2025.01.21
フィンランドで見つけたウェルビーイングの秘訣
目次
こんにちは!ソフィアの原久美子です。
今回、10月13日~19日にフィンランドへ行き、職業教育やウェルビーイングに関連する取り組みを視察してきました。そこで見聞きしたこと、学びをご報告します。
元々私は教育畑の人間なので、たびたび「教育先進国」として話に上がるフィンランドはずっと気になる国でした。
昨年、弊社の廣田がデンマークへ職業教育の視察に行っていたこともあり、フィンランド行きに背中を押してもらって、憧れのフィンランドへ行くことになりました。
フィンランドってどんな国?
首都ヘルシンキに降り立った第一印象は「森の香りがする!」
というのも、フィンランドは国土の65%が森・10%は湖で「森と湖の国」と呼ばれるほど自然豊かな国です。首都ヘルシンキからも徒歩圏内に森があります。
面積は日本の90%くらいで人口は556万人、兵庫県の人口と同じくらいです。
1917年にロシアから独立し、フィンランド共和国として設立した、比較的新しい国家でもあります。(ちなみに最古の国家は日本)
この人数規模と、新しい国家であることも、柔軟な社会制度の導入と実践を可能にしている一因でもあるそうです。
フィンランド発祥のもので有名なところだと、キャラクターの「ムーミン」、アパレルブランドの「marimekko」、サンタクロース村などがよく知られていますね。
ウェルビーイングを語る上で外せないのは、フィンランドは世界幸福度ランキング(World Happiness Report)7年連続1位ということ。
他の北欧諸国でも似た傾向がありますが、仕事は16時定時で終わり、ほとんど残業はないですし、夏休みを1ヶ月ほど取る人も多いです。
ユニークだなと思ったのは、コーヒー休憩法。6時間以上勤務の場合、労働条件として15分のコーヒー休憩を1日に2回取れるようにすることが法律化されています。
これはマイクロブレイク(=数分から10分程度の短い休憩のことで、生産性を上げると注目されている休憩の仕方)を大切にするために、作られた法律です。
幸福度ランキングNo.1の理由は…!
- 幸福度世界一位
- 16時に仕事が終わる
- 教育先進国
- 高福祉国家
このようなフィンランドの事前情報があまりにも日本の環境と異なるため、「どうしてそんな社会が作られたのか」に大きな興味があった私は、滞在1週間でウェルビーイングなお国柄の理由を身を持って体験することとなります。
それは「暗さ」です。
フィンランド人は口をそろえて「冬が暗くて寒くてとにかくつらい」とお話しされます。北部の北極圏に入れば、一日中日が沈まない白夜や、一日中日が昇らない極夜もあります。
日照時間が短く、体のリズムが整わないこと、これが、とっても、つらい!!!
私がオウルに滞在した1週間、朝9時ごろにようやく明るくなり、17時には日が暮れる生活でした。そして日中も曇り空か雨模様で、日差しがのぞいたのはほんの数時間。数日経つと、なんだかすっきりと目が覚めなかったり、寝つきが悪くなったり、食欲がなくなったりと、体調の違和感に襲われました。
フィンランドではそのような自然環境を要因として、自殺率の高さや、アルコール中毒や薬物乱用・精神病が社会問題となっています。
ここまでで分かるように、日本に生まれ育って生活している中で当たり前に享受している「太陽とともに目を覚まして働き、夜眠る」という規則正しい健康な生活を送ることが難しい環境であることから、心身の健康のためのさまざまな取り組みが進んでいます。このような背景から、北欧諸国はウェルビーイングで取り上げられる機会が多々あります。
個人の暮らしを見ると、夜の過ごし方ひとつとっても、日本と同じように夜22時まで仕事をしてパソコンとにらめっこする生活をフィンランドでしていたら眠れなくなってしまい、翌日に支障が出てしまいます。
そのため、フィンランドでは夜、キャンドルと、目線より下に位置する間接照明で過ごす家庭が多く、それによって神経の興奮を抑え、よく眠れるようにしているそうです。このようにまず個々人も「自分の心身を健康に保つこと」をとても重要なこととして生活を送られています。
国目線で見ても、決して資源や国民の人数も多くないフィンランドでは、労働力の確保は死活問題です。
国民が心身ともに健康に働き続けられることを目指して、フィンランドの様々な社会制度が構築されており、企業の取り組みも行われています。
そんなフィンランドの背景を前段としたうえで、私が日本にも持ち帰りたいと思ったウェルビーイングに繋がる価値観や実践例をご紹介します。
個を尊重する
フィンランドでは「ウェルビーイング」とは“誰もが個として尊重され、自分らしく生きられる社会”とされています。
そのための取り組みがそこここに散らばっていますが、私の印象に残っているものをいくつかご紹介します。
仕事の休憩室は“肩書きを外せる場所”
前段でコーヒー休憩法の話題を出しましたが、フィンランドの企業のオフィスでは休憩室が大切に設計されています。くつろいで過ごせるようにソファやコーヒーメーカーが設置されており、もちろん電話も鳴りません。仕事を小休止する際に、「仕事のことを忘れてきちんと休む」ことができるよう空間設計がされています。
今回は、職業訓練校の職員室を訪れたのですが、日本の職員室との違いに驚きました。
リビングルームのようにくつろげる空間が設計されていました。さらに驚いたのはここが特別なのではなく、どの教育機関もこのような部屋になっているとのこと。
どうしてこのような空間を作っているのか尋ねたところ「先生にも肩書を外せる時間を作るため」とお話しされていました。
このスタッフルームは、生徒・学生は立ち入り禁止。一人の人としてコーヒーを片手に仕事から離れて過ごすことができる場所が作られていました。
この休憩室からわかるようにフィンランドでは「社会的な肩書を外し、その人がその人でいられること」がとても重要なものとされています。
Take care of myself
今回お話させていただいたフィンランド人の方が、ウェルビーイングを語るときに必ず口にされた言葉が「Take care of myself」でした。
“他の誰かを気遣う前に、まずは自分を気遣う”
“他の誰かを大切する前に、まずは自分を大切にする”
そのような意味合いで使われていました。
「まずは自分が心も身体も健やかでいる、その状態があって初めて、周りに貢献できる」そんな価値観が根付いていることを感じました。
たとえば日本だと、家族のために○○する、仕事のために○○する、自己犠牲とまで言わなくても、共同体のために個人が行動を選択する場面が多いと思います。フィンランドは、家族であっても会社であっても個人のために共同体があるという価値観が強いです。
日本で出版されている[マイタイム 自分もまわりも幸せになる「自分のための時間」のつくり方]の著者モニカ=ルーッコネンさんのワークショップを受講した際に、こんな言葉がありました。
「子育てと仕事を両立しながら、“自分をケアする時間(=マイタイム)”を取るようにしています。」
「私の娘は、私に対して“母が自分の面倒を見てくれる”という期待をしていません。でも代わりに彼女に対して“自分の上手なケアの仕方”のロールモデルでありたいと思います。」
忙しければ、家族の夕食はインスタントのもので十分。
食事作りにあてていた時間で、ほっと一息ついたり、スポーツをしたり、「自分のエネルギーをチャージする時間」をとる。
そんな日々の行動選択一つひとつが「まずは自分が心も身体も健やかでいられる」ことを第一になされていることが印象的でした。
相手に余白を与えるマネジメント・教育
フィンランドの職場は、階層構造があまりなく、縦社会ではないことが特徴です。今回、職業能力開発校「OSAO」のスクール長・ニコさんにお話を伺う機会があったのですが、フィンランドのマネジメントの特徴として、「コントロールしない」「マイクロマネジメントをしない」ことを挙げられていました。
そもそもフィンランドは失敗に寛容な文化・国民性であることもあり、信頼して仕事を任せ、うまくいかない場合は、チームメンバーからマネジャーに報・連・相し、一緒に改善策を考えるというスタイルで仕事を進めることが多いそう。
ニコさんも同様に、マネジャーとして、信頼して仕事を任せ、チームのメンバーが自ら考え、自ら学ぶことを助ける存在であることを大切にされていて、マネジメントとしては「私(マネジャー)が必要とされない状態になったら、マネジメントが成功したと感じる」とお話をされていたことが印象的でした。
一方でフィンランドのこのようなマネジメント文化の課題として「自律を促すマネジメントが合わない人に対してのサポートが十分にできない」ことが上げられていました。自ら報連相をすることが苦手な場合や、やることを決めてもらえた方が仕事をしやすい人にとって、適したマネジメント方法ではないと感じられているそうです。こういった部分は、日本の得意な領域かも、と考える時間にもなりました。
多様な“自分をケアする方法”
ニコさんへ「フィンランドの方は、どうやって自分をケアする方法を学ぶのか」と質問した際に、公教育などではなく、家庭で学ぶ部分が多いとお話をされていました。家庭の中で、自分をケアする方法を学び、実践しながら、自分に合う方法を確立していくことがフィンランドの文化となっているそうです。
ご自身も「心身の回復のために、休日は森へ行く」という話をしていて、水上コテージでの滞在や、ウォーキング、スノートレッキング、サウナなどその過ごし方も多様。自然を“自分の健康のための資源”として捉え、“自分はどのような形で自然を触れるのが心地よく、エネルギーを回復するのか”を習得している様子が見て取れました。
今回は、そんな森林での過ごし方を学ぶため、森林や自然を活用したウェルビーイングサービスをフィンランドで展開しているリタ・ポルッカさんの企業向けサービスを体験してきました。
リタさんのワークショップの元になっているのはアメリカで開発された「DRAMMAモデル」。精神的・身体的な回復を促し、幸福感を向上させるための重要な要素を示したものです。
【6つの要素】
D Detaxhment (仕事や日常のストレスからの切り離し)
R Relaxation (心身の緊張を緩和する)
A Autonomy (自律性・自分の意志で活動を選ぶ・自己決定・自由)
M Mastery (新しいことに取り組み、新たなスキルを得ること)
M Meaning (生きがい感・自分の人生の意義を見出すこと)
A Affliation (所属感・社会的つながり、連帯感)
リタさんのワークショップでは、森林でのウォーキングやワーク、手芸のような手作業を通してこの6つの要素を満たすよう設計されていました。
私は当時、異国の地に一人で行くことでかなりの緊張感とアドレナリン放出状態だったこともあり(笑)、直線的・スピーディだった思考処理が、森林で過ごすうちに、ゆっくりになっていくのを感じました。浅くなっていた呼吸が自然と深くなって、森を出るころには、すごく安心感があり、かつクリアな思考ができる状態になっていました。
あとは、「こういう場ではこうすべき」というような思考や焦燥感がなくなったことも印象的で、その話をリタさんにしたところ、企業研修でも同じことが起きるとのこと。企業のチーム合同で森林ワークショップに出かけることで、立場をわきに置いた対話ができるようになり、結果としてチームワークが向上するんだとか。
最後に
日本とは全く違う働き方の文化があること、業務改善やDX以外にも生産性を高める観点があること、それらをただネットで知りうる1情報として取り入れるのではなく、現地の人の言葉やあり方を知り、対話をしながら知ることができたのは、とても大きな経験でした。
帰ってきてみて、自身の暮らしの中でも、企業様とのお話の中でも「この場面、フィンランドだったらどうだろう」と一考することが増えたように思います。
それと同時に、日本とフィンランドでは前提条件・文化・国民性が異なるため、そのままフィンランドの施策だけを取り入れることが最善ではないということも身を持って感じています。
ここからは私自身の実践として、日本の企業様・自治体・教育機関の現状をしっかり見つめながら、フィンランドのエッセンスの何をどのように取り入れ支援をしていくか試行錯誤していきたいと思います。
株式会社ソフィアクロスリンク
コミュニケーションコンサルタント・キャリアコンサルタント
原 久美子
組織や組織に所属する一人ひとりの可能性が広がるよう、組織課題の特定や打ち手の検討・実施に伴走します。研修やワークショップの設計・実施を得意としています。 教育関連機関(教育委員会・学校・行政など)を多く担当しています。
株式会社ソフィアクロスリンク
コミュニケーションコンサルタント・キャリアコンサルタント
原 久美子
組織や組織に所属する一人ひとりの可能性が広がるよう、組織課題の特定や打ち手の検討・実施に伴走します。研修やワークショップの設計・実施を得意としています。 教育関連機関(教育委員会・学校・行政など)を多く担当しています。