​​Googleによって広まった心理的安全性とは?取り組みやプロジェクト・アリストテレスについて解説​

ビジネスシーンで「心理的安全性」という言葉がよく聞かれるようになりました。これは、Googleによって広まった表現だとされています。「心理的安全性」とは、組織やチームにおいてメンバーが自由に意見を述べることができ、失敗やリスクを恐れずに新しいアイデアを出し合う文化を指します。

この概念は、チームの定義や取り組み、そしてプロジェクト・アリストテレスなどの概念と深く関連しています。この記事では、心理的安全性の言葉の定義から、プロジェクト・アリストテレスの具体的な取り組みについてまで、詳しく解説していきます。

心理的安全性とは

心理的安全性とは、英語では「Psychological safety」と表現されるもので、特定のチーム内で人が安全を感じていられる性質を指します。安心感を持ちながらその組織に所属していられる状態です。この心理的安全性という概念を初めて提唱したのは、ハーバード大学で組織行動学を研究しているエイミー・エドモンドソン氏だといわれています。その後、Googleの実験によって注目を浴びました。心理的安全性が高いことは、ビジネスをスムーズに進める上で必要なことであるとされています。

現代のビジネスは第4次産業へ移行する中で、人的資本の価値が高まり、人間関係や多様性が重要な課題となっています。これらの問題は見えにくく、個人差もあるため対処が難しいですが、社会の傾向やメンタル面の保護からも無視できない問題となっており、心理的安全性は、職場が安全であると認識できることを意味し、投資が増える人的資本にとって重要です。感情に基づく攻撃や葛藤を避け、心理的な危険性を排除することが必要です。

ハラスメントや過労からのメンタル疾患、コミュニケーションの問題やミスのリスクなど、心理的安全性が損なわれると企業にも損失が生じてしまうため、心理的安全性を高めるためには、トラブルが起きた際に話し合いの場を設け、社内規範を改善する努力が必要となります。

心理的安全性の歴史

カール・ロジャース氏は1950年代に「ロジャーズの3原則」として、「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」という考えを提唱しました。このうち2番目の「無条件の肯定的関心」は、相手の話を偏見や判断を排除して価値あるものとして受け入れることを意味します。同じく、心理学教授であるヒューバート・ボナー氏は、心理的安全性を「人間の安全」という文脈で説明しています。安心感を得るためには、生理的欲求や安全欲求だけでなく、信念を持つことが必要であり、その信念は心理的安全性を保護するために重要です。

さらに、1990年代にはウィリアム・カーン氏が心理的安全性について研究し、「心理的安全性があると人は自己を採用・表現できる」と指摘しています。ウィリアム・カーン氏が行った心理的安全性に関する研究は、人々が自己を自由に表現し、能動的に問題や課題を指摘できる組織を作るための重要な手掛かりとなりました。特に、90年代当時の人々が抱いていた安全性への意識や、製造現場におけるトヨタ生産方式(TPS)のような先進的な管理手法は、心理的安全性の考え方と一致しています。

現在の産業構造における心理的安全性は、製造工程のように明確なプロセスが存在しないため、人と人が議論しアイデアを生み出す人間の領域で重要視されています。本音や率直な議論や主張を促進する規範を確立することは容易ではなく、マニュアルやガイドラインには明確に記述しづらい面があります。

さらに、個々の多様性を活かし、創造的なアイデアを生み出し、価値を創造するためには、「何が必要なのか?」を考える際に心理的安全性が重要な解決策となるでしょう

そもそもGoogle が定義した「チーム」とは?

このようにさまざまなシーンでその重要性が指摘されてきた心理的安全性という言葉ですが、世間に大きく認知されここまで広がるようになったきっかけはGoogleであるといえます。以下では、Googleが心理的安全性を軸にどのようなチームを作っているのかを紹介します。

「チーム」の定義

Googleでは、チームの他にワークグループという概念も持ち出しながら、チームというものについて以下のように定義しています。

  • ワークグループ:相互依存性が最小限という特徴があり、組織または管理上の階層関係に基づいている。
  • チーム:メンバーは相互に強く依存しながら、特定のプロジェクトを遂行するために作業内容を計画し、問題を解決し、意思決定を下し、進捗状況を確認する。チームのメンバーは作業を行うために互いを必要とする。

以上より、チームをチームたらしめるポイントは、相互に依存しながら共に手を組んでプロジェクトを遂行している点であるということが分かります。

Googleにおけるチームには人間関係の中に危険が潜んでいる

Googleにおけるチームは、物を製造するチームではありません。そのためGoogleのチームの場合、人間関係やハラスメント、所属メンバーの精神的危機などが、具体的な危険として想定されます。心理的安全性の欠如によってハラスメントやワーカーホリックによるうつ病などの心の健康問題、適切なコミュニケーションの妨げ、精神的なプレッシャーによるミスなど、間接的な損失やリスクが生じることもあります

現代の産業では、明確なプロセスがないため、心理的安全性を育むことは難しいですが、多様性を尊重し、創造的なアイデアを生み出していくためには重要なこととなります。人間関係におけるトラブルが起きた場合は、話し合いの場を設けて社内規範を改善し、心理的安全性を向上させる努力が必要となってきます。

効果的なチームとは

話を進める前に、Googleがどのようなチームを理想としているのかを見ておきましょう。Googleでは、チームの効果を測定する際の最も重要な指標を次のように掲げています。

まず大事なのは、売上高や新しく立ち上げたサービス内容などの「結果」です。続いて、培ってきたチームの雰囲気や決まり事のような「チーム内の文化と風土」。そして、真に重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」だとしています。これらの尺度に基づいて、マネージャーとチームリーダー、チームメンバーそれぞれにおいて、評価の指標や尺度を変えています。

  • マネージャー:数字などの結果で評価
  • チームリーダー:ビジョンや当事者意識で評価
  • メンバー:風土と文化で評価

立場によって細分化することで、それぞれのメンバーが気にするべきところが見えてきます。

Googleが行った「プロジェクト・アリストテレス」とは

「プロジェクト・アリストテレス」は、Googleの人員分析部によって実施された研究です。Google社内にある数百におよぶチームの中から、生産性の高いチームを取り上げて、その実情を整理するというものが目的でした。ひとつの会社の従業員であるのになぜ生産性に差が生じているのか、あらゆる角度や階層で分析しています。そして、生産性が高い状態を実現するにはどのようにすればいいのか、働き方を提案することが目的になっています。

チームの効果性を測る4つの観点

Googleのリサーチチームは、チームを評価する軸として、その効果性を以下の4つの観点で計測しました。

  1. マネージャーによるチームの評価
  2. チームリーダーによるチームの評価
  3. チームメンバーによるチームの評価
  4. 四半期ごとの売上ノルマに対する成績

チームに必要なものを見極める5つの調査項目

Googleは、チームの効果性の向上に関する5つの柱として、以下の項目を導き出しています。実際に調査には、ここに記すような設問が含まれていました。

  • 心理的安全性:「チームの中でミスをしても、それを理由に非難されることはない」と思えるか。
  • 相互信頼:「チームメンバーは、一度引き受けた仕事は最後までやりきってくれる」と思えるか。
  • 構造と明確さ:「チームには、有効な意思決定プロセスがある」と思えるか。
  • 仕事の意味:「チームのためにしている仕事は、自分自身にとっても意義がある」と思えるか。
  • インパクト:「チームの成果が組織の目標達成にどう貢献するかを理解している」か。

【Googleの結論】チームにおいて重要は心理的安全性

「プロジェクト・アリストテレス」の調査の結果、生産性が高いチームは心理的安全性が高いという傾向が導き出されました。4年をかけて実施した社内調査の結果ということで、世間の注目を集め、心理的安全性の重要性がビジネスの世界で広く知られることとなりました。

心理的安全性の高いチームに所属しているメンバーは、Google からの離職率が低いという傾向や、他メンバーのアイデアを活用できるという傾向が出ています。また、チームとしての収益性が高く、マネージャーから「効果的に働く」と評価されている機会が2倍も多いということもわかっています

心理的安全性が高い場合・低い場合の特徴

Googleが実証した心理的安全性の重要性は、他の企業でも言えることだと考えられます。心理的安全性が高い場合、低い場合、それぞれの特徴を押さえながら、自社の特徴を振り返ってみてください。

心理的安全性が高い職場の特徴

心理的安全性が高い環境では、メンバーはお互いを尊重し、オープンなコミュニケーションが行われます。些細なことでも気軽に相談できる雰囲気があり、誰もが自分の意見や考えを自由に表明できます。このため、意見を出し合う際に恐れや緊張を感じることが少なく、メンバーは率直にアイデアを提案し合うことができるでしょう。

また、心理的安全性の高いチームでは、失敗や間違いを恐れることなく、チャレンジ精神が促進されます。メンバーは失敗を恐れずに新しいアイデアを試すことができ、それが成長や学びの機会として捉えられます。このような環境では、チーム全体が柔軟性を持ち、イノベーションや改善に積極的に取り組むことができます。

そのため、心理的安全性が高い環境では、メンバー同士の信頼関係が築かれ、コミュニケーションが円滑に行われるため、チーム全体のパフォーマンスや結果にポジティブな影響を与えることができます

心理的安全性が低い職場の特徴

心理的安全性が低い職場では、社員がアイデアや意見を出しにくい環境が広がっています。このような職場の特徴は、まずコミュニケーションの不足が挙げられます。上司や同僚とのコミュニケーションが十分でないため、社員は自分の考えを表明することを避けやすく、提案や意見をした際に否定的な反応や批判も受けがちです。

これが社員のモチベーションを低下させる要因となり、失敗やミスに対する厳しい対応が行われるため、社員は新しいアイデアや取り組みを試みることをためらうようになります。このような状況下では、社員の自律性や創造性が抑制され、生産性も低下する傾向があります

心理的安全性における不安の原因はコミュニケーションの不足

心理的安全性を高めるにはどのようにすればいいのでしょうか。その鍵となるのは、コミュニケーションです。コミュニケーション不足が常態化していると、活発な議論をする環境がなくなっていきます。発言に際してのハードルが上がり、行動を起こすことへの不安感が増していきます。これが心理的安全性の低下を招き、さらに意見や行動を表に出せなくなるという悪循環に陥りかねません。企業は、心理的安全性を高めるために社内コミュニケーションの活性化をすることが必要です

また、心理的安全性においてコミュニケーションによる「情報の透明性」も重要です。職場やチームの大きさやメンバーの地位や雇用形態の違いなどによって、情報がうまく共有されないことがありますが、特に情報を秘匿しやすい職場やチームのリーダーによって情報の共有が不十分であると、上層部で何が決まっているか社員に伝わらず、説明もされない状態が心理的安全性を損なうことにつながります

逆に情報の透明性が確保されると、チームや組織内の心理的安全性が高まります。これは、社員が不安や心配を感じることなく意見を述べることができる環境を作り出すからです。このような環境では、さまざまな情報やアイデアが自由に共有され、チーム全体での知識や洞察が増えます。情報の透明化や可視化は、生産性の向上やミス・トラブルの予防にも役立ちます。さらに、個々の社員が成長する機会も増えるでしょう。

Googleによる心理的安全性を高める取り組み

心理的安全性を高めるためには、深いコミュニケーションを通して、相互理解を深めることが重要です。たとえばGoogleでは、1on1ミーティングを活用して信頼関係を作っています。頻度は2週間に1回で、目標やアクションなどの情報を共有し、キャリア開発やコーチングを行ったり、目標を達成するために助けられることがないかを話し合ったりします。

また、休暇の予定や働き方に関するフィードバックなどの細かい相談も行なっています。定期的に話を聞いてもらえる時間を設けるだけでも、組織における心理的安全性は高まっていくものです。

まとめ

ビジネスシーンでよく聞かれる「心理的安全性」という言葉は、Googleによって広まった表現だとされています。心理的安全性が高いチームは、意見をむやみに否定することがなく、失敗をしても責められることがありません。恐れずにアイデアを口にしたり、チャレンジしたりできるのです。

これにより、革新的なアイデアが生まれたり、生産性が向上したりという効果が期待できます。心理的安全性が高い状態を作るためには、コミュニケーションをしっかりとることが重要です。定期的なミーティングを設けるなどの仕組みを作り、お互いを尊重し、助け合える土壌を整えていきましょう。

​​Googleによって広まった心理的安全性についてよくある質問
  • 心理的安全性はGoogleがいつ提唱したのですか?
  • 心理的安全性の概念自体は、Googleが提唱したものではありません。

    心理的安全性の概念は、1999年にハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授によって提唱されました。エドモンドソン教授は、組織における学習と革新の過程で、心理的安全性が重要な役割を果たすと考え、この概念を提唱しました。

    Googleが注目を集めた理由

    Googleが心理的安全性の概念を広く世に知らしめたのは、社内の様々なチームを分析し、高いパフォーマンスを発揮するチームの共通点を探る「プロジェクト・アリストテレス」という大規模な研究を実施したからです。この研究で、心理的安全性がチームのパフォーマンスに最も大きな影響を与えるという結果が出たことで、心理的安全性の重要性が改めて注目されるようになりました。

  • エドモンドソンの「4つの心理的安全性を損なう要因と特徴?
  • 1. 無知だと思われる不安 (Ignorant)
    特徴: 「こんなことも知らないのか」と評価されることを恐れ、質問や意見を躊躇してしまう。
    行動: 疑問点があっても質問せず、誤解のまま作業を進める。
    結果: 情報の共有不足によるミスや、チーム全体の効率低下につながる。
    2. 無能だと思われる不安 (Incompetent)
    特徴: 「自分は能力がない」と評価されることを恐れ、新しいことに挑戦したり、責任ある仕事を請け負ったりすることを避ける。
    行動: 安全な範囲の仕事しか行わず、成長の機会を逃す。
    結果: 組織全体の成長が鈍化し、イノベーションが生まれにくい環境となる。
    3. 邪魔をしていると思われる不安 (Intrusive)
    特徴: 「自分の発言が議論を妨げている」と感じ、積極的に意見を言わなくなる。
    行動: 会議などで発言を控え、自分の意見を押し殺す。
    結果: 多様な意見が出にくい環境となり、より良いアイデアが生まれにくくなる。
    4. ネガティブだと思われる不安 (Negative)
    特徴: 「否定的な意見を持っている」と評価されることを恐れ、問題点やリスクを指摘しにくくなる。
    行動: 問題点を指摘せず、現状に甘んじてしまう。
    結果: 問題が放置され、大きなトラブルに発展する可能性がある。
    これらの不安が生まれる原因
    これらの不安は、組織の文化やリーダーの行動、過去の経験など、様々な要因によって引き起こされます。例えば、

    失敗が許されない雰囲気: ミスを恐れて、新しいことに挑戦しづらくなる。
    上下関係が厳しく、意見を言いづらい雰囲気: 上司の意見に異を唱えられずに、自分の意見を言えない。
    過去の失敗体験: 過去の失敗経験から、新しいことに挑戦することを恐れる。

  • 心理的安全性の5つの要素は?
  • 心理的安全性を構成する要素として、様々な研究やモデルが提唱されていますが、一般的に「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」「多様性」の5つの因子に分類されることが多いです。

    話しやすさ:
    意見やアイデアを自由に発言できる雰囲気があるか。
    異なる意見を持つ人とも建設的な対話ができるか。
    ミスや失敗を恐れることなく、率直に意見を交換できるか。
    助け合い:
    同僚からサポートや助けを得られると感じるか。
    困ったときに相談できる相手がいるか。
    チームメンバーが互いを信頼し、協力し合えるか。
    挑戦:
    新しいアイデアや取り組みを提案できるか。
    失敗を恐れずに、新しいことに挑戦できるか。
    革新的なアイデアが評価されるか。
    新奇歓迎:
    異なった視点や考え方を受け入れることができるか。
    多様な意見やアイデアを尊重できるか。
    変化を恐れずに、新しいことに取り組めるか。
    多様性:
    異なる背景を持つ人々が尊重され、活躍できるか。
    多様な意見や視点が組織に活かされるか。
    包容性のある文化が醸成されているか。
    これらの因子がバランスよく存在することで、心理的安全性の高い組織が形成されます。心理的安全性の高い組織では、メンバーは安心して意見を交換し、新しいアイデアを生み出すことができ、組織全体の活性化につながります。

株式会社ソフィア

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ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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