2023.11.01
HRBP(HRビジネスパートナー)とは?役割やスキル、導入のポイントを解説
目次
ビジネスをとりまく環境が大きく変化している昨今、人事戦略のあり方を見直す必要が出てきています。優れた人事戦略をいち早く取り入れることで、会社の成長を加速させることができます。
では、効果的に機能する人事を実現するには、具体的にどのようなことに取り組めばいいのでしょうか。その解決策のひとつとして挙げられるのが、HRBP(HRビジネスパートナー)です。HRBPでは、人事部門が事業部門と連携しながら人材の調達や配置を行います。これにより、事業部門の課題を、人事戦略によって解決していきます。
本記事では、そもそもHRBPとはどのようなものか、どのような背景から生まれた発想なのかを詳しく見ていきます。また、日本の企業がHRBPを取り入れるべきである理由も整理します。企業にメリットをもたらす人事戦略を実現するために、ぜひ参考にしてみてください。
HRBPとは
まず、そもそもHRBPとは何かについて、さっそく見ていきましょう。HRBPを導入することは、企業にとってどのような意味をもたらすのでしょうか。
HRBPの概念
まずはHRBPの起源を紹介します。HRBPは、1997年にアメリカで提唱された概念です。アメリカのミシガン大学教授であるデーブ・ウルリッチ教授が提唱しました。ウルリッチ教授は、人事部門が営業部門をはじめとする事業部門と連携することで、人や組織に関する部門からの要望を人事に反映させていく機能を、HRBPと定義しました。この発想が広くシェアされ現在に至ります。
HRBPの役割
HRBPはどのような役割を担っているのかというと、企業の事業部門に人事の視点を持った人材を置き、それぞれの現場に寄り添った、戦略的な運営を行うきっかけを生み出します。それぞれの事業部やチームの風土、採用や育成など、全体ではケアできない内容をサポートします。結果、求めている課題解決が、それまでより簡単に行われるようになるといった、プラスの変化が起きやすくなります。人事面から、企業としての成長が加速するのです。
なぜアメリカでHRBPの概念が生まれたのか
なぜHRBPという概念が生まれたのか、その背景を知っておきましょう。発祥地であるアメリカの状況は、どのようなものだったのでしょうか。
労働者の多様性の問題
HRBPが生まれた当時、アメリカの人事領域では、労働者の多様性の問題や、エンゲージメントの問題などのさまざまな課題が注目を集めていました。人事において気をつけるべきポイントが増え、これまでにない戦略が求められるようになっていたのです。
たとえば多国籍企業の「ASML」では、人種や宗教、性別、年齢、出身国、障害、性的指向などを問わず、あらゆる人材を雇用するという方針を採用ページで明確に打ち出しています。このようにダイバーシティや多様性を意識して採用や異動などを行う多国籍企業が、多く存在するようになったのです。
また、アメリカは、先進国の中で出生率の低下が進み、移民流入による人口増加が主な要因となっています。将来的には、2040年前後に死亡数が出生数を上回り、自然減が起こる可能性が高まっているのです。ただし、移民問題は緩やかな人口増加を維持するための要因となっており、労働投入の減少により将来の成長率は低下する見通しです。このため、労働者不足が産業経済成長に影響を与えている状況があります。
公正さを担保する必要性
昨今のアメリカの労働市場では、労働者の多様化が進み、HRBPの重要性がますます高まっています。アメリカの労働力において、女性、少数民族、移民の数が増え、それぞれの従業員に対して公平かつ公正に接することを求められ、企業は真摯に向き合い、環境を整える必要があります。HRBPで事業部門が人事と積極的に関わることで、雇用法やあらゆる規制に対する公正さを担保することが不可欠になっているのです。
そして同様の傾向がアメリカやその他の国々で広まっています。結果、世界規模で多くの会社が人材を取り合うという図式が生まれたのです。人材を奪い合う状況の中、若くて優秀な人材ほど、多くの企業で不足してしまう可能性が出てきます。だからこそ、人事がいかに効率的に、本当に必要な人材を採用できるかが重要視されるのです。
HRBPでは、人事の判断と、事業部などのビジネスの現場における判断をすり合わせていきます。これにより、人事がそれぞれのビジネス目標に即した意思決定を下すことが可能になります。グローバル化により、さまざまな国の雇用法や規制を守る必要が出てきた企業にとっても、HRBPは頼もしい考え方です。労働力が高齢化し、エンゲージメントの必要性が重視されるようになったことも、HRBPへの注目を加速させています。人事は、ビジネス目標を正しく提示し、ビジョンが一致していることを保証することで、従業員が積極的に企業と関わる状況をつくっています。
なぜ今日本のビジネスでHRBPが必要なのか
アメリカをはじめとする世界規模でのHRBPの重要性は上記の通りですが、なぜ今、日本のビジネスにおいてHRBPの必要性が高まっているのでしょうか。主な理由について考えてみましょう。
ビジネス環境の変化
ひとつは、デジタルテクノロジーの進歩です。昨今、デジタル技術がめまぐるしいスピードで発展し、今までにないビジネスモデルや新商品が多数誕生しています。このような状況下では、AIやクラウド技術などのテクノロジーにいかに順応できるかが、企業の将来を大きく左右するでしょう。だからこそ、個々の持っている技術的知見を、タイミングよく最適な場所で採用することが、企業にとっては重要です。そこでHRBPによって、できるだけ効率的に人材を配置する必要が出てきているのです。
人材の流動化
日本の雇用制度における変化も、HRBPの注目度に大きく関わっています。日本の企業では、従来は新卒を一括採用し、終身雇用を前提に年功序列で評価していく「メンバーシップ型雇用」が一般的でした。しかし昨今は、働き方改革の影響で各々が柔軟な働き方を選択するようになり、雇用も流動化しています。また、若い世代の労働者の人数が減ったことで大手企業と採用を競い合うことになり、自社にとって理想的な人材を新卒で採ることのハードルも上がっています。
そのため、HRBPで採用の精度を高める重要性が増しています。
消費者ニーズの多様化
消費者の購買行動が変わってきていることも、企業の採用活動に大きな影響を与えています。最近ではスマートフォンなどのデジタルツールによって、オンラインショップで物を買う人が増えています。結果、デジタル上でエンドユーザーとつながるのが一般的になり、企業は、いかにリアルタイムでニーズに対応し変化していけるかを問われるようになっているのです。
このような変化において、人的資源の重要性は増します。思い描く理想の人材を採用するために、HRBP導入に注目が集まっています。
ビジネスの課題解決や採用育成に手が届かない
従来の人事部門は、中央集中管理により、現場のビジネス課題の解決や採用・育成に適切に対応できず、全体と部分の構造的な問題が生じている状況です。一般的な人事部門は、過去に戦略性やビジネス課題を無視して業務を遂行していたわけではありません。しかし、今は、人事部門が全体で行えることがある一方で、戦略的かつ部分的な最適な投資が必要であり、これによって問題を迅速に解決できる必要があるという状況です。
HRBPと人事との違い
HRBPと人事は、どのように異なるのでしょうか。従来の人事のやり方とHRBPのやり方の違いは、どの点にあるのかを考えてみましょう。
かつて、事業部の人事を行う担当者は、本社人事からの指示をもとに、意思決定をするケースが多く見られました。あくまで受け身で、降りてきた内容に従って手を動かしていました。
しかし現代では、中央管理による全体最適を維持しつつ、事業部や現場の課題に対して、戦略的で短期的な解決に焦点を当てる必要があります。HRBPは、事業部の専門的な人事とは異なった役割であり、現場の重要な課題に関連する人材の採用、育成、配置、制度などの側面について、一定の知識や要件整理が求められます。
HRBPの必要なスキルとは?
ここまで、HRBPの必要性や注目される背景について解説してきました。ここからは、HRBPにおける詳しいスキルについて見ていきましょう。どのようなポイントをおさえることでHRBPは実現するのでしょうか。
経営者視点での事業に対する深い理解
HRBPの目的は、さまざまな経営課題を解決し、描いた通りの経営戦略を実現することです。事業責任者と意見を擦り合わせ、効果的な運用を目指しましょう。そのためには、人事にも事業部にも、経営者としての視点で物事を決定できる能力が問われます。自社の戦略や強みを理解しているのはもちろん、競合他社の状況や、市場全体の状況を明確に把握していることが不可欠です。自社が近い将来どのような状況におかれるのか、具体的なビジョンを描く能力がHRBPに役立ちます。
経営レベルでのPL(損益計算書)の理解
HRBPは、事業部の戦略を支える役割を果たすため、その事業のPLを理解する能力が不可欠です。利益を最大化するために、適切な人件費を見極める判断が求められます。また、PLのデータを分析し、報告するスキルも重要です。
そのため、数値分析力を活かし、従業員の離職率や女性管理職比率など、人事施策に関わるさまざまな指標を数値化して分析する力が求められます。さらに、HRBPは事業を運営する現場のメンバーとの連携が重要です。一方的に話すのではなく、人事の立場から現場の状況や課題を適切に把握する必要があります。
従来のように問題が曖昧で数値化されない状況や費用対効果が不明確な状況は、これからは減少していくでしょう。タレントマネジメントや組織内データを分析する能力、仮説を立てる力が必要となります。
課題解決能力
ビジネスをとりまく環境は大きく変化しています。その中で、適切に課題を捉え解決していく能力が問われます。まずは目の前の課題を掘り下げて、本質的な課題に落とし込んでいくことが大切です。そして従来の解決方法に捉われずに課題に対する解決案を立案し、取り組みを推進していくスキルが重要です。
たとえば、ある事業部長が、「離職する若手が増えているので、何とかしてくれ」と述べたとしましょう。しかし、単に管理職に対する意識改革の研修ベンダーを探すだけではこの問題は解決しません。まず、「離職の原因は管理職のスキル不足なのか」「管理職の業務負担が高くて若手とのコミュニケーションが不足しているのか」「事業部長の発言からは、管理職のリーダーシップに問題があるのか」「給与面での課題はどうなのか」など、さまざまな側面から事象の要因を調査し分析する必要があります。そのためには専門的な知識が必要です。
人事の仕事は機械とは異なり、後戻りができないことを考えると、施策を実行する前に問題を深く考える必要があります。事業部長自体が問題の原因である可能性も考慮し、適切な対策を講じる必要があるでしょう。教育プログラムの導入や配置転換などの施策が必要かもしれませんが、それを実行するためには経営層の協力と権限も重要です。
コミュニケーションスキル
HRBPが機能するには、従業員一人ひとりのモチベーションが高く保たれていることが不可欠です。モチベーションをキープさせるために、事業部は、従業員一人ひとりのリアルな本音を引き出しながら、寄り添っていきましょう。そして、経営者や人事担当者にも適宜共有するようにしましょう。高頻度のコミュニケーションを続けていれば、従業員からの信頼も強固になっていきます。組織風土面で、HRBP成功のための土台をつくることができるのです。
人事という仕事は、人や組織という抽象的な要素を、論理的に整理し、周囲に理解させる能力が重要です。経営陣や現場の人々も、人と組織に関する事柄は曖昧であるため、さまざまな解釈が存在します。そのため、しっかりとした論理的整理とともに、コミュニケーションスキル、とくに説得力のある能力が求められます。さらに、現場の本音や実情を明らかにするためには、相手との信頼関係を築き、真摯で丁寧かつ粘り強いコミュニケーションが欠かせません。
現場と経営からの強い信頼
まず、現場からの信頼を得るためには、現場のニーズや課題を理解し、解決策を提案することが重要です。現場の声を受け止め、従業員の意見や要望を反映させることで、現場との連携を図ることができます。また、現場の実情に即した人材採用や配置の判断も重要です。現場の要望に応えることで、従業員は人事部を信頼し、協力的な姿勢で取り組んでくれるでしょう。
一方、経営側からの信頼を得るためには、経営目標の達成に向けた戦略的な人材計画を立案し、実行することが必要です。経営者は人事部 (HRBP)を信頼し、協力的な姿勢で取り組んでくれるでしょう。
それに対し、組織の成長や競争力の向上に貢献する人材を確保するよう期待しています。そのため、人事部は経営の視点を持ちながら、採用や評価制度の改善などを行うことが求められます。経営者からの期待に応えることで、人事部は経営陣からの信頼を獲得することができるでしょう。
HRBPの体制を導入する流れ
HRBPを導入する際におさえておきたいポイントを紹介します。実際に取り入れる段階に入ったら、一つひとつのステップを丁寧に踏んでいきましょう。
人事戦略を検討し導入の目的を明確化する
HRBPの導入を決める前に、まずは人事戦略を広く検討し、本当にHRBPが自社の戦略として最適であるのかを考えることが大切です。長い目で見た事業戦略を考慮したうえで、どのように組織をつくっていけばよいか、理想のかたちを描いていきましょう。そして、HRBPの導入を決める際には、どのような目的で取り入れるのかを明確化することが大切です。導入によって、どのようなメリットが享受できるのかをあらかじめ整理しておきましょう。
既存の人事で事足りるならば、新たなアプローチは不要です。HRBPも人事の側面においては、採用から退職までの基本的な原則は共通です。組織内の異なる部門や事業において、人材の面で全体最適が実現できない場合は、競争力が低下し、スピード感を持って対応することが難しくなる可能性があります。
既存の人事が戦略的な役割を果たすために、必要な権限を付与し、成果責任を負うことができれば、組織を複雑化させる必要はありません。ただし、管理コストが増える可能性があります。あるいは、HRBPのような機能を人事部に統合することから始めることも考えられます。
戦略を実行するための体制について検討する
実行にあたって、どの部署がHRBPの設置対象になるのか、人事部の組織体制は今のままでいいのかなど、体制面について深く考えていきます。検討内容を踏まえ、必要があれば組織に手を入れていきます。業務分担に関して、HRBPとは、自社において具体的に何を担当するのかを考えることが必要です。現在は採用や人材獲得が主な目的になる場合が多くあります。
また、人事部門はこれまでに主にルーティン業務に注力してきました。しかし、今後はHRBPの時代に入ったことで、単純な戦略性を追求するだけの考え方は避けるべきです。問題は組織の構造にあります。重要なのは、社員の自律を促すことで、そのためには権限を持たせることと柔軟性を確保することです。
トライアルを行う
運用を始める際は、まず小さなところでトライアルを行うのがおすすめです。はじめに事業部の中にある小規模な課題に目を向けて着手していきましょう。人事と事業部でやりとりを重ねるうちに、互いについてよく知り、情報共有がスムーズになるでしょう。信頼関係も醸成されるはずです。このように徐々に慣らしながら、取り組む課題の規模を少しずつ拡大していきましょう。
HRPBの研修やオンボーディングは欧米から学ぶものではない
HRBPは、高い成果を素早く出すために、人材を効果的に配置し育成していくものです。そのため社員は、個々でスキルや能力を磨いていく必要があります。自分で自発的に学習して、市場価値を高め、それを会社に積極的に還元する気概が必要です。
日本において、多くの人はまだスキルアップの途中段階といえるでしょう。リスキリングを行い、高い意識をもって成長しなくてはなりません。だからこそ、HRPBについて欧米からヒントを得るのはいいですが、完全に欧米を踏襲するのでは足りません。本社や人事部が先導して教育を行うのが大切なのはもちろんのことですが、事業部側でも研修などで学びを支援して、活躍しやすい環境を整えることが必要です。
日本のHRBPの問題点
日本においてHRBPを導入する際には、課題があります。昨今のDXよって明るみに出たことですが、IT分野で高い専門性を持っている人はビジネスにおける専門性が不足している傾向にあります。また、逆も然りで、ビジネスのエキスパートはITの専門スキルを十分には持っていません。だからこそ両者が両者を学んで知識をつけていくことが理想とされます。このように専門領域が違う場合は学びによって専門領域を広げる努力が不可欠です。
これは人事とビジネスの関係においてもいえることで、人事の専門家はビジネスがよくわからず、ビジネスの専門家は人事について詳しく知らないという事態が多くの会社で発生しています。両者の知識・スキル面での歩み寄りがなければ、日本企業においてHRBPを導入するまでに時間がかかることが想定されます。学びの機会を積極的に設けながら、HRBPを導入するための土壌をつくっていくことが、企業に求められています。
HRBPにおいて、ビジネスと人事を結びつける能力が重要ですが、この両方を理解できる人材はあまり多くありません。ビジネスとITの両方に精通した人材が稀であるように、ビジネスと人事の双方に通じた人材も希少です。言い換えれば、HRBPを現場の人に担当させるか、あるいは人事の経験を持つ人に現場を担当させるか、という選択になります。ただし、ベンダーマネジメントのようなアプローチは避けた方が無難です。DXと同様に、多額の投資が行われても成果が得られず、結局は管理コストが上昇するだけという結果になる可能性があります。
まとめ
人事部門が営業部門などの事業部門と連携し、部門から人や組織に関する要望を受けながら人事を行う機能がHRBPです。テクノロジーの進歩や雇用制度の変化などを経て、日本企業でもHRBPに注目が集まっています。HRBPは、労働者の多様化問題をはじめとする変化の激しいこの時代を生き残るために効果的な手段になります。実際に運用する際は、長い目で見た事業戦略を考慮したうえで、どのように組織をつくっていくのか、理想を描いてから導入を進めましょう。
よくある質問
- HRBPとは?役割やスキル、導入のポイントについてよくある質問
- HRBPは何をする仕事ですか?
- HRBPと部門人事の違いは何ですか?
- CHROとHRBPの違いは何ですか?
株式会社ソフィア
先生
ソフィアさん
人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
株式会社ソフィア
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ソフィアさん
人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。