2023.05.02
管理職に求められるコミュニケーション能力とは?管理職の役割も踏まえながら解説!
目次
管理職になると、これまで以上にコミュニケーション能力が求められます。しかし、20代~30代の多くが、「嫌いな上司がいる」という感情を抱いています。それと同時に、嫌いな上司が原因で異動・転職をしています。正しいコミュニケーションができていないと、部下は上司を信頼することができず、人材の流出を招く恐れもあるのです。
管理職のコミュニケーション対象には、上司と部下、上司と経営陣、上司と上司などがあります。「職場の問題」や「離職理由」「エンゲージメントの向上」には、管理職とのコミュニケーションが課題であるとするデータもあり、こんなに大変であれば管理職にはなりたくないという意見も納得せざるを得ないのではないでしょうか。では、管理職に求められるコミュニケーション能力とはどのようなものでしょうか。一般職との違いや管理職の役割と共にコミュニケーションの違いについて解説します。
管理職とは
管理職とは、会社の中で決められた範囲の業務における責任を持つ役職を指します。会社によって、呼び方や立場に違いはありますが、一般的には課長以上を管理職として位置づけています。
管理職になると部下を持つようになり、仕入先や顧客など関係性を持つステークホルダーが増えます。そのため、コミュニケーション能力が備わっていないと仕事を円滑に進めることができず、部門全体の成績低下にもつながる可能性があります。
上記のような1人のマネジャーの管理能力を補う形を「連結ピンモデル」と言います。組織心理学者のR・リッカートが提唱したモデルで、企業の組織が大きくなるほど、組織が階層化されることとなります。また現在では、「横串プロジェクトチーム」「HRBP」「○○推進」など、各部署が連携し経営課題を解決するケースが多く、上記階層組織よりはるかに複雑なコミュニケーションプロセスになっていると言えます。
一般社員と管理職の違いとその関係
管理職とは、企業の目標達成のために、部下の指揮管理や、プロジェクトの進行管理などの業務を行うポジションです。リーダースキルに加えて、メンバーをマネジメントするスキルも求められます。プロジェクトの責任者になる立場でもあり、契約を絡めた交渉力や目標達成に向けた予算管理も重要な役割です。
また、管理職は組織内でミドルマネジメントの立場です。複数の人や組織をつなげる役目があり、経営理念や会社のビジョンを正しく理解して、部門内でコミュニケーションを取らなければなりません。管理職は本音と建前のジレンマと葛藤しながら、組織内のコミュニケーションを取る必要があります。一般職より管理職が上位者であるという前提があり、一般職で解決できない問題や業務は、管理職が解決します。しかし、一般職の業務課題は、一昔前の管理職が経験した業務より遥かに複雑化し専門性を高めています。
このような問題を解決するには、論理的思考と論理的コミュニケーションが役に立ちます。一般職と管理職の間にロジックや論理を置くことで、解決策はおのずと導き出されます。また、管理職と一般職は良くも悪くも近い人間関係ということもあり、感情面の側面を配慮することが生産性の鍵になります。
さらに、人と人の繋がりを維持向上するためには、日々のコミュニケーションが必要です。これはビジネスの論理や合理だけでは測ることができない部分です。程度差はあれ、職場の部下や同僚と、家族と同じような感覚でコミュニケーションする場合もあります。そのため、職場のコミュニケーションは論理と情理の入り混じる微妙なバランスの状況の上で成立しています。管理職はそのバランスの中で板挟みにならないように、有効なコミュニケーション手法を取りながら、部下の指導管理やマネジメントを成立させなければなりません。
管理職は役員と従業員の仲介役
管理職は、部下の育成やマネジメントを行う責任があります。一方、役員は企業の方針やビジョンを策定する責任があります。役員が経営方針を広く正しく伝えないと、管理職や一般職は同じ方向を向いて働くことができず、モチベーションも高まりません。
また、役員は企業の中での非対面の長であり、管理職と一般職とのコミュニケーション方法が異なります。役員は組織に対してコミュニケーションを取るため、管理職が従業員とコミュニケーションを取ることとは対象が違います。そのため、演出的で抽象度が高いコミュニケーションになりがちです。従業員数が多い大企業では、情報を極力リアルタイムで伝えることが優先されることから、マス的な(一度に多くの情報を一方的に伝える)コミュニケーションがどうしても多くなります。抽象度が高く、演出の要素が多くなりがちなこの手のコミュニケーションでは、経営陣と社員の間に直接的な関係性を構築することや、従業員が組織全体状況を広く深く理解することは困難です。つまり、管理職は、このトップメッセージや経営方針を分解し翻訳する必要があるのです。
昨今は「ESG」「DX」「イノベーション」などと、抽象度が高く、曖昧模糊としながらも、言語明瞭意味不明な内容が多く見受けられます。経営方針は、目標管理と分業によるカスケードダウンをすることで、具体的な業務に変換していきます。例えば経営において「ESG」という課題を「ペーパーレス化」という方針にするとします。この内容を現場で実行する過程においては、方針という抽象を具体に変換する必要があります。「どのようにしてペーパーレス化を行うのか」という考えの中で、「本当にESG=ペーパーレス化なのか」という疑問が浮かぶこともあるでしょう。管理職が指示する過程において、この疑問を腹落ちさせることも重要となります。そのためには、管理職の思考として、鵜呑み的な思考ではなく批判的思考が重要になります。批判的思考とは、クリティカルリーディングであり、クリティカルシンキングです。経営方針を立てる上での、環境認識や前提条件などは、一般的には割愛されてコミュニケーションされています。つまり、なぜその経営方針なのか?その経営方針で勝てるのか?という批判的視点を持つことで、経営方針に至る過程の情報や意思決定プロセスなどの文脈を理解することができます。
また、不確実な時代においては、経営方針は所詮仮説であり、その意思決定は、そのタイミングにおける最善策であっただけです。つまり代替案など複数存在する可能性すらあります。クリティカルシンキングは、批判ではなくより深く理解するプロセスとして活用することで、より深い文脈の理解が可能となり、腹落ちを生み出します。
管理職の役割
管理職には、部下をマネジメントしながら組織に成果を出す役割が求められています。部下の育成や評価、目標管理、業務改善といった幅広い業務に取り組まなければなりません。ここでは具体的に管理職の役割について詳しく解説します。
人事評価
管理職の役割の一つとして人事評価があります。部下が自社の方針に沿って適切な行動をとり、成果を上げているかどうかを評価します。人事評価とはある意味、人の点数をつけ、順番をつける行為です。何が評価され、何が評価されないのかをコミュニケーションを通して伝えなければなりません。つまり、部下の行動や成果を整理して伝えるのはコミュニケーションであり、それには論理的なコミュニケーションが重要です。また、人事評価は動機付けであり、育成の側面もあります。客観的事実を整理しながら、同時に、部下一人ひとりの目指したい方向性を傾聴し双方で合意形成しながら、動機付けをする情愛的なコミュニケーションも重要です。
目標管理
管理職には具体的な目標を定める役割があります。企業では、全社の戦略や事業戦略など様々なビジョンや戦略が立てられます。そのどれもが同じ方向を向いた戦略になっており、社員は会社の方向性から外れないように行動することが理想的です。組織と個人の目標をリンクさせることは容易ではありません。高い目標と、高い目標に前向きに取り組むメンバーが揃っていれば、組織運営上は問題ありませんが、そのような組織はむしろ少ないでしょう。そのため、管理職は部下に対して、その目標を納得・説得するレトリックを活用したコミュニケーションが必要です。
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業務の進捗管理
管理職の役割には、業務の進捗管理があります。プロジェクトの目標と現状を把握して、業務が円滑に進むように管理します。事前に取り決めた計画通りに進めるために、人員配置や予算管理、タスク管理能力などが求められます。管理職がメンバーの仕事の苦労をねぎらう事や、困難な仕事に対して承認やフィードバックをすることによって充足感を生み出すこともできるでしょう。
また、目標達成の責任は管理職にあるため、業務の進行を部下に任せっきりにしてはいけません。プロジェクトが遅延していれば対策を練り、新しい課題が発生すれば部下と一緒に解決に動くようにしましょう。
既存の業務の見直し
管理職は、既存業務のやり方に疑いの目を持ち、常に改善を繰り返していくことが大切です。先入観を持って既存の業務と向き合っていると、変化に対応することができません。外の社会だけでなく、社内の環境も常に変化をしているため、一度ルールにまとめた業務が継続的に正しく機能するとは限らないからです。既存のやり方をベースに仕事に取り組んでいる部下であれば、「業務の見直し」と言われて二つ返事で「了解です」とはなりにくいでしょう。そのため、既存業務の見直しをする際には、部下と十分に議論する必要があります。管理職は、部下がやっている仕事が「なぜ見直しの対象であるのか」を腹落ちさせなければなりません。業務構想を練り直し、これまでになかった付加価値を生み出す「改革」にチャレンジする気持ちを部下に持たせることが大切です。
部下とのコミュニケーション
管理職は社内外の関係者とコミュニケーションを取る必要があります。中でも、部下とのコミュニケーションは人材育成の観点からも重要です。コミュニケーションを取らなければ、部下の人柄や性格を把握できません。チャレンジ精神旺盛なタイプなのか、現状維持を望むタイプなのかによって、仕事の割り振り方も変わります。業務を正常に進行させながら部下を成長させるためには、どのようなタスクが適切なのかを見極め、割り振ることが求められます。それを実現するには日々の対話がポイントです。
また、コミュニケーションを取ることは、部下のモチベーションの向上にもつながります。悩みや相談事を上司に話すことで、部下は精神的に安定することもあるでしょう。そのため、管理職には部下とのコミュニケーションの中から悩みを引き出せるような、一貫性を持った人格が求められます。
経営層と一般社員の架け橋
社内における管理職の立ち位置は、経営層と一般社員の間になります。経営方針や経営層の思いを一般社員に伝えることは、管理職の役目です。経営層は定期的に経営会議を開き、今後の方針をディスカッションする場を作っています。社会の変化に合わせて戦略を立て直した際には、管理職が正確に一般社員に落とし込まなければなりません。
また、一般社員の課題で全社的に取り組むべき事象は、管理職から経営層に上げるようにしましょう。現場で起きている事象を経営層が正しく知ることによって、課題の対策に動けるようになります。管理職は、経営層と一般社員の架け橋の役割になるため、どちらとも日々のコミュニケーションを取ることが重要になります。
管理職に求められるコミュニケーション能力とは
上記で解説したように、管理職にはさまざまな種類のコミュニケーションが必要です。管理職やマネジメントの職務は複雑な板挟みの中に存在し、その板挟みをコミュニケーションで補完する必要があります。では、管理職には一体どのようなコミュニケーション能力が必要なのでしょうか。ここでは、管理職に求められるコミュニケーション能力について解説します。
情報コミュニケーション
管理職が正確に現場の状況を把握するためには、1つ1つの情報を整理し構造化する論理的思考やロジカルなコミュニケーションが必要です。管理職は構造的に「現場の情報」と乖離することを避けられません。組織や職場、プロジェクト全体の一次情報を取得することは、構造的に不可能です。部下やメンバーからの業務進捗は断片情報になります。これは、俗に言う「マイクロマネジメント」のコミュニケーションです。昨今、ビジネスの多様化や複雑化により専門性の高い知識や技術が必要となっています。専門的な知識や技術を持つ部下やメンバーが増えた際に「わからない」「不安」といった状況に陥る管理職も多く、マイクロなコミュニケーションにならざるを得ないでしょう。そうならないためにも管理職は、部下やメンバーの業務を体験し、伴走しなければなりません。業務を知ることは、部下に師事を受けながらどのような苦労や工夫があるかなど、業務の勘所を共感することです。
部下やメンバーの業務を体験し、伴走することにより、副次的には信頼関係をも創りだします。しかしそのためには、関係性の構築である「傾聴」や「対話」、業務の勘所を明確化する「クリティカルリスニング」や「ロジカルシンキング」が必要です。上記を行うことにより、管理職が取得しなければならない一次情報や聞くべき内容が明確になります。論理を基礎とするコミュニケーションも重要であり、業務への理解共感にある信頼関係づくりの双方のコミュケーションも必要になります。そのうえで、デジタルツールやBI(データ)など活用し効率化を図ることが重要です。
自律と統制のコミュニケーション
管理職は、日々変化する状況の中で、メンバーや部下の意思決定に対応し、最善の合意形成をタイムリーに行わなければなりません。管理職は、その名通り「管理」が職務であり、組織を「統制」することが職務です。しかし、「統制」は、部下の「能動」を「受動」に変え、「自律」を「指示待ち」にします。そもそも、統制はより上位の上部階層の意思決定の変更により、統制の前提が覆れば変化せざるを得ません。そうなれば、実態としては、統制管理などではなく、調整程度の事しかできないのではないかという意見もあります。結論を言えば、不確実な時代において、変化することが常態であるという前提であるため、管理統制など実態としては不可能であるということです。
しかし、変化を前提とした合意形成は、心理的抵抗や論理矛盾が存在します。そのため、管理職は他部門や上司やメンバーと議論する能力が問われます。論理矛盾をそのままにすれば、結果は出ません。心理的抵抗を無視した強引な合意は他部門との軋轢が生まれます。また、相手が部下であれば自律を阻害するでしょう。管理職の状況は複雑であるため、複数関わる事柄の合意を得ようとするときには意見の食い違いはつきものです。管理職が批判されることを恐れたり、批判を退けたりしていては、部下との合意形成は困難を極めるでしょう。また、部下が不満や疑問を持っているにもかかわらず、内に秘められてしまうと「受動」を生みます。
そのため、管理職は徹底的に各所の意見を聞く姿勢を示して、すべての意見を引き出しておく必要があります。それには、意見を言いやすいと思ってもらえる態度や、雰囲気作りがポイントと言えます。統制的な姿勢であれば、誰しも口をつぐみ不満をため込んでしまうでしょう。そのような状態では、合意形成に成功したとは言えません。部下と合意形成するためには、理論的な意見と心理的な意見を分けて考えることが大切です。論理的な意見を出し尽くすだけでは、心理的な共感は埋まりません。そのため、管理職は部下と対話や会話を重ねるということを意識しましょう。
また、合意形成に至るまでに、関係者すべての意見を取り入れるのは困難です。必然的に、共通の目的や意見・観点として取り入れられるものと、取り入れられないものが出てきます。その際、なぜこの意見を採用したのか、あるいはしなかったのかの理由を必ず説明しましょう。この理由については誰しもが納得するような、合理的なものであることが大切です。そのうえで、採用できなかった意見に関しても、指摘してくれたことに対する感謝の気持ちを伝えましょう。合意形成は所詮その時点での合意であって、仮説にすぎません。しかし、この過程において、無秩序により早くより柔軟に対処できるレジリエンスな組織風土と文化を獲得できます。
問題解決のコミュニケーション
管理職に求められるコミュニケーション能力として、問題解決のコミュニケーション能力があります。ヘンリー・ミンツバーグが、29人にマネジャーに密着調査内容を基に執筆した『マネジャーの実像』の中でも、ほぼ全て管理職は管理などしておらず、日々問題解決をしていたと記しています。管理職経験のある方であれば思いあたるところがあるでしょう。管理職が直面する問題の中には、現場で起こる事故や事件のような問題と、未来や中長期から現在を見据えたギャップから問題が生じる課題設定型の問題があります。前者の問題は、上記に示した「情報コミュニケーション」と「自律と統制のコミュニケーション」でほぼ解決できます。課題設定型の問題には、ビジョンや目標などの未来が明示されない限り問題が生じることはありません。「〇〇年度売上120%多成を目指す」「○○までにDX・事業変革」など、ビジョンや目標は、未来予想を前提とし設定しています。それは、「変化」や「向上」を内包された未来のストーリーであり空想です。空想から戦略や計画を練り、上司と部下、関連各所に説明し合意形成していきます。
つまり、課題設定型の問題解決は、具体的な戦略であり計画になるわけです。しかし、戦略計画は所詮仮説にしか過ぎず、計画変更を余儀なくされる可能性が多いでしょう。計画変更を余儀なくされた場合、再度各方面を説得する必要があります。この説得力こそ、管理職に必要なコミュニケーション能力であり、課題設定型の問題解決に必要不可欠な能力です。説得力とは、具体的にはレトリック技術になります。レトリックは、コミュニケーションの場において情報を発信する側が、受信側を説得したり、納得させたりするための手法やテクニックです。説得する場面やスピーチの際に用いられる場合が多く、プレゼンテーションのトレーニングでも、レトリックは欠かせないスキルとなっています。アリストテレスの弁論術に記されているレトリックの3大要素は、エトス(人柄)・パトス(感情)そしてロゴス(論理)です。話し相手と信頼関係を築きつつ、熱意をもって働きかけ、論理を成立させるのです。
レトリックについては下記の記事をご覧ください。
まとめ
管理職に求められるコミュニケーションは多岐にわたります。情報の次元、人間の次元、行動の次元とさまざまな角度からアプローチしなければなりません。部下を育てる場合には、コーチングや傾聴などのスキルを活かしたコミュニケーションが求められるでしょう。また、経営層と一般職の架け橋となる場合には、正しい情報を正しく伝えるスキルが必要不可欠です。管理職の行動がその場の規範や関係性を作り、その規範や職場の風通しに影響を与えるということも肝に命じ、規範となるような行動をすることも重要です。
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人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
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