「社員アンケートって本音で回答してる?」組織のお悩みぶっちゃけ劇場 vol.3
目次
【この記事のポイント】
・アンケートに社員の本音が反映されるかどうかは、組織の文化や社員の状態に影響される
・依頼の仕方や質問の仕方ひとつで、回答率や回答の精度は変わる
・社内アンケートはひとつの社内コミュニケーション。社員の心情や行動、組織の力学を踏まえた設計が重要
人が集まって仕事をする場があれば、コミュニケーションにまつわる悩みはつきものです。組織の中での立場が異なれば直面する課題もさまざま。さて、ここでは仕事において色々な課題に直面する組織人の本音トークを覗いてみましょう。あなたのお悩みを解決するヒントが何か見つかるかもしれません。
今回のテーマは、「社員アンケート」。あなたはアンケートに本音を書いていますか?
それでは、組織のお悩みぶっちゃけ劇場の、はじまりはじまり~~。
※この記事はフィクションです。登場する人物、組織などはすべて架空のものです
<目次>
【今回の登場人物】
- マユミ:
42歳。都内にある商社の広報部の社内広報チーム課長。家族は他社に勤める研究職の夫と、保育園に通う4歳の息子。
- カオリ:
38歳。同じ会社の人事部に所属し、現在は主任。10年前に他業種から転職してきた。マユミとはスタッフとして参加した女性社員向けのキャリア支援イベントで出会った。自営業(カメラマン)の夫と二人暮らし。
アンケート結果と社員の実態がかけ離れているのはなぜなのか
社内で従業員向けにアンケート調査を行った際、分析結果が実態と大幅にずれている、といったことが往々にして起こります。原因としては、たとえ匿名であってもネガティブなことを書くと回答者を特定されて自分や上司の評価に影響するのではないか、という懸念や、会社への要望を書いたところで現状は何も変わらない、という社員の諦めがあることが考えられます。この記事では、社内コミュニケーションについてのアンケート結果に納得のいかない広報部のマユミと、従業員満足度調査を毎年担当している人事部のカオリが、社員アンケートの謎を解き明かします。「どんな質問をしたらいいのか」「どんな答え方をしたらいいのか」と悩むあなたへのヒントがここにあるかもしれません。
- マユミさ~ん、こっちこっち。さっきLINEで連絡もらったランチセット、注文しときましたよ。
- あー、カオリちゃんありがとう。急に誘った上に遅れてごめんね。いやー、外でお昼食べるのも久しぶりで嬉しいわ。
- 私もなかなか他部署の人とランチする機会がないんでお誘い嬉しいです。マユミさん、最近いつも仕事しながらデスクでコンビニ弁当でしたね。
- そうそう、ほんと寂しいわ。同じフロアで仕事してるのになかなか話せないよね。でも昨日社内報が校了したから、今日はちょっとのんびりできるよ。
- やっぱり子育てしながら管理職は大変だ~~~。
- うん、でも大変なだけじゃなくて結構面白いよ。まあその話はまたゆっくりと。今日はカオリちゃんに訊きたいことがあって。
- はい。私に答えられることならなんなりと。
- このあいだ広報部で、社内コミュニケーションについての全社アンケートをやったんだよね。
- あ、私も回答しましたよ。
- そうそう、社内アンケートのまとめをいまやっていて、経営層へ報告するためのレポートを作ってるんだけど、どうも気になるところがあってさ。カオリちゃん、人事部でずっと従業員満足度調査の担当してるんだよね?
- はい。どこが気になりましたか?
- 職種や地域によって結果にばらつきがあるのはまあ普通だし、同じ職種でも職場によってばらつきがあるのもわかるんだけど、どうも、周囲からみて受ける印象とアンケート結果に大きなギャップがある部署がいくつかあるんだよね。
- それってもしかして…
- 概要の資料持ってきてるよ。見る?
- やっぱりこことここですか。実は人事部のアンケートでも同様の結果が出てます。
- どういうことだと思う?
- 憶測なんではっきりしたことは言えないんですけど、職場特有の暗黙のルールがあるみたいで…、アンケート結果で上司の評価が下がるといけないから優等生的な回答をしているのではないかと読んでいます。
- えーっ、それって上司が圧力かけてるんじゃないの?
- とくにパワハラの噂は聞かないのでそうではないと思うんですけどね…。匿名とは言っても地域や職種、性別や年代は入力しますから、個人を特定されるかもしれないと心配するのもまあわかります。結果を気にする上司もいれば、勝手にあれこれ気を回して無難な回答しかしない部下もいるみたいなんですよね。でもあくまで憶測だし何の証拠もないので、私がこういうこと話したって他の人に言わないでくださいね。
- わかった。でもこれ、経営層に報告するときにどうしたらいいんだろう?
- 事実関係がつかめているわけではないので、人事部もどうにもしようがないんですよね…。出た結果をそのまま報告するしかないのではないかと。
本音が言えない組織、気軽に相談できない組織
- この2部署は極端な例なんだけど、実際に社内報の取材なんかであちこち見てまわって、いろんな人と話して受ける印象とくらべると、全体的にアンケート結果が良過ぎるんだよね。
- 「このくらいやってたら、OKだろう」って、自己評価が高すぎるのか、自部署や上司の評価を気にして優等生的な回答をしているのか。
- なんとなくだけど、後者のような気がするなあ。うちの会社の人たちって真面目だし、自分の仕事には厳しい人が多いよね。
- 私もそう思います。一人ひとりは真面目なんだけど、組織の風通しが悪すぎる。組織を越えた連携の動きが、なかなか出てこないんですよね。それは人事部でもずいぶん前から深刻な課題と認識してます。
- あっ、人事部もそう思ってるんだ!なんでいつまでたっても変わらないんだろう??
- 社長は風通しの悪さを問題視してるし、ずっと変えようとしてますよ。最近会社として社内広報に力を入れて、アンケートを取ったりしているのもその表れだと思います。でも問題の根は深くてですね…。
- 組織にがっちり根付いたザ・忖度(※)文化だよね。
- そのとおりです。組織のお作法に則っていなければ、だれかが何かを変えようと声を上げてもすぐ潰されるんですよね…。それがわかっているから、問題意識を持っている社員も目立つことを嫌って自分の意見を引っ込めてしまう。
- でも社員アンケートってさ、そういう職場では直接言えない社員の本音をあぶりだすためのものじゃなかったのかなあ。「匿名アンケートですら本音で答えてくれない」ことがわかったのは一つの収穫かもしれないけど、そんなこと人事部はとっくの昔に知ってたんだよね。これじゃ費用の無駄遣いだ。
- 知ってました。アンケート実施前に相談してほしかったですよ…。設問設計を工夫することで回答者が本心で質問に回答しているのかどうかを判断し、調査結果と現実とのギャップを縮めることもできるんです。うちの部署はそういった点も踏まえて外部の専門家に調査設計を依頼しています。
- そうなのかー。見よう見まねで、自分たちで設計したから甘かったんだなあ。あと、回答率も思ったよりずっと低かったんだよね。
- 依頼文の書き方や、依頼方法で回答率が変わったりもしますよ。担当部署からの個別メールだけではなかなか答えてもらえないときは、社長から管理職へメッセージを発信して、回答するよう部下に働きかけてもらったりしますよ。社員アンケートを取るってことは「会社がいまこのテーマに力を入れています」「このことについて、皆さんの声を聞きたい」っていう経営からのメッセージですから、組織のラインにのっけて情報を出していくのが効果あると思います。
- それって社内コミュニケーションそのものだよね…。
- 言われてみればそうですね。
- 急に決まったアンケートだったといえ、私、やり方がだいぶ拙速だったなあ。気軽にいろんな人に相談すればいいんだけど、なんか存在が遠いよね。同じフロアの別の島で仕事してて、間に壁も何にもなくて、毎日顔見てるのに。なんで相談しようと思わなかったんだろう。
- やっぱり上司とか周囲の目はちょっと気になりますよね。あいつ勝手に何してんだ、みたいな。
- 同じ組織にいて、お互い役に立つ情報があれば共有するのは当たり前じゃん? 私の仕事は気軽にそういうコミュニケーションができる環境を作ることなのになあ、自分自身がどんだけ実践できてないのか今気付いたわ。
「自由回答なんて書いても無駄」と思われないためには
- いや、マユミさんは頑張ってますよ。数少ない女性管理職の中でもいちばん身近な存在だし、なんというか人間らしくて。
- 「人間らしい」って(笑)。たしかに、いまよりずっと女性管理職が希少だった時代から頑張ってる先輩たちはみんな信じられないほどよく働くし、上司や部下とのコミュニケーションも完璧だけど、常に目が笑ってないよね。
- わー、またそんな本当のことを。でもしょうがない面もありますよね。とにかく地位とか立場とかメンツとかにこだわって懐の探り合いをしてる、まだまだ男性中心のムラ社会の中でうまく立ち回ろうとしたら、人間らしい感情もすり減っていきますよ。
- でもそのまんまの状態でいいわけないじゃん?どれだけ個人の能力が高かったり、いいアイデアをもっていたりしても、組織文化のせいでその能力や志、アイデアを活かせない人がいたらもったいない。
- ですよね。今のままでは、もともとやる気のある人のモチベーションは下がって、会社の競争力も伸びません。
- 問題意識を持っている社員の声が聞きたいよね。匿名アンケートでも本音で答えてもらえないのに、どうしたら社員の本音を拾えるんだろう。
- そういうマユミさんは、アンケートにいつも本音で回答してましたか?
- うーん………してないな。してなかったわ。いまでこそ立場上ちゃんとやるけど、従業員満足度調査なんてほぼ毎年同じで「ああまたか」って感じだから、若いころはかなりやっつけで回答してたかも。ある程度は本音だけど、自由回答の欄なんて書いたってどうせ何も変わらないし、書くだけ無駄って思ってた。そもそもみんな忙しいのにアンケート多すぎるよね。
- やっぱり「書くだけ無駄」って思っちゃんうんですね。ちゃんと結果は経営陣に報告しているし、人事の施策にも生かされてるんですけど。
- それが社員からは見えないよね。一般社員には調査結果公開してないでしょ?
- それは、さっきからの話に出てきているように、アンケート結果が必ずしも実態を反映していないんじゃないか、というような事情もあって…。
- そこも含めて全部結果を公開して、「ここが課題です!」ってぶっちゃけたらいいんじゃないかな。そうだ、まずは社内コミュニケーションについてのアンケート結果について社内報で特集組もう。
- あ、それいいですね。
- 特集には社長も登場してもらって、社長が考えている社内コミュニケーションの課題について語ってもらう。そして、「組織を変えていく!」って宣言してもらうの。社長の全国キャラバンを組んで、社内コミュニケーションについて現場と対話会をするのもいいな。
で、つぎは人事部の従業員満足度調査を社内報で取り上げる。
- えっ!それは人事部に話が通らない気がする…。
- 何言ってんの、カオリちゃんが従業員満足度調査の担当者として誌面に出るんだよ。私、カオリちゃんにはもっともっと人事部で暴れて周りの社員を刺激してほしいんだよね。
- いや、誌面に出るのは勘弁してください…。私、これでも暴れてる方ですよ。中途採用組だからなんやかや外の視点で遠慮なくモノ言うし、部長からは空気読まないキャラ認定されてますよ。これ以上敵が増えたら…。
- よし、それなら空気読まずに部長に依頼してきて!!大丈夫、カオリちゃんが人事部長に嫌われたら広報部に異動できるよう私から広報部長に推薦しとく!! 広報部長は話がわかる人だから安心して!
- マユミさんの目が今まで見たことないほど輝いてる…。私もしかして逃げられない感じですね??
- もちろん! この企画は実現したら必ずヒットするよー。うちの会社が変わるかもしれない!取材が楽しみ!
- ひえーーーー
※忖度(そんたく):他人の気持ちを推し量ること。組織の中では「暗黙のルールに従う」「上司の意向を読み取って先回りして動く」等の意味で使われることも多い。
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よくある質問
- アンケート結果に実態が反映されないのはなせかですか?
分析結果が実態と大幅にずれている、といったことの背景には、たとえ匿名であってもネガティブなことを書くと回答者を特定されて自分や上司の評価に影響するのではないか、という懸念や、会社への要望を書いたところで現状は何も変わらない、という社員の諦めがあることが考えられます。
- アンケート結果に本音を書かないのはなぜですか?
組織に根付いた本音が言えない、気軽に相談できない文化です。問題意識があっても目立つことは避け意見を出さない従業員がいます。アンケート結果は経営に報告されて人事の施策にもいかされているも、従業員からすると風通しが変わっているように見えないことが問題です。
株式会社ソフィア
コミュニケーションコンサルタント、コンテンツプランナー
瀬尾 真理子
組織内広報の改善やメディア・コンテンツの立ち上げ、運用支援を担当しています。企画・編集・制作はもちろん、コミュニケーションの体制作りやプロセス改善、担当者のスキルアップセミナーなども承ります。
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