「組織の常識を疑え!」~エンゲージメントサーベイは意味がない?~【築地編】

2025年2月に開催したソフィア・カンファレンスでは、ソフィアの経営陣である廣田築地近田の3名が「常識を考えてみる」座談会にて、エンゲージメントサーベイをテーマに意見を述べ、多くの反響をいただきました。
エンゲージメントサーベイは、従業員のエンゲージメントを定量的に測定する調査であり、重要な指標となります。しかし、その調査結果をきちんと施策に繋げ、意味ある活用ができている組織は多くはないのではないでしょうか。
今や当たり前となったエンゲージメントサーベイの意義とは何なのか、時流を鑑みて今後どのように実施し活用するべきなのか。本コラム記事は3名それぞれの知見をまとめたもので、今回は築地編をお送りします。

組織内に漫然と横たわっている常識・慣習・通例を、いま一度見つめ直すきっかけにしていただければ幸いです。

(聞き手:吉備奈緒子)

廣田編の記事はこちら

サーベイには客観性を担保し、組織の前提やルールを示す役割がある

―ソフィア・カンファレンスではエンゲージメントサーベイについて議論しましたが、あらためてその意義とは何でしょうか。

何かを尺度をもって測るという行為は、個人個人で異なる主観的な見解に客観性を持たせる役割を果たします。もののサイズや重さについて感じる「大きい」/「小さい」、「重い」/「軽い」という感覚は、それを感じる主体によって異なります。例えば、子どもと大人では同じものを持った時に感じる大きさ・重さが異なりますよね。
もののサイズや重さを測るのと同じように、サーベイを通じて設問項目の数値を定量的に把握することができます。そして、個々人の感覚的な差異を複数人で客観的に確認することで共通認識を持つことが可能になります。
また、「組織と従業員の共通利益を最大化する」という前提に対して、望ましい状態であるか否かの判断材料となるのがエンゲージメントサーベイでもあります。組織としての前提やルール、条件を従業員に示すという意味でも、サーベイは価値があるのではないでしょうか。

―組織が望ましい状態であるかは、社外からも注目されますよね。
そうですね。人的資本経営の広がりもあいまって、エンゲージメントサーベイは様々なステークホルダーから注目を浴びるようになっています。
労働人口の減少と人材の流動化という文脈では、組織は人材を囲い込むだけではなく、いつでもオンボードしてもらえるように、周囲に対してブランドを示してレピュテーションを保っていくことが必要です。従業員にとって魅力的な組織であることを示す意味で、エンゲージメントサーベイやブランド調査の重要性が増していると考えています。

サーベイ結果の解釈と組織内での公表のポイントとは

立場・属性による差異や、組織の状況・背景を考慮する

―築地さんがコンサルタントとしてサーベイに携わる中で、ご担当者様に伝えたいことはありますか?

サーベイ結果の解釈は、見る人の立場や属性によって異なってきます。例えば、エンゲージメントサーベイのスコアが低い場合が必ずしも悪い状態であるとは限らず、その時の企業の状況や事業的な背景を考慮する必要があります。
最高点を5点とする「ブランド戦略への理解」について、営業部が4点・技術部が3点というスコアだった場合に、どう解釈するのか。営業部は技術部よりもスコアが良かったので良いマネジメント状況である、技術部はもっと頑張るべきである、ということではないと思っています。企業ブランドの対外的な接点である営業部には最高の5点であってほしいと考えるかもしれませんし、技術こそが企業ブランドの源泉であると考えるならば、やはり技術部にもハイスコアを求めます。企業の思惑や方針と、スコアのギャップを見て考えることが大切です。

―立場や属性ごとに、あるべき姿とスコアのギャップに注目することが肝要なのですね。
その通りです。そもそも会社や部署内で、従業員に対してブランド戦略の説明が十分なされたのか、サーベイ以前の施策の実施状況を確認することも重要です。もし技術部に説明がされていなかったとしたら、伝える側の努力が必要ですし、そうでなければ受け取る側の余裕や動機づけが課題の場合もあります。3点が「普通」であるとか「低い」ということよりも深い検証ができることが大切です。

企業が人的資本投資やエンゲージメントの結果をIRで公表する場合にも同様の配慮が必要です。数字だけでは短絡的な評価をされがちですが、背景を正しく説明し、企業のチャレンジ精神や現状を適切に伝えることが重要です。少し考えてみてください。企業や事業部がいまのコンフォートゾーンを抜けて、新たな競合企業と新規商品やサービスを巡って挑戦をしているとき、スコアは高くなるでしょうか?低くなるでしょうか?

サーベイ結果と現場感覚の裏付けをし、経営層が対話の姿勢を見せる

―現場での実践がどのようにサーベイ結果に反映されているのか、分析する必要があるのですね。

サーベイの結果はあくまで参考データに過ぎず、最終的には現場感覚の裏付けが必要です。データを基に実際の行動に繋がる具体的なアクションを取ることが重要であり、私たちコンサルタントはそれを第三者の観点で支援する役割を果たします。
結果を単に数字として捉えるのではなく、どのように活用するかが鍵となります。経営層がその結果を正しく理解し、従業員との関係づくりのために役立てて対話を行い、改善に繋げることが大切です。とある大学では、サーベイ結果を学内報で特集として取り上げ、あえてネガティブな意見も掲載することで、マネジメント層のオープンさを肌で感じられるようにしました。
サーベイは「診断型組織開発」のツールです。診断結果を特定のマネジメント層だけで共有するのではなく、適切に公表することで、従業員の心理的安全性を向上させ、診断を組織と従業員との対話のきっかけとすることができます。

フレームワークによる設問設計と、変化に応じた設問見直しが必要

―サーベイ実施においては、前提となる設問設計も重要ですよね。

はい、ご担当者様がよく抱える悩みの一つとして、サーベイの設問に網羅性があるかどうかが挙げられます。「これらを質問したら、質問しきったといえるかどうか?」という点です。設問設計において網羅性を担保するためには、フレームワークを用いて確認することが有効です。弊社でも、インターナルコミュニケーションに沿った独自のフレームワークを提供するほか、施策に繋げるためのハイパフォーマー分析などもご提案しています。

―サーベイ結果分析にあたって、近年の傾向は何かありますか?

近年感じるのは、エンゲージメントという言葉が浸透してサーベイの実施が一般的になってきたことで、サーベイに回答する従業員のインターナルコミュニケーションに対するリテラシーが高まってきていることです。スコアや自由記述の回答の傾向から、設問の意図を理解して、組織開発に参加していこうという意識が感じ取れることもあります。
サーベイでは固定的な設問で経年変化をたどることも必要ですが、時代の変化や組織の成長段階・組織課題に応じて適宜設問の見直しをするなど、柔軟なアプローチをしていきたいですね。

エンゲージメントサーベイについて、第2弾は築地に意見を聞きました。
廣田編でも話題になったサーベイの結果解釈について、築地は具体例を交えて深掘りの仕方を述べました。従業員の属性や立場ごとの「あるべき姿」や背景を認識することで、よりサーベイ分析の解像度が上がることが期待できます。「診断型組織開発」のツールであるサーベイ結果を「対話型組織開発」に繋げる素材として活用するーーサーベイ実施後の施策にお悩みの担当者の方は、このような視点を取り入れて経営層と従業員の関係づくりにサーベイを役立ててみてはいかがでしょうか。

(文:吉備奈緒子)

サービス紹介:従業員エンゲージメント
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社員が“アンケート疲れ”に陥る前に・・・ 既存の「社員意識調査」を再分析する【事例】

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株式会社ソフィア

取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント

築地 健

インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。

株式会社ソフィア

取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント

築地 健

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