要とともに説明していきます。

中期経営計画の概要

中期経営計画とは、経営計画(management plan)の一種で、3〜5年を計画期間とした経営計画です。したがって、中期経営計画は、3〜5年程度のスパンで計画を策定するのが普通です。中期経営計画は、将来の企業経営の方向性を示す大綱的な計画としての性質を備えています。よって、この計画を予定どおりに達成するためには、より具体的な内容を伴う実行計画が必要になります。

つまり、中期経営計画は、経営上の理想状態と、現状とのギャップを埋めるための計画という位置づけです。より具体的な実行計画としては、利益計画(短期経営計画)を策定します。利益計画は、通常1年間の会社の利益計画を示したものです。

中期経営計画の策定方式としては、計画策定にあたって対象とした計画期間の完了まで計画の見直しを行わない固定方式と、毎年度最新の環境変化を折り込んで計画を更新するローリング方式があり、不確実性が高く、経営環境の変化も激しい近年は、ローリング方式による中期経営計画の策定が日本国内では、主流となっています。中期経営計画を策定することは、法的に義務化されている事もありません。世界的にも主流な内容でもありません。

中期経営計画を作る目的やメリット

中期経営計画を作る目的は、単に成果物として計画書を作成するのではなく、計画策定のプロセスにおいて、様々な組織階層レベルでのコミュニケーションを繰り返しながら、経営改善の課題を抽出し、具体的な改善策を講じられるようにする点にあります。投資家やIR向けの限定的なコミュニケーションツールではありません。

中期経営計画は、全従業員が経営方針(ビジョン)について共通の認識のもとで、組織の総力を結集して、目標を効果的に達成するためのものです。経営方針は、経営意思決定を行う役員の意思統一を図るとともに、社員に対するモチベーションとして将来の希望を持たせるものでなければなりません。つまり、中期経営計画とは、効率よく理想に向かって会社を前進させるためのものということです。

中期経営計画があることで、会社一丸となって目標に対して事業を進められるようになります。中期経営計画を従業員に共有することで、各々の従業員が、経営方針に対して当事者意識と主体性をもって工夫しながら活動を行い、計画と実行のギャップを埋めるべくPDCAを回せるようになるでしょう。そのため、中期経営計画では、自社の将来のための事業構想を作り、その実現のために今解決すべき課題を特定して、環境の変化に対応できるように策定しなければなりません。

ただし、あまりにも長期の目標を掲げるだけでは従業員の行動指針としての具体性に欠けることになり、短期の目標だけでは長期的に会社として達成したい理想を見失ってしまう可能性があるので注意する必要があります。

長期的な視点に沿いつつも、より具体的に理想状態を把握することで、現状とのギャップやそれをどう埋めるかのアクションプランを立てやすくなります。中期経営計画は、会社の現在の課題特定・課題整理に役立つものでなければなりません。企業の経営方針をしっかりと反映させた経営計画書を予め策定しておくことで、金融機関やその他のステークホルダーからの信頼を得られます。よって中期経営計画を策定すれば、どの程度その計画に対して取り組みが行われているかを判断できるようになります。

不確実性の時代の中期経営計画

すでに説明したように、中期経営計画の策定にあたっては、経営環境を考慮しなければなりません。経営環境を仮定したうえで、中期経営計画を策定するからこそ、その計画を具合的に立案できるのです。しかし、近年では経営環境の不確実性が高まっているという現実があります。

出所: 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)

図は、独立行政法人経済産業研究所が定期的に発表している政策不確実性指数です。政策不確実性指数とは、政策をめぐる不確実性や政策との係わりで高まる経済の先行き不透明性を定量化するために作られた指標です。この図表が示しているとおり、近年は政策不確実性指数が高い状態が常態化していることが示されています。極めて不確実な時代へと突入したと言えるでしょう。したがって、たとえ中期経営計画を立案しても、その通りに進みにくい時代とも言いかえられます。

では、このような先行きの見通しにくい不確実な時代に、中期経営計画を立てる意味はあるのでしょうか。結論から言えば、不確実性の時代においても、中期経営計画の策定は絶対に必要なものです。ステークホルダーからの評価を得るためには、やはり中期経営計画を策定しなければなりません。しかし本当に重要なのはそういった表向きの中期経営計画を立てることではなく、不確実性の高い時代において複数の考えられるプランを策定し、対応できる組織づくりが大切です。複数の中期経営計画を代替案として策定しておくことで、ひとつのプランでは対応しきれなった事態が発生しても、素早く行動することができるようになります。

そういった事情もあって、近年では、BCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画)のように、災害やシステム障害、不祥事といった危機的状況下に置かれた場合であっても、重要な業務が継続できる方策を用意しておき、生き延びられるようにしておくための戦略を記述した計画書を準備しておく必要性も高まっています。

中期経営計画が必要になる場面

中期経営計画は、会社がどの方向を目指して進もうとしているのかを確認するための指針です。会社の重要な意思決定は、その指針に沿うように行われなければなりません。中期経営計画を見れば、その会社がどのような方向に進もうとしているのかがわかります。よって内部の従業員や外部のステークホルダーにとっては、中期経営計画は、その会社の将来性を判断するのに役立てられるものとなります。その意味において、融資を依頼するとき、補助金や助成金の審査を受けるとき、社内部の経営方針への理解を深めるときに、中期経営計画がどうしても必要です。

以下では、中期経営計画がなぜ必要なのかについて場面ごとに具体的に説明していきます。

融資を依頼する

金融機関等に融資を依頼する場合、貸し出す側は中期経営計画を確認します。中期経営計画は、その会社が将来どのような会社を目指しているかを示したものです。したがって、融資を行う金融機関にとって、中期経営計画は会社の将来性を判断するために欠かせない資料です。中期経営計画を確認し、将来融資したお金を返済してもらえる相手かどうかを判断します。

補助金や助成金の審査を受ける

公的機関などから補助金や助成金を交付する場合、交付する側は中期経営計画を確認します。中期経営計画を確認し、補助金や助成金を活用して導入する設備等によって、どのように経営状況が改善・向上される見込みであるかを中期経営計画から確認します。

会社内部の経営方針への理解を深める

中期経営計画は外部のステークホルダーに対して活用できるだけではなく、会社内部の従業員に対して経営方針を浸透させるためにも活用されます。中期経営計画を作成して従業員に公開しておくことによって、会社の将来像を示し、達成すべき目標とそのための取り組みに関する従業員の理解を促進させることができます。

中期経営計画の策定は意味がない?

中期経営計画は企業経営において欠かせないものですが、一方で不確実な事象が多く存在する現代において、中期経営計画を作成する意味があるのか?という疑問もあります。
確実性を担保するために中期経営計画は作成されますが、戦略は日々変化する可能性があり、コンフリクトが起きることは避けられないためです。世界的な新型コロナウィルスの蔓延や半導体不足など、これまで予想しなかった事態によって企業経営に影響が出ているケースが多くあります。

このような不確実性の高い世の中に対応するために、国外では「戦略を持たない」戦略にシフトしている企業が出てきています。戦略を持たずに、その時々に起きた出来事をチャンスと捉えて対応していくことで、結果的に会社経営がうまくいくようになる「エマージェント・ストラテジー」の考え方です。エマージェント・ストラテジーは日本語では“緊急時戦略”と訳されます。いくら机上で計画を考えたとしても、現実とぶつかった際に変更を迫られることは、企業経営において多々あることです。それであれば最初から“戦略を持たない“という選択も企業戦略のひとつであるといえるでしょう。

しかし実は現在、DXの推進によって社外のデータおよび社内のデータが可視化できるようになっています。不確実な事柄をデータ化することは、変化に素早く気づくことができるようになることと同義です。

不確実な時代の中期経営計画の作り方5ステップ

ここまで中期経営計画の概要とその役立ちについて説明してきましたが、以下では、具体的な中期経営計画の作り方について説明していきます。

社会を分析する

中期経営計画を策定するファーストステップは、自社が置かれた経営環境を分析することです。つまり社会の分析です。社会を分析するためには、自社の事業や業界に影響を及ぼす事象がないか、政治、経済などのさまざまな面から検討しなければなりません。特に業界の動向は、直接会社の業績に影響を与えるので注意深く分析しましょう。また、外部環境と照らして、企業が将来の成功に向かって進むための指針を考える必要があります。戦略とは、将来のビジョンと現実の状況とのギャップを埋めるために選択される何らかの手法や手続きです。将来の成功のためには、強みや弱み、市場動向、競合他社の動向などを勘案して、ビジョンや目標を作成する必要があります。

長期経営計画に照らした目標策定

社会の分析を終えたら、次は具体的な目標策定をします。長期経営計画書に明文化されることになるビジョンや会社の理想などを反映させた中期的な理想状態を具体的な目標として策定するのがポイントです。ここでいう目標とは、経営理念に近いものです。その企業の「存在意義」や「使命(ミッション)」を示すような目標(経営理念)を定めて、その実現のための課題を抽出して戦略を立案していきます。

課題を抽出し戦略を立てる

上記で設定した目標と現状のギャップを把握し、それを解消するための課題を抽出します。目標を設定したら、その目標を実現するための具体的な課題は何かを考えなければなりません。たとえば、「お客様に満足してもらえる商品を提供する」という目標を設定した場合、その目標を達成するためには、「どんな商品が必要か」「お客様の満足とは何か」といった具体的な課題を抽出します。そして、目標と課題のギャップを埋めるための戦略を立案していきます。先の例に沿っていえば、「お客様に満足してもらえる商品を提供する」ことを目標として、「どんな商品が必要か」「お客様の満足とは何か」を具体的に明らかにすべき課題として、「製品設計を見直す」という戦略が導き出されます。

しかし、不確実性の高い時代において、課題を抽出している間に状況が変わり、課題自体が変化していってしまう可能性もあります。外部環境要因において将来起こり得る可能性が高いもので、かつ自社に影響範囲が大きいものを優先するなど、検討する課題の対象を絞っていくことが求められます

数値目標を設定する

上記で設定した戦略は、あくまでも理念のようなものです。具体的な数値目標がないと、それを後に評価することができなくなります。したがって、数値目標と期限を設定し、その目標をどれだけ達成できたかがわかるようにすることが重要です。いつまでに何を達成する必要があるのか明確化することで、現場への周知や従業員の理解に役立てることができます。具体的な例を挙げると、「お客様に満足してもらえる商品を提供する」ことを目標として、「製品設計を見直す」という戦略を立てたのであれば、この戦略が上手くいっているかどうかを確認する必要があります。たとえば、製品設計を見直した後、1年間でその製品の売上高を2割増加させるという数値目標を立案すれば、その後それがどれだけ達成できたかを定量的に確認できるようになります。

適正な行動計画の策定

最後に、社内のリソースではとても実現できないような、前提に無理のある計画になっていないか、また定性的な目標を掲げる際には抽象度が高すぎないかなどに注意しながら、適正な計画立案を行っていきます。実際に計画を立案しても、それが社内に浸透しなければ達成はあり得ず、中期経営計画は「絵に描いた餅」となってしまいます。したがって、従業員に対して、中期経営計画を実現するためにどのような行動が必要かを具体的に示さなければなりません

中期経営計画は複数あっていい

経営方針(ビジョン)を実現するための中期経営計画を策定するためには、経営者と作成者の間で十分な検討・調整を行い、全社的に意思統一を図ることが必要です。中期経営計画の運用上のポイントは、いかに会社内の方向性を合わせて、経営方針に向けた取り組みができるかということです。そのための仕組みづくりが非常に重要となります。これを踏まえたうえで、上記のステップに従い複数のプランを立案します。

実際に外部のステークホルダーや会社内の従業員に公表される本筋の中期経営計画はひとつですが、不確実性の時代においては、たったひとつの戦略通りにいくことの方が少ないのが現実です。したがって、あらゆることを想定して複数の中期経営計画を策定しておくことで、都度生じる事態に対処できる柔軟な(レリジエンスな)仕組みづくりが必要です。

中期経営計画を失敗させないポイント5つ

中期経営計画を立案しても、それが上手く機能しなければ意味がありません。そこでここからは、中期経営計画を失敗させないためのポイントを5つ紹介していきます。

ここで重要なのは、でき上がっているころには世の中が変わっているかもしれないため、適正な行動計画を立てるのは難しいという前提の上で取り組むことです。

現場レベルのタスクに落とし込む

中期経営計画を絵に描いた餅としないためには、中期経営計画を現場レベルのタスク(課題)のなかに落とし込む必要があります。そのためには、各部門のリーダーやマネジャーが中期経営計画の中身を理解しなければなりません。なぜなら、各部門のリーダーやマネジャーが最もよく現場を理解しているからです。計画を正しく理解したリーダーらが、現場レベルに合わせてより日々の業務に直結するような具体的なタスクに落とし込むことが必要となります。したがって、中期経営計画を策定したら、それをきちんと各部門のリーダーやマネジャーに説明しましょう。現場ごとのリーダーによって適正なディレクションが成されてこそ計画実現に近づけます。タスクを設定する際には、期限を明示することを忘れないことも重要です。

実績の記録と分析はこまめに

中期経営計画の実現を目指し、計画と実績のギャップをできるだけ早く修正できるよう、記録と分析はできるだけ頻繁に行うようにしましょう。経営計画が実際にどの程度順調に進行しているのかを正確に把握するために役立ちます。こまめに実績を記録し計画と比較することで、計画とのズレを素早く修正できるようになり、計画の実現に近づきます
ビジネスインテリジェンスツールを利用することで、効率的に組織内のデータを蓄積し分析できるようになります。

OODAループを維持する

すでに説明したように、中期経営計画は、全社・全部門のマネジャーやリーダーと共有し、部署ごとに達成目標を決めることで進捗を管理する必要があります。そのため、どの程度目標を達成できているのかを定期的に確認しなければなりません

OODAループは、Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)の頭文字で構成されている造語です。

例えば、自社の業界や競合、顧客や社会環境の変化をObserve(観察)し、得たデータをOrient(状況判断)し、Decide(意思決定)に必要な材料を見極めます。Decide(意思決定)した内容をAct(実行)し、フィードバックするためにObserve(観察)に立ち戻るなどして、ループを再開します。

アジャイルでレジリエンスな組織づくり

不確実性の高い未来に対応するためには、必要なデータが素早く入手できる体制を用意することが必要です。そのデータを活用してこそ、将来起こりうる可能性が高い出来事を予測して、経営活動に活かすことができます。ただし、必要なデータが入手できたとしても、そのデータにバイアスが含まれている可能性は否定できません。また不確実性が高くなった世界では、将来を予測するのは非常に困難です。むしろ、不確実性を予測することは難しく、当初立案した戦略は崩れる可能性の方が大きいでしょう。したがって、綿密で崩れない戦略を事前に立案することを考えるよりも、その都度、予測していなかったことが起こるたびに必要な対応ができる、アジャイル(素早い)でレジリエンス(柔軟)な組織づくりが重要です。そのためには、組織内での密なコミュニケーションが必要です。

まとめ

中期経営計画は、将来の企業経営の方向性を決めるものです。中期経営計画を策定することで、外部のステークホルダーにとっては、どのような企業経営を行っていくのかがわかるようになり、融資、補助金、助成金の判断材料になります。内部のリーダー・マネジャー・従業員からは、具体的に自分たちの日々の仕事がどのような価値を生み出しているのかがわかるようになります。したがって、企業外部の人にとっても、企業内部の人にとっても、中期経営計画の策定は非常に重要な意味を持っています

不確実性の時代に堪えうるアジャイルな組織づくりのためのコミュニケーションについてお困りの場合は、ぜひソフィアにご相談ください。

よくある質問
  • 中期経営計画が必要になる場面はどんなときですか?
  • 会社がどのような方向に進もうとしているのかがわかります。よって内部の従業員や外部のステークホルダーにとっては、中期経営計画は、その会社の将来性を判断するのに役立てられるものとなります。その意味において、融資を依頼するとき、補助金や助成金の審査を受けるとき、社内部の経営方針への理解を深めるときに、中期経営計画がどうしても必要です。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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