セールスイネーブルメントとは?成功への鍵を握る考え方と3つのポイント

セールスイネーブルメントは、営業チームのパフォーマンスを最大化し、顧客との効果的なコミュニケーションを支援するための手法です。本記事では、基本的な考え方や主な施策、施策を検討する上でのポイントに分けて解説します。

セールスイネーブルメントとは?

セールスイネーブルメント(Sales Enablement)は、営業チームに必要なツール、知識、プロセスを提供し、営業担当者のパフォーマンスを最大限に引き出すための近年注目されている取り組みです。
注目されている理由として、顧客の購買行動の変化、競争の激化、営業プロセスの複雑化、データ活用の重要性、営業担当者の育成や定着の必要性などが挙げられます。

現代の営業環境では、顧客は事前に多くの情報を得ているため、営業担当者はより価値の高い提案やパーソナライズされた対応が求められます。セールスイネーブルメントは、成約率を向上させるだけでなく顧客満足度や信頼関係の強化にもつながるため、重要視されています。

セールスイネーブルメントの重要性は今後も増していくと考えられており、営業活動の複雑化やデジタル化に対応し企業の競争力を高めるために、不可欠な要素となりつつあります。

セールスイネーブルメントの目的=セールスエクスペリエンスの向上

セールスイネーブルメントは「営業強化」と同義で使われることも多く、その目的は売り上げの向上です。新人早期育成プログラムをセールスイネーブルメントと呼んでいる企業もあれば、新人に限らず、プロダクトアウト型営業スタイルからソリューション型営業スタイルに変革するための取り組みをセールスイネーブルメントと呼んでいる企業もあります。

これらは、セールスイネーブルメントの企画側(何かを販売して利益を上げたい企業側の経営幹部や営業部門幹部)の見方ですが、セールスイネーブルメント施策を受ける側(営業担当社員)やその先の顧客の視点に立つと、セールスイネーブルメントの目的はセールスエクスペリエンスの向上であると言えます。

セールスエクスペリエンスとは?

セールスエクスペリエンスとは、大きく2つに分類することができます。
1つは、顧客のセールスエクスペリエンスです。これは顧客が購買プロセスを通じて得る体験価値を指します。優れたセールスエクスペリエンスを提供することで、顧客の満足度が向上し、購入や紹介につながる可能性が高まります。

もう1つは営業担当者のセールスエクスペリエンスです。これは営業担当者がセールス活動を通して得られる体験価値を指します。優れたセールスエクスペリエンスを提供することで、営業担当者の従業員満足度やエンゲージメントが向上し、継続して成果を上げていくモチベーションが高まります。

セールスイネーブルメントの主な施策

セールスイネーブルメントにはどのような施策があるのでしょうか。代表的なものをいくつか紹介します。

教育トレーニングの企画・実施

  • e-learningコンテンツの企画・作成
  • 対面研修の企画・実施
  • ウェビナーの企画・実施
  • OJT支援(OJTトレーナーの育成や補助コンテンツの提供)

これらの手法を用いて、新卒入社・中途入社者に向けて、顧客とのコミュニケーションの方法、商品やサービスの提案方法といった基本的な所作のトレーニングを行います。これにより、顧客が求めるニーズに合わせた情報提供ができるようにしていきます。
入社直後に行うだけではなく、定期的なトレーニングを通じて、市場の変化に迅速に対応し、顧客ニーズを先取りした提案をできるよう促します。

営業支援システム、ツールの導入と浸透

  • SFA(セールスフォース・オートメーション)
  • CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)システム
  • ナレッジマネジメントシステム
  • ニュース、企業情報収集システム
  • スケジュール調整システム

効果的なセールスイネーブルメントには、営業支援ツールの導入が欠かせません。これらのツールを活用することで、営業プロセスの進捗を促し、顧客情報を一元管理することが可能です。
SFAやCRMの活用により、営業担当はマーケティングチームやインサイドセールスチームの活動を把握した上での商談が可能になり、セールスを次のステップに進めやすくなります。
ナレッジマネジメントシステムやニュース・企業情報収集システムは営業担当が短時間で顧客の情報を収集することを補助し、顧客ごとの課題仮説の立案と解決策の提示に貢献します。
スケジュール調整ツールは顧客・営業担当双方の調整の手間や煩わしさを削減します。

コラボレーションとコミュニケーションの活性化

  • ワークショップ、対話会の企画・実施
  • 横連携の取り組みの表彰制度の導入・推進
  • コミュニケーションツールの導入

社員同士が、短期のタスクコミュニケーション以外のこと、たとえば個人個人の価値観・想い、中長期に目指していること、些細な改善アイディア、それぞれの組織の考え方やビジョンなどを相互に話す場を設けることもセールスエクスペリエンスを高めます。
また、部門を超えた連携を表彰する仕組みや情報共有の仕組みを導入することも効果的です。

これらは、営業チームとマーケティング、製品開発、カスタマーサポートなどの他部門との部門間の情報共有とコミュニケーションを促進し、顧客への一貫したメッセージを提供することにつながります。

セールスイネーブルメント施策を検討する上で重要な3つのポイント

様々な施策例を挙げましたが、実際に施策を企画するときにはどんな観点が重要なのでしょうか。ここではセールスイネーブルメント施策を企画・実施する上で重要なポイントを紹介します。

ポイント①顧客のエクスペリエンスを起点に考える

顧客の立場から、どんな購買体験が良いのか、またその体験を創出するにはどうしたらよいかを検討していきましょう。

【自ら多くを語らなくても営業担当が分かってくれる】

顧客は、話が分かる営業担当者を好みます。話が分かるとは、2つに分けられます。1つは、話したことが適切に理解されることです。
もう1つは、話されたことを起点にその背景や周辺情報も含めて理解されることで、「話が早い」と言い換えても良いかもしれません。
顧客に「この営業担当は話が分かる(話が早い)」と思ってもらうためには、顧客理解が欠かせません。

ここで強調するまでもなく、多くの営業組織では「しっかりお客さんのことを知りなさい」、「ヒアリングしなさい」ということが言われます。
新人の営業担当にありがちなのはそれを素直に受け取り、商談の冒頭で「御社の課題は何ですか?」と聞いてしまうことです。急なビッグクエスチョンをぶつけられた顧客は、たいてい戸惑いますが、優しい顧客は色々と話してくれるかもしれません。しかし、話してくれればくれるほど、かえって新人営業の方がこの話を受け止めきれません。受け止めきれないので、強引に話をつなげて商品説明をするしかないのです。結果として、顧客は「この営業担当は話を理解してくれない」と感じます。

これを回避するために事前準備をします。事前に情報を仕入れ、その企業のことを理解しておくことはもちろん、取得できた情報から、これから商談する相手が抱えていそうな問題や課題を想定しておきましょう。
セールスイネーブルメントチームの仕事は、この事前準備を容易にすることです。

顧客が上場企業であれば、多くの情報を簡単に取得できますが、逆に言えば有価証券報告書・中期経営計画・統合報告書など、情報が多すぎます。自社の提供する商材に関わる情報はどの資料のどこを押さえておかなくてはいけないのかを検討しましょう。さらに、調べた情報をもとに何を準備し、何を聞くのか、どのように深堀していくのかという自社なりのノウハウをしっかり言語化し、それを伝える社内コンテンツの配信や教育施策を実施しましょう。 また同時に、個々の顧客との過去のコンタクト履歴を参照できる仕組みの導入や整備も行っていきましょう。過去のコンタクトで得られた情報は非常に貴重です。公開情報が少ない非上場企業に対峙する場合は、顧客を理解するための生命線とも言えます。顧客側の支店住所や窓口により、異なる営業担当を配置している場合は特に情報が散逸しがちですので、一括管理できる仕組みの導入と運用できているかどうかの定期的なチェックを行いましょう。

【営業担当が自社に合った提案をしてくれる】

顧客が営業担当者と話をする最大の価値は、自分たちにとっての最適解を得ることです。

企業であれば、商品やサービスを目的もなく購入することはなく、必ず自社の利益のために購買活動を行います。購買担当は、自社が求めている物品やサービスの仕様・条件を明確にし、それに合った商品やサービスを探し、複数の候補が上がればそれぞれの情報を収集・比較し、自社が求める仕様・条件に合うものを購入します。

顧客側は自社の事情や購買を通して実現したいことを、ほとんどの場合よく知っています。しかし、買おうとする商品・サービスのことは知りません。営業担当は自社の商品やサービスのことはよく知っていますが、顧客のことはよく知りません。このギャップを埋めるために商談の場はあります
最低限、顧客が聞きたいことに対して、営業担当が端的に答えられれば、及第点はもらえるでしょう。しかし、より顧客が求めているのは、伝えた情報をもとにした自社に合う提案です。その中に、顧客の想定していなかったリスクや価値の訴求が含まれていると、一気に顧客のエクスペリエンスは高まります

商談の場においては、顧客側に商品・サービスの情報を伝えて、用途を考えてもらうというスタンスではなく、営業担当側で顧客企業の状況を積極的に引き出し、顧客一社一社の状況に合わせた提案を行っていけるようにしましょう
そのために、商品・サービスの仕様説明はできるだけ少なくし、商談時にしっかり顧客の状態をヒアリングできる時間を捻出できるよう、施策を講じましょう。たとえば商談の場で営業担当が口頭で説明しなくてもいいよう、あらかじめ動画やパンフレットを作ってHPで公開しておく、もしくは商談前に渡しておくことなどが挙げられます。

また、仮説をぶつけながら精度の高い提案をしていけるよう、ヒアリングや提案のスキルを高めていける施策を検討しましょう。

【仕様や条件の交渉ができる】

顧客にとって、サービスや商品の仕様・契約条件の交渉ができることは非常に重要です。予算やスケジュールはもちろんのこと、仕様を変えるようなことも含めた、条件の交渉にしっかりとあたってくれる営業担当を顧客は好みます。(ここでは、必ずしも顧客の要望をそのまま叶えるということだけでなく、条件を双方で調整していくことを意味しています。)
よって、顧客からの交渉にしっかり応じられる環境づくりもセールスイネーブルメントチームの重要な検討事項の一つとなります。

通常、役割や職位に応じて決裁権限が規定されていますが、決裁権限を超えた部分をいかに調整できるかは、個人のスキルだけでなく、組織を越えた価値観の共有や関係性ができているかにかかってきます。チームや部門を越えて協働できるよう、チーム間・部門間のコミュニケーションの場づくりや協働を啓蒙するコンテンツ作成を行うなど、施策を検討しましょう。

ポイント②営業担当者(従業員)を中心に考える

どんな観点で施策を企画・実施すると従業員のセールスエクスペリエンスの向上に寄与するかを検討していきましょう。

【現場を理解し課題を把握する】

セールスイネーブルメント施策は、しっかりと現場を巻き込んでいくことが重要です。現場を巻き込まずに企画した施策は、現場から反発に合う恐れがあります。企画を立てる前に、営業担当者の抱える問題や課題をとらえましょう。個々にヒアリングすることがベストですが、数百人、数千人の営業担当者を抱える組織においては現実的ではありません。アンケートでできるだけ多くの声を拾うと同時に、最低限10~20名程度のヒアリングを実施して課題を明確にしていきましょう。

アンケートやヒアリングで得られた結果をマネージャーや営業担当者にフィードバックしながら、ワークショップ形式で問題と課題の特定と施策案を検討していくことも有用な巻き込み方法です。
押しつけではなく、現場の営業担当者の課題を解決できる施策を企画しましょう

【営業マネージャーの負荷を軽減する】

一般的に、個々の営業担当者の育成(OJT)は営業マネージャーやマネージャーに任命された役職者や監督者が行います。しかし昨今、人手不足や生産性向上を背景にしてプレイングマネージャーが非常に増えております。それにより、育成に費やせる時間も減っています。それにもかかわらず、商品やサービス、市場や顧客も複雑化しており、形式的なセールストークは通用しません。マネージャーや育成を任命された社員の本音は、「勝手に学んで勝手に育ってほしい」「自分たちは先輩の背中を見て覚えてきたのだから、若手にもそうして欲しい」ということでしょう。このような状況の下、セールスイネーブルメントチームに求められるのは、マネージャーや育成担当の意向も踏まえながら、言語化されていないノウハウの言語化とその育成プログラム化、教育の実施です。

そういったプログラムを新人や若手に提供するだけではなく、そこでのリアクションや評価を添えて、マネージャーや育成担当者にフィードバックを行うなど、学習と実務の垣根を低くする取り組みも同時に行っていくことも重要です。これによりマネージャーや育成担当者の負担を軽減しつつ、営業担当者のセールスエクスペリエンスを高めていきましょう。

【営業担当者の仕事を楽しくする】

営業の仕事は一般的にストレスのかかる仕事といわれています。毎週、毎月売上や粗利に追われ、1年間積み上げた数字は翌期にはまた0になります。営業職の離職理由によく挙がるのは昔も今も「ノルマがきつい」です。

数字だけを追うと辛くなりますが、数字の背景には顧客との関係性、営業部内の関係性、社内のプロダクトやサービス提供部門などとの関係性、パートナー企業との関係性、自己の知識とスキルなどの目には見えない資産があります。これらを増やしていくことでノルマの達成は容易になっていくので、この資産を増やしていくための施策を検討しましょう。

まずは無駄の削減です。 営業担当は、マネージャーに報告するための会議、社内報告資料作成、請求関連の書類作成、書類整理や書類探し、顧客提供価値に直接関係しない社内調整など、価値を生まないことに費やされる時間が多く、ある調査では稼働時間の半分ともいわれています。これらの時間を減らすためのITの活用や風土変革を推進していきましょう

次に、顧客のニーズやシーズをキャッチし、それに対してどうやったら価値提供できるかを組織的に考えられる時間や場の創出です。これには、雑談的に顧客からの要望を共有する場や自分の担当している顧客へどのようにアプローチしていて、どのような感触かなどを気軽に共有しあうようなラフな場を設けましょう
加えて、組織内でうまくいっている手法を組織のナレッジとして展開していけるような機会や場も必要です。

これらの活動によりヒントを得て能動的に顧客にアプローチしていけるようになれば、次第に顧客の好意的反応を引き出せるようになり、営業成果と同時にやりがいと自信を得ることができるでしょう。

同時に、営業関連部門内だけではなく、製造部門や研究開発部門、サービス提供部門などとの連携・連動性を高める施策も企画推進しましょう。組織間の対立は営業担当が自社と顧客の板挟みになる原因となるため、これらの施策を行ってコミュニケーションの状態を良好に保つことは、営業担当の時間の浪費やストレス蓄積を軽減することにつながります。

ポイント③施策改善サイクルを回す

【KPIの設定】

KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)とは、組織やプロジェクトが目標を達成するために設定される具体的な指標のことです。 セールスイネーブルメントの成果を測定するためには、KPIの設定が不可欠です。これにより、営業活動のパフォーマンスを定量的に評価し、改善点を特定することができます。売り上げ、単価、売り上げ総利益(粗利)はもちろんのこと、人別のパフォーマンスの向上率、顧客満足度、従業員満足度など、指標を検討してKPIを設定しましょう。

【継続的な改善】

セールスイネーブルメントは一度枠組みを作れば終わりというものではなく、継続的に改善を続けることが重要です。市場環境や顧客ニーズの変化に柔軟に対応し、戦略を調整することで、顧客にとって最適なセールスエクスペリエンスを提供し続けることができます。KPIの達成率を参考にしながら、なぜ達成できたのか、なぜできなかったのかを営業担当者や営業マネージャー、そして顧客の声を集めながら検討し、常に施策をアップデートしていきましょう。

まとめ

セールスイネーブルメントは、営業チームのパフォーマンスを最大化し、顧客と営業担当者の両方に優れたセールスエクスペリエンスを提供するための重要な手法です。顧客の体験を向上させることで、満足度や信頼が高まり、結果的に売上向上や長期的なビジネス関係の強化につながります。また、営業担当者にとっても、よりやりがいをもって営業活動を行うことができるようになります。

成功するためには、顧客や営業現場の状況を見ながら、教育トレーニングの充実、営業支援ツールの導入・運用、部門間の連携強化などの施策を継続的に改善し、適切なKPIの設定を通じて成果を測定することが不可欠です。

株式会社ソフィアは、セールスイネーブルメント支援を通して、セールスエクスペリエンスを向上させ、持続的な成長をサポートしています。ぜひ、私たちとともに、営業の未来を築いていきましょう。

株式会社ソフィア

事業開発部 リーダー

三上 晃潤

人事部、広報部、経営企画部、情報システム部などにうかがい、企業によって異なる組織のお悩みや課題、お困りごとを聞き、解決するための提案をしています。

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