「組織の常識を疑え!」~エンゲージメントサーベイは意味がない?~【近田編】

2025年2月に開催したソフィア・カンファレンスでは、ソフィアの経営陣である廣田築地近田の3名が「常識を考えてみる」座談会にて、エンゲージメントサーベイをテーマに意見を述べ、多くの反響をいただきました。
エンゲージメントサーベイは、従業員のエンゲージメントを定量的に測定する調査であり、重要な指標となります。しかし、その調査結果をきちんと施策に繋げ、意味ある活用ができている組織は多くはないのではないでしょうか。
今や当たり前となったエンゲージメントサーベイの意義とは何なのか、時流を鑑みて今後どのように実施し活用するべきなのか。本コラム記事は3名それぞれの知見をまとめたもので、今回は近田編をお送りします。

組織内に漫然と横たわっている常識・慣習・通例を、いま一度見つめ直すきっかけにしていただければ幸いです。

(聞き手:吉備奈緒子)

廣田編の記事はこちら

築地編の記事はこちら

収益維持が困難な中、成長指標として注目される従業員エンゲージメント

―ソフィア・カンファレンスでは従業員エンゲージメントについて論じました。その概念が生まれた背景と、エンゲージメントを取り巻く現在の環境をどのように見ていますか。

まず、従業員エンゲージメントに先立つ概念として、ワークエンゲージメントが存在します。ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントは、どちらも仕事に対する関与度や熱意を測る概念ですが、その背景や目的には違いがあります。

ワークエンゲージメントは、仕事に対するポジティブな心理状態を指すもので、ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らが提唱しました。「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素が満たされている状態が、ワークエンゲージメントの高い状態と定義されています。これは、従業員が個々の業務に対してどれだけ意欲的かを測る概念ですが、近年、ワークエンゲージメントが高いことが必ずしもポジティブな結果をもたらすとは限らない点が指摘されています。特に、仕事に没頭しすぎた結果としてワーカホリック状態になり、バーンアウトしてしまう(燃え尽き症候群となる)従業員が増加していることが問題視されています。

一方、従業員エンゲージメントは、組織と従業員の関係性に焦点を当てた概念であり、組織に対する愛着や忠誠心の度合いを示すものとされています。組織文化や経営方針に対する共感度、職場の人間関係などが大きく影響するため、経営や人事領域で注目されています。リソース不足などで収益を維持することが困難な中、従業員エンゲージメントが組織の成長やパフォーマンス向上の指標として活用されており、業績を上げるために従業員エンゲージメント(以下、エンゲージメント)を高める動きが進んでいるのです。

人的資本経営において、職場における合理面と精神面のバランスが重要

―従業員の業務への取り組みだけでなく、業務に付随するコミュニケーションもエンゲージメントの影響要因として注目されているのですね。

はい、従業員にとって組織内でコミュニケーションの場は様々ですが、直接的なコミュニケーションを取る職場でのコミュニケーションが多くを占めます。そのため、職場のコミュニケーションがエンゲージメントを左右すると言っても過言ではないと思います。

現代では、物的資本よりも人的資本が生産性やイノベーションのカギを握る産業構造へとシフトしており、組織の人的なパフォーマンスを向上させるため、職場には業務上の合理性を追求する側面と、信頼関係を築く側面の両方が求められます。合理面と精神面のバランスを調整するのがコミュニケーションであり、職場での良質なコミュニケーションが良い職場環境を形成する要素となります。

ドイツの社会科学者フェルディナント・テンニースが提唱した「ゲゼルシャフト」と「ゲマインシャフト」の概念は、職場におけるエンゲージメントの特性について理解を助ける重要な枠組みとなります。

―職場はゲゼルシャフトとゲマインシャフトの両方の側面を持つということですね。詳しく教えてください。

ゲゼルシャフト(利益社会)とゲマインシャフト(共同体社会)は、社会構造の対照的な概念として位置づけられます。
ゲゼルシャフトは国家機関、政党、大企業のように、契約や合理的な目的でつながる集団を指します。英語では「ソサイエティ」に対応し、現代の企業組織の多くがこの構造のもとで動いています。
一方、ゲマインシャフトは、血縁や地域共同体、職場内のサークルや創業期のベンチャー企業など、情愛や精神的意思でつながる集団を指します。ドイツ語の「ゲマイン」は「分かち合う」という意味を持ち、英語では「コミュニティ」と訳されることが多いです。

職場は基本的にはゲゼルシャフトの一部ですが、職場環境が少人数で構成され、従業員間の密接なコミュニケーションが求められる点では、ゲマインシャフトの要素も含まれています。結果として、合理的側面と精神的側面が併存する二重構造を持つのが職場の特徴です。

エンゲージメント向上の肝は「一緒に仕事したい」と思えるリーダーの存在

―職場の人間関係が良好だからこそ、チーム共通の目標に邁進できるというシーンが想像できます。従業員にとってエンゲージする対象は、組織そのものから職場へと変わりつつあるということでしょうか?

エンゲージメントサーベイでは、従業員の組織への帰属意識が年々低下していることが明らかになっています。かつては組織全体への忠誠心がエンゲージメントの指標とされていましたが、現在では「気の合う人と仕事ができるかどうか」に重きを置く傾向が強まっています。

この変化により、従業員にとってエンゲージメントの「客体」が組織全体から、より近しい人間関係や直属の上司へと移行しているのです。例えば、ある組織でエンゲージメントスコアが高かったとしても、それが組織への忠誠心によるものではなく、特定のリーダーやチームの人間関係によるものであるケースが増えています。
結果として、職場でのエンゲージメントを高めるためには、従業員が「一緒に仕事をしたい」と思えるような優秀なリーダーを育てることが不可欠です。

組織文化や理念の浸透だけではエンゲージメントは向上せず、リーダーがチームメンバーとの信頼関係を築き、チームのモチベーションを高めることで、最終的に組織全体のエンゲージメント向上につながるのです。

エンゲージメントサーベイ最終章は近田に意見を聞きました。
組織へのエンゲージメントが注目されるようになった今、従業員個人がエンゲージメントサーベイ回答時に思い起こす「組織」とは何なのか、根本に立ち返ってみました。個人にとって「組織」から細分化した「職場」や「上司」へのエンゲージが重視されるようになったため、より「○○さんと仕事をしたい」と思われるリーダーの育成が急務になるだろうと近田は述べました。ゲゼルシャフト的要素である合理性とゲマインシャフト的要素である信頼関係の両面を意識した上で、コミュニケーション施策を考えてみてはいかがでしょうか。

(文:吉備奈緒子)

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