使える社員アンケート調査の設問設計方法と具体的な手法について徹底解説します

社員アンケート調査は、組織の現状や社員の満足度を把握するための重要な手段として注目されています。調査設問の設計は、その効果を左右する重要なステップです。適切に設計された設問は的確な情報収集を可能とし、組織の課題や改善点を明らかにするのに役立ちますが、どのように設計すれば良いのか分からないとお悩みの方も多いでしょう。

本記事では、効果的に社員アンケート調査を実施するための設問設計について解説していきます。

社員アンケートとは

社内アンケートとは、従業員の意見や考えを集めるための手段の一つで、従業員の満足度や課題を把握し、組織内の改善点を見つけるのに役立ちます。
社内アンケートには様々な種類があり、定期的に行われる従業員満足度調査やプロジェクト進捗状況の確認のほか、従業員のモチベーションや会社に対する愛着心、忠誠心などを測定するためのワークエンゲージメントサーベイなどが挙げられます。

アンケートにまつわるよくある悩み

会社ではいくつもの調査がよく行われています。しかし、アンケート調査を行ってみても、結果からどう分析し、どういった施策につなげればいいかよく分からなくなっている会社をよく見かけます。
たとえば、集計した後で必死に理屈を考えても、そもそも必要な情報をとっておらず分析が出来なかったり、分析から出た結果が自分たちで施策を打てる範疇になかったりといったケースがあります。
この問題はなぜ発生してしまうのでしょうか。統計学的な知識が不足しているのでしょうか?

それも一因にはなりますが、もっと重要な問題が存在します。それはアンケートの本質をしっかり理解していないということです。
ここでいうアンケートの本質を理解するとは、アンケートがどのような目的で、どのような全体構成で、なにを測定したいのか、なにが分析できないのかを把握することです。
具体的には、エンゲージメントサーベイでいうエンゲージメントとは何かが説明できる、またはなぜこういった設問構成になっているのか把握していることなどを指します。
以下では、アンケートをよく把握しながら、作成していく手順を説明していきます。

アンケートの役割とは何か

社員アンケート調査は、同一の質問に対して社員が回答することによって、組織内の行動や感情を把握するための手段と言えます。
具体例としては、従業員満足度調査、エンゲージメントサーベイ、ストレスチェックなどがあります。
アンケートを設計する際に、まず考慮すべき点は、このアンケートがどのような目的で行われるのかということです。社員へのアンケート調査を実施する際には、自らが何を考慮し、それを明確に自覚する必要があります。

      1.現状把握:調査対象の現状を把握したい
      2.原因把握:調査対象がなぜそういった状態なのか、理由を知りたい
      3.改善施策:現状と原因を把握したので、改善する施策を打ちたい

アンケートの目的は1と2に該当しますが、その先にある改善施策にどうつなげていくかまで念頭に置きながら設問設計をしていくとよいでしょう。

アンケートだけが調査の手段ではない

アンケートは現状を把握するための有効な手段ですが、一部の要素を取り扱いにくい面もあります。
たとえば、組織が実施した施策については実際に関わった人でなければ把握が難しく、離職した従業員に関する詳細な情報については離職者自身からの調査を要するため、現在の従業員に直接尋ねることは困難です。
このような要素を分析する際には、アンケート調査だけでなく、関係各所へのヒアリングや過去のデータの再分析も行うと良いでしょう。
再分析に時間を割けない場合でも、アンケート結果を関係者と共有し、フィードバックを受けながら着実な分析につなげることが可能です。

アンケートの具体化_仮説の洗い出し

ここからは、どのように設問文作成していくのかについて踏み込んでいきます。

設問設計における仮説の必要性

目的として「社員のエンゲージメント」を把握したいと思ったとしましょう。

もしまったく仮説がない場合、これをそのまま社員に聞くことになります。つまり、「あなたのエンゲージメントはどの程度ですか」や「あなたのエンゲージメントに影響を与えるものは何ですか」といったことを、自由記述で聞くのみになってしまいます。
これでは、多くの社員は今一番関係があると思うものを話してくれるかもしれませんが、集計によって比較することが難しく、回答者から様々な場面を想定して回答してもらうことも困難になります。
具体的なエンゲージメント調査の例では、「仕事に対してやりがいを感じていますか?」や「会社のビジョンに共感していますか」、「上司とコミュニケーションを1週間で何回程度取りますか?」といったような項目があります。
このように聞くべき論点があるのではないかと先回りして仮説を立てることで、設問文という形でアンケート対象者から意見を引き出していく必要があるわけです。

仮説を出す

設問文は、問題点を具体的に質問に落とし込んだ仮説の一覧と考えてください。
調査はできるだけ具体的に仮説を立て、その仮説を質問に織り込んでいくことで、アンケート回答者にとっても理解しやすくなり、回答を引き出しやすくなります。
課題に対してのエピソードや気になる点についてブレインストーミングなどを活用し、多くの仮説を出していくことが第一のステップとなります。いかに分析が優れていても、仮説や視点が不明確であれば、十分な分析を行うことはできません。そのため、仮説を設定することは非常に重要なポイントとなります。

アンケートの具体化_設問の構成を考える

仮説を出していくうちに、本当にこの仮説で何か説明ができるのかと疑問が生じることもあるかと思います。そのような際には、今まで出した仮説はどのような構成になっているのかをチェックすると良いでしょう。

そのために、アンケートの設問を以下のように2つの観点をもとにアンケートを分析していきます。

      1.問題の構造
      2.関係者の構造
      3.アウトプットの構造

これは、調査対象である「問題」と、問題に影響を与える人間「関係者」という2つの観点に分解したものです。最終的にこの2つの観点を掛け合わせてみることで、設問構成に偏りや盲点がないかを確認することができます。

問題の構造_どう影響していくのか_問題の構造化とは

ここでは、調査対象である「問題」を構造化するとはどのようなことなのか、どのようにするのかを説明していきます。

構造化をするにあたって重要なのは、問題とは何かという抽象度が高いものを改めて自分たちの言葉で言語化することです。
例えば「社員のエンゲージメント」について調査する場合では、エンゲージメントとは何なのかを定義することが該当します。これは多くのビジネス書や心理学でエンゲージメントなどについて様々な説があるように、万能な定義ができないケースがほとんどです。

方法

問題の構造化は難しい問題ですが、ここでは、トップダウン型の理論先行と、ボトムアップ型の設問案先行を紹介します。

理論先行型

これは、適した理論を先に設定し、設問に当てはめるものです。
専門家が作成するものを活用するケースが多く、理論がより汎用的で有効なことが多いため、構造化に対して一定の完成度が期待できます。
理論を正しく理解するためには、ただ権威に頼るのではなく、深い理解が求められます。集計を行った後に、思っていた以上に理論を理解できておらず、説明が困難になることもあるため、注意が必要です。


設問案先行型

自分たちで出した仮説をベースに、自分たちで構成していく方法です。
まず、アンケート設計において、先に仮説出しを行っているかと思いますが、この仮説をグループにカテゴリ分けを行います。30問程度の設問案であれば、1カテゴリ6問程度として、4~5カテゴリを目安に分類できると良いでしょう。
これらのカテゴリに名前を付けて、どのような関係性かを決定していきます。


関係者の構造_誰が影響をしているのか

ここでは、関係者の構造化とはどのようなことなのか、どのようにするのかを説明していきます。

目的

ここでいう関係者とは、アンケートの「問題」に対して影響を与える人全般を指します。
一例として、会社のエンゲージメント調査の場合では、ビジョンを提示する「社長」、日々コミュニケーションをとっている「上司」といった存在がいます。
これら「関係者」をカテゴリとして分類することで、「問題」のどの部分に対して誰が影響を与えているのかを認識することが可能になります。

方法

どのような分類がいいかは、問題の種類によって変わってくる部分がありますが、ここでは一般的に使いやすいものとして(経営層、職場、自分)という3つに分けて考える例を紹介していきます。

経営層

経営層とは、経営ビジョンや方針、制度、組織文化といった会社全般に影響するものを主に担当する人たちを指します。
エンゲージメント調査を例にすると、魅力的な経営ビジョンの浸透、社員の挑戦を受け入れる提案制度、他人を評価する組織文化の提示などが考えられます。

職場

職場とは、アンケート回答者がコミュニケーションをとる場のことを指します。ここでは、仕事上の指示や提案などの上下のコミュニケーション、雑談や協力などの横のコミュニケーション、さらには経営層のビジョンを実践しようとしているか、職場同士の連携などがあげられます。

エンゲージメント調査を例にすると、上司とのコミュニケーション頻度、職場でのコミュニケーションへのストレス、職場は自分の提案を真摯に聞いてくれるか、職場の心理的安全性などがあります。

自分

自分とは、アンケート回答者自身を指します。これは、自身のやりがいや不安といった感情、提案や学習といった行動の2つに分けられます。
エンゲージメント調査を例にすると、現在の職務にやりがいを感じているか、今年度上司に提案をどの程度したかなどがあります。

構成を確認する

前項により、問題と関係者、二つの構造を確認できたかと思います。
次の段階では、自分たちの設計した設問を一目で確認できる状態にしていきます。

ここでは、問題の構造を左に、関係者の構造を上に記入してあります。

上記のような表を作成した後は、設問案をこの表に貼り付けていきます。

関係者によって働きかけるのに得意な分野が異なるため、多い項目や空欄ができる項目もあるかと思いますが問題ありません。ここで重要なのは、設問構成や意図を理解できる形にし、現状把握ができるようになることです。空欄が入りそうな設問案は無いか、その設問案を入れる必要がないかを検討すると、設問構成に発生する検討漏れを防げます。

設問の調整

以上で構成は終わりましたが、ほかにもいくつか注意しなければならない点があります。この章では特に気を付けたほうがいい点をいくつか紹介します。

設問文をより具体的に

設問文は多くの人が読むことになるため、人によって解釈が異なる設問文になると予期しない回答のぶれを発生させます。極力人によって認識がぶれないように、具体的になるようにしましょう。

数値を高くしたいなどの理由から、平均点が高くなるように設問設計をしたい場合もあるかと思いますが、分析をしっかりする場合は避けたほうがいいでしょう。
アンケート結果を分析するときに、誰もが「とてもいい」といった一番いい回答をしていると、数値が悪くなっていくことは確認できるかもしれませんが、数値がよくなっていくことや、属性ごとに見た時に回答が上振れることが確認できません。

基準としては、アンケートの回答の平均値が、数値の中間値より少し大きい数値、例えば、1~5でのアンケートであれば、3.5程度を目安に作成すると良いでしょう。

まとめ

社員向けアンケート調査の設問構成の作成方法を詳細に確認していきました。

多くの場合、調査を実際に進めていく中で、設計者が何を考えたのかが失われてしまったり、そもそも設問を完成させたときにどういう構成になっているのか理解しきれなかったりする場合も少なくありません。アンケートを振り返ってブラッシュアップしていくためにも、設問構成がわかるようになるといいでしょう。

またこの後には分析、そして施策へとつながっていくことになります。分析は以上の構成を活かして行っていきますが、構成時には気が付かなかった発見が出てくることもしばしばあります。この発見をどうフィードバックして設問を改善していくのかも一つ運用していくうえでのポイントになっていきます。

アンケートをやりっぱなしにせず、なんとなく行わないように、仮説をもって調査を行っていきましょう。

株式会社ソフィア

データアナリスト

伊佐地 雄介

主にExcel等のOffice365製品を活用してデータの集計分析を行うほか、さまざまな業務をより効率的に作業できるような仕組みを構築し、他のメンバーが創造的な仕事ができるよう支援しています。

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