自己肯定感とは?ビジネスに与える影響や高める方法について解説

「自己肯定感」とは、ありのままの自分をポジティブに受け入れられる感覚を意味します。しかし、自分が自己肯定感を高く持っているのか、そもそも自己肯定感が高いとどうなるのか、なんとなく言葉は知っていてもわからない方も多いでしょう。

本記事では、自己肯定感がビジネスに与える影響や、自己肯定感を高めるための方法などについて詳しく解説します。

自己肯定感とは

自己肯定感とは、「ありのままの自分」という存在を、ポジティブに受け入れられる感覚のことです。高い自己肯定感を持っていると、自分に自信がつくことで能動的になれたり、積極的に挑戦できたりするようになります。また、ユーモアを持てたり、相手の気持ちを思いやって柔軟に行動できるようにもなります。物事をスムーズに、よりよく運びたいという場合にぜひ手に入れたい感覚です。

自己肯定感という概念の根底にあるのは、アメリカの心理学者、ウィリアム・シュッツの主張です。彼は、以下の3つの基本要素を挙げながら、自尊感情にアプローチしています。

・自己重要感
自分も他者(周囲)からも、重要で尊重だと認識している感覚

・自己有能感
自分も他者(周囲)からも、有能や優秀だと認識している感覚

・自己好感
自分も他者(周囲)からも、好意な感情を持っていると認識している感覚

この3つの角度から、あらゆる行動に向かう原動力を手に入れられるのが、自己肯定感です。自分自身を自分だけが高く評価している場合も自己肯定感と呼びますが、できれば自己を高く評価し、かつ他者からの評価も高いことが、自己肯定感を高めます。独りよがりにならずに、周囲からの評価も踏まえてジャッジできるのが理想です。

周囲の評価はいいものとそうではないものがあり、自分と他者(周囲)との自己の認識ギャップが大きい場合(評価が高くない)は、自己を防衛する反応として表情や行動にあらわれるとウィルシュッツは言っています。それは、「顔のこわばり」「一方的にまくしたてる」「急に顔が赤くなる」「目が泳ぐなど」、さまざまな不自然な違和感を、身体的に表出し、このサインを「防衛のサイン」と言いました。

この不自然な違和感のある身体的な行動や言動が、自己と他者の重要感、有能感、好感に対してギャップを感じるとあらわれるサインだと説明しています。また、自己肯定感は、客観的な視点ではなく、すべて主観的な認識となります。他者や周囲がいくら褒めたり、賞賛するなどのフィードバックをしても、主観的に、好意的に受け入れていない場合は、自己肯定感はギャップは埋まりません。この自己肯定感は、根底には、フロイトのいう無意識の抑圧された記憶であるトラウマが関係していると言われています。

自己肯定感が高いと、仕事をするうえで誰から見ても信頼に値する行動をとることができ、その結果仕事がうまくいきやすくなります。ビジネスで成果を上げたり、職場で積極的に活動したいと思っているなら、自分と他人や周りとの違いに気づき、それを埋めることが重要です。そうすることで、周りに正確で相互に影響を与える力を持ち、チームワークやコミュニケーション能力が向上します。このようなリーダーシップを発揮することは、自分自身の本質的なリーダーシップを示し、他人との良好な関係を築くことにもつながります。自己肯定感を高めることは、周りや他人に対してもリーダーシップを発揮し、良好な関係を築く助けになります。

自己肯定感と自己効力感の違い

自己肯定感とよく似た言葉に「自己効力感」というものがあります。

自己効力感と自己肯定感は、両方とも自己認識に関わるものですが、違いがあります。自己効力感は、自分の外側にある課題や目標に対して、自分が変化し進歩していくという考え方です。つまり、現在から未来に向かって前進する自己認識に焦点が置かれます。

一方、自己肯定感は、自分の内側に焦点を当てます。過去の経験や体験を振り返り、自分がそれをどのように解釈し、認識しているかを考えます。言い換えれば、過去から現在に向かって自分と向き合う考え方だと言えます。

比較するとすれば、自己効力感は現在から未来に向かう自己認識であり、自己肯定感は過去から現在に至る自己認識ということになります。

自己肯定感が高い人・低い人の違い

自己肯定感が高い、もしくは低いと、行動や感情にはどのような違いが出てくるのでしょうか。

一般的に、自分を尊重する気持ちが大きいと、自分の行動に概ね満足できるようになります。もし、単に自分を尊重するだけで他人への配慮が足りないという場合には、ナルシストに寄ってしまうことがありますが、自分も他人も尊重できるようになれば高いセルフエスティーム(自己肯定感)を持てるでしょう。

セルフエスティーム(自己肯定感)は自分自身に対してどれだけの価値や自己肯定感を持っているかを示す概念であると同時に自分が他者からどのような認識をされているかという点に焦点がしぼられます。たとえば、有能だと思われているか?、好感を持たれているか?どのように捉えられているのか?という他者の認識と強く関連しています。自己肯定感は、自分が自分をどう認識しているか?という視点だけではなく、自分が他者からどう認識されているか?という他者の視点も含まれています。

つまり、セルフエスティームが高いという状態は、主観的に、自分自身と他者及び周囲のとの認識の差がない状況です。言い換えれば、主観的な自分を有能で重要な存在だと思っていても、自分は他者や周囲から有能で重要な存在だと思っていないという認識になっていれば、実は自己肯定感は高いと言えません。この逆もそうです。

あくまでも、自己肯定感は主観的な認識です。主観的な自己の認識と主観的な他者の自分に対する認識のバランスがうまく取れている人が自己肯定感を高めます。

自己肯定感が高い人は、他人とのコミュニケーションやチームワークでごく自然に振る舞っています。当たり前のようですがそれは、お互いの理解が十分であり、認識の違いがない状況であるため、彼らは普段通りに自分らしくいられます。

逆に、セルフエスティームが低い場合、「顔のこわばり」「必要以上に喋る」など自己防衛という違和感や不自然な行動があらわれます。これは、自分自身が、自分と他者に大きな差異を感じていると認識しているときに見られる傾向です。

対象を変えて、自分を尊重する気持ちが高く、他人への認識が低い場合は、他人への配慮が足りず傲慢になるケースが少なくありません。

「マウントを取られていると感じる」や「上から目線」は、言動や内容ではなく、発信の他者に対する認識がずれているため、そう感じさせてしまうという結果を生みます。

上記の前提を踏まえつつ、以下では、「自己肯定感が高い人」「自己肯定感が低い人」に分け、それぞれの行動レベルの詳しい内容を整理していきます。

自己肯定感が高い人の特徴

まずは、自己肯定感が高い人の特徴です。

➀自分・他者・物事を肯定的に捉える

自己肯定感が高いと、ありのままの自分をスムーズに受け入れることができます。自分とは異なる意見や価値観を目の当たりにしても、脅威に感じることなくありのままを認識することができるので、他人を受け入れるのもそつなくこなします。

また、もし自分に苦手なことがあっても、人には得意も不得意もあるのだから当然と思うようになります。すると、相手になにか不得手なことがあっても、それを当たり前のこととして許せるようになります。

この自己肯定感の「肯定」は、ポジティブやネガティブという優劣を規定する意味ではなく、自己や他者を“ありのままに引き受ける”という意味の肯定にあります。言い換えれば、受容するということです。したがって、自分や他者の、長所も短所も含めて、引き受けていくことで、認識を相互に捉えていくということです。

価値観の多様性や専門性、スキルの違いがあるチームワークや共同が必要なビジネス環境において、 “ありのままに引き受ける”という自己肯定感が重要な要素であることは間違いないでしょう。

➁失敗を恐れずチャレンジする

自己肯定感が高まっていると、失敗をしたときに、自分を必要以上に責めたり、消極的になってしまうことはありません。失敗や困難も、プラスのエネルギーに変えようとするため、「失敗イコール自分がだめ」だ、と落ち込む思考回路がないのです。実際に、糧にしたら、自分なら今度はきっとできるからと、また前向きにチャレンジします。失敗を引きずらずに動けるので、長期的に見て成長できる可能性が高くなります。

つまり、失敗や成功という、優位や劣位で物事を捉えず、バイアスなく起きた事象を捉えることができるため、失敗や成功の定義自体にあまり固執しないという意識になります。

③良好な人間関係を築ける

自己肯定感は、他者への想像力も育てます。「自分と同じように他者もかけがえのない存在である」ことがわかるので、相手に寄り添い、優しく振る舞うことができます。その結果、良好な人間関係を多く築くことができるのです。

私たちは、誰もが、万能ではなく、標準ではなく、個性があります。差があるわけです。多様性とは、この差異をうまく付き合っていきましょうということです。私たちは、ビジネスや社会生活において、強みを持っていますが、大概の場合はその強みが原因で失敗することが多く、強みと弱みは表裏一体であることに気づいている人は多いのではないでしょうか。

部下を鼓舞し、チームをリードすることに強みを持っている人は、独善的な行動で失敗します。しかし、そもそも、チームをリードし部下を鼓舞することが弱みの人は、独善的な行動をとることもないので独善的な行動で失敗することはありません。お酒が嫌いな人がお酒で失敗しないのと同じことです。

職場やチームに対して、自己肯定感が低い状態で、「自分はどう見られているのか?」ということに気を揉むような状況の社員よりは、職場やチームに対して、信頼されている・重要だと思われているという認識であり、自分もそうありたいという自己肯定感が高い状態が多い方が、職場の人間関係は良好なことは明らかです。

自己肯定感が低い人の特徴

一方で、自己肯定感が低い人は、どのような特徴を持っているでしょうか。

➀承認欲求が強い

自己肯定感が低いと、自分で自分を受け入れることができないため、他者からどう評価されているのかが気になってしまいます。自分の意思で決断する局面でも、自分がどう思うかより、他者から否定されないかどうかを基準にしてしまうことがあります。周囲から承認されたいという気持ちが強く出てしまい、自分を頼れなくなるのです。

簡単に言えば、主観的な自己認識は“有能で重要な存在”と思っているのに対し、他者や周囲に対しては“無能で無用な存在”と思っているため、「もっと褒めてほしい」、「もっと自分を正しく認識してほしい」と渇望がうまれるという構造です。

➁物事を否定的に捉える

自分自身を信じられていないので、何をするときも「どうせ自分にはできない」と思ってしまいます。物事を否定的に捉える癖ができると、自分が何か成果を出したときにも、それが自分の力によるものだとは認められなくなります。そして負のループに陥ってしまうのです。

これは、一時的に否定的に捉えている場合と、トラウマ的に捉えるバイアスがそこにある場合があります。セルフエスティームは主観的な自己認識の中での、自己と他者(周囲)との差異が大きい場合において低くなり、差異が小さいと高くなります。職場やチームの人間関係は、日々の業務遂行や組織的評価、社会や家庭など変化によって、刻々と変化します。したがって、常に一定の差異がそこにあるわけではありません。

つまり、誰でも、自己肯定感は高低があるものです。しかし、自分の過去の強い成功体験や失敗体験がトラウマとして、無意識にある場合は、そのバイアスが、連続して価値観やモノの見方に影響を与え、ある特定の事象や人間に対して、否定的に捉える場合もあります。

たとえば社内や職場で、社内的に評価されている人や上位職にある人は、時に自分の成功体験や価値観を基に、部下や経験の浅い社員を評価したりフィードバックしたりします。これは、生存者バイアスと呼ばれる傾向に似ています。

しかし、自分の過去を振り返り、新たな解釈を見つける対話を行うことで、このバイアスを軽減することができます。

③劣等感を抱きやすい

自己肯定感が低い人は、他者と比べてしまう悪い癖が染み込んでいます。周囲ができていることが自分にはできないという場合に、特に劣等感を抱いてしまうでしょう。本来持っているはずの自分の可能性を引き出すことをせずに塞ぎ込んでしまい、成長の妨げになってしまいます。

劣等感を抱きやすいというのは、劣等であると認識した方が楽で心地良いからです。客観的にも相対的にも高い成果や評価を獲得しても、逆に、大失敗や不評を受けても、ありのままに受け入れることは、どちらも自分の認識を変えることに他なりません。

人間は認識を変えることに少なからず抵抗があり、状況が変わらない方が楽で心地よいのです。これは人間の性質であり、ありのままを受け入れることは簡単ではないため、自己防衛から初めから劣等であると認識してしまうのです。

④レッテルと自己正当化

人間は、他者や周囲を差異なく把握しないと自分の中で違和感を覚えます。

そのため、自分の理解の範囲内で相手を認識しようとします。これは、単純に言えば、レッテルを貼ることです。これは、相手を理解できないから自分の違和感を解消し、自分自身を正当化するために相手を定義する行為です。

自己肯定感が低い人や状況では、レッテルを貼ることで自己を守ろうとします。しかし、これは他者に対する理解不足から生じるものであり、結果的には自己肯定感を低下させることにつながります。

ビジネスにおいて自己肯定感が与える影響

自己肯定感は、ビジネスシーンにおいても重要なものです。たとえば、自己肯定感が高い人がプロジェクトのリーダーをした場合は、どんな出来事もありのまま、肯定的に捉えながら、部下などを巻き込んでチームを一致団結させることができるでしょう。一方で自己肯定感が弱い人がリーダーになった場合は、「どうせ自分にはできない」と落ち込み、「自分はチームメンバーにどう思われているのだろう」と気にしすぎるあまり、少しのトラブルにもびくびくしたり、恐怖を感じやすくなります。本来うまくいったかもしれないプロジェクトも、これでは頓挫してしまいます。

ビジネスでは主に、積極的に判断し、エネルギッシュに物事を先に進めていく必要があります。このような場合は、自己肯定感が高い人の方が活躍できる可能性が広がるのです。

自己肯定感を高めるためには?具体的な方法を紹介

自己肯定感を手に入れたいという場合に、意識的に取り組むべきことはあるのでしょうか。以下では、自己肯定感を高めるための具体的な方法をご紹介していきます。

胸襟を開いた自己の紹介の場

自己紹介などは誰でもできると感じるかもしれませんが、職場やビジネスの会議ではタスクや目標が主題となり、個人的な人となりを知る機会は限られています。実際、組織内の個人と家庭内の個人は異なり、私たちはある意味で仮面をかぶっています。

自己肯定感を高めるには、自分の認識や価値観を表出することが重要です。相手や周囲も同様に表出することで、相互理解が生まれます。しかし、否定や拒否の可能性があることを恐れるため、すべてを明かすことは現実的ではありません。

一つの方法として、社会人や大学時代からの経験や出来事を共有することが挙げられます。自分の印象深い成功や失敗、その出来事への解釈や現在の影響を共有することで、チームメンバーとの相互理解が深まります。

ただし、職場の人間関係が崩れている場合は、逆効果になる可能性もあるため、専門家やファシリテーターを活用することが重要です。

言葉や言語ではなく、非言語や背景に着目したコミュニケーションをとる

ビジネスの情報伝達において、言語や数字は重要ですが、自己肯定感を高めるコミュニケーションにおいては言葉や数字のほかに非言語のサインに注意しましょう。自己肯定感が低い状況には、必ず人間は、自己防衛的な違和感のある行動や表情が現れます。つまり、言語や数字よりは、確認することはできない非言語的コミュニケーションの中に、自己防衛のサインが表出します。

自己肯定感を高めるためには、言葉だけでなく非言語的なサインも重要です。たとえば、「おはよう」という挨拶に対する相手の表情や目線から、違和感や意図を読み取ることができます。これはコミュニケーションにおいて非常に重要な役割を果たし、言葉以上に情報を伝えます。

私たちは、非言語的なサインからくる違和感や不自然さを重視することが理解されているにも関わらず、言葉や行動を主に考えがちです。しかし、この小さな誤解が相互にレッテルを貼り合い、自己肯定感を下げる原因になることもあります。

したがって、コミュニケーションにおいては、言葉だけでなく非言語的なサインにも注意を払い、相手の意図や背景を理解しようと努めることが重要です。このような対話やディスカッションを通じて、相互理解を深めていきましょう。

多様性を維持できる規範と関係の構築

自己肯定感とは、自分や他者をありのまま受け入れることを意味します。自分の強みや弱みを認め、他のメンバーも同様に万能ではないことを理解し、柔軟性を持ってチームで協力することが重要です。

職場やチームでは、人間関係のトラブルが起こることがありますが、それを優劣や善悪で判断するのではなく、メンバー同士が立体的に理解し合い、コミュニケーションを通じて解決することが大切です。

これにより、チーム内での規範が生まれ、柔軟性とレジリエンス(回復力)が養われます。緊急時でも対処でき、役割や指示が明確でなくても、メンバー同士が問題を共有し合い、柔軟に役割を変えながら活動できるチームワークが生まれます。

チームリーダーやプロジェクトマネージャーは、問題解決にあたって小さなトラブルを処理的に扱うのではなく、対話を通じて解決することで、効率的なチーム運営が可能になります。

特に、価値観やスキルの違いがある環境では、コラボレーションの意図があってもコンフリクトが起こることがあります。しかし、微妙なニュアンスを見逃さずにコミュニケーションをすることで、相互理解が深まり、各メンバーの自己肯定感が高まり、チームワークとコラボレーションが促進されます。

まとめ

自己肯定感とは、「ありのままの自分」という存在を、ポジティブに受け入れられる感覚のことです。自己肯定感を高めることで自分に自信がつき、行動的になれたり、積極的に挑戦できたりするようになります。また、ユーモアを持てたり、相手の気持ちを思いやって柔軟に行動できるようにもなります。

自己肯定感は、ビジネスシーンにおいても重要なものです。自己肯定感が高いと、どんなことでも肯定的に捉えながら、部下などを巻き込んでチームメンバーとして一致団結できるでしょう。自己肯定感を高めたい方は、本記事で紹介した方法を取り入れ、自己肯定感を育んでみてください。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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