2022.05.12
ラーナーエクスペリエンスデザインとは?受講者の「体験」を軸に、オンライン研修の可能性を拡大する
目次
この記事では、「ラーナーエクスペリエンスデザイン」「プロジェクトベースドラーニング」という、ソフィアが積極的に進めている研修の考え方について詳しくご紹介します。
ラーナーエクスペリエンスデザインは学習する者の体験や感情の動きを重視した、より効果の高い研修設計法です。それをプロジェクトベースドラーニングの中で実施することにより、現場の業務に即した学習内容・体験がさらに実感され、参加者のエンゲージメント向上を促進します。状況に応じて、オンライン/オフライン、また双方をミックスしたハイブリッド型など多様な形式で行うことが可能です。
HR業界のトレンド「エンプロイーエクスペリエンス(EX)」とは?向上させるポイントを解説
エンプロイーエクスペリエンスとは「従業員の経験(体験)」。社員満足度・育成状況・スキル・働き方・心身の健康状態…
ラーナーエクスペリエンスデザイン(LXD)とは
ラーナーエクスペリエンスデザイン(以下、LXD)は「学習者体験デザイン」と訳すことができます。提唱者の起源は諸説あり、2007年にオランダ人大学教授Niels Floor氏が自身の生徒に対して開発したものが始まりと言われたり、2015年に学習体験デザイナーのConnie Malamed氏が開発した、と言われたりしています。
簡単に言えば、従来型の「学習すべき内容を時系列で組んでそのカリキュラムを消化していく」という方法に対し、受講者の感情の動きに着目し「教室(学習の場)に着席する前後の時空間も含めて、学習者が獲得したい(させたい)成果を得るための最も有効な諸体験を設計」する考え方です。学習するものの立場に身をおいて、より効果的な学習プロセスをプログラムしていくため、LXDの範囲は従来のインストラクションデザインに留まらず、学習者とのインターフェイスや、接点となるメディアなどのビジュアルデザインにも及びます。体験そのものであるLXDは、研修プログラムの1冊の資料のなかにまとめることができません。
現在では、LMS(Eラーニングの学習管理システム)の技術的な進化に伴い、「体験」の大部分がデジタル上で実施されています。これに伴い、学習者の「体験」をログとして「データ化」することができ、「データ化」できれば、「自動化」でき、学習者に今必要な学習コンテンツをシステムが提案することも可能になっています。又、通信容量の拡大により、容量の多い動画データの提供/解析/フィードバックも可能です。つまり、デジタル技術革新により、LXDを前提とした学習の設計及び提供方法は常識になりつつあります。後段で詳細に説明しますが、学習技術の向上により学習の空間的/時間的制約から生じる古くからの問題としてあった「忘却曲線の問題」や「研修と実務の乖離問題」は、改善されつつあり、実務活動と学習コンテンツを空間的に近づき大幅に改善へ向かっています。つまり、インプットとアウトプットが同時並行になりつつあり、まさに啐啄同時を技術的に起こすことが可能になりつつあります。
オンライン研修の普及で変化した企業研修の常識
企業における研修はこれまで、そのほとんどが参加者を一堂に会して受講させる集合研修でした。しかし、近年ではコロナ禍の影響を受けて多人数を同じ会議室内で同席させることが困難になり、否応なくオンライン研修を導入した企業が増加しました。
オンライン研修には多くのメリットがありますが、一方で検討しなければならない事項も増加します。集合研修が中心の研修では、その補足としてeラーニングにおけるインストラクションデザイン(自学自習コンテンツの最適化設計)のみを検討することしかやっていないケースが多くありましたが、オンラインのみでの実施が前提となったことで、より一層学習者体験(LX)を中心にした研修設計へのシフトが求められるようになっています。
以下具体的に、研修をオンラインのみで実施することが学習者体験の変化に特に影響する点を解説します。
空間と時間の制限緩和
従来型の集合研修では、通常の業務フローとは完全に隔離されたイベントの形で、研修という「非日常」がさしはさまれます。そのための会場や講師や参加者の移動や宿泊の手配、所属部署での業務調整など、運営側・受講者側の双方に、空間的・時間的な制限が多大に要求されていました。しかし、オンライン型の研修では、そもそも会場を用意することがなく、その結果移動も不要となることから、負荷が大幅に低下します。
インプット(研修)の日常化
従来型の集合研修は、日常の業務から切り離された場所で行われるため、参加者の意識が切り替わることで、研修に集中する環境を作り上げることが容易でした。また、「非日常」の対面空間において、その場での体験を演出する様々な手法と工夫が使われていました。
一方、オンライン研修は普段の仕事場や自宅などから受講でき、距離的な移動も伴わないため、非日常的なイベント感がかなり薄れます。PCやスマホなどを用いた映像・音声による双方向コミュニケーションも、以前に比べて「普通のこと」になっています。つまり、研修自体が、日常業務に近いものになりつつあります。
学習と成長のエコシステム把握
オンライン研修はそのインターフェイスとして種々のITツールを活用します。そのため、受講者の進捗の把握や各種の行動データ集計など、LXD実現に必要な情報が把握・検証しやすくなるというメリットがあります。まだまだその手法は開発途上ではありますが、そうしたデータの分析を通して、どの施策が個々人の学習と成長にどのように寄与し、またその後組織のコミュニケーションの変化にどうつながったのか、さらに業績へのインパクトはどのくらい生じたのか、などといった研修の中間及び最終成果の把握が可能となります。まさに組織内学習のエコシステム(複数の環境要素が生態系のように相互に影響・関連する状況)を作り上げる技術的なベースが整いつつあると言えるでしょう。
学習のパーソナライズ化による、学び(内容・タイミング)の最適化
マーケティングにおけるユーザーエクスペリエンスがユーザーごとにすべて異なるように、LXDもまた本来的には個々の受講者にあわせたオーダーメイドを理想とします。この点に関しても、企業が多様性を前提にしたキャリアパスを整備し、それそれの役割レベルの業務に必要なスキルマップや学習コンテンツを用意することで、いつでもどこでもだれとでも学習ができる環境を整備することができるようになります。
また、LMSやマイクロラーニングコンテンツをはじめとしたデジタルラーニングの導入活用によって、学習のパーソナライズを可能にします。それにより、適切な指導をもとに学習者自身が主体的に自分の学習を組み立てることができるようになるのです。
コンテンツに合わせた研修方法の多様化
研修の「場」という概念は、オンライン研修の導入により大きく変わりました。時間と空間に関する選択肢が多様化するため、
- 全員がリアルに同席する
- 講師と受講者がリアルに対面する
- 画面を通して1対1、1対多で対面する
- 録画された講義や資料を視聴する
- グループチャットなどオンラインコミュニティで交流する
など、さまざまなコミュニケーションスタイルが併用できるようになりました。
学習の目的や期待する効果により、これらを組み合わせたハイブリッドな研修プログラムを用意して、従来のイベント型ではなく、継続するプロセスとしての学習機会を提供することが重要です。その実現のために不可欠な考え方と手法がLXDと言えます。
講師の役割多様化による受講生への影響力増加視点
研修のあり方の変化は、講師の役割も大きく変えています。
従来であれば講師は「コンテンツ」をメインに、対面で伝授・教授することが主な役割でした。その意味合いは伝統的な「教師」に重なるでしょう。しかし、オンライン研修の導入が進み、コンテンツや研修方法の多様化によってLXD指向が高まると、講師はインストラクションだけでなくプロセスをデザイン(設計)することを求められます。さらに、そのプロセスに合わせて「メンター」「キュレーター」「パーソナルトレーナー」としての役割も要求されるようになるのです。
講師自身の資質アップ(アップデートと言った方が適切かもしれません)もさることながら、スーパーマン的な1人の講師に期待するのではなく、事務局を主軸にしたチームを作り上げる必要性が出て来ます。受講者のサポートを行う「伴走者」機能を準備したり、プログラム設計の段階で現場や受講者と共に望ましい形を作り上げたりするコラボレーションのプロセスに配慮することが重要です。
LXDを活かせる「プロジェクトベースドラーニング」
上記のように、コロナ禍がもたらしたオンライン化の推進によって、企業研修の可能性は大きく拡大しました。それは同時に、企業研修のあり方・考え方自体をこれまでとは異なるアプローチで設計していかなければならない、ということでもあります。
その際に大いに活用すべき視点が、「プロジェクトベースドラーニング」です。
プロジェクトベースドラーニングでは、自社のリアルな課題をテーマとして設定するため、自分ごととして実感しやすくなります。また、日常業務との距離感も近いことから学習者のコミットの度合いが高くなります。つまり、主体性が高まることが期待されるので、(事前の)インプットは必要最低限にとどめ、参加者が自分たちで調べ、対話や議論を通じて問題や背景を理解し、提案・アウトプット・発表を行う、そして都度必要な場面での振り返りを実施する、という全体プロセスを構築します。その際に学習者中心の視点で全体設計を行うわけです。
プロジェクトベースドラーニングとは?
プロジェクトベースドラーニングでは、問題解決や課題達成に向けた提案作成・発表・施策の実施などをゴールとして設定し、そのプロセスに必要なスキルや情報のインプット、トレーニングも取り交ぜて、少人数のチームで取り組んでいきます。
テーマには複雑な課題や挑戦しがいのあるテーマを用意しましょう。企業研修では多くの場合、その企業内で掲げられているビジョンや方針の達成に向けた現実的な課題をテーマに選びます。そのため、チームメンバーはそれぞれ異なるバックグラウンドや思考スタイルを背負いつつも、メンバー間の接点を多く持つことで情報の同期化と交流、議論、試行錯誤を繰り返していくことが可能です。
既述したオンライン環境の進化によって、これまでは実際に会うことでしか確保できなかった接点を、時間空間の制約を超えて作り出せることが大きな利点と言えるでしょう。
講師は、研修期間の長短に関わらず受講者と継続的に関わり、研修事務局は伴走者として受講者のコーチングやケアの機能を果たしていきます。そして、ツールを介したコミュニケーションやフィードバック、学習状況の分析など、ここでもオンラインコミュニケーションが大きく役立ちます。プロジェクトベースドラーニングを今まで以上に活用できるようになったのも、オンラインコミュニケーションが主流になったからこそと言っても過言ではありません。
プロジェクトベースドラーニングの実践事例
ここからは、実際にソフィアが携わったプロジェクトベースドラーニングの実践事例を2つご紹介いたします。
西松建設様:想いが挑戦を生む。「バーチャルラーニング」を取り入れた階層別研修
西松建設様では、まず社内関係者へヒアリングを行い、どのような研修効果が期待されているかを明確にしました。そのうえで、社員に対するコミュニケーション調査を実施し、自社の現状に対する問題点と課題に対する認識を把握しました。
それを元に研修のアウトプットを「自社の現状と将来を考察、課題解決のための提言」にフォーカスした、グループごとのプレゼンテーションと設定。
eラーニングや動画を用いた研修インプットは数日間でしたが、最終プレゼンの発表までの約半年近くの間、グループコミュニティ(参加者がグループごとに交流できるサイト)を活用した情報交流や課題提出が継続されました。
支社でワークショップを行う際には支社の幹部にも参加してもらい、参加者の現場上司も発表を聞く機会を設定。これにより幹部と現場の相互理解が深まり、未受講者の研修に対する期待値やモチベーションも向上するというメリットも生じました。
株式会社NTTデータ様:新事業を生み出すマインドを育む。「議論できる文化を醸成する中堅社員向け研修」支援
NTTデータ様では、 中堅社員を対象に、ダイアログ/ディベート/ディスカッションを通して中期経営計画策定への提言をまとめるワーキンググループ型の学習プログラムを実施しました。目の前の課題に対応するだけの課題達成思考から抜け出し、前提を疑い、問題の本質を見抜いて議論する本プログラムを、ソフィアは企画から運営まで全面的に支援しています。参加者の状況(体験結果に併せて)数週間単位ごとにアジャイルにワーク内容を変え、1回終わるたびに、参加者の反応を踏まえて次のワークを考え、調整する。数時間のワークショップのために十数人の状況やデータを踏まえ、適切な啐啄同時のコンテンツを考えていくというのは、煩雑に業務であるものの、非常に効果性が高いことが確認されました。一般的にはタイムテーブルにある緻密なセッション遂行することがが求められる研修という分野で、LXDをベースとしてアジャイルな手法を学習提供しました。
【まとめ】
不確実性が高く、コロナ禍の行方も不透明な社会において、企業研修の概念が変わりつつあります。企業自身がお手本や正解を社員に示し、それを教え提供するということが現実的ではなくなっているのです。
LXDは、まさに「体験のデザイン」です。マーケティングの世界では、コミュニケーションを通して消費者がどのような体験をすることで自社製品やサービスのファンになり、ユーザーであり続けてくれるのか、ということを継続的に探ります。それを企業内の研修においても活用するということです。ユーザー(学習者、その所属部署)や企業(人材開発部門、経営層、社内各部署)、協力者(講師やコンテンツ提供者)などがコラボレーションし、「研修に唯一無二の正解はない」「取り組むべき課題もそのアプローチ方法のカギもすべて現場にある」という共通意識のもとでLXDを追求していく必要があります。さまざまな部門やそこに属する人たちの協力を得ながら、いかに「アジャイルに」作り上げていけるかが研修成功の鍵となります。昨今の急速なオンライン環境への移行は1つの大きな契機となります。
単に既存の研修をオンライン化するのではなく、組織内外のさまざまな動きと連動しながら、部門連携で組織を変えていかなくてはなりません。私たちソフィアは、豊富で多様な実績をベースに、新しい時代の企業研修をサポートしていきます。
株式会社EPクロア:ラーニングエクスペリエンスデザインの手法を生かした社内研修の内製化支援
在宅勤務やテレワークの導入が進み、研修のスタイルも変わりつつあります。医薬品開発のさまざまなプロセスにかかわ…
>>>お問い合わせはこちら
株式会社ソフィア
最高人事責任者、エグゼクティブラーニングファシリテーター
平井 豊康
企業内研修をコアにした学習デザインと実践を通じて、最適な学習経験の実現を目指しています。社内報コンサルティングの経験から、メディアコミュニケーションを通じた動機付けや行動変容の手法も活用しています。
株式会社ソフィア
最高人事責任者、エグゼクティブラーニングファシリテーター
平井 豊康
企業内研修をコアにした学習デザインと実践を通じて、最適な学習経験の実現を目指しています。社内報コンサルティングの経験から、メディアコミュニケーションを通じた動機付けや行動変容の手法も活用しています。