学習とは何か?本質的な意味と定義、ビジネスにおける学習の重要性と種類を解説
目次
ITテクノロジーによって産業構造が変化しつつある昨今、旧来のテクノロジーやアナログな手法では業務が立ち行かなくなってきています。また、現在はYouTubeやインターネットサイトを通じて、知識を得ることが誰でもどこからでも可能な時代となりました。
一般的に学習と言うと、勉強や資格取得などを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、学習はそのような狭義の概念ではなく、個人から組織に至るまで広く適用することができるものです。
当然、ビジネスの世界においても学習は存在し、スキル・資格・経験・組織運営などその範囲は多岐に渡っています。「リスキリング」「人的資本」の文脈においても、ビジネスの世界においても「学習」は重要な経営指標になっています。
そこで、この記事では、学習そのものの定義や意味、学習と教育の違い、学習の効果や種類、実際にビジネスの現場で学習を取り入れる際のポイントについて解説していきます。
学習は成長につながり、報酬や成果を産み出すという物語は、果して本当に正しいのか?又は、この学習という過程の本質的な意味とは何か?を調べていきましょう。
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学習とは
学習とは、知識習得など含めた様々な経験を通じて、経験後の行動が変化する過程が学習です。ビジネスや成人教育において、持続的な変化が生じ、その結果行動パターンが変化し、その後獲得できる成果や報酬を目的とします。
つまり、学習により行動が変わり、報酬を得るという事になります。学習は目的の為の行動変容であり、行動変容の為の学習であるという事です。
逆に言えば、一般的学習である勉強や資格取得やeラーニングや集合研修などは、学習の為の一過程にしか過ぎません。また知識学習などは経験に結びつかない限り、行動が変化しないため学習として成立していないとも言えます。では、本当に行動変容という変化が、報酬や結果につながるのでしょうか。ここからは、「学習」という過程の本質的な意味とは何かを解説していきます。
学習は成長につながり、報酬や成果を産み出すという物語は、果して本当に正しいのか?または、この学習という過程の本質的な意味とは何か?を調べていきましょう。
学習の意味
学習を細かく分解すると、「知識」「行動」「能力」「好き嫌い」「価値観」などを新たに習得したり、必要に応じて修正したりするといった要素で構成されます。
また、これらについて繰り返し行うことを練習と言い、1度行った学習を再度学習することを復習と言います。
私たちが上記の学習要素を習得しながら、練習・復習を繰り返すことで言動が変化することを成長と呼び、ビジネスの現場においても同じように定義されます。
ビジネスにおいては、成果や業績が命題としてあります。そのため、学習過程の目的は成果や業績もしくは社員の報酬などに当てはまります。
学習をした社員の行動が変化し、その変化の結果が生産性や業績が向上し、その上で、社員の給与やインセンティブが向上するという事です。従って、学習をすれば、報酬が上がるのではなく、行動を変化させる必要がある訳です。では、この行動変容は、未来永劫、個人や組織の資産として、蓄積されるのでしょうか?
昭和の日本の高度経済成長期には、「24時間働けますか?」という猛烈な働き方が一つのロールモデルとされていました。この時代では、報酬を得るために長時間労働が当たり前で、滅私奉公的なマインドや長時間の体力、そして特別なコミュニケーション能力が重要とされました。しかし、現代では「昭和」という言葉はしばしばネガティブな意味で使われ、このような働き方は時代遅れとされます。それでも、まだこの習慣が抜けない人々も存在します。
学習は改良・改善などは時間とともにポジティブモノから、時代の変化ともネガティブへと変化します。つまり、学習した内容は価値保全されるわけでもなく、状況に適合する変化であり変容であることを言えるのではないでしょうか?
更には言えば、人や組織が周辺の情報やその時々環境条件などのからインプットし、それにより言動や行動、さらには価値観考え方に変化を生じさせる事象は全て学習として扱っても差し支えありません。
学習は一般的には、個々人が主体であると思う方もいますが、高度経済成長期の時代を見ればわかりますが、組織や集団自体が、経験し解釈し、「24時間働けますか」のようなムーブメントを起こすいわば組織的行動変容が起こっていたわけです。
つまり、学習の主体は個人と集団に大きく大別されそれが相互に関連していることがわかります。
ここで、考えておけねばならないのは、成果や業績に、紐づけられた学習とは言え、その成果が出るまでに、長い時間かかる学習と、すぐに成果がでる学習の2つがあることを経営者にここにとめておくべきです。
すぐに成果出る学習は、数字として表れる為、経営者としては、より促進したくなる学習かもしれません。しかし、すぐに成果の出る学習では、成果の額が低く、新製品開発につながる新しいアイディアを産み出すことにもなりません。短期的な成果が出る学習は、安心できる代わりに、利幅も薄いものとなりがちです。
一方で、五年十年先を見据えた学習は、すぐに数字として表れず、短期的に見れば無駄な事をやっていることもあるでしょう。しかし、科学技術の発見がそうであるように、次世代を創る製品やサービスは、長期的なこだわりから生まれてくることは、数十年を企業に実を置いたことのある経営者なら、理屈抜きに理解しているでしょう。
短期で成果出る学習も必要ですが、長期間かかる学習がある事も忘れてはなりません。しかし、長期間掛かってあげく商品化につながらない可能性もある訳ですから、この見極めには経営者としての最大の注意力を向けていくべきでしょう。
個人の学習と教育の違い
学習と似た概念に教育がありますが、この2つは似ているようで異なるものです。学習とは能動的に自分の意思で何かを学ぶものであり、教育は第三者による指導・レクチャーなどによって受動的に学ぶ姿勢を指しています。
このように書くと学習の方が良い学び方に思えますが、教育には学習にはないメリットがあります。例えば、教育は均質な学びの場を提供できるため結果に大きな個人差が現れづらく、学習してもらうためのきっかけとして教育が有効に機能する場合もあるでしょう。
集団や組織において、共通言語や規範を教示する事で安定や継続を産むことは間違いありません。新人研修の内容が数十年間変化しないことに異論反論はあるとは思いますが、内容はともかくとして、その集団や組織を維持するためには、一定レベルのオンボーディングの教育は必要不可欠です。
最終的には能動的な学習の姿勢を持つ方が良いのですが、学びのアプローチとしては教育も必要な概念です。ビジネスの現場においても、社内教育・OJT・OFF-JT・eラーニングなど教育の仕組みを利用して学びを得るケースが多く、学習と教育が切っても切り離せない関係であることがわかります。
しかし、あくまでも学習の前に、教育があるという前提を確認しておきましょう。車を運転する時でも、誰もが守らなければならない一定のルールを習得しなければなりません。ここに個性など必要なく、これは教育で最も効率よく学べるものです。つまり、テキストや疑似体験で学習できる領域です。
ひとたび路上に出て、様々な状況の中で車を操作するとなると、教習所で習ったことのない未知で想定をはるかに超えた状況と直面します。たとえ免許取得したばかりであっても、今目の前で起こっていることに対し、自分で経験を積みながら適応していくのです。これは、経験や体験から学習する領域です。
企業内におけるそれぞれのスキルも、基本的に車の運転と同じではないでしょうか。一度車を運転できるようになったらそれで終わりではありません。いやおうなしにマニュアル車からオートマチック車への転換、ガソリン車から電気自動車への転換、と言った大きな変化にも対応しなければなりません。
車の運転にすら、学習に終わりがないため、市場に晒される企業人は常に時代の変化に対応できる柔軟性を自分の中に保っておくべきでしょう。新しいモノへの好奇心、変化できる瑞々しい柔軟性、これは企業人が年を重ねても持ち続けておきたい資質となります。
組織レベルでの学習
企業が成長しながら存続し続けるためには、個々の社員だけでなく、組織レベルでの学習も重要です。特に近年のビジネスの世界は変化が激しいため、時流を読み取って瞬時に適応しなければ企業が生き残ることは難しくなっています。しかし、個人のように組織は軽々と学習し変化できないことは、経営管理者が頭を抱える明白な心理です。
組織や企業レベルでの学習は個人と同じように考えれば、全社員が同時にテキストを読み、全社員が集合研修で疑似体験をし、同時に学習し経験するということはできません。個々人の学習の総和が、企業全体の学習にはなることは、思考実験では可能かもしれませんが、実行するのは無理でしょう
実際に、全社員研修を実施する会社もないことはありませんが、全業務を止めて、全社員を研修に参加することはできず、何回かに分けて、数か月にわたって研修参加するということになります。現業から数時間から数日間を研修に参加し、その後現状に戻るということを繰り返し、全社員に展開します。しかし研修の参加している瞬間は学習したり動機付けされても、現場に戻れば数日で、学習効果は減り、元に戻ることは、誰も感じている事実です。
組織や企業が、過去から現在に至る成功や失敗という経験学習が連綿とあります。これが学習や変化の障害になります。
組織の過去の経験や体験の解釈が、組織の中で、言説や神話へを産み、その言説や神話は、風土や文化へと形を変え、現在に組織に隠然と影響を与えています。
例えば、新規事業の創出に力を入れる企業は増えていますが、この新規事業の創出がうまくいかない要因として、既存事業で、経験的に学習され培われた組織風土や文化を問題としてよく取り上げています。つまり、新規事業を創出する為、組織風土改革が必要であるという論理になります。
しかし、組織風土や文化を変えることは、経験が起点になる為、いくら全社員に啓蒙や教育だけを実施して風土が変わることは稀です。むしろ、先に今までにない経験や解釈を創ることが必要で、並行して啓蒙する方が効果的です。
新規事業であれば、「経営が投資した事実や実績」、「玉混交のアイディアを承認する行動や事実」を、大小はともかくとして創造することです。その変化の事実や結果に対して、経営や当事者は、新たな解釈を添え、組織にコミュニケーションすることが組織レベルの学習においては、最初の初手になります。言い換えば、学習やメソッドよりも、新しい経験や解釈を創造することがもっと先にあるということです。その結果として、社員の解釈や認識を変わり、思考パターンを変わり、コミュニケーションを変わり、行動が変わり、空気が変わり、風土が変わり、初めて変化し学習したと言えます。
組織も個人の大枠で学習の構造は一緒ですが、その過程や手段は大きく異なります。個人の学習の視点で、組織の学習を捉えると大きなミスリードをするでしょう。
組織レベルの学習には、優れたメソッドや学習コンテンツより、コミュニケーションが重要になります。
学習の仕組み・理論について
学習とはどのような仕組みで行うのでしょうか。学習の仕組みには、クリス・アージリスのダブルループラーニングとベイトソンが提唱した学習理論があります。ここでは、それぞれ詳しく解説していきます。
クリス・アージリスのダブルループラーニング
ダブルループラーニングとは、1970年代にアメリカの組織行動学者クリス・アージリスが提唱した学習理論です。
これまでの思考の枠組みによって学習を反復しつつ、そこからさらにこれまでの思考の枠組みを超えた、新たな思考の枠組みを取り入れる学習のプロセスを指しています。
逆に、これまでの思考の枠組みの範囲内で学習することをシングルループラーニングと呼びます。
たとえば、ダブルループラーニングの学習プロセスは、「今回の目標設定は適切かどうか」「サービス・商品の対象ユーザーに対し、LPでのアプローチで良かったかどうか」など、まずは前提となる枠組みを疑問視することからスタートします。
そこから思考を枠組みの外に拡張させ、「ECサイトを立ち上げて直接販売する状況を作る」「メンバーシップ制にして限定的に販売を行う」など、既存の枠組みからあえて離れることで上位の枠組みを再構築し、実務を実行して学習するのがダブルループラーニングの学習プロセスです。
近年の変化の激しいビジネスの世界では、シングルループラーニングのやり方だけで個人・組織が環境に適応し生き残っていくことは難しくなっています。これまでの思考の枠組みから脱し、新たな知識や情報を吸収して学習するダブルループラーニングが必要です。
新しい思考の枠組みを創っていく作業は、あらかじめ決められたラインに沿って進んでいくものではありません。思いも掛けなかった方向へと、思考の枠組みが既存のモノからズレていくはずです。このズレを許容し、むしろ賞賛していくことがダブルループラーニングです。
上記の「前提」は、個人であれば思い込みや価値観であり、企業であれば風土や理念などに該当するものです。
ベイトソンの学習レベル
イギリス出身の学者グレゴリー・ベイトソンが提唱した学習理論によると、学習の土台を「ゼロ学習」として基礎とし、そこから進展するように「学習Ⅰ」→「学習Ⅱ」→「学習Ⅲ」と変化するとしています。
ここでは、ベイトソンが提唱する学習理論のレベルを簡単に説明します。
学習レベル/概要
一次学習(学習Ⅰ)
一次学習は最も基本的な形の学習で、条件反射や習慣形成のような単純な反応や行動の獲得を指します。例えば、熱い鍋を触れば手が痛くなるという経験を通じて、熱い物に触れると痛いと学ぶのは一次学習の例です。
二次学習(学習Ⅱ)
二次学習は一次学習のパターンやコンテクストに関する学習を指します。これは学習に関する学習、つまり「学び方」を学ぶプロセスを示しています。例えば、特定の状況での適切な反応や行動のルールやパターンを学ぶことが含まれます。
三次学習 (学習Ⅲ)
三次学習はさらに抽象的なレベルでの学習で、これは自分自身の学習パターンや、それらのパターンを変える方法についての学習を指します。このレベルの学習は自己認識や自己変容のプロセスに関連していると考えられています。例えば、ある人が自分の反応や信念を変えることで、繰り返される問題のサイクルを打破することを学ぶのは三次学習の例です。
ベイトソンはこれらの学習のレベルを通じて、人々が情報をどのように処理し、それに応じて行動や反応を変えるかを理解しようとしました。この3つに分かれた学習段階のうち、三次学習(学習Ⅲ)をもう少し詳しく説明します。
三次学習はベイトソンの学習階層の中で最も高次で抽象的なレベルに位置し、この段階では、自分が持つ学習や信念のパターンそのもの、およびそれらのパターンを形成する過程に関する認識や変容が中心となります。
三次学習は以下の3つの過程を経て完成されます。
- メタ認識
- 変容の可能性
- 問題のサイクルの打破
メタ認識:
自分が持つ信念や仮定、価値観に対する深い認識や理解を、さも他人を見るようにして外側から観察します。これは「自分が世界をどのように見ているか」や「自分が何を信じているか」について掘り下げて見ます。
変容の可能性:
メタ認識から視野をひろげ問題点と自身の価値観の相関関係を見つめなおすことで、個人は固定された信念やパターンを変えるきっかけとなる気づきがうまれます。これは、自分の考え方や信念を再評価し、新しい視点や方法で物事を見ることを可能にします。
問題のサイクルの打破:
繰り返し発生する問題や困難に直面する際、三次学習はその問題のサイクルを打破するための新しい方法やアプローチを見つける能力を提供します。これは、過去の経験や学習から生まれる制約を超えて、新しいソリューションを模索する能力を意味します。
例:誰かが何度も同じ種類の不健康な関係に巻き込まれる場合、その原因を探る過程で、自分自身の信念や価値観がそのパターンを繰り返していることに気付くかもしれません。この認識を通じて、その人は自分の信念を再評価し、関係の見方や取り組み方を変えることで、サイクルを打破する新しい方法を見つけることができます。
ベイトソンは、この三次学習が最も高度で複雑な学習の形態であると考えていました。そして、多くの人々がこのレベルに到達することは稀であるとも指摘しています。
実はベイトソンが提唱する学習理論は「学習Ⅳ」までありますが、「学習Ⅳ」は超越的でありすぎるためここでは割愛します。
ベイトソンの学習理論を要約すると、ベースとなる学習である「学習Ⅰ」を出発点に、「学習Ⅰ」の文脈や詳細についての内容が、より上位階層である「学習Ⅱ」以降の学習によって学習者に積みあがっていくイメージです。つまり、「学習Ⅱ」以降は「学習についての学習」を表しており、メタレベルの学習を行うということです。
物事や事象に対する深い理解と発展性を掴むことができるのがベイトソンの学習理論の本懐で、ビジネスにおいても有用な学習プロセスになります。
クリス・アージリスとベイトソンが主張していることはどちらも同じです。学習は深まっていけばいくほど、単なる知識の習得やスキルの向上にとどまらず、学習が対象としていたシステムそのものを、ズラし、変化させ、新しいものにしていくということです。
つまり、学習とは、このように従来と同じことを最初はやっていても、深まっていく過程である種の位相転換が起き、それまで思い掛けなかった視野が手に入るということです。このシステムそのものの変容こそ、先に述べた行動パターンを含む、学習の成果と言えるでしょう。
「学習する」とは「変化する」こと
学習とは、表層的な言動の変化と、考え方・価値観といった根本的な部分の変化(それに伴う表層的な言動の変化)を促すプロセスです。
たとえば、初めて通勤する場合は、「目的地までの料金を確かめて、切符を買い、時刻表を見て、電車に乗る」ということを行うでしょう。
しかし、習慣化すれば、「切符を買い、電車に乗る」という行為だけで通勤するということが可能になります。つまり、学習により「目的地までの料金を確かめる」、「時刻表を見る」という行為を行わずとも通勤できるようになるのです。
これは、「目的地までの料金を確かめる」、「時刻表を見る」という前提を学習し、行動が変化したことになります。
これが上図のシングルループに当たり、この自動化習慣化がないと私たちの日常生活は成り立ちません。その意味でシングルループは土台ともいえるものなのですが、ここで止まっては、私たちは驚きも感動も生じなくなります。
しかも、企業という現場では、この自動化習慣化こそが、業務のマンネリをうみ社員のやる気をなくさせ、会社の全体の生産性を下げるということは言うまでもありません。
そこで、学習にはもう一つのタイプがある事を思い起こしましょう。
一つ目は先ほど述べた知識や行動を増やす学習です。
そしてもう一つは、考え方や価値観といった人の根本的な部分に変化を起こす学習です。土台となる学習の上に、私たちに根本的変化を及ぼす上位の学習が来ます。この上位の学習こそ停滞した職場に欠けているものであり、欠けている場合には、職場や組織に率先してこの根本的な変化を促す職場に導入する必要があります。
効果を得るには形式的に行う教育・学習から脱することも重要
企業内の教育プログラムが本当に効果的かどうかに疑問が残ることは確かです。学習による能力向上は、個人や組織にとって曖昧で、成功事例をモデルとして挙げても、その効果を確実に示すことが難しい場合もあります。
多くの場合、形式的な教育プログラムが提供され、OJT、OFF-JT、eラーニングなどが行われても、成長できる社員は限られています。
では、成長できる社員を増やすためにはどうすべきでしょうか?
そのためには、ダブルループ学習とシングルループ学習という2つのアプローチがあります。シングルループ学習は、数値化が容易で試験などで成果を確認しやすいです。一方、ダブルループ学習は根本的な変化をもたらす学習であり、数値化が難しく、長期的な視点が必要です。
ダブルループ学習の成果を確認する方法として、簡単かつ誰でもできる手法が学習内容について文章を書く事です。
ダブルループ学習の成果確認の為に、文章を書いてみれば、最初は戸惑いながらも社員は学生に戻った気分で、学習を受ける前と受けた後の変化を、綴り始めるでしょう。もちろんの文章の上手下手はあるかもしれませんが、それは問題になりません。大切なことは社員が自分を変化を客観視しそれを文章に直し、その書いた文章を再び客観視する事により、自分の変化を主観的に確認できるという事です。更にはこれを上司や同僚と共有し対話することでより学習という変化を産み出します。
はっきり確認しておくとダブルループ学習の段階では、客観的な数値ではなく、主観的な感動が、問われることになります。面白いもので、文章には、書いた人が感動したかどうかはすぐに表れるものです。ですからダブルループ学習が主観的だからと言ってやりっぱなしなのではなく、一定の長さを持った文章にしておくことで、書いた社員及びそれを読む上司同僚、またとない共通財産をなる事でしょう。
但し、この根本的変化を文章に書くという作業も、これ自体がルーティンになってしまい、只の研修報告になってしまえば、シングルループ学習と同じものになってしまします。
やらされ感を感じる学習や大量の情報をひたすら浴びるようなEラーニングなどの、ダブルループラーニングのない学習過程は、情報通になれるかもしれませんが、変化はしません。
あくまでも、ダブルループ学習 自分の根本的な気づきや変化、その時その時の文脈に応じて、書いていくものであると注意しておくべきでしょう。
う。
学習におけるリフレクションとフィードバック
学習において自身の行動を客観的に振り返るための手法が「リフレクション」と「フィードバック」です。
社員に業務を割り振り、実践してもらっただけでは十分な学習になるとは言えず、その結果を社員自身がどのように受け止めているかによって学習の質が変わってきます。
解釈の仕方・価値観・メンタルモデルなどは個々によって違うものであり、必ずバイアスや思い込みが入り込むため、客観性を持って学習を行うことは難しいのも事実です。
そこで必要になるのがリフレクションとフィードバックです。ここでは、学習におけるリフレクションとフィードバックの重要性について解説していきます。
リフレクション
リフレクションは反射・反映・内省と言った意味を持ちます。特に人材育成の領域において重要視されており、日本でも2010年ころから注目されはじめ、「リフレクション教育」として多くの企業が導入しています。
リフレクション教育は、実用レベルで取り組まれるものであり、心理学、精神分析、社会科学、哲学といった人文学系の領域までおよびます。「自分を客観的に見つめるという行為」について掘り下げるという禅の世界に通じることさえあるでしょう。厳密な言い方をすれば「セルフリフレクション」「自己省察」になります。
2010年ころから注目されはじめた「リフレクション教育」ですが、歴史は古く、リフレクションが本格的に論じられたのは19世紀前半になります。その後「リフレクション」や「自己省察」を方法論として精神分析や心理学の発展に大きく貢献しました。リフレクションのテクニックなどの説明において、心理学や精神分析から理論やフレームワークを使われるのはこれが理由です。
リフレクションを行う際のポイントとしては、客観性と主体性を持って経験を振り返ることです。どの段階・レベルでリフレクションするのか、内省を重視するのか、メタ認知的な振り返りをするのかなど、経験の内容に応じて適宜方法を変えて行うことが大切になります。
フィードバック
フィードバックとは、相手の取った行動に対して評価を伝え、問題解決・成長を目的として軌道修正や適切な改善を行ってもらうための手法です。
基本的には1on1ミーティングなどのプライバシーを確保した状態で行われることが一般的です。フィードバックは、チームプレイが大切なビジネスの現場においては必須であり、学習の領域においてもなくてはならないコミュニケーションです。
リフレクションが自己の客観視であるのに対し、フィードバックは、他者からの客観的視点です。他者からの見え方であるため、社員にとってはより思いがけない結果が出てくるかもしれません。
中には、社員を批判するようなフィードバックもありうるでしょう。しかし、それは社員を攻撃するためのものではなく、自分の気づきにくい問題を指摘している言葉だと平常心で素直に受け取ることが大事です。
そのため、それを伝える上司も感情的にならず事実のみを伝えることが重要です。リフレクションもフィードバックも、最終的には学習の一環であって、社員を成長させるためのツールであることを忘れてはいけません。
ビジネスにおける主な学習の種類
ビジネスで取り入れる学習にも様々な種類があり、状況に応じて選択されるものです。ここでは、多くの企業で導入されている主な学習方法について解説します。
OJT
OJTとは、実務の経験を通して知識やスキルを習得する学習方法です。実際の業務を行いながら学ぶことにより、より実践的な考え方やスキルを身に着け、体験を通して現場レベルの身に付く知識を獲得していくことができます。
一般的に新入社員や未経験の社員に向けられた学習で、経験値のある同僚や上司が指導を行いながら同時進行で業務を遂行していきます。実務で学ぶため、マニュアルや研修では伝わらない細かなニュアンスや社員同士のやり取りを含めて吸収でき、効果の高い学習だと言えます。
コーチング
コーチングとは、運動・勉強・技術などにおいて専門性のあるコーチから指導を受け、スキル獲得や目標達成を目指す学習方法です。コーチングの効果は多岐に及び、個のパフォーマンスの向上のみならず、リーダーシップの獲得やキャリアの発展にも効果を発揮します。
コーチングの指導の特徴は、個々の特性や強みを引き出しながら成長に繋げ、具体的な目標設定やそれに伴うアクションプランについて一緒に考えることです。特に指導される側の中にある納得感を大切にしており、第三者から与えられる答えではなく、自分自身で導き出した答えに則って行動を起こすように促します。
プロジェクトベースドラーニング
プロジェクトベースドラーニング(PBL)は、何らかの課題・問題への取り組みとその解決を通して学習する方法です。PBLはその特性から、社員の批判的思考・協働性・自発的な学習能力を養えるため、実践的な知識とスキルを持ったビジネスパーソンへの成長が期待できます。
具体的な学習プロセスとしては、答えが複数ある課題・問題に対し、それぞれの社員が仮説を立てて調査・検証し、そのシンプルなプロセスを繰り返すことで解の精度を上げていきます。先輩社員や上司が一方的に指導するやり方とは違い、社員自身が自ら課題・問題を発見し、課題・問題を解決に向け試行錯誤を繰り返しながら、その過程で知識・スキル・経験などを学習します。
経験学習
経験学習は、実務などの経験を通して学んだ内容を、次の経験に活かしながら成長していく学習方法です。ビジネスの世界でも経験学習は学びの基本であり、実務に携わることで成功・失敗を経験し、自発的に創意工夫をしながら次の実務に活かすことで、効率的に学習の効果を得ることができます。研修などの座学も大切ですが、経験以上に学べる教科書はないため、特に重要視されている学習方法です。
越境学習
越境学習は、いつも働いている会社・職場・部署を離れ、異なる環境での仕事を経験することで、新鮮な視点や新たな考え方などの学びを得る学習方法です。社外留学や他社留学とも呼ばれており、越境学習の代表的な方法には、レンタル移籍・プロボノ・ワーケーションなどがあります。
越境学習の大きなメリットは、普段とは異なる業務に携わることで思考が拡張され、イノベーションやアイデア出しに必要な、視野の広さ・柔軟な思考を獲得できることです。
事業全体を俯瞰する広い視野を持つことができ、思い込みや慣例・常識から脱して、これまでにないサービス・プロダクトを打ち出せるといった効果が期待できます。
また、他の業種の新たな知識を得たことで、自社のビジネスモデルを再考するヒントになることもあるでしょう。
ビジネスにおける学習の問題点
変化の激しいビジネスの世界で企業や個人が生き残るには、学習によって成果を最大化し、競争力をキープすることが不可欠です。積極的な学習で個々の社員が成長することにより、企業の発展を促進することができるため、ビジネスと学習はセットで考えなければなりません。
しかし、形式的に学習方法を取り入れたとしても、各学習方法の本質を理解していなければ、その効果と恩恵を受けることは難しいものです。ここでは、多くの企業が取り入れている定番の学習のポイントや問題点について解説します。
実践されない学習の問題
リスキリングや学び直しを実施する際に注意すべき点は、社員が新たな領域や分野で新しいスキルを学習することは容易ではないということです。
DXやAIなど、これから実装される新しい技術は、全ての部門・職種・立場の社員がリスキリングの対象となっており、誰しもが学習しなければならないのが実情です。
まったく触れたことのないスキルをゼロから学ぶケースや、従来の業務を行いながら同時並行で学習を行うケースが増えるでしょう。そのため、細かなサポート・配慮が必須であることを忘れないようにしましょう。
しかし、最も重要な問題は、学習したスキルや内容が実務や実生活で使う場面がないことです。ITスキルやプログラミング、データ分析は知識や資格より経験がモノ言う世界です。知識もない状態で、デジタルを扱う業務に従事する事は、無免許運転に近いかもしれません。ビジネスにおいて、独学と実践でパフォーマンスを上げているIT技術者は沢山います。
企業内教育の問題
自社の社員教育は、実務スキルやノウハウの習得だけでなく、思考プロセスや価値観の変革にも焦点を当てる必要があります。
しかし、実態として、社内の教育や昇進評価は、人材の標準化を産み出す側面しかありません。同じような考え方や価値観を持つ集団では、新しいアイデアや盲点をつくような斬新なアプローチが生まれにくく、イノベーションが阻害される可能性が高まります。
そのため、社内の教育プログラムや階層別のトレーニングにおいて、社員に自身の思考や価値観について振り返る機会を提供することが重要です。
この振り返りを通じて、社員は自分自身の内面の偏りや思考パターンを認識し、修正する機会を得ることができます。これにより、新たなアイデアやアプローチを生み出すための環境を構築していきます。
この目的を達成するには、社員の流動性が不可欠です。同じ仕事や同じチームで長期間働くと、マンネリ化しやすくなります。それを防ぐために、社内外での異なる業界や仕事の経験を促進し、新しい視点を獲得する機会を提供する必要があります。このような変化や異なる視点を取り入れることで、社員は自身の仕事や役割を客観的に評価し、新たなアイデアやアプローチを生み出す能力を向上させることができます。
1on1やOJTの問題
1on1やOJTは、実務という実践を伴いながら学習を進めるやり方です。経験を通して学ぶため効果はありますが、上司・先輩社員などの指導者が単純にスキルや知識を教えるだけでは学習効果に限度があり、社員の成長は頭打ちになってしまいます。
そこで必要になるのがフィードバックや振り返りの機会です。フィードバックと振り返りを行うことによって、1on1やOJTの学習効果を引き出します。一人ひとりが自分の行動を振り返り、改善点や成功体験を共有することで、持続的な学習と成長の促進となります。
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最近は米国シリコンバレー由来の「1on1(ワンオンワン)」という新たなミーティングの手法がトレンドになっています…
ビジネスにおける学習のポイント
学習には様々な種類がありますが、どの学習方法を適用するにせよ、基礎部分で押さえておくべきポイントがあります。それぞれやり方が異なる学習方法において、押さえておくべきポイントとは何なのでしょうか。
目標設定
学習を行う際は、その学習によって何を達成したいのか、どういったスキルを獲得したいのかなど、具体的な目標を設定することが大切です。さらに目標から逆算し、達成までの詳細な計画を立てることが有効です。
たとえば、OJTの場合、「どのような業務で」「何を学び」「どのようにフィードバックを行うか」まで用意し、現実的な目標設定と達成可能な計画をセットで考えて作るとよいでしょう。
継続的な学習
ビジネスの世界においては特に学び続けることの重要性が高まっています。日々凄まじい速度で変化し続ける近年のビジネスでは、その環境に適応するためには継続的に学習するしか選択肢はありません。
企業や組織としても、思考や行動をアップデートし続けなければ経営を続けることが難しくなっています。
AIや自動化ツールの普及により、人が行うべき業務が変わっていくことは避けられません。この現実に対処するために、ビジネスにおける学習の意義を再評価し、企業とビジネスパーソンが継続的な学習の仕組みとマインドを築いていく必要があります。
この新しい学習のマインドは、AIではカバーできない領域に焦点を当てます。具体的には、社員が自分の職場で感じることや価値観に注目し、問題提起する力が求められます。
AIは計算やスキルに優れているかもしれませんが、問題の本質を見つけ出す能力はまだ限られているのです。つまり、AIにできない問題発見と解決が、人間の役割となります。これがシングルループラーニングからダブルループラーニングへの移行です。
高度なアナリティクスツールを操る事は出来ても、越境的視点や別の視点を持たなければ、仮説と結果に変化がないことは少なくありません。デジタル技術の進化は非常に速いため、追いつくことも大切ですが、同時に、長期的な視野で問題を捉え、新しい視点や問いを生み出す学習が必要です。
多様な学習方法の活用
学習する際に重要なのが、1種類の学習方法に依存して学びを得ようとしないことです。1種類の学習方法だとどうしても学びの方向・質・量が限られてしまい、社員が効果的な成長を遂げることが難しくなります。
その点、複数の学習方法は多角度・広範囲に渡って学びをカバーできるため、社員がより効率的・効果的に成長できるメリットがあります。
実践とフィードバック
学習においては実践とフィードバックを行き来することが最も重要です。
実践が重要な理由は、学ぶこと自体を目的化せず、実務で活かせる本当の意味での成長や企業の利益を追及するためです。業務やプロジェクトといった実務に携わることで実感として理解を深め、さらに具体的な課題・問題と向き合い、解決に向かって取り組むことにより、実践的なスキル・思考を磨くことができます。
フィードバックが必要な理由は、フィードバックを受けた社員が冷静に現状や自身の能力を振り返り、成長と次の業務に活かすためにはどう行動すれば良いか、自身で判断する力を養うためです。適切なフィードバックを受けることにより、社員は業務に対する考え方・取り組み方を変えることができ、意欲や自発性を向上させながら業務に取り組めるようになります。
重要なことは、フィードバックには必ず否定的な要素が含まれることです。社員は、否定的なフィードバックにも感情を抑え、むしろ自己成長の機会と捉え意見を受け入れる姿勢が求められます。否定的なフィードバックは、自分を向上させるための貴重な手助けであり、自己啓発のきっかけです。
実践とフィードバックの繰り返しによって、社員は効果的かつ効率的に成長でき、企業としても大きな学習の成果を得ることができるでしょう。否定的なフィードバックは、個人と組織の双方にとって学びと成長のプロセスで不可欠な要素です。
学習することによる自己成長とキャリアの発展
ここまでの内容を振り返ると、学習とは自己成長を指しており、自己成長は人が変化していくことを指しています。つまり、「学習=変化」とも言い換えられ、学ぶことで人や組織の中に知識・スキルなどが積みあがっていくだけでなく、それらを用いた上で思考や行動面で何らかの変化が訪れるということです。
学習は一時的に導入して終わらせるものではなく、継続的にその都度必要な物事を学びながら変化をし続ける長期のプロセスでもあり、ビジネスにおいてはキャリアの発展にも大きく関わる部分です。持続的に変化をし続けることで学習した内容同士が繋がりを持ち、より深く広く自己成長を遂げることができるというのが学習の本質になります。
また、学習によって知識・能力・経験を獲得すると、学習していない人たちと感覚がズレることがあります。
これは学習の副作用でもありますが、学習によって能力を高めることで仕事などの成果が出やすくなる半面、学習していない人と思考・行動に違いが出てしまい、達観ゆえの認識の違いを感じることもあります。「住む世界が違う」といった言葉がありますが、学習で習得した知識・能力・経験などにより、仕事を含めた世界の見え方が変わってしまうのが要因です。
しかしこの状態は、自身が学習によって変化、つまり自己成長している証でもあるため、ビジネスパーソンとして次のレベルに到達したものと考え、仕事への向き合い方に活かすと良いでしょう。
自分が変化したことを、学習として成果として喜ぶべきですが、その結果として、周囲との間に距離ができることは、ある意味の残念な事ではあります。その時、単に周囲を軽蔑したり見下すのではなく、むしろ「学習すれば、これほどまでに価値観もスキルも変わるんだ」という事を伝えていく努力をすることで組織の底上げに貢献できます。
それでも周囲が無反応だったり、無関心なままであれば、もうできることはありません。しかし、距離ができても共に職場で働く同僚であることに違いはないため、最低限の配慮は必要です。
まとめ
ビジネスにおける学習は、自身で業務上の課題・問題を見つけたり、業務を振り返ったりすることで現状を理解し、修正しながら次の業務に活かすのが基本的なサイクルです。学習には、実践・フィードバック・振り返りが重要であり、座学や言葉による指導だけでは有効な効果を発揮することが難しいことを認識する必要があります。
ビジネスの現場は急速なDX化が進んでおり、ビジネスパーソンは学習によって新たなスキル・知識・思考を獲得しなければ、生き残ることが難しい時代です。多様な学習方法を上手く取り入れ、多角度・広範囲に学習領域をカバーし、社員の成長と企業の発展を目指して継続的に取り組んでいきましょう。
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株式会社ソフィア
先生
ソフィアさん
人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
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