2018.08.27
苦手だからこそ飛び込むコミュニケーションの世界【あの人の本棚 Vol.8 幾田一輝】
読んだ本は試行錯誤の数
今回の「あの人の本棚」は、昨年5月にソフィアに入社し、調査分析や組織変革のプロジェクトを担当する幾田一輝。前職のNPOではファシリテーターを経験し、ソフィアでも人の価値観やコミュニケーションと向き合う日々を送る彼が、気づきや学びを得てきた4冊を紹介してもらった。
《今回の本棚》
『世界征服は可能か?』岡田斗司夫著(筑摩書房)
『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』平田オリザ著(講談社)
『かかわり方のまなび方――ワークショップとファシリテーションの現場から』西村佳哲著(筑摩書房)
『スクリプトドクターのプレゼンテーション術』三宅隆太著(スモール出版)
―今日は面白そうな本をいろいろ持ってきていただきました。この『世界征服は可能か?』なんてすごいタイトルですね
大学1年生の頃に、「なんだこれ」と思ってタイトル買いしました。別に世界征服をしたかったわけではないんですけど、ぼくが思春期の頃(90年代後半~2000年代前半)は何かと暗いニュースが多くて、何となく「人間って悪い事ばっかりするし、いっそのこと世界なんて滅んでもいいんじゃない」ってふと思った時があって(笑) まじめに世界征服を考えている本に、馬鹿らしくも何となく惹かれるところがあったんでしょうね。
これはアニメや映画に出てくる悪役の多くが目指している「世界征服」とは一体何なのかについて書かれた本なんですが、作者は、自由主義経済社会の現代では、悪の組織はそれに反発して非営利のボランティア団体みたいなものになるのでないかと言っているんですよ。ぼくは前職でNPOに勤めていましたが、この本に出会った頃にはNPOなんて全く興味がなかったので、最近読み返してみて自分とのつながりにびっくりしています。
―こちらの『わかりあえないことから』は私(インタビュアー:岡田)も読みました。演劇を使ったコミュニケーション教育に関する本ですよね
そうそう、NPOで仕事をしていた頃に出会った本なのですが、「人間はわかりあえない」という前提に立とうという内容にすごく共感しました。欧米人と日本人みたいに見た目ではっきりと価値観が違うだろうという前提でコミュニケーションができればまだいいんですけど、同じコミュニティや組織にいると、ある程度共通項があるから「わかりあえる」前提で話してしまって、齟齬が起きるんだと思います。NPOでは、スタッフ、ボランティアは自律的・自発的に行動することが是とされる文化があって、でも人によってその捉え方も違うのでコミュニケーションが上手くいかない場面を見ることもありましたね。
―こちらの『かかわり方のまなび方』はどんな内容でしょうか
ぼくは当時NPOの立ち上げを支援する仕事をしていたので、想いはあるけど実現に悩んでいる人々と向き合う中でこの本を読みました。
作者の西村さんは美術学校で講師をしているんですが、学生に対して本当に必要な「行為・体験をデザインする」ことが教えられないことに悩んでいました。例えば椅子をデザインする本質は「座る」という行為をどうデザインするか、ということなんですが、「座る」をどう捉えるかはその人の価値観やあり方によって変わってきますよね。西村さんはそうした中で人の想いを引き出すファシリテーションに出会い、ファシリテーターの人たちに何人もインタビューをしてこの本にまとめています。これを読んで、ときには人の生死まで分けてしまうファシリテーションの影響力にすごく衝撃を受けました。
―ファシリテーションはお好きですか?
好きではないですね(笑)逆にコミュニケーションに苦手意識があるから、勉強しているのかも……この間もある会社に提案に行ったんですが、本当に大変で。前職でかかわっていた人と企業の人とでは考え方も全然違うし、毎日試行錯誤しています。
―ソフィアの仕事は提案の機会も多いですからね。ではこの可愛い表紙の『スクリプトドクターのプレゼンテーション術』は、最近買ったもの?
先月くらいに買いました。よく聞く映画評論のラジオ番組で、作者の方がゲストスピーカーとして出演していたんですが、話がすごく面白くて。ホラー映画で定番の、物音がしたときの「なんだ、猫か」という展開がなぜあるのかについて滔々と語ったりするんです。この本には、そんな作者がどんなことを考えてプレゼンをしているのかが書いてあります。
―読んでみた幾田さんも、面白いプレゼンができそうですか?
読んだだけじゃ無理です! でも面白いことに、この本でも「対話」というキーワードが出てくるんですよね。プレゼンは自分が思っていることを話す対話なんだ、と。
知らず知らずのうちに、学生の頃読んだ本の内容に近い道に進んでいたり、仕事や立場が変わっても、結局「自分や他人の価値観とどう向き合うか」「人とどうコミュニケーションするか」という自分の中のテーマはずっと変わっていないのかな。
《今回のメンバー》
幾田一輝
担当分野:調査設計・分析