「働き方改革、なんでやらなきゃいけないの?」 組織のお悩みぶっちゃけ劇場 vol.1
目次
【この記事のポイント】
・「長時間労働」が標準の働き方になっている職場は、能力があっても長時間労働できない人材のモチベーションを保ちにくく、人材採用においても不利
・採用・教育した人材が働きづらくて辞めていくのは会社の損失、能力のある人が力を発揮できないのは社会の損失
・働く側にとっての働き方改革の意義は「病気療養・子育て・介護などの理由からフルコミットで働けなくなっても、辞めずに済む組織づくり」にあり
人が集まって仕事をする場があれば、コミュニケーションにまつわる悩みはつきものです。組織の中での立場が異なれば直面する課題もさまざま。さて、ここでは仕事において色々な課題に直面する組織人の本音トークを覗いてみましょう。あなたのお悩みを解決するヒントが何か見つかるかもしれません。
今回のテーマは、いま話題の「働き方改革」。
それでは、組織のお悩みぶっちゃけ劇場の、はじまりはじまり~~。
※この記事はフィクションです。登場する人物、組織などはすべて架空のものです
<目次>
【今回の登場人物】
- 田中:
36歳。都内にある中堅IT企業の人事部に所属。家族は同じ会社の宣伝部に所属する妻(時短勤務中)と、3歳の娘、6ヵ月の息子。首都圏の分譲マンションに暮らし、片道1時間かけて通勤する。最近会社の「働き方改革プロジェクト」のリーダーに任命された。
- 斉藤:
36歳。都内の老舗消費財メーカーに勤務する肉食系営業マン。東京下町の私鉄沿線ワンルームマンションにひとり暮らし。
- 本田:
35歳。都内にあるベンチャー企業に、組織コンサルタントとして勤務。都心近くの賃貸マンションに、公務員の妻、小学1年生の息子と暮らす。
堂々と好きなだけ働かせてほしい!?
本田・田中・斉藤:「乾杯!」
- ゼミの同期で飲むなんて久しぶりだな。前に集まったのっていつだっけ?
- 本田んとこの、子どもが産まれる前だったよな。奥さんが里帰りしてて。
- あーそうだ、もう7年前か。あの頃は3人とも時間があったなあ。2人とも最近どうよ?
- 斉藤はここんとこ会議やら接待やらで毎日終電コースらしいじゃん。
- 毎日終電は大げさだけど、まあ、働いてるねえ。仕事以外なんにもしてないっちゅーか。
- 斉藤、入社以来12年間ずっと営業? やっぱりノルマとか相当厳しいの?
- 数字の達成は当たり前なんだけど、ここ数年は後輩の指導だったり、支店横断のプロジェクトメンバーに任命されたりとかで、営業以外の業務がどっと増えてきてる。でも背負ってる数字は減らないから結局長時間労働。
- ブラックじゃん。
- そうはいっても上司も同じ道通ってきてるから、仕事減らしてほしいとも言えないよね。まあ俺、仕事が趣味みたいなもんだし。別に嫌じゃないよ。
- 趣味といえば学生の頃は毎年バイクで北海道行ったりしてたじゃん。最近は乗ってないの? バイク。
- あー、だいぶ前に売ったよ。全然乗る時間ないのに維持費がばかにならないから。
- そういえば、バイク仲間で学生時代から付き合ってた彼女は?
- とっくに別れたよ! 聞くな! バイク売った話の時点で察しろ!!!
- そんで、いまは彼女いるの?
- 前の彼女と別れて以来何年もいないわ! 聞くなーーーー!!!
- あのさ、斉藤がバイク売ったのも彼女がいないのも、仕事が忙しすぎるからじゃね?
- うっさいな。俺は営業の仕事が好きなんだよ。最近本社が働き方改革とかなんとかで、やれノー残業デーだとか、プレミアムフライデーだとか言いだしてるけどさ。早く帰れってったって仕事は終わらないし、堂々と好きなだけ働かせてほしいよ。
- まあお前の今の生活だったら早く帰ってもやることないよな…。
- なんだとおー? お前はいいよな。可愛い奥さんと子どもの顔が見たくて、一刻も早く帰りたいんだろ。
- いや、既婚者も大変っすよ。俺、こうやって友達と飲みに行くなんてもうこれで最後かもと毎回思ってる。
- なんでよ?
- うちの奥さんいま時短勤務なんだけどさ、職場で肩身が狭くて思うように力を発揮できないのが相当なストレスみたいでさ。なんで私ばかりに家事育児の負担を押し付けるんだって、家に帰ると毎日のように責められてる。今日も相当な根回しと説得の末にやっと出てきた。
- 田中がもうちょっと家事育児頑張って、たまには奥さんが思う存分仕事するなり飲み会に行くなりできるようにしたらいいんじゃないの?
- それがさあ、俺、新しいプロジェクトのリーダーに任命されたばっかりで、そのプロジェクトが迷走しっぱなしで、早く帰るどころか土日も持ち帰り仕事してるありさまなんだよね。斉藤が迷惑がってる、働き方改革プロジェクトな。
働き方改革は、働く側にメリットがあるのか?
- ははあ。そんな働き方改革プロジェクトのリーダーであるお前に聞きたいことがある。何で働き方を改革しなきゃいけないんだ?
- そこなんだよなあ…。
- 何?
- 最近、ノー残業デーについての社員アンケート取ったんだけど、こんな声が多数派なんだよね。
「結局隠れ残業や持ち帰り仕事になるだけじゃないのか?」
「顧客が希望する期限までに仕事を仕上げるには残業するしかない」
「顧客が遅くまで仕事をしている以上、業務時間外に急ぎの連絡が入ることがある。融通の利かない取引先というイメージを持たれたら競合に負けてしまう」
- わかるわかる。
- あとは「残業代が生活費の一部になっている、残業できなければ住宅ローンが返せないし、子どもの進学を諦めなければいけない」「早く帰ってもやることがないし、家庭に居場所がないから困る」みたいな悲痛な声も。
- 働き方改革って、ようは会社が残業代を節約したいだけなんだろ? 働く側にとってメリットがある気がしないんだよね。
- でもさ、田中の奥さんは時短勤務にストレス感じてるんでしょ。社員全員が残業せずに定時退社するようになったら、今ほど肩身の狭い思いをしなくて済むんじゃないの?
- いやそれがそうじゃないんだ。結局、将来フルタイムに復帰することが前提だから人員の補充がなくて、奥さんが早く帰る分他の人に負担がかかってるんだよね。その人たちにアウトプットを減らさずに定時退社しろっていったらますます負担が増えるわけで。
- あー…。
- うちの部署にも時短勤務中の人がいて、その人がいないときに俺がフォローすることも多いから、支える周囲の人たちが辛い状況もわかる。
この前奥さんが家で、「私は普通に子どもを育てて普通に働きたいだけなのに、なんでこんなにあっちこっちに頭下げて謝ってまわらなきゃいけないの!」ってキレたんだけどさ…、たとえ上司や同僚が「大変だね~」「お互い様だから気にしないで~」ってニコニコしてても、そこで当事者が「本当にご迷惑おかけして申し訳ありません」って殊勝な顔して頭下げなかったら雰囲気が悪くなる一触即発の空気が容易に想像できるからさ…
- 「君は精いっぱいやってるから、堂々としてればいいんだよ!」なんて口が裂けても言えない感じ?
- そう(ため息)。そんなんでノー残業デーが浸透するわけないじゃん? いちおう今後、管理職の評価指標に部署全体の残業時間とか有休消化率を入れる予定なんだけど、もちろん当の管理職は大反対で、うちの部署はあっちこっちから圧力を受けてる。そして俺は早く帰れず、また奥さんがキレる悪循環。
- そりゃ現場は反対するよな。無理矢理休暇取らせようとしたら部下が隠れ残業するか、管理職が仕事を抱え込んで過労でバタバタ倒れるか、みんなが仕事を投げ出して売り上げが激減するか、いずれにしても会社は破滅コースだろ。
仕事を続けたいのに続けられない人が多すぎる
- あのさ、本田の勤めてるコンサル会社は働き方変革の支援もやってるんだって?実は今日はそのことを聞きたかったのもあって誘ったんだけど。働き方改革ってそもそもなんでやらなきゃいけないの? 苦しむ人が増えるだけなんじゃないの?
- うーん、理由はいろいろあるけど、ひとつは田中の奥さんみたいに子育て中の女性だったり、家族の介護や自分の病気なんかで働く時間に制約のある人にも働きやすい環境を作ることかな。せっかく採用して教育した人材が働きづらくなって辞めていくのは会社にとって大きな損失だし、能力のある人間が力を発揮できないのは社会にとっても損失だ。
- その話よく聞くけどあんまりピンとこないんだよね。俺らの親の時代は女性は就職しても寿退社で専業主婦が多数派だったわけじゃん。そもそも子育てや介護を担う人も働かなきゃいけないの?
- 斉藤はさ、もし結婚した相手に、私働くからあなた専業主夫になって家事育児介護全部やってよって言われたら、喜んでやる?
- んあ?? あー、養ってもらえるなら、ちょっといいような気もするけど…。
- 遊んでられるわけじゃないぞ。例えば自分では何もできない乳児の命を背負って365日気が抜けず、昼も夜もなく家事育児で外出もままならず、生活はギリギリだが働きにも出られず、妻は長時間労働で家には寝に帰るだけ。そして自分が12年間積み上げてきたキャリアは振り出しに戻って、たとえ時間ができて再就職しようと思っても不利な条件ばかり。だったらどうする?
- それは悩むな…。
- でしょ? 家事や家族のケアは誰かがやらなくてはいけない仕事だから、専業主婦・主夫は無給といえども立派な仕事だ。でも、ケアの必要な家族がいるかどうかとか、家庭内での役割、経済的な余裕、家庭環境は人によってそれぞれだよね。そして主婦・主夫になりたい人や向いている人もいればそうでない人もいるよ。問題は、いまの社会では「仕事か家庭か」の選択を迫られて「仕事を続けたいけど続けられない」人が多いこと。
- もしうちの奥さんが専業主婦になったら…って考えると、俺一人の稼ぎで家族4人の生活を支えてさらに老後資金を貯めるとかしんどいなー。俺らの世代は将来の年金も当てにできないし、自分だけが家計の責任背負うとかリスクが高すぎる。
- ちなみに、一生正社員で働くのと、いちど退職して子育てに専念して子供が大きくなってからパートで働くのとで、女性の生涯年収って1億円以上ちがうらしいよ。
- 1億円以上?? それなのになんでみんな辞めるの?
田中みたいに帰りが遅くて家事育児に非協力的な旦那が多いから??
- 俺だってそれなりに頑張ってるつもりなんだけど…モゴモゴ…。なんでそんなに突っかかるんだよ。
- 実はさ…、俺が手塩にかけて育ててた女の後輩が、妊娠したとかいって先月辞めたんだよ。将来は支店の稼ぎ頭になること間違いなしの期待の人材だったんだ。それなのに、旦那も忙しいし、体調も不安定だから職場に迷惑をかけてしまうからとか言ってさ。
- 斉藤の会社には、子育てしながら働き続けてる女性社員は多いの?
- うーん、産休育休を取る人はたまにいるけど、復帰後しばらくして辞めることが多いな。残っている人も補助的業務が中心で、子持ち女性の管理職はほとんどいない。だから正直「女性社員を本気で育ててもどうせ辞めていくし…」みたいな諦めムードもある。でもうちの後輩はそうじゃないと思ってたのに。「お前もか!」ってショックで。
- どうして辞めていくんだと思う?
- 田中の話にもあったけど周囲に迷惑かけるからじゃないかな。4時に帰るとか、子どもの病気で急に休むとか、その分周りにしわ寄せがくるし。俺の後輩もそうだけど、真面目なやつほど産む前に辞めてく気がする。
- じゃあさ、社員全員が4時で帰って、平日も柔軟に休みがとれる職場だったら彼女たちは「迷惑かけてしまう」なんて思わずに働き続けられたわけだよね。好きなだけ働かせろって長時間労働してる斉藤みたいな社員が多いから、肩身が狭くなって辞めていくんじゃない? 見方を変えれば、お前の会社で長時間労働してる子持ち男性社員の向こう側には、子育ての負担を一身に背負って仕事を諦めざるを得なかった奥さんもいっぱいいるだろうよ。
- むむむ…。
- それにさ、優秀な人材を採用したいと思っても、「長時間労働できる人」だけが対象になるなら対象者が相当減るよね。どんなに優秀でも将来的に結婚や出産を考えてる女性や、家事育児をちゃんとやりたいと思ってる男性は来てくれない。今後の少子高齢化の社会で、そのスタンスでやってたら採用自体が相当困難になるよね。
そして、もし斉藤が長期療養の必要な病気にかかったり、両親の介護のためにしょっちゅう休暇をとることになったりしたら、自分も肩身が狭くなって仕事を辞めざるを得ないんだ。
- それは困る。
- だから、できるだけ業務を効率化して短時間で成果を上げるのと同時に、限られた時間でも一人前として活躍できる、多様な働き方が認められる組織づくりが必要なんじゃないかな。そうすればいざ自分がフルコミットで働けなくなっても辞めずに済む。
毎日定時で帰って柔軟に休みもとれるなら、斉藤も彼女と別れることもなかったかもしれないし、ツーリングも楽しめるだろう? 勉強してキャリアアップすることもできるかもしれない。働く側にとっての働き方改革の必要性って、そういうことじゃないのかな。
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よくある質問
- これからの時代に求められる多様な働き方とはどんなものですか?
働く時間に制約のある人にも働きやすい環境が当たり前になることです。採用して教育した人材が働きづらくなって辞めていくのは会社にとって大きな損失であることと、能力のある人間が力を発揮できないのは社会にとっても損失です。
株式会社ソフィア
コミュニケーションコンサルタント、コンテンツプランナー
瀬尾 真理子
組織内広報の改善やメディア・コンテンツの立ち上げ、運用支援を担当しています。企画・編集・制作はもちろん、コミュニケーションの体制作りやプロセス改善、担当者のスキルアップセミナーなども承ります。
株式会社ソフィア
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