ファシリテーションスキルとは?意味や役割、身につける方法を解説

会議等の話し合いをリードし、良質な結論に導くための存在が「ファシリテーター」です。ファシリテーターには場面ごとにさまざまなスキルが求められます。会議やチームビルディングにおいても、ファシリテーションスキルは必要であり、現代のビジネスにおいてファシリテーションは重要な役割を担います。
この記事では、ファシリテーションスキルの構造や習得方法、ファシリテーションスキルを身につけるメリットといった内容を詳しく解説します。

ファシリテーションスキルとは

そもそもファシリテーションとはどのような意味で、ファシリテーションスキルはどのような能力を指すのでしょうか。それぞれの定義や概念について見ていきましょう。

ファシリテーションの定義

ファシリテーションとは、会議やミーティングなどの人が集まって話し合う場において、良質な結論に達するための議論のプロセスを構築し、議論のサポートをすることです。ファシリテーターは話し合いに参加するメンバーから積極的に意見を引き出し、議論をゴールへと導きます。

ファシリテーターの目的は、会議やワークショップ、チームビルディングにおいて参加メンバーの合意形成を図ることです。議論の進行を目的とした司会とは分けて考えられています。ファシリテーションは、チームの生産性向上につながるため、昨今のビジネスの現場ではニーズが高まっている概念です。

ファシリテーションスキルとは

ファシリテーションスキルは、グループディスカッションやミーティングなど、話し合いを円滑に進めゴールへ導くスキルです。ファシリテーションスキルは、話し合い全体の流れやプロセスを構築するスキルと、参加メンバー同士の良質な関係性を作るコミュニケーションスキルの2つで構成されています。ファシリテーターは、このスキルを用いて客観的かつ中立の立場で議論や人を観察し、話し合いの軌道修正をしながら、参加メンバー全員が意見しやすい良い空間作りを行うのです。

昨今のビジネスの現場では、社員が自主的に考え、行動するチーム作りが重視されています。ファシリテーションスキルを習得した社員は、業務内容やチームの人間関係、社外とのやり取りや関係性などを客観的に見ることができるようになります。結果、チームや部署の生産性や課題・問題解決のスピードが向上するため、ファシリテーションスキルの習得を人材育成の方法として取り入れている企業もあります。

ファシリテーションスキルの重要性

昨今、グローバル化が進んだことにより、多様な価値観や背景を持った人々が1つの企業に集まるようになりました。企業は社内に生まれた多様性を長所として活かし、革新的なアイデアや創造的なサービスを生み出さなければなりません。
そこで重要になるのが、ファシリテーションスキルです。会議などで参加メンバー全員に意見してもらうには、誰もが意見しやすい良質な空間をデザインし、適切なコミュニケーションを取れるようにする必要があります。

また、オンラインで働く状況が増えていることも、ファシリテーションスキルの重要性に関係しています。Webカメラを使用したオンライン会議などは、間の取り方や相槌のタイミングが対面とは異なります。こうした環境下での話し合いを生産的にするために必要なのが、ファシリテーションスキルです。

それぞれの「場」におけるファシリテーターの役割

ビジネスで活用できるスキルは多くありますが、ファシリテーターが担う役割や、ファシリテーションスキルを活かせる場面にはどのようなものがあるのでしょうか。状況別に、ファシリテーターが担う役割と効果について解説します。

会議におけるファシリテーターの役割

多くの企業で定期的に開かれている会議において、議論のテーマの設定、進行と管理、参加メンバーが意見しやすい空間作りなどがファシリテーターの主な役割です。ファシリテーターは常に中立的な立場を取りながら、参加メンバー全員が話し合いに参加できるように空気を作り、各人が発した意見を整理しつつ会議を進行します。
そのためには、人間関係を良好にするコミュニケーションスキルや参加メンバーの話を聞く傾聴力が必要であり、さらに参加メンバーの意見に対して深堀りし、わかりにくい部分をフォローする黒子としての立ち回りが必須です。
会議にファシリテーションスキルを身につけた進行役ファシリテーターがいると、話し合いを生産的で充実した内容にし、質の高い結論を導き出すことができるでしょう。

チームビルディングにおけるファシリテーターの役割

プロジェクトの目標達成を目指すためのチームビルディングにおいても、ファシリテーションスキルは重要です。
チームビルディングにおいてファシリテーターには、チームメンバー同士の話し合いの仲介やチームメンバー同士の協力関係の構築など、団結して目標達成できるようにチーム内の人間関係をサポートする役割があります。

良質なチームビルディングを行うためには、互いを理解しあうコミュニケーションや協力関係が必要です。互いを理解しあうことにより、生産性の向上やコラボレーションが生まれるでしょう。また、ファシリテーターは、メンバーのスキルを引き出し、それぞれの能力を活かせるチーム作り、環境づくりの役割も担っています。

問題解決におけるファシリテーターの役割

ファシリテーターは、問題を中立的かつ客観的に観察し、冷静に問題解決するための手段・プロセスを見極めます。その上で、関わる他の社員やメンバーから問題解決に有益な意見を引き出すために話し合いの場を整えなければなりません。

ファシリテーターは、参加メンバーが集中し、自由かつ柔軟に意見できるような空気を作る必要があるため、ファシリテーションスキルを用いて、参加メンバー全員が、問題解決のプロセスに参加している状態を生み出します。社員それぞれから独創的な意見や革新的なアイデアを引き出し、生産的で充実した話し合いをすることで、高いレベルでの問題解決につなげることが可能です。
このような問題解決プロセスの質の向上は、チームのパフォーマンスを向上させるため、ひいては企業の経営改善や事業の成功にもつながってくるでしょう。

ファシリテーションスキルの構造

ファシリテーションスキルは、さまざまな要素が組み合わさったスキルです。ここでは、ファシリテーションスキルの構造と複数の要素について解説します。

知識と情報

企業の会議などでは、特定の専門領域についての議題が挙がる場合も多々あります。そのためファシリテーターは、会議の前に専門領域を担当する社員の意見を聞く、専門書等を確認しておくといった事前準備を行います。
議論に必要な専門的な知識や情報をファシリテーターが持っていないと、スムーズに話し合いを進めることができません。要所で用語の確認をし直したり、意見や論点をまとめることができなかったり、発言者の意見の意図を汲み取れなかったりと、生産的な話し合いが難しくなります。

また、ファシリテーターが知識不足だと、別分野で活動する参加メンバーや立場の違う参加メンバーに専門的な話の理解を促す説明もできないため、情報格差を埋めることができないまま話し合いを進めることになります。参加メンバー全員が意見する生産的な話し合いを作り、話の流れが議題からズレないよう管理するためにも、ファシリテーターが知識と情報を事前に仕入れておくことは大切です。

全体設計

ファシリテーションスキルを構成する要素の1つに、議論の全体設計があります。

たとえば、大がかりなプロジェクトなどでは、1度の会議ではなく複数回の打ち合わせや話し合いを経てプロセスを整えることが一般的です。ファシリテーターはまず、会議の責任者やプロジェクトリーダー、関係各所の役職者と関係作りを行います。プロジェクトに関わる全ての責任者を把握し、その上で会議や打ち合わせに求められるタスクや成果を理解し、プロジェクト全体の流れを設計します。

また、参加メンバーについて事前情報を仕入れておくことにより、各参加メンバーの立場や専門性から話し合いがどの程度深い内容になるか、あるいは議題がどこまでの幅を持っているのかを予測できます
物理的な空間作りも大切で、会議などを開くための時間と場所の確保、机や椅子、各種備品の準備、効率的に時間を使うため会議のプログラムの作成を行います。物理的な空間を最適な話し合いの場にすることも、ファシリテーションスキルの1つです。

クリティカルシンキング

ファシリテーションスキルを構成する要素の1つが、クリティカルシンキング(批判的思考)です。クリティカルシンキングは「批判的」とあるように、物事の前提や根拠を疑うことにより、本質的な意味や課題を浮彫りにできているかを判断・理解するための思考のことです。

外部の問題や課題だけでなく自己に対しても使え、自分の思考を批判的に見ることにより、自身の理解が曖昧な部分をあぶり出したり、無意識下の偏見や先入観を認識したりすることにも利用できます。
他者から意見やアイディアを引き出しながら、会議等の話し合いの場をリードするファシリテーションスキルにおいて、クリティカルシンキングは思い込みや前例、常識といった概念に議論が引っ張られないために大切なテクニックです。

デザインシンキング

デザインシンキングは、デザイナーの思考プロセスをビジネスの問題・課題解決に転用した思考法です。クリティカルシンキングが論理を使った思考法であるのに対し、デザインシンキングは感情を整理する思考法だと言えます。
デザインシンキングは、相手側の視点に立つことでサービスや商品の課題やニーズを探り出し、業務上の問題・課題を理解するための思考法です。大きく分けて以下の2つのプロセスを経て結論を導き出します。

① 観察・共感(Empathize)
最初のプロセスである観察・共感では、まずは業務内容やサービス、商品などを相手側の視点で観察し、課題をあぶり出して解決策を探ります。具体的な方法としては、インタビューやアンケートを使ったエンドユーザー調査などが挙げられますが、昨今ではSNSで意見や感想を集めるといった手段もあります。
相手側の意見や感想を鵜呑みにせず、相手側のリアルな立場に立って率直な気持ちに寄り添えるかが重要です。

② 定義(Define)
「① 観察・共感(Empathize)」で集めた意見や感想をもとに、相手側の本質的なニーズやサービス、商品の抱える課題を浮彫りにし、相手が真に求めているものは何かという仮説・検証を行うプロセスです。このプロセスで、課題解決するための方向性を定めます。

上記の2つのプロセスを経ることにより、デザインシンキングを機能させることができます。

ラテラルシンキング

ラテラルシンキング(水平思考)は、あらゆる物事の前提や常識といった概念を取り払い、思考を水平方向に広げていく思考法です。慣習や既成概念から脱却することができるのが特徴で、物事を見る際に多角度的な視点と視座を柔軟に変化させることができ、革新的なアイデアや本質的な意見を出しやすくなります。
具体から抽象へと思考を広げていく流れは、話し合いで出た具体的な意見をすくい上げ、企業の理念や価値観といった抽象的な上位概念に結びつけて、それぞれを評価するプロセスで重要になります。

ロジカルシンキング

ロジカルシンキングは、物事を決められた条件やフレームに従って整理・分類する思考法です。物事を一定の条件やルールに基づいて仕分けすることにより、それぞれの関係性や属性、違いを理解することができます。また、論理の出発点と結論に矛盾が起こらないように組み立てることで、相手にわかりやすく情報を伝達し、納得と理解を促すことにもつながります。
ロジカルシンキングはファシリテーションスキルにおいても重要な思考法です。話し合いの参加メンバーに専門性のある内容の理解を促したり、前提知識・情報を共有したり、出た意見を整理して伝達したりする際に必須になります。

ディスカッション/合意形成

ディスカッションは、「議論」や「討論」を意味し、特定のテーマについて意見を出し合います。意見を出し合うことで、納得できる結論を見いだすことが目的です。
また、議論の最後には、参加者全員の合意形成が必要です。合意形成を行うことで、議論の後に実行する決定事項に納得感を持って取り組むことができます。この合意形成を行うのもファシリテーターの仕事であり、ファシリテーションスキルの1つです。ディスカッションの中で意見の対立がある場合、それらの折衷案を考えるか、もしくはどちらかの意見を妥協しなければなりません。その際に合理性だけでなく、参加者の情にも寄り添い、全員が納得できるよう結論をまとめることが、ファシリテーターに求められます。


レトリック/巻き込み

レトリックはコミュニケーション上で情報発信する側が、情報を受け取る側の人を説得したり、内容に納得したりしてもらうためのスキルです。具体的な方法としては、比喩、反語、誇張、倒置などがあり、話をより魅力的で受け取りやすい文法に変えて相手に伝えます。
ファシリテーションスキルにおいてもレトリックは重要な要素です。会議などの話し合いをリードする際、柔らかく装飾された言葉によって参加メンバーに意見を促したり、合意形成を促す際に受け取りやすい言葉にしたりする効果があります。

また、発言に装飾を加えて説得力を増すことにより、ファシリテーターが参加メンバーに信頼されやすくなるというメリットもあります。参加メンバーから信頼されることにより、より深く踏み込んだコミュニケーションも取れるため、話し合いだけでなく相互理解にも役立たせることができます。

伴走の考え方

ファシリテーションスキルを話し合いの場に活かす際、注意すべきなのが介入の度合いです。ファシリテーターが議論に入り込みすぎると、議論の全てをファシリテーターが作ることになり、参加メンバーが納得感や達成感を得にくくなってしまいます。
ただし、ファシリテーターの介入が少なすぎても議論が活発にならない可能性があります。

介入度合いのバランスは難しいですが、だからこそ事前準備で参加メンバーの情報を集め、議論の深さと広さを予測し、専門的な知識・情報をリサーチしておくことが重要なのです。
事前準備で集めた情報と知識をもとに話し合い全体の設計をし、ファシリテーターとしてどの程度介入するかを大まかに決めておくことで、議論に伴走することができます。

ファシリテーションスキルを身につけるメリット

ファシリテーションスキルを身につけると、話し合いの場をリードできるだけでなく、ビジネスパーソンとして能力を高めることができます。ファシリテーションスキルがもたらす、ポジティブな副次効果について見ていきましょう。

グループワークの効率が上がる

ファシリテーターがいるグループワークでは、参加者が自己主張しやすくなり、意見交換が促進されます。また、意見の食い違いや、意見が収束しない場合でも、ファシリテーターが解決策に近づけることができます。これにより、グループワークの効率が上がり、成果が生まれやすくなります。

コミュニケーション能力が向上する

ファシリテーターにはコミュニケーションスキルが求められるため、ファシリテーションの経験はコミュニケーション能力を高めることにつながります。とくに、対立する意見をうまくまとめたり、収束させたりすることは、コミュニケーション能力を高める良いトレーニングになります。

リーダーシップスキルが向上する

ファシリテーターは、グループワークの進行を調整するだけでなく、参加者が目標に向かって効果的に動くようにサポートすることもあります。そのため、ファシリテーションスキルを鍛えることで、リーダーシップスキルを向上させることができます。リーダーシップスキルは、職場で重要な役割を果たすために必要なスキルの1つです。

まとめ

この記事では、ファシリテーションスキルの役割や構造、習得した際のメリットなどについて解説しました。会議やミーティング、チームビルディングなどの場で活躍するファシリテーションスキルは、ビジネスパーソンであれば必ず押さえておきたいスキルでしょう。

また、ファシリテーションスキルの需要は高まっており、今や人材育成においても取り入れられるようになっています。あらゆる物事が急速に変化する現代において、ファシリテーションスキルの持つ普遍的に使える思考と行動は、時代に左右されにくいスキルとして重宝されることは間違いありません

企業の経営者層はもちろん、現場で活躍するビジネスパーソン1人ひとりがファシリテーションスキルについて学び、活かすことができれば、ITによる変化とグローバル化の波にさらされた現代社会でも戦うことができるでしょう。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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