2023.04.06
若手社員の離職理由と対策!ワークエンゲージメントが高い職場をつくるために
目次
企業の成長のためには、次世代の中核を担う若手社員の育成が欠かせません。しかし、近年さまざまな企業で、若手社員の離職に悩む人事担当者の声を耳にします。なぜ若手社員は会社を去っていくのでしょうか。また、離職を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。
この記事では、さまざまなデータやコンサルタントの体験から若手社員の離職をめぐる現状を読み解き、離職の原因と対策について解説していきます。
若手社員の離職が増えている?
私たちソフィアは、最近さまざまな顧客企業から社員の離職防止策についての相談を受けています。入社したばかりの新入社員や仕事を覚え始めた2~3年目の社員の相次ぐ離職に、悩んでいる人事担当者は少なくありません。
地方の中小企業を中心に新卒社員の採用難が続いている昨今、苦労して採用した優秀な若手社員の離職は企業に大きなダメージを与えます。若手社員はなぜ早期に離職してしまうのでしょうか。新卒社員の採用と離職をめぐる現状から、その理由を探ってみました。
1.若手社員の離職率は増えていないが、学卒者の人数が減りつつある
若手社員の離職に悩んでいる方には意外な事実かもしれませんが、最近になって急に離職者が増えているというわけではありません。厚生労働省のデータによれば、実は入社3年目までの離職率はここ10年でほぼ変わっておらず、横ばいの状態が続いています。
しかし、今後は状況が大きく変わってきます。文部科学省「大学への進学者数の将来推計について」によると、今後大学進学率は上がり続けますが、少子化によって18歳人口は減少していくことが見込まれています。大学進学人数のピークは2017年の62万人で、この2017年大学入学者が社会に出るのが2022年です。つまり、2022年卒の学生を採用するタイミングである2021年から、新規学卒者が減っていきます。新卒採用の難易度はより上がり、優秀な新卒者を採用することは難しくなっていくことでしょう。
企業が若手社員の離職に悩む背景にあるのは、実際の離職の増加よりもむしろ、若手社員採用における企業間競争が激化し、それによって離職時のダメージが増加していることであると考えられます。
2.事業規模が小さいほど離職が多い
厚生労働省の調査によると、事業所規模が小さいほど離職率が高くなる傾向にあることがわかっています。
「新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率」では、1,000人以上の事業所では3年以内の離職率が24.7%であるのに比べ、5人未満の事業所では56.3%で、割合で言えば2倍以上も差がついているという状態です。人数の少ない中小企業の場合、大企業に比べて給料が低いこと、1人当たりの作業負担が大きいこと、人間関係への不満が溜まりやすいことなど、さまざまな離職要因が存在します。
採用市場において不利な状況にあり、若手社員に離職された際のダメージが大きい小規模事業所ほど、離職されるリスクが高くなります。そのため、中小企業では大企業以上に、若手社員の離職防止策が重要な問題になってくるのです。
3.転職理由は「休日・福利厚生」「人間関係」「給与・待遇」
せっかく新卒で入った会社を離れるには、それなりの理由があるはずです。「仕事が合わなかった」「もっとキャリアアップしたい」など、仕事や会社に求める欲求が満たされていないという場合もありますが、会社に原因があるというケースも少なくありません。
若手社員が転職する理由は、どのようなものが多いのでしょうか。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構による調査結果を参考に、会社側の原因が大きいと考えられる3つの離職理由をご紹介します。
休日・福利厚生など労働条件が悪い
新卒3年目以内に初めての正社員勤務先を離職した原因を見ると、女性のトップは「肉体的・精神的に健康を損ねたため(34.3%)」、男性のトップは「労働時間・休日・休暇の条件が良くなかったため(34.0%)」です。
人手不足に起因する長時間労働や極端に少ない休暇は、心身の健康を損なって働けなくなる原因につながります。たとえ健康であっても、プライベートを大事したい人にとっては転職を決意するのに充分な理由です。
また、入社前に聞いていた雇用条件と実際が違う、事前に聞いていた通りの雇用条件ではあるが十分に理解できていなかった(わかりづらい説明をされていた)、というケースもあるでしょう。このような場合も、会社に対する不信感や将来への不安から、離職を考える原因へとつながっていきます。
人間関係のストレス
男女ともに離職の理由として上位に入っているのが「人間関係が良くなかったため」です(女性:29.7% 3位、男性27.5% 3位)。
女性では「結婚・出産・育児・介護を理由に辞めるよういわれた」人の86.8%が、男性では「暴言・暴力・いじめ・嫌がらせを受けた」人の49.5%がその後離職しており、離職者には採用後3ヶ月間に「指示が曖昧なまま放置され、何をしたらよいか分からなかった人」や、「先輩社員と同等の業務を初めから任せられた」人が多いという結果も出ています。
働く上でのストレスにつながるパワーハラスメントや人間関係のトラブル、業務におけるミスマッチなどは、職場におけるコミュニケーション不足に起因している場合があります。上司、先輩の側から新入社員に関心を持って働きかけることで離職を防げる可能性が、調査結果から示唆されます。
給与・待遇に不満がある
上記の2つの理由と、健康上の理由や業務内容のミスマッチ以外で多かった離職理由が「賃金の条件が良くなかったため」です(女性:18.7% 8位、男性24.3% 6位)。
仕事内容に見合わない低賃金や残業代の不払いは、働くモチベーションの低下につながります。また、求人票に書かれていた給与と実際に支払われる給料が違う、昇給の可能性が低いと感じることも離職の原因になり得ます。年功序列によって若いうちは極端に給料が低いという給与体系に不満を持つ社員もいるでしょう。
給与や待遇をすぐに変えるのは難しいかもしれませんが、「なぜこの給与・待遇なのか」について事前に丁寧なコミュニケーションを行えば、思い描いていた条件と現実とのギャップは埋めることができると考えられます。
離職対策の前に、若手に“どう働いてもらいたいか”から考える
ここまで、若手社員の離職に関する現実をデータから読み解いてきました。
優秀な新卒人材の採用と定着が難しくなっている現在、単純に人手不足というだけならば、年齢にこだわらず中途採用に力を入れるのでもいいでしょう。それでも企業が若手社員の採用と育成を重視するのは、次世代を担う人材層であり、今後の企業の発展に欠かせない存在だからです。
若手社員の離職を防ぐために給与を上げる、福利厚生を充実させるという方法もありますが、対症療法的なアプローチには限界があります。離職を防ぐ方法を考える前に、まず若手社員にどのように働いてもらいたいのかを考えましょう。
人材育成の本質は、「採用した社員を辞めさせないこと」ではなく、社員が働きがいを感じながら十分に能力を発揮できる環境を整え、個々の力を組織の力につなげていくことです。そのために必要なのは、「どのような人材に育ってほしいのか」「どのように能力を発揮してほしいのか」という理念です。人材育成の理念、理念の実現へのプロセスには、それぞれの会社の価値観や強みが現れます。社員がその理念に共感し、「この会社でこんなふうに働き、成長したい」と思えるのであれば、会社への信頼や愛着が高まります。そのうえで、社員が働きやすく、働きがいを感じられるような職場環境を整えていきましょう。
若手社員の離職を防ぐワークエンゲージメントの重要性
働きがいのある職場環境を整えるために知っておきたいのが、「ワークエンゲージメント」の考え方です。
若手社員の給与や待遇を変えるのは簡単ではありません。しかし、労働条件に対する入社前後のギャップや、仕事の負担感、人間関係のストレスなどの離職につながる要因は、コミュニケーションの改善によって減らすことができます。そして、積極的なコミュニケーションや職場環境の整備によって、若手社員のワークエンゲージメントを高め、離職を防ぐことができると考えられます。
ここからは、ワークエンゲージメントの考え方とその重要性、ワークエンゲージメントを高める方法について解説していきます。
ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントとは、従業員の精神面での健康度を表す概念です。「熱意」「没頭」「活力」の3つの要素が満たされている心理状態を表します。ポジティブな感覚で仕事に取り組み、楽しみながら作業を行うことができている状態で、高いワークエンゲージメントは業務の効率化やミスの削減にもつながります。
ワークエンゲージメントと真逆の状態を表すのがバーンアウトという概念です。「燃え尽き症候群」という名でも知られています。仕事に没頭したものの期待した結果が得られず、不満と疲労から仕事への意欲や関心を失った状態を指します。作業効率や能力の低下、仕事の手抜きや欠勤といった問題が発生してしまいます。
ワークエンゲージメントを高めることで、具体的にどのような効果が得られるのでしょうか。以下にまとめました。
個人の効用
ワークエンゲージメントが向上することでストレスが軽減され、メンタルヘルスが安定します。また、ワークエンゲージメントが高い社員は睡眠の質が良好な傾向にあり、心身の健康が仕事に対するモチベーションにつながることが期待できます。
また、高いワークエンゲージメントを保つことで、自発的に業務に関する知識を学ぶ姿勢が強まります。自己研鑽を続けることで社員一人ひとりが成長し、パフォーマンスが向上するでしょう。
さらに、活力に溢れた社員は仕事に積極的に取り組むことができるため、作業効率が上昇します。企業への貢献度も高まり、個人のコミットメントそのものが向上していきます。結果として職務への満足感が得られ、就業継続の意向が高まります。
組織への効用
社員のワークエンゲージメントを高めると、組織にも良い影響があります。
前述のとおり、ワークエンゲージメントの高い社員は積極的に業務や自己研鑽に取り組むため、生産性の向上が見込めます。社員のパフォーマンス向上は顧客満足度を高める要因にもなり、企業のイメージアップにつながるでしょう。
また、個人の高いワークエンゲージメントが同僚にも伝染する、クロスオーバー効果といわれる現象があります。社員一人ひとりのワークエンゲージメントを考慮した職場環境づくりは、結果として企業全体のワークエンゲージメントの向上につながり、作業効率・生産性アップ、収益向上という好循環が期待できるのです。
重要なのは、会社に対するエンゲージメントを上げるのではなく、仕事に対する個人のエンゲージメントを上げることです。社員一人ひとりが意欲的に仕事に取り組むことで、業績の向上や従業員の定着につながります。
社員のワークエンゲージメントを高めるためにできること
社員のワークエンゲージメント向上は、生産性・顧客満足度の向上につながる、企業の発展にとって非常に重要な要素であることがわかりました。では、どのようにしたらワークエンゲージメントを高めることができるのでしょうか。ここからは、会社・個人でできる取り組みを具体的に解説していきます。
会社としてできること
社員のワークエンゲージメントを高めるために、主に会社としてできることは以下のとおりです。
- 社員の成長機会の提供
- キャリアデザインの支援
- 職場のコミュニケーション推進
- 働き方の柔軟化
社員のキャリアアップにつながる成長機会を提供することが、ワークエンゲージメント向上に有効です。具体的には研修や面談の実施、コーチングやメンター制度の導入などが挙げられます。
社員がやりがいをもって働くことができるよう、ひとり一人の社員がどのような働き方をしたいかを明確にし、それを実現できるよう支援するのも会社として重要な役割です。休暇や労働時間の管理、配属や昇進、仕事とプライベートの両立など、社員に寄り添った雇用管理を心がけましょう。
企業が従業員の健康管理を戦略的に行う「健康経営」も会社として取り組める要素です。社員の健康を守ることで結果的に業績向上につながるという考えは、ワークエンゲージメントと密接な関係にあります。社員が身体的、精神的、社会的に健康な状態で働くことができる職場環境であることで、企業の業績やイメージを向上することができるのです。
また、職場内でのコミュニケーションを円滑にすることが、スムーズな業務や良好な人間関係につながり、ワークエンゲージメントを向上することが見込めます。社員同士がコミュニケーションを取りやすい環境を、会社として整えましょう。
上司ができること
初めての仕事や職場に慣れていない新入社員は、学習性無気力状態に陥りがちです。学習性無気力状態とは、回避できないストレスにさらされるうちに、自発的な行動を起こさなくなってしまった状態のことを指します。そのような状況を避け、若手社員が長く勤務を続けるためには、上司の関わり方が重要です。ミスや失敗を注意するだけでなく、できていることを褒め、成功体験を積ませるようにしましょう。ネガティブなフィードバックを行った際には、その後しっかりフォローすることが大切です。
また、部下と密にコミュニケーションを取って仕事の状況を把握し、無理のない作業量に調整したり、目標達成に向けたフィードバックを行ったりすることも重要です。上司からのケアは部下のモチベーションやパフォーマンスに影響します。もう一つ上司ができることとして、「自分自身が常にポジティブでいること」も挙げられます。ワークエンゲージメントは周囲に伝播するため、上司のワークエンゲージメントが高ければ、自然と若手社員のワークエンゲージメント向上につながるでしょう。
まとめ
若手社員の採用と育成は、企業の将来につながる取り組みです。若手人材の採用が難しい中小規模の企業にとってはとくに、苦労して採用した社員の早期離職は大きな痛手となります。社員の離職は個人の問題だけではなく職場の問題でもあると捉えて、組織全体で取り組みましょう。
すでに決まった給与や待遇を変えることは困難ですが、コミュニケーションの取り方や業務設計など、すぐに変えていけることもあります。社員のワークエンゲージメントの状態に目を配り、若手社員が働きやすい環境づくりに職場全体で取り組みましょう。
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株式会社ソフィア
先生
ソフィアさん
人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
株式会社ソフィア
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