組織づくりのプロ座談会 ー社長、頑張ってもイノベーションが生まれませんでした!ー

イノベーション創出が各社で叫ばれる現代。しかし、いざイノベーティブな組織を実現しようとすると多くの企業が壁に突き当たります。なぜこんなに頑張ってもイノベーションが生まれないのか? 組織づくりや人材育成で考えるべきことは何なのか? 今回はさまざまな方面から組織開発にかかわる3人が座談会形式で語りあいました。

【座談会メンバー】

株式会社IPイノベーションズ 浦山昌志さん

2003年株式会社IPイノベーションズを設立。国内で初のシスコシステムズ認定教育の立上げや、LMSの先進導入等で、新規教育市場の開拓に従事。2008年に現在のATD(米国人材開発機構)メンバーネットワークジャパンをチームで設立し、昨年まで日本代表理事・事務局長を務める。

株式会社Dialogic Consulting 吉田創さん

アメリカでの起業、貿易業やIT、M&Aなど数々の企業経験を経て、2010年みんなの株式会社(現 株式会社Dialogue Consulting)を創業。リーダーシップトレーニング、チームビルディング、ファシリテーションなどの研修トレーナーや組織開発のコンサルタントとして活動中。対話型組織開発の実践者のコミュニティ「たいわるラボ」世話人。

株式会社ソフィア 平井豊康

大手銀行、人事採用コンサルティング、広報支援サービス開発等を経て2005年に株式会社ソフィアに参加。現在は研修・ワークショップ・職場でのOJTといったFace to Faceのコミュニケーションの場の活性化を中心に置きながら、メディアやツールを活用して、意識変革・行動変容・組織開発の促進を支援している。

株式会社IPイノベーションズの浦山昌志さんと株式会社Dialogic Consultingの吉田創さんと株式会社ソフィアの平井豊康

私、イノベーション起こせないかもですが…何か?

平井:最近、どの企業でもイノベーティブな組織づくりが重要課題とされていますけど、実際のところつまずいてしまっているところが多いですよね。

吉田さん:ぼく自身もIT企業を経営していた頃には、イノベーションの生まれる組織を作れていなかったと思います。当時はちょうどITバブルの時代、お金も人も集まる業界だったので自分はイケていると大きな勘違いをしていました。
例えば週次のミーティングをしていて、議題について「みんなどう思う?」と聞く。するとそれなりに意見は出るんですが、都合のいい意見だけ取り入れて、反対意見は全部言い負かしてしまうんですよ。社員はもう意見なんて言いたくないですよね。その沈黙を合意だと思って、勝手に納得して進めていました。こんな状態だから、社員たちにとっても決定事項の優先順位が低く、全然作業が進まないんです。それを見て「お前ら何やっているんだ!」と怒って講釈を垂れたりして……。イケてない社長だったなあと、今でも思い出して恥ずかしくなります(笑)

浦山さん:私も同じですよ。自分自身は次々アイデアが浮かぶタイプなので、どうして若い人からアイデアが出てこないんだろうと不満に感じて、その場をコントロールしようとしちゃうんです。これではいけない、と気づいてできるだけ黙っているんですが、結局途中で口を出してしまうこともしばしばで。今でも失敗の連続ですね。

平井:この業界にいても、なかなかイケてるリーダーにはなれないってことですね(笑)

吉田さん:そうなんですよ。だから世の中のリーダーの皆さんにも、まずは自分が人の話をきちんと聞けているかどうかをよく考えてほしいですね。自分がいかにイケていないかに気づいてほしい(笑) ぼくは、組織課題の八割はリーダーが人の話を聞けていないことに起因すると思っています。

平井:そもそもどうして、イノベーションを潰してしまうイケてないリーダーばかりなんでしょうね?

浦山さん:研修を行っていると、マネジャーとしてのコミュニケーションが不得意な人が結構多いですね。

吉田さん:学ぶ機会がないんじゃないかな。教育機会としても気づきが生まれるプログラムが少ないし、現業でもマーケティングや戦略ばかりに注力することが多くて、人のマネジメントには慣れていないように思います。会議が上手くいかないときも、とにかく「意見を出せ」と言ってしまったり……。それって、お笑い芸人に「面白い事、言え」って言ってるようなものですよね。もっとメタな視点で観察してみたら、前提が共有されていないのかな、体調が悪いのかな、などいろんな原因が見えてくるんですけどね……。

平井:俗人的に気づく機会もないんじゃないでしょうか。10年20年かけて育ってきた今のマネジャーたちは、開放的でクリエイティブな対話や会議なんて見たことがないんですよ。そんな人たちがいきなりイノベーションを生めと言われても、経験もないから、どうやっていいのか、その過程すらわからないですよね。仮に研修でトレーニングを受けたとしても、実際の会議ではアジェンダが山積みで、とにかくそれをつぶしていくことになる。結局会議じゃ手がつかなくて、別の場所で決めてきたものを持ち寄るだけになったりする……。

吉田さん:日本が高文脈な社会であることも影響しているかもしれません。言語的に主語をはっきりせずに話せるので、認識のずれが起こりやすいですし。また、ひと昔前は典型的な価値観があったのでわざわざ語り合う必要がなかったんです。例えば、自分の両親の代がまさにそうですね。「仕事だからやるに決まっているだろう」という考え方で、自分がどう思うかや仕事の目的は、考えない、語らないのが当たり前。当時は言われた仕事をやっていれば偉くなる、給料も上がる、家も建つ、それが誰もが求める幸せだとわかっていたからです。でも、これだけ人が望んでいるものや持っているものが多様になった現代では、それぞれが語り合って「私たちにとっていいものは何か」を見つけ出していかなければなりません。

株式会社Dialogic Consultingの吉田創さん

「何でも話せる場づくり」が組織を救う?

平井:今は、都度そのチームで何をやりたいかをセットアップしていかないと、いいパフォーマンスは出せないってことですよね。

吉田さん:そうですね。その上で、イノベーション創出に必要なのは人が自分から発言すること、自分から立ち上がることだなあと、組織や人を専門とする立場になってやっと痛感しています。

浦山さん:私もそれは実感します。私の会社では、他社を参考にして週1回全社員に会社への改善アイデアを出してもらうようにしました。私はそれに対して、とにかく「いいね!」と言い続けました。そうしたらいつの間にか「これを改善したらどうですか」ではなく、「やっておきました」に変わっていたんです。そのうち、社長の許可なく社員が「わくわく会」という組織を立ち上げました。会社を盛り立てるためにわくわくすることをする組織で、リーダーは役職者でもない一般の社員なんですが、会のメンバーには部長クラスの人もいたんですよ。ポジション関係ないっていう感じでしたね。

吉田さん:心理的安全を確保する、ということですよね。リーダーや経営者は、メンバーが自由に意見を言いやすいような雰囲気、開放的な場づくりをしていかなければいけません。IT企業を経営していた頃のぼくは、人の意見を聞くことは聞き従うことだと思っていました。だから会議でも「どちらが正しいか」という議論しかしなかったんです。そんな場では新しいものは生まれっこありません。

浦山さん:大事なことは、議論などでどちらが勝つか、ということではなくて、対話(ダイアローグ)の場を通して気づきや学びがあるかどうかですね。

平井:なるほど。だとすると、場づくりができればどんなチームでもイノベーションを生み出せるんですかね? 誰もがフランクに意見を言えればそれでOKだと思いますか?

浦山さん:私はいくら場をつくって話しやすい雰囲気を作っても、メンバーの中に想いの強い人がいないとイノベーションは起こらない気がするんですよね。「7分間の奇跡」として有名な新幹線の清掃の例も、本来は時間内に言われたとおり清掃すればそれでいいわけです。でもこうありたい、こうなりたいという強い想いのある人がいてチームを動かしました。だから、場を作るだけでなくて、ミッション・ビジョンを語り続けて、それに呼応する人たちが集まって新しいものを作っていくことが大事ではないでしょうか。目指すものをきちんと掲げている会社は、お客様に対する態度も全然違います。私も会社を立ち上げてから10年が経ったときに、社員と合宿をして「この会社はどうあるべきか」を考え、社員全員で理念を作り直しました。

平井:私は「想いを語る」というプロセスにとても意味があると思います。例えばソフィアは「人と組織を元気にします」というミッションを掲げていますが、若手社員の中には「自分の仕事が人を元気にしているかわからない」という者もいます。でも、それは悪いことではなくて、大切なのはリーダーもメンバーも自分たちが掲げるもの・目指すものについて本気で考えて語るということじゃないでしょうか。

吉田さん:「自分の仕事がミッションにつながっていない」と言うということは、逆を言えば「ミッションにつながるような仕事がしたい」ということですよね。社員にその意思があること、それに対して自分なりの行動を起こしていることがすごく大切なことです。一見正反対に見えますが、みずから発信・行動していくという点で、浦山さんの会社の「わくわく会」と同じなんじゃないかな。

浦山さん:想いは語るだけでなく、行動で示していかないと広がっていきません。そこで実際にいきいきと働く社員がいなければ、いくら立派な想いが語られていても「こうなりたいなあ」と夢を見ているだけになってしまいますから。

株式会社IPイノベーションズの浦山昌志さん

全員が同じ想いを持つ組織からイノベーションは生まれない

平井:お客様先でもよく「社員に想いを持ってほしい」という話を聞きます。でも、そもそも全員が同じように熱い想いを持つことは可能だと思いますか。

吉田さん:非常に難しいと思いますよ。そうした熱い想いを持てるかどうかは、個人の資質や経験も大きく影響してきますから。自分の想いをもとに行動を起こして、実際に成功した経験(自己効力感)がないと、熱い想いを持てないでしょうね。

浦山さん:確かにそういう経験をする人は少ないでしょうね。

平井:限られた人にしか想いが持てないとなると、想いを持ってイノベーションを起こす組織は作れないということ?

吉田さん:いや、ぼくは必ずしも、メンバー全員が熱い想いを持っている必要はないと思うんです。一部の人が熱い想いを持っていて、他の人はそれに乗っかったっていいじゃないですか。大人になっても想いを持って立ち上がるきっかけがないわけではありませんが、よほどのことがないと……。立ち上がるには、大病する、刑務所に行く、貧乏するなど今までの常識を覆されるような経験、もしくはそれに準ずるだけの濃密な対話が必要だと言われています。

浦山さん:ある調査によると、最も変革が起きやすいのは、専門性が異なる人々が集まったチームだそうです。それは想いも同じで、同質化は逆にイノベーションを潰してしまうかもしれません。

平井:全員が同じ想いの組織なんて気持ち悪いですよ。そんなのうそだろ、と思う。そもそも、想いをあまり重く考えすぎる必要はないんじゃないでしょうか。例えば、釣りのために早朝から出かける中年男性がたくさんいます。夜中の2時から釣り場に並んでいたりする。これってすごい熱量だと思いませんか。それぞれ方向は違いますが、誰もが何かしら熱い想いの種のようなものは持っているんですよ。それぞれがその想いを語ったときに、自分たちの仕事やミッションに重なる部分が出てくるかもしれない。そうすれば、早朝にオフィスが空くのを楽しみに待っている社員だって出てくるかもしれないですよ(笑)

吉田さん:仕事もプライベートもひっくるめて、そうしたことが常に語られている職場環境を作る。その中で熱い想いを持った人が、メンバーそれぞれの「想いの種」に火をつけて、チームを動かしていくことができれば、イノベーションは生まれてくるのかもしれませんね。

株式会社ソフィアの平井豊康

株式会社ソフィア

最高人事責任者、エグゼクティブラーニングファシリテーター

平井 豊康

企業内研修をコアにした学習デザインと実践を通じて、最適な学習経験の実現を目指しています。社内報コンサルティングの経験から、メディアコミュニケーションを通じた動機付けや行動変容の手法も活用しています。

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