理念と経営の関係とは?その関係と理念の実態的な機能について

企業の運営のためには、「経営理念」や「理念経営」が重要という考え方が今や一般的です。実際に多くの企業は、「理念」を掲げ、浸透させることに力を尽くしています。しかし、「日本広報学会」の調査によれば、理念を「全く知られていない」が 3.3%、「言葉の存在を知っている。言葉を覚えている」 42.6%というデータもあります。実態としては理念が組織内でどのように機能しているのでしょうか。
この記事では、「理念」と「経営」について詳しく解説していきます。理念を掲げるメリットや実態的な機能についても紹介するので、ぜひ「理念」が「経営や事業」とどのような関係にあるのかを理解する際の参考にしてみてください。

理念と経営との関係

まずは、理念と経営について、言葉の意味を分解しながら詳しく分析していきましょう。理念が経営にどのようなメリットをもたらすのかも踏まえて、前提知識を整理します。一般論としては、以下のように言われています。

理念とは

理念とは、姿勢や考え方や価値観など、目に見えない形而上のものです。経営理念であれば、経営に対する原則や意思決定の基軸や姿勢になります。経営哲学という言葉で言い換えることもできます。主に、目に見えない抽象的な経営という行為が根本的にどのような在り方をしていれば理想的なのかを、わかりやすく言語化したものと言えるでしょう。
しかし、実際は言語化され、社員同士の会話の中に表出されるものの実体のないものです。つまり、パーパス、経営哲学、ビジョンなど、組織と人をつなぐ形而上の概念として、扱われています。

経営とは

経営という言葉そのものに、明確な定義を決めるのは難しいものです。それでも、あえて定義づけする場合は「事業の目的を達成するために行う、継続的な活動のこと」が経営であると言えるでしょう。理念と対比ですると、理念が形而上であれば、経営は形而下とも言えます。理念は言語化されているものの、理念はで理想や哲学と言った目に見えない精神的なものであり、経営は時間的にも空間的に実体的で形のあるものです。

一世を風靡した理念経営(ビジョナリー経営)とは?

理念と経営を組み合わせた言葉が理念経営となります。この理念経営という言葉を改めて定義するのなら、「このようであるべき」と掲げた理念を経営の軸に設定し、達成するために行う継続的な活動ということになります。また、理念経営は「ビジョナリー経営」と呼ばれることもあります。ビジョナリー経営という言葉は、1994年にアメリカで発行された書籍『ビジョナリー・カンパニー』に由来しています。
理念経営の重要性を訴えた世界的なベストセラーであるこの書籍では、ソニーやIBMなどをはじめとする成功企業が、なぜ長期にわたって成功をおさめてきたのかを紐解き、生存の原則に迫っています。本書では、「どの企業にも共通して言えるのは、明確な理念を掲げそれを従業員が価値観として共有していることだ」と語られています。

人を求心し、人を動かすのが理念

理念と言っても、「経営理念」「創業理念」では意味合いは多少違いますし、企業毎に上下の関係の違いもあります。また、「哲学」「ビジョン」「パーパス」「行動指針」など、細分化して表記されている会社もありますし、統合している会社もあります。一般的な解釈は違いがあるため、詳しく知りたい方は下記のリンクをご参照ください。

各企業においては、一般的解釈と自社との整合性を取ることは、重要であるものの、何よりも、「経営理念」「ビジョン」「パーパス」等々が実態として、社員や顧客や社会に対して求心力があるのかどうかであり、つまり人や組織を動かしているのかどうかの方がより重要です。逆に言えば、整理されていても、求心力をもたない理念は無価値であるとも言えます。「経営理念」「創業理念」「哲学」「ビジョン」「パーパス」「行動指針」などを総称して理念として捉えた時に、理念は組織にどのように作用しているのかをご紹介していきます。

理念はカルトを産みだすのか?

ビジョナリーカンパニーの中でも、8つの生存の法則の中で「カルトのような文化」という内容があります。理念や哲学を社員に共有する施策の中で、企画担当者が必ず悩む問題です。簡単に言えば、企業や組織が、社員に対して、理念や哲学といういわゆる形而上の概念を、社員に浸透共有するという行為は、果たしてしていいのか?という問いが浮かぶということです。

カルトと言われると、場合によってはネガティブな印象を持たれるかもしれませんが、元々の英語の意味は、「熱狂の対象」や「崇拝の対象」という意味であり、広い意味では教義を指す言葉でした。現代では、有名な世界の大企業の多くが、社員に無償労働を要求するような環境でありながら、社員たちはまるでカルトの信者のように、会社や経営者について行く理由があります。それは、企業の理念に共感し、その理念に魅了されたからです。彼らは自分自身をその理念に捧げる覚悟を持ちました。世界の大企業の創業期には、このような美談が数多く存在します。日本の大企業の黎明期にも、無名の社長の理念に共感した若者たちがいくつかの物語を作りました。彼らにとって、自分にしかできない活動を行うことは、自己実現のためのものであり、ある種の選ばれた存在としての意識が彼らに潜在的な力を引き出すことを思いもよらせるものでした。これこそが、国境を超えた魅力的な職場であると言えるでしょう。

企業内で理念の共有が行われない場合、魅力的でワクワク感のある職場ではなくなることは明白です。理念や哲学こそが企業にとって必要不可欠であり、経営者は情熱を持ってそれらを社員に伝える必要があります。それこそが、経営者の真の価値を示すものです。また、企業においては、業績や成果が得られない場合は、熱狂は冷笑に変わり、教義は強要に変化します。日本企業は、現在の、ワクワクするような、熱狂するような対象を創ることが必要かもしれません

逆に社内の「暗黙の了解」や「暗黙のルール」という同調圧力の方が、より一般的には忌み嫌いカルト的組織です。パーパス策定はトレンドだと捉えずに、今から自社の理念を再考する事は決して遅くはありません


理念の実態的な効用とは何か?

一般的に表されている経営理念やビジョンなど、事業運営における上位概念はどのようなものなのでしょうか。上位概念の多様で柔軟な機能を理解することで、諸々の事業や組織の事象を客観的にとらえることができようになります。ここでは、理念などの上位概念が集団や組織、もしくは事業にどのように機能しているのかを解説していきたいと思います。

未来としての理念

企業が持つビジョンや中長期経営計画において、未来を見据えた具体的な数値や時間があると、社員や関係者に共感や納得を与えることができます。また、ビジョンの下にある上位概念には、まだ実現していないことが含まれることがあります。それを明示することで、自社が未来に向けてどのような成長を目指しているかを明確にすることが可能です。これによって、社員や組織が未来に向けた志向を高めることができ、共有された目標や未来が、組織や集団の存在理由として規定されることにつながります。このような要素は、経営における成果や結果に直接影響する内容とも言えます。

価値観としての理念

企業や国家において共有される考え方や価値観のことを指します。国家であれば「●●主義」という考え方にあたり、MVVの中のvaluesというように位置付けられる内容です。企業や社員がどのような行動を取るべきか、どのような価値観を持つべきかという基準として機能し、現場での行動や言動に影響を与えます
組織や社員は、社会における公器としての役割を持つ場合もあります。そのため、組織や社員の考え方や倫理観は、一般社会の価値観と乖離してはならず、地域や宗教などの折り合いをつけていかなければなりません。上位概念や理念は、経営や現場での意思決定に影響を与えると同時に、組織の学習や文化形成にも大きな影響を与えます。

価値観は、地域や土地の影響を強く受けており、日本企業は、日本文化や日本人の影響を強く影響しています。パーパスの策定支援の際に、既に企業理念や哲学が、社会を中心においている企業が多いです。日本には「三方良し」by近江商人、「企業は社会の公器」松下幸之助であり、日本には創業100年を越える長寿企業が世界で最も多く存在し、世界の稀に見るサスティナブル企業を創出国であり、日本文化にも、人間は自然の一部に過ぎないというモチーフが、あちこちにあります。

価値観は、社員に「自分達にしかに成しえない」という当事者意識を産み出します。企業業績とは別の次元で意思決定や行動を誘因するため、自分ゴト化します。ブラックベンチャーのやりがい搾取など問題は、これに悪用になります。従って、成果や結果、学習がついてこない場合は、悪用と言われても仕方ありません

事業としての理念

企業が事業を行うにあたり、自社の強みや市場範囲、存在価値を示す事業としての理念です。これにより、何をやっているかを明確にすることができ、社員や投資家が合理的な判断をしやすくなります。また、事業としての理念は人事制度や組織構造にも影響を与え、ビジネスモデルや業務フロー、人財などにも関連します。経営理念をパーパスに刷新する際に、固有技術や製造系の会社は、存在意義を明確に打ち出すケースが多くあります。
たとえば、メーカーであれば、成長を可能とする自社特有の事業活動の領域である「食」や「○○技術」を示すことで、絶対的な差別性を産み出しています。これにより、投資や人材、技術、情報などを効果的に集約することができます。理念において、事業およびコアコンピテンシーを踏まえた上で、どのような人に、どのような評価や賃金、処遇をするかという根本的な考え方に影響を与えています。

これは、実に分かりやすく明瞭であるるものの、コアとなる領域や技術が市場変化した場合は、脆い場合があります。つまり、組織は明瞭な理念を基に、柔軟かつ早い組織運営しながら、連続的に変化することで、これを是正している企業が多いです。

関係性としての理念

経営哲学や行動審など、多く明記されることが多い内容です。組織運営における組織内の関係性についても大きな影響を与えます。組織内外の関係性において、多くの日本企業が「家族主義」などのコンセプトを掲げていますが、事業運営において「仲間意識」や「家族主義」は、経済的観点と人間性精神性との間にジレンマを引き起こすことがあります。このジレンマに対応するために、多くの企業が安全弁として採用しているのです。最近では人と人の関係性や風土カルチャーそのものが、サービスやイノベーションを産み出す根源であり、組織が創り出すものに価値があると考える組織も増えています。関係性の理念を、社員一人ひとりの能力や集団組織における基礎として、最重要な位置づけをする会社も増えています。多くの企業が「多様性」や「ダイバシティ&インクルージョン」など掲げていますが、現場社員はチンプンカンプンだったりする可能性があります。組織の人との関係性がどうあるべきかという命題を、バズワードで誤魔化すはやめましょう。

正当性としての理念

理念は、組織に所属する個人が自己正当化するためにも重要であり、組織が団結する上での正当性を担保するためにも役立ちます。また経営者やマネジメント層にとっては、問題解決の前提条件としても重要です。しかし、上位概念や理念は抽象的な内容が多いため、個人によって解釈が異なり、組織内外での対立が生じることがあります。そのため、経営側はこの多義性や異なる解釈の可能性にも配慮する必要があります。理念は組織や事業の大前提であるがゆえに、理念に批判的視点に立つことをタブーとして暗示しています。従って理念が前提であれば、多くの事情運営が正当化されてしまうことが多々あります。個人の解釈や多義性はあるものの、対話などを通じて、共通認識を深めることが重要です。

理念の捉え方は常にアップデートを続けている

企業において、経営理念の捉え方は常にアップデートされ続けています。業歴が長い会社や企業規模が大きくなった会社では、経営理念や企業理念が形骸化している場合があります。しかし、ビジネスにおいて経営理念は必要不可欠です。なぜならば、経営理念は組織と個人を結びつける役割を果たしているからです。
経営理念は組織の中心にあり、明確なトップやマネジメントからのメッセージであり、個人の処遇の背景にもなっています。さらに、経営理念は風土や文化の形成にも大きな意味を持っています。そのため、時代と共に経営理念の捉え方はアップデートされ続け、組織と人を結びつける重要な役割を果たしているのです。

良いアップデートか悪いアップデートはわからないことが問題

理念の捉え方は、個人や職場の活動や外部環境に基づいてアップデートされ続けますが、その適切性を確認せずにいると、組織風土やブランドに悪影響を与える可能性があります。組織の価値観や文化は、解釈や言説によって影響を受け、業務にも影響を与えます。したがって、コミュニケーションを通じて、適切なとらえ方をしているかどうかを確認する必要があります

理念の問題点

経営における理念には、企業全体における意思決定に統一性をもたらし、組織として人と人とをつなぐことができるというメリットがあります。しかし、権力やパワーの源泉となったり、解釈の幅や抽象性が日々の業務と結びつけることが困難であったりするなどの問題点もあります。ここでは、理念の特徴と問題点を挙げていきます。

パワーと権力

経営における理念は、組織の方向性を示す重要な役割を果たしています。反面、その方向性が絶対的であると信じてしまうと、理念以外の視野や視点を排除することになり、組織の成長を妨げることもあります。また、理念は上位概念であるがゆえに権力の側面を持つケースもあり、それが権力やパワーの乱用につながる危険性もあります。例えば、社会通念に逸脱した行動にもかかわらず、理念を基に自己の過ちを正当化する組織や社員の事案も多くあります。彼らは「組織の為・・」と言いますが、ほとんどが自分の為です。
経営における理念は解釈の多様性など柔軟性を持ってとらえることが重要で、固定的な解釈に陥るのは非常に危険です。新しい解釈や視点を受け入れ、古い解釈を改めることも必要となります。また、異なる人財や社外から期待を取り入れることで、より多様性のある理念の解釈が生まれることもあります。ただし、こうした柔軟性や多様性を実現するためには、コミュニケーションが欠かせません。異なる意見を尊重し、議論を通じて合意を形成することで、より良い組織を作り上げることができます。

具体と抽象

経営理念は、企業が目指す方向性を示すものであり、具体的な実務とは異なる抽象的な概念です。しかし、実務においては経営理念に則って行動する必要があるため、ギャップが生じます。理念と実務の間に生じるギャップを埋めるためには、コミュニケーションが欠かせません
たとえば、「働き方改革による残業時間の削減が必要」な場合、その対応策が経営理念と矛盾している際には、社員は企業の理念に疑問を持ちやる気を失うことがあります。経営陣は理念と実務の間に生じる矛盾を解決するために、社員に適切な説明をし、コミュニケーションを取る必要があります。また、経営理念と実務のバランスをとるために、経営陣は常に理念を見直し、実務に適切に落とし込んでいくことも重要です。

体験と解釈から生まれる学習

経営理念は企業活動や結果に基づいた見直しや振り返りを行うための指針であり、共感することで社員や組織の学習につながります。しかし、単純な数字や事象に固執してしまうと、経営理念から乖離してしまうことがあります。そのため、経営理念に基づいた学習を行うことが重要であり、数字や事象をどのように解釈するかという根本的な考え方で振り返ることが必要です。
たとえば、前年より数字が上がったことは良いように見えますが、経営理念やビジョン、パーパスに照らし合わせるとどうなのかを考えてみましょう。理念においてはどうか?ビジョンにおいてはどうか?パーパスにおいてはどうか?など事象や結果をどのように解釈するかという根本的な考え方で振り返ることが重要なのです。
また、上位概念の解釈を現場で確認することで、社員の意識を高め、学習の基盤を築くことができます。経営理念を浸透させることは、企業の長期的な発展にとって重要な要素の一つであり、経営者にとっても常に意識しなければならない要素です。

まとめ

理念は企業の方向性を示すものであり、社員に浸透し、共感することで、組織の行動や判断基準になります。また、理念経営に基づいた行動や学習が、組織の成長につながるでしょう。理念の実態的な機能として、問題解決や戦略の決定、社員のモチベーション向上などが挙げられます。経営理念の浸透によって、社員が一体となって目標に向かって行動することができ、企業の強さや競争力を高めることができます。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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