サステナビリティを起点とした事業創造の重要性 ~「総論賛成、各論反対」を避けるサステナビジネスの勘所~

2015年の国連サミットにてSDGsが掲げられて久しく、日本においてもビジネスの世界ではSDGs経営が共通言語となっています。しかし多くの企業において、サステナビリティを起点にした事業創造は「入口は総論賛成・出口は各論反対」に陥りやすい傾向が続いています。このような事業創造をどのように推進していくべきか、SDGsを切り口とした経営・事業支援を手がける株式会社ソフィアサーキュラーデザインの知見をご紹介します。

経営コミットメント・マテリアリティは事業創造のスタート地点

サステナビリティを起点とした事業創造とは一体どういうことなのでしょうか。多くの企業がサステナビリティを経営戦略に取り込み、経営コミットメントとマテリアリティと言われる優先テーマ、優先課題などを策定し外部公表しています。ここでは、このことを「サステナビリティ優先テーマ」と呼ぶことにします。

これらのサステナビリティ優先テーマには、必ず事業活動を通じて社会や環境へ貢献することが謳われていますが、この概念は経済学者のマイケル・ポーター氏が2011年に提唱した共通価値の創造「Creating Shared Value:CSV」に通じる考え方です。

サステナビリティ起点の事業創造とは、まさにCSVの実現であり、売上や利益などの経済的価値と、社会問題を解決する社会的価値の両立を実現する事業活動の創造です。つまり、社会や環境の変化を分析し、その企業の強みを最大限に生かす視点が盛り込まれた「サステナビリティ優先テーマ」は、事業創造のスタート地点として最適と言えるでしょう。

事業創造におけるソーシャルインのアプローチとは

企業におけるサステナビリティ起点の事業創造について、入口は「総論賛成」の傾向です。しかし実情は、サステナビリティを単なる社会貢献と捉えていて、事業と結びついていないまま、本質的な意義を理解せずに賛成をしている節があります。つまり「総論賛成」でもソーシャルインの観点が欠けている可能性があります。

事業創造ではプロダクトアウトからマーケットインへのアプローチの変革が古くから言われています。顧客起点でソリューションを考案するマーケットインの重要性は皆さんも同意のところかと思いますが、サステナビリティ起点の事業創造においては、この起点が社会や環境、もっと広く言えばステークホルダーとなるわけです。このことをソーシャルインと呼びます。
事業創造において、ソーシャルインのアプローチは次のようなメリットを与えてくれます。

  • 異常気象や労働者不足、超高齢化社会など緊急性が高まるテーマを提供
  • ステークホルダーの企業の存在意義に対する期待の変化への対応
  • バックキャスティングによる本質的な課題を探求することによる長期的な価値創造の実現
  • 今後強化が予想される環境や社内に対する規制や法令へのリスクヘッジ
  • 企業理念の原点回帰とチャレンジする組織風土への変革

ソーシャルインとは、企業が社会の課題を自社の事業戦略やプロセスに取り入れ、その解決を通じてポジティブなソーシャルインパクト(社会的影響)を生み出すアプローチです。社会のニーズを理解し、それを自社の成長に繋げることで、社会と企業の双方に価値をもたらすことを目指します。

サステナビリティを起点とした事業創造は、現場主導で進める

社内で「有言不実行」「面従腹背」がはびこってしまう背景

皆さんは自社のサステナビリティ優先テーマを見て、自分が担当する事業がどのように貢献しているか把握できているでしょうか?例えば次の様なサステナビリティ優先テーマがあったとします。
「地球環境を守り、人々が安心して暮らせる新規事業を創造する」。
誰が聞いても反対しない、素晴らしいミッションです。でも、一方でこのテーマでは解像度が低すぎて具体的に何から手を付けてよいかわからないのではないでしょうか。

サステナビリティへの取り組みは「賛成するけど具体的な行動に移せない」という「有言不実行」、更に最悪なのは「どうせ社会貢献活動の延長でしょう」という「面従腹背」が企業内に蔓延することがしばしばあります。これが「総論賛成・各論反対」の要因ともなっています。

事業創造はボトムアップのプロセスで決められるべき

このような問題は「サステナビリティ優先テーマ」の決め方にあります。多くのサステナビリティ優先テーマは、経営と主管部門が策定し、トップダウンで降りてきます。事業や現場の人からすれば、会社として取り組むのであれば、素晴らしいスローガンだと頷きます。

しかし、事業創造をミッションとして下されても、先ほどの言葉では解像度が低すぎてこれまでの社会貢献活動と何が違うかわからないのが本音でしょう。経営戦略であるサステナビリティ優先テーマは事業と連結してこそ、その意義があるわけですから、本来であればサステナビリティ優先テーマとは、事業主導のボトムアップで決められるべきものなのです。仮に、経営や主管部門がリードを取ったとしても、何らかの形で事業部門が参画する仕掛けをすることが求められます。

サステナビリティ起点の事業創造は、スケーラブルな視座や機会をもたらしてくれる

事業活動というものは、自然環境や社会インフラの中で成り立っています。例えば、美しく青い海がなければ成り立たない観光業も存在しますし、交通インフラが整備されている社会だからこそ、自動車や物流などの産業が成立します。

このように事業活動とは環境や社会を柱にして成立しているわけですが、企業はその対価として経済的価値と共に社会的価値の「ポジティブな影響」を生み出し、全世界で共通する課題を持つ多くのお客様にも価値を提供します。社会問題を解決する価値創造は、事業の課題解決の範囲を広げたり、対象のマーケットをグローバルに拡大するなど、スケーラブルな可能性を持っています。

サステナビリティは、事業成長における不確実性の排除につながる

一方で、事業活動は環境や社会に様々な「ネガティブな影響」ももたらしています。CO2の排出やごみ問題、過重労働やハラスメント、交通渋滞などがあげられます。事業活動がもたらすこのようなネガティブな影響について、事業を担う人が探求しなければ、サステナビリティ優先テーマが目指す本質的な課題は見えてこないでしょう。

自社の事業が柱としている環境や社会という屋台骨自体の持続可能性を高めることは、事業成長の不確実性を排除することにつながります。サステナビリティ優先テーマを、環境や社会から影響を受け、同時に影響を及ぼす当事者である事業部が主導して策定することで解像度を高めていけば、「有言不実行」や「面従腹背」のムードを解消できると思いませんか。

利益創出を定義して、承認プロセスと価値基準を経営と握っておく

サステナビリティを起点にした事業創造は、企業の持続可能性を高めるためにも、とても大切な現場主導の取り組みであることがお分かりになったと思います。では、出口の部分で各論反対となり社内の協力が得られにくいのはなぜでしょうか?2つの理由があります。

協力が得られにくい理由① 利益創出が難しい

サステナビリティ起点の事業創造は、ありたい姿からバックキャスティングで事業モデルを考えるために利益創出の確実性が図りにくいところに難しさがあります。しかし、事業である以上は単なる社会貢献活動にならないよう、利益を上げて事業自体の持続可能性を担保しなければなりません。そのためには、利益創出に対する定義、出口戦略をあらかじめ経営と握っておく必要があります。この点は、サステナビリティにかかわらずすべての事業創造に共通する点と言えるでしょう。

私たちは、この確実性を上げるためにリーンスタートアップの手法を用いますが、最終的に事業化の承認には、社内にある新規事業を経営承認プロセスに乗せていくことを推奨しています。ただし、短期的な利益創出を基準においている場合や、基準や仕組みがない場合は、長期的なロードマップでの利益創出の計画を了承していただく必要があります。例えば、リーンスタートアップでは、3年後の黒字化をモデルケースに据えています。

協力が得られにくい理由② 既存事業とコンフリクトを起こしかねない

サステナブルな事業創出は、これまでの商流とマッチするとは限りません。いや、マッチしないことがほとんどでしょう。クリステンセン氏は著書『イノベーションのジレンマ』の中で「破壊的イノベーション」を組織能力として「経営資源」「プロセス」「価値基準」の3つで整理していますが、この「プロセス」である仕事のやり方、「価値基準」である仕事の優先順位と判断基準がこれまでと根本的に違うことが、マッチしない大きな要因です。

右肩上がりの時代に構築された組織のプロセスと価値基準は、効率化や短期的な利益創出が目的になっていますから、新しい事業モデルの評価に既存のプロセスや価値基準を当てはめようとすると、いつまで経っても事業創造が実現しません。このことを経営としっかりと握っておくことも重要なポイントの一つです。
また、新規事業の体制づくりは以下のように大きく3つの方向性があると思います。

  • 社内の既存事業が引き取る
  • 新規部門を立ち上げる
  • 別会社にして立ち上げる

新しい事業モデルのプロセスと価値基準に着目して、ベストな組み合わせを考えることが肝要です。
こうして整理すると、出口で各論反対になるのを防ぐために、入口での総論賛成の時点で、出口の定義を経営と握っておくことが大切になります。

事業創造に取り組むことで得られる価値とは

共通の社会課題を持つパートナーシップとの強固な関係

サステナビリティを起点とした事業創造を進める上で、もう一つ特筆すべきメリットがあります。それは、強固なパートナーシップの構築です。現代における事業創造は、自社の強みだけでは実現することが難しくなっています。複雑な課題を解決し、他にはない価値を創造するためには、自社のコアコンピタンスはもちろん中心に据えますが、自社が持たない技術やノウハウをパートナー企業に提供してもらう必要があります。

サステナビリティを起点とした事業創造は、共通の社会課題をテーマとしますので、このテーマに賛同するパートナー企業を探しやすくしますし、協業の実現性を高めます。しかもそのパートナーの関係性は、これまでの金銭的なビジネスライクなものとは違い、同じテーマに取り組む仲間としての深いパートナーシップを築くことができます。

企業理念の実現と組織風土の変革への寄与

サステナビリティにかかわらず、事業創造が成功する確率は、それほど高くはありません。しかし、事業創造がもし失敗したとしても、企業にとってかけがえのない成果が育まれます。それは、企業理念の原点回帰とチャレンジする組織風土への変革です。

多くの企業が、経済成長の時代の中で組織の「プロセス」と「価値基準」を確立してきました。一方、効率化や利益追求の中で、チャレンジする組織風土や、企業理念が謳う社会の公器としての存在意義がおざなりになっているのではないでしょうか。サステナビリティを起点とすることは、自社の存在意義をサステナビリティの潮流の中で再認知させてくれます。また、解決が難しい課題やグローバル化により複雑化した課題にも、挑戦する組織風土を醸成することにも繋がります。
サステナビリティを起点とした事業創造は、企業理念の実現や組織風土の変革に寄与するのではないでしょうか。

株式会社ソフィアサーキュラーデザイン

ソフィアサーキュラーデザイン代表取締役社長、サステナブル・ブランド・コンサルタント

平林 泰直

大手メーカー系コミュニケーション部門での責任者としての実績からデジタルマーケティング、インターナル広報、メディア編集など、企業のコミュニケーションに関わる戦略策定、実行支援をお手伝いします。

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