2023.09.19
営業マネージャーに求められる役割とは?
目次
会社の収益を生み出す部門である営業組織の重要性は、今も昔も変わりません。
各営業組織(エリア別営業所、製品別営業部門、顧客別営業チーム)が数字を作れるかどうかは営業マネージャー(営業所長、営業課長、チームリーダー)の力量や動き方によって大きく左右されます。
この記事では、現在の営業マネージャーに求められる役割とそれを助けるセールスイネーブルメント(営業後方支援)施策をご紹介します。
一般的な営業マネージャーの役割
英語のマネジメント(management)を辞書で引くと、「経営」「管理」「操縦」などの意味を持つことがわかります。
営業マネージャーは、営業担当者を束ね、管理する役職ですが、組織からは具体的にどのような役割を期待されるのでしょうか。
目標設定、目標管理
目標の設定と管理は、営業マネージャーにおける重要な役割の一つです。それぞれ解説します。
目標設定
自部門の売り上げ、粗利、販売量といった目標の設定と、その目標を達成するための具体的な戦術の立案をし、営業部長などの上位管理職の合意を得ます。チームやメンバー各自の能力や環境をよく把握して、バランスの取れた目標を立てていきます。
数値進捗管理
目標に対する日次、週次、月次、四半期での進捗管理と報告を行います。営業マネージャーは、目標達成状況から、うまくいっている点とうまくいっていない点を分析し、年間目標を達成できるよう、施策を打っていく必要があります。
活動計画、活動管理
目標達成のための活動計画やその進捗についての管理も求められます。
数値目標達成のための活動計画
どのターゲットにどのような活動をしていくのか、何本アポイントをとり、何回の商談をするのかなど具体的な計画を立てます。目標から逆算して達成するための方法を考えます。
活動管理
メンバーが十分にアポイントをとれているか、商談ができているか、また顧客パイプラインを進められているのかを把握します。必要に応じてフォローに回ります。
育成、案件フォロー
メンバー育成や案件のフォロー、チーム作りも営業マネージャーの重要な役割です。新人に対しては、商品説明の流れや資料の使い方といった基礎営業スキルについて、自ら教えるか、育成担当を配置して学ばせます。
中堅メンバーに対しては、重要顧客への営業同行や会食の同席を通して、案件のフォローをすると同時に、範を示します。
また、うまくいっているメンバーの称賛やうまくいっていないメンバーへの公式・非公式(飲み会など)の場でのフォローなど、モチベーションの管理も重要です。
営業環境の変化
昨今デジタルデバイスの普及、働く場所や働き方の変化などに伴い、営業環境も大きく変わってきました。営業活動に影響する変化にはどのようなものがあるのか、改めて見ていきましょう。
リモートワークの加速
感染症の蔓延による緊急事態宣言の発令は、リモートワークの普及を急激に促進しました。
その結果、顧客や自社のメンバーがオフィスにいないという状況が当たり前となりました。それに準じ、営業スタイルも従来の対面式とは異なり、オンライン上で商談を行う「リモート営業」が普及しました。
デジタルツールの進化
営業活動に使用するデジタルツールも進化、普及してきています。
顧客へのアクションを自動化できるMA(マーケティング・オートメーション)、営業活動全般の情報管理に役立つSFA(セールス・フォース・オートメーション)、顧客との関係性を管理できるCRM(カスタマーリレーションシップマネジメントシステム)、名刺管理ツールといった営業支援システムのほか、顧客やメンバーとのコミュニケーションの促進に役立つオンライン会議システムや、グループチャットツールなど業務効率化に役立つデジタルツールの利用が一般的となりました。
「ワークライフバランス」の概念の定着
各社の「働き方改革」推進の効果もあり、ワークライフバランスという概念は一般化しました。みなし残業込の年俸制を敷いている企業が多いとはいえ、営業組織においてもノー残業デー等の施策が適用され、働く時間は厳密に管理されるようになりました。
社内のイベントや飲み会も忌避されるケースが増え、タスク以外でのコミュニケーションは激減しました。
優秀な営業マネージャーの感じている変化
上に挙げたような様々な環境変化の中、業績を向上させていかなくてはならない営業マネージャーの負担は増加していると言えます。実際、現場の営業マネージャーはどんな変化を感じ、何を課題と思っているのでしょうか。広告業、通信業、精密機器販売業、コンサルティング業のエース級現役営業マネージャー達にインタビューを行った結果、以下のことが抽出されました。
結果が出ない若手営業の特徴
「人に聞く、社内のネットワークをつくることの重要性を感じていないなと思う。」「マニュアルを読んで、一生懸命やろうとするが、はみ出たことはやろうとしない。」との声が複数挙がりました。そのほか、対顧客でも社内でも一歩踏み込んで質問をしたり提案・主張をしたりすることができないという声が聞かれました。軋轢を避けるコミュニケーションが染みついてしまっている若手営業の教育に課題を抱えているようです。
売り物、売り方の変化
「昔は単一商品を一人で売り歩いて、それで売り上げが上がっていた。しかし、今はそれでは売れない。より複合的な提案が求められているので、自部門の製品だけではなく、他部門や社外と連携しながら提案を練り上げていく必要性が生じてきている」という声も複数あがりました。しかしながら、社内外とどうやったらうまく連携できるのかということはマニュアルに載っていないため、マニュアルだけでやろうとする営業は売れないという構図が浮かび上がりました。
求められるコミュニケーションの変化
社内外とのコミュニケーションの変化を感じているマネージャーも多く見られました。
顧客とのコミュニケーションに関しては「昔は、何か足りないものはないか、いくつ必要か、うちはこういう商品を扱っているというコミュニケーションをとれればよかったが、今は、顧客が口にする問題らしきものの背景を読み取り、それに対して、解決策となる商材を提案していく力がより求められるようになった」との声が聞かれました。
マネージャーと営業メンバーの間のコミュニケーションに関しては、「単に売上数値目標を提示して進捗確認するのではなく、自分のマーケットにおける方針を提示している。目の前の事柄(例えば本社から降りてくるキャンペーン)にのみとらわれず、やることとやらないこと、追う顧客とそうでない顧客を分けてチームメンバーへ落とし込んでいる。また、特に若手に対しては、マニュアルに書いていない社内人脈づくりをサポートしながら顧客への提案を一緒に行い、成功体験をさせ、モチベーションを維持させることを重視している。経験が浅いメンバーには、口頭では伝わりにくいので、一緒に動いて体験をさせるということが重要。」との回答が得られました。
営業マネージャーがとるべき施策
冒頭で確認したマネージャーの目標数値管理や目標達成のためのメンバーへの働きかけという従来の営業マネージャーの役割は今でも大きく変わりません。しかしながら、顧客のビジネスや考え方の変化、若手の考え方の変化、職場環境の変化など様々な変化に対して、マネージャーの意識や行動は変えていくことが求められます。
徹底的にメンバーをサポートする
営業現場では数字達成の可否が絶対的な評価指標となります。組織上の位置づけがそうであるため、これは揺るぎません。しかしながら、上で見てきた変化の中で、「目標達成しろ」というばかりでは、モチベーションは下がり続け、離職者は増えていきます。この状況を見て、「人事部はもっと気合の入った人物を採用すべきだ」「最近の若者は軟弱だ」ということは簡単ですが、目標を達成できなければ、言うまでもなく、マネージャーの責任が問われます。
では、どうすれば良いでしょうか。
ケン・ブランチャードは著書『新1分間マネジャー』において「自分自身に満足している人は満足できる結果を生み出す」と書いています。また、テレサ・アマビールとスティーブン・クレイマーはビジネスマンの12,000の日誌のデータを元に分析し、「ポジティブな感情・認識・モチベーション(インナーワークライフ)が高パフォーマンスを生む」と結論付けました。(『マネジャーの最も大切な仕事』より)
このことから、営業組織における「まだまだ努力が足りない」「アポイントも取れないなど話にならない」などのネガティブストロークを伴う旧来型のマネジメントは成果を生まないどころか、マイナスに働く可能性があると考えられます。
ポジティブな感情・認識・モチベーションが生まれることに最も大きな影響を与えるのは、仕事で実際に進捗があったと認識することです。営業メンバーが進捗を認識するために、マネージャーは自らの認識をフィードバックしたり、仕事自体からのフィードバックを認識するサポートをしたりすることが重要です。仕事自体からのフィードバックとは、契約というゴールはもちろんのこと、過程にある顧客の反応や社内の他部署からの評判等も含まれます。目標だけを与えて、進捗させられるかどうかはメンバーの力量次第とするのではなく、各メンバーが皆進捗できるようにサポートしていくことが、優秀なマネージャーが行っている「成功体験づくり」なのです。
失注というネガティブな結果と、その要因として重大なミスが生じていたという場合においても、ミスは取り返せること、メンバーを信頼していること、部下の成功を応援していることを伝えるなど、著しくネガティブな感情や認識を残さないよう配慮することが大切です。
自らの信念、ルーティンの変更
人が子供時代に親から受けた教育を自分の子供にも施す傾向があるのと同様に、営業メンバーだった時代に上司から受けたマネジメントを、自分がマネージャーになった際にメンバーに行う傾向があります。自分はメンバー時代に上司の叱責を受けながらも耐え、努力し、実績を残した結果、マネージャーに昇格したという自負と成功体験から、部下を持った時に上司と同様のマネジメントをしてしまうのです。
多くの営業組織において、メンバーは競争を促され、同僚に負けない実績を上げる努力をし、成績を上げた人がマネージャーに任命されます。その枠組みで育まれるのは競合的なマインドです。一方で、マネージャーになると、部門の実績を上げていくために、メンバーを助けていくスキルが問われます。
昨今、プレイングマネージャーが増加していることも相まって、メンバー時代と同様のマインドとスキルのままマネジメントが行われている組織は少なくありません。マネージャーになった際に、競合的なマインドのまま部下を持つと、自分との比較で部下を見て、うまくできない部下を叱責するということが発生しがちです。
しかしながら、ケン・ブランチャードが著書『1分間マネジャー』において「1分間叱責法」としていた部分を約30年の時を経て著書『新1分間マネジャー』においては「1分間修正法」と改変したように、マネジメント方法も時代に応じて変えていく必要があります。
目標達成しているメンバーを褒め、達成できないメンバーを詰めるというルーティンを繰り返すのではなく、個々のメンバーの成長度と向き合っている案件に応じて、指示やアドバイスをする、補助する(提案書を作る、同行する)等、様々な方法でメンバー個々の成功をサポートできるようなルーティンに変えていくことが組織の成功につながるでしょう。
勝てる組織を作るための営業支援策
顧客の要求水準が高度化・複雑化する中、自社の業績を上げていくのはただでさえ大変ですが、更にリモートワークの常態化や飲み会の減少等、営業マネージャーがメンバーをフォローすることも難易度が上がっています。営業マネージャーに丸投げして、あとはその力量次第とすることは簡単ですが、組織力は上がらず、敏腕マネージャーが会社を去れば業績は急激に悪化するという事態も起こり得ます。営業マネージャーの負担が増加する中で、組織として営業マネージャーをサポートする施策も必要であると言えるでしょう。
ツールの提供
変化に立ち向かい業績向上や組織力向上を図るにあたって、ITツールをうまく使うことが必須条件となりました。営業企画部や営業推進部などの後方支援部門は、情報システム部等と連携をしながらITツールを導入するだけではなく、営業部門と連携してその用途を開発していきましょう。以下にいくつか例を挙げます。
「管理ツール」ではなく「サポートツール」としてのSFA(セールスフォース・オートメーション)の提供
SFAは営業メンバーがきちんと入力する限りにおいては、マネージャーが営業パイプラインや実績を管理しやすくなります。しかし、管理ツールとして導入すると、管理されたくない心理と入力作業負荷により、メンバーが入力しない事態に陥ることがあります。メンバー個人の学習と成果を生む支援ツールという位置づけでの導入と、マネージャーの運用(前述のポジティブなフィードバックの材料とする等)方法をセットにした導入・浸透活動をしていくことで、管理・監視ツールではなくサポートツールとして活用できるでしょう。
顧客やメンバーと連絡を取りやすくするためのビデオ会議システムやチャットツール(Microsoft365やGoogle Workspace、Slack、他)の提供
経費節約の観点でZoom無料版を使用している営業組織がありますが、顧客と十分に話せない、営業メンバーの会社に対するエンゲージメントを下げる、顧客企業側に不信感を生むなどのマイナス効果もあるので注意しましょう。また、導入したらそれで終わりではなく、組織として有効な使い方を検討しましょう。商談において、パワーポイントを画面共有し、顧客の言うことをそこにメモしていくことで、顧客との意識共有を図る等、ちょっとした工夫でオフラインと同等以上の効果的なコミュニケーションを取ることも可能です。
業務に必要な書類や営業資料、セールストークに使えるネタ、学びとなるコンテンツを一覧できるポータルサイト
スピーディーに情報を取得し、数多く顧客訪問し、結果をだすためのドキュメントやコンテンツをまとめた社内向けサイトの構築をおすすめします。情報が様々な場所にあり、欲しい情報にアクセスできない営業組織が多い中で、使いやすいポータルサイトが運用されていることは競争力の向上につながります。
コンテンツの提供
現場の営業担当や営業マネージャーを助けるドキュメントや動画を整備することも大切です。
新人の基礎学習を助けるマニュアルおよびマニュアルに付随する教材の提供
マネージャーや先輩社員が一から教えなくても済むようなマニュアルと、その活用法に関する教材を提供しましょう。ロールプレイング動画を撮ってUPすることでAIが表情、話し方についてフィードバックしてくれるツールもあるので、活用すると良いでしょう。
ソリューション提案を助ける成功事例、失敗事例コンテンツの提供
どのような準備をし、どのような提案、フォローをすることで案件を獲得できたのか、もしくはどのような要因で失注したのかなどを、当事者が語る記事コンテンツや動画コンテンツを整備しましょう。
資料だけでは伝わらない部分を共有する場や、詳しく知りたいと思った人がすぐに情報提供者とつながれる仕組みも合わせて提供することが効果的です。
トレーニングの提供
営業現場のことは個別だから現場に任せるべしという思考から脱却し、しっかりとスキルトレーニングも行っていきましょう。以下は一例です。
営業メンバーのポジティブな感情・認識・モチベーションを生むためのトレーニング
前述したように、ポジティブな認識・モチベーションを生むために最も大きな影響を与えるのは、仕事で実際に進捗があったと認識することです。営業マネージャーがしっかり部下の進捗を助けられるよう、ティーチング、コーチング、評価研修、1on1ロールプレイング研修といったトレーニングを提供しましょう。
課題解決スキル向上トレーニング
顧客の問題発見、課題設定、解決策提示ができなければ複雑な顧客要望に応えられません。OJTで行うだけでは体系化できず、再現性があがらないことも多々ありますので、研修の場で、しっかり思考法トレーニングやケーススタディを実施しましょう。
風土づくり
上記の施策と並行して、良い風土をつくっていく取り組みも行っていくと良いでしょう。
ナレッジシェア
リモートワークが進んだことで、雑談の中で展開されていたナレッジシェアが難しくなりました。ナレッジシェアをする場(共有会やグループチャット、社内SNSなど)を整備するとともに、シェアした人が得する仕掛け(社内アワードやサンクスカード、評価指標の導入)も検討すると良いでしょう。
関係づくりの促進
ポジティブな認識・感情・モチベーションを保ち、成果を上げるためには、チームや部署を越えた関係性づくりも大いに役立ちます。
同年代の関係は自然に形成されますが、どうしても傷の舐め合いになりがちです。斜めの関係(営業メンバーと隣の部署の営業マネージャー、営業メンバーと製造部門のマネージャーなど)を作ることは業務を推進するだけでなく、離職率を下げる効果もあると言われています。プレッシャーがかかる営業マネージャー同士が相互援助できるような関係性を持つことも組織の成功には欠かせません。経営層や組織のトップがこういった関係性づくりを促す、会社として交流機会(たとえば食事会など)に対する金銭的補助を出す、部署を越えた共同提案を称えるなど、様々な手段で関係づくりを促進していきましょう。
まとめ
変化が激しい世の中において、営業環境も共に変化してきました。従来のやり方では、人は動かず、業績は上がりません。そのため、営業マネージャー自身が過去にとらわれず、市場とメンバー一人ひとりをよく見て動くことが成果を出す上では欠かせません。また、営業マネージャー個々の能力に依存するのではなく、新しいテクノロジーも活用しながら、組織的な営業支援を展開していくことが、勝てる営業組織の条件であると言えるでしょう。