2023.09.19
BtoB営業における「売る仕組み」の再構築の仕方とは?
目次
BtoBの営業活動をする中で、漠然と「売れなくなった」「昔のやり方が通じなくなった」と感じることはあると思います。その原因は市場や顧客、競合、自社の商材や営業体制、人材など様々なところにあり、かつ複雑に絡み合っているが故に解決が難しく、何から手を付けていいのか分からないという場合も多いでしょう。この記事では、商材のライフサイクル(プロダクト・ライフサイクル)に焦点を当てて考えることで、売る仕組みを再構築する方法を解説します。
「売れなくなった」を解決する糸口をお探しの営業部門長、マネージャー、営業推進部門の方、人事部の方々のヒントになれば幸いです。
商材のライフサイクルと主な営業活動
商材のライフサイクル(プロダクト・ライフサイクル)は、1950年に経済学者のジョエル・ディーンが提唱した理論で、製品が市場に投入されてから、寿命を終え衰退するまでのサイクルを体系づけたものです。一般的に「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「飽和期」、「衰退期」の5段階を経て変遷し、各フェーズの顧客層のニーズにフィットする戦略を取りながら商材の提供価値を考えることで、長く安定して顧客から愛されるサービス(プロダクト)をつくることができます。
ここでは、フェーズごとの特徴と必要な営業活動について見ていきましょう。
導入期
「導入期」は、製品を市場に導入した直後のフェーズです。市場は発展途上であり、新たな技術などの登場などによって市場が創出されるケースもあります。この段階では、製品が導入されて間もないため、需要も小さく売上も大きくありません。
導入期においては、製品開発費がかかるだけでなく、製品認知を高め、市場拡大させることが最優先課題です。広告宣伝費もかかるため、利益はほとんど出ません。
営業部門は、仮設を立て、顧客候補先へのアタックをすることが主な任務です。
成長期
「成長期」は、顧客や市場に製品が認知され、急速に普及するフェーズです。製品やサービス需要に加えて市場自体も拡大するため、売上・利益が一気に増大します。
成長期では、生産効率の上昇や市場拡大に伴い、新規参入業者などの競合他社も増えることで消費者ニーズも多様化します。競合に勝つためには、製品の改良を実施し自社のブランドやポジションを確立するとともに、市場に素早く浸透させていくことが重要です。
営業部門においては、成功例をパターン化し、スピーディかつ大量に顧客候補先へのアタックを行います。
成熟期
「成熟期」は、市場の成長が鈍化し、売上や利益が頭打ちになり始めるフェーズです。類似製品や競合他社が多数出現しているため、消費者は製品に対して真新しさを感じません。
類似製品が溢れることで市場価値が低下するため、価格競争が激しくなります。デザイン・性能の似ている製品が市場に溢れる中で、自社の取り分を最大化させるには、差別化によって他社との違いをアピールすることが必要です。
そのため、営業部門では、顧客との密着度を高め、その顧客ごとに商材や売り方を最適化し、顧客の囲い込みをしなければなりません。
衰退期
「衰退期」は、製品需要がさらに低下し、売上・利益ともに減少するフェーズです。
代替製品が出現して市場全体のニーズも減少するため、資金力のある一部大手を除き撤退企業が増えます。事業を継続する企業であっても、既存製品のままでは売上を維持できなくなっていきます。
営業部門においては、まず自社の立ち位置を見極めます。その上で、撤退を見越して営業コストを削減して効率化をはかるのか、または、商材をカスタマイズし、別の市場を開拓する(ピボット)のかを選択する必要があります。
各フェーズにおいて必要な営業スキルとは?
商材ライフサイクルの各フェーズにおいて営業組織に必要なアクションを見てきましたが、やみくもに取り組むだけでは効果を上げることはできません。
より効率的な営業活動を行うためには相応のスキルが必要です。以下で詳しく解説します。
導入期では、市場をつくることが最優先課題であるため、「開拓力」が最も重要なスキルです。
顧客ターゲットとなる業種・企業群を定めたら、その業種や企業群のビジネスがどうなっているのかを調べ、課題の確認をしましょう。商材開発において開発部門が既に調査している部分も多々あるので、情報共有をしてもらいましょう。業種や企業群の課題をとらえたら、個々のターゲット企業がどのようなことを求めているのか、どのような点が事業の課題となっているのか仮説を立てましょう。そして実際に仮説を基にしたセールスを実行し、顧客のフィードバックを元に自社の開発部門や製造部門、サービス提供部門と連携しながら、セールスプロセスを改めて構築していきます。このように、導入期においては試行錯誤しながら市場と顧客を開拓し、成功パターンを作っていく力が求められます。
成長期に営業担当に求められるスキル
成長期は、最もサービス(プロダクト)が普及する時期であり、最も収益が増大する時期です。そのため、営業担当に必要とされるのは「基礎営業力」であると言えます。
導入期で見出した成功パターンを参考に話す、聴く、追いかける、クロージングするといったアクションを数多くこなし、自社のシェアを伸ばしていくことが必要です。当たり前のことをしっかりと数をこなす基礎力と体力が求められます。
成熟期に営業担当に求められるスキル
売上や利益が頭打ちになり始める成熟期においては、現状の顧客の囲い込みが重要です。営業担当には、顧客に寄り添う「密着力」が欠かせません。
顧客に合わせ、細かい用途提案をしたり、サービス(プロダクト)をカスタマイズしたりするなど、自社内の各部門を巻き込んでニーズに応えます。さらに、顧客及び社内と価格調整を行って売り上げと利益を担保し、状況に応じてクロスセルを行い、顧客単価の向上を狙っていくことも求められます。顧客理解と個々の企業へカスタマイズした提案、それを実現すべく社内調整をする力が問われます。
各フェーズにおいて必要な組織体制とは?
営業担当に要求されるスキルについてフェーズごとに解説しました。更に、営業活動をよりスムーズに、効果的に実施するには、組織体制も臨機応変に変化させる必要があります。
導入期の組織体制
市場開拓に人的コストを割かなければならない導入期では、能力・経験のある少数の人員を招集することが必要です。また、組織は情報の分断を避けるため、調査する組織、マーケティングする組織、セールスする組織のように分けるのではなく、できるだけ単一組織で運営します。
各顧客候補先との接点についても可能な限り1名、または少ない人数で持ちます。つまり、このフェーズにおいてはまだインサイドセールスとフィールドセールスなどの役割を分けないようにします。各人が収集した各顧客の反応などのデータは、組織内でスピーディかつシームレスにシェアできるようにしましょう。
成長期の組織体制
顧客候補先へのスピーディかつ大量のアタックが要求される成長期には、顧客獲得のために多数の人員を投入します。前述の通り、営業基礎力さえあれば良いので、エントリーレベルの人材を採用して短期で教育を施し、現場にどんどん投入していくのが望ましいでしょう。
組織は、効率よく量をこなすことが命題となるため、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスといった分業体制を取ります。成功パターンを基にした高速かつ大量の営業活動を展開しましょう。
成熟期の組織体制
現状の顧客の囲い込みが重要である成熟期においては、成長期ほどの営業人員数は不要になってきます。他フェーズにあるサービス(プロダクト)への移行などを行うことで徐々に人員を削減していきましょう。
組織も同様にエリア別となっていたものをアカウント別にするなど、より個々の顧客に密着できる体制へと組み替えると良いでしょう。
衰退期(ピボット期)の組織体制
衰退期においては、成熟期から継続して人員を削減していきます。
より少ない人員で効率的に営業活動を回していけるよう組織統合に務めましょう。ピボットを目指すのであれば、社員の役割変更を実施します。
各フェーズで求められるセールスイネーブルメント(後方支援)施策とは?
セールスイネーブルメントは、アメリカで提唱され始め、近年は日本でも注目されるようになった概念です。イネーブルメント(Enablement)は「有効化」といった意味を持ちます。簡単に言うとセールスイネーブルメントは営業における人材育成や、生産性を高める取り組みのことです。
営業担当が適した時期に適したスキルを発揮し、パフォーマンスを上げていくためには、プロダクト・ライフサイクルの各フェーズにおいてどのようなイネーブルメント施策(後方支援策)が必要となるのでしょうか。以下に詳しく解説します。
導入期のセールスイネーブルメント施策
導入期においては、以下の支援施策が必要であると言えます。
市場や企業情報の収集または収集ツールの提供
的を射た営業活動を行うためには、市場や顧客の情報が欠かせません。見やすく整備された情報そのもの、もしくは使いやすい情報収集ツールを提供しましょう。
思考トレーニング
プロダクト/サービスの開発は、市場調査を行い、ターゲット市場やターゲット企業群の本質的課題を発見し、その解決策としてプロダクト/サービスを開発するという流れが一般的です。役回りとしては、考えるのは開発担当、体を動かす(足を運ぶ、開発部門の考え方を話す)のは営業担当と考えられがちです。しかしながら、最初から開発部門の想定が顧客にそのまま当てはまるとは限りません。業種にもよりますが、導入期はプロダクトやサービス自体をどんどん見直して市場に最適化していく時期であるため、営業担当は、出来上がったプロダクトやサービスをどのようなセールストークで展開するかを考えるだけではなく、顧客の反応の裏側にある本質的課題を考えて開発部門へ提言していくことが重要です。
そのためには、顧客の話を引き出して細かくヒアリングしながら、個別の事象を俯瞰して捉えた後、プロダクトやサービスに具体的に落としていく方法を考える力が必要となります。営業担当にそのスキルが備わっていないのであればトレーニング(研修やロールプレイング)で補いましょう。
「活動の言語化と共有」を促す場の設定
情報収集したことや、営業活動を通して考えたこと、立てた仮説、失敗したこと、うまくいったことを共有できる場を設置しましょう。会議のような堅苦しい場ではなく、雑談形式の対話であったり、お互いに壁打ちしたりできる場を用意しましょう。オンラインであればグループチャットや社内SNSツールも活用しましょう。
成長期のセールスイネーブルメント施策
利益や収益が見込める成長期では、成功例のパターン化と、スピーディなアタックがカギとなります。後方支援施策としては、以下が適していると言えます。
営業プロセスの整備と浸透、運用
営業プロセスを整理し、浸透させることで、受注までのステップが明確になり、どのステップで何をしなければいけないのかを把握することができます。また、誰がどのプロセスでつまずいているのかも早期に発見することができるため、リカバリーも早く行うことができます。
営業プロセスが整理できたら、SFA(セールス・フォース・オートメーション)ツールなどを導入して運用していくことも有効でしょう。
営業マニュアルの作成・改定
どのような顧客にどのようなセールストークを展開するか、どのタイミングでどのような情報提供や提案をおこなったらうまくいくか等、ノウハウをまとめて、誰が見ても分かりやすく学べるようにしたものを作成しましょう。営業マニュアルは、営業担当のこれまでの経験が凝縮されているため、マニュアルそのものが会社の財産となるでしょう。また、マニュアルがあればエントリーレベルの人材にも効率よく教育を実施できます。
成熟期のセールスイネーブルメント施策
成熟期に行いたい後方支援施策は、以下の通りです。
各顧客実績の事例化と共有
顧客に合わせたサービス(プロダクト)のカスタマイズ実績の事例化と共有を行うことで、それぞれが抱えている顧客に対するカスタマイズ提案への気付きにつながるでしょう。分かりやすいコンテンツ(記事・動画)づくりの他、共有しやすい場と組織内の関係性の構築も必要不可欠です。
クロスセルのためのツール開発・情報収集
顧客単価の向上のためには、クロスセルが欠かせません。効率的なクロスセルのために、営業資料などのツールを作成しましょう。また、競合他社や顧客企業の情報収集もあわせて実施しておくとクロスセルを促進することができるでしょう。
営業スキルトレーニング
成長期に採用した営業担当は、かつての成功体験から、紋切り型のセールスになりがちです。従来の信念やルーティーンをアンラーニングし、個々の顧客に合わせたコンサルティングセールスを行えるよう、トレーニングの場を設計しましょう。
衰退期(ピボット期)のセールスイネーブルメント施策
衰退期においてピボットを選択した場合は、ピボットを狙う場合は、再び導入期に戻るため、導入期で行った「活動の言語化と共有」、「思考トレーニング」、「市場や企業情報の収集または収集ツールの提供」といった支援施策が必要になってきます。 加えて、かつての成功経験が通じないことも多くなるため、アンラーニングを促進していきましょう。
撤退を選択した場合は、下記の施策を実施します。
ITツールなどを利用した省力化
売上や利益の上昇は見込めないため、ITツールや動画等の利用を促進し、営業コストをできる限り削減しましょう。
まとめ
利益増大のためには、商材のライフサイクルを意識した組織設計や人材配置、活動とそれに対する後方支援が重要です。
従来のやり方が上手くいかないと感じた場合、まずは自社の商材がライフサイクルのどの位置にいるのかを把握しましょう。その立ち位置と現状の組織体制、マネジメントスタイル、営業担当のスキルなどが嚙み合っているのか確認していく中で、改善箇所が見えてくるはずです。
株式会社ソフィア
事業開発部 リーダー
三上 晃潤
人事部、広報部、経営企画部、情報システム部などにうかがい、企業によって異なる組織のお悩みや課題、お困りごとを聞き、解決するための提案をしています。
株式会社ソフィア
事業開発部 リーダー
三上 晃潤
人事部、広報部、経営企画部、情報システム部などにうかがい、企業によって異なる組織のお悩みや課題、お困りごとを聞き、解決するための提案をしています。