2018.11.07
守備範囲を超えていけ! 遊撃手人材インタビュー 第4回文部科学省・西川 朋子さん 自分も世の中もワクワクするほうへ
目次
急速に変化する社会の中で組織が生き残っていくためには、型にはまらない自由な発想と行動力をもつ人材が不可欠です。このコーナーでは、大きな組織の中で、自分の仕事の範囲を超えた取り組みで社会に影響を与えてきた方々(遊撃手型人材)に、どのようにして困難を乗り越え、取り組みを進めてきたのかを伺い、こうした人材が育つ組織のあり方を探ります。
第4回は、起業・経営からPRまでさまざまな民間の仕事を経験したのち、官民協働プロジェクト「トビタテ! 留学JAPAN」のプロジェクトメンバーとして新たな環境に飛び込み活躍している西川朋子さんに、チャレンジを楽しみ続ける秘訣を伺いました。
インタビュー実施日:2018年10月5日
【今回の遊撃手】
文部科学省
官民協働海外留学創出プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」
広報・マーケティングチームリーダー
西川朋子さん
(インタビュアー:森口 静香)
〈略歴〉
大学卒業後、留学情報誌を専門とする会社の起業・経営に携わったのち、PR・マーケティング代理店での新規事業立ち上げ、ITベンチャーでの広報を経て、2014年から文部科学省が手がける官民協働の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」プロジェクトチームに参加。
学生たちから受ける刺激がやりがい
- 森口
- 同年代で活躍されている女性の方にお話をうかがえるのが、すごく嬉しいです。よろしくお願いします。さっそくなんですが、今のお仕事について教えていただけますか?
- 西川さん
- 私が担当している「トビタテ!留学JAPAN」は2013年に始まった留学促進キャンペーンです。官民が協働して日本の若者をもっと海外へ送り出そうという取り組みで、2020年までに留学生を倍増させることを目指しています。その中でもフラッグシッププロジェクトである「日本代表プログラム」では、国費を一切使わず、支援企業からいただいた寄付金を原資とした返済不要の奨学金で留学を支援しています。国費を使わないことで、自由な制度設計ができるのが大きな理由です。私たちは、グローバル化が進んでいく今後の社会で必要な人材を伸ばしていくには、いわゆる成績優秀な人が海外の学校で学ぶような留学だけでなく、もっと実践的なプロジェクト型の留学を応援する必要があると思っています。だから、応募要件には語学力も成績もありません。
- 森口
- え、では一体どんな条件があるんですか?
- 西川さん
- 熱意と独自性と好奇心です。ある調査によると、世界で活躍する人の共通特性は好奇心だとされています。「日本代表プログラム」では2020年までに1万人の留学生を選抜して送り出そうと計画しているんですが、最終的にはその1万人がコミュニティになり、好奇心を持って交流し、違いを生かしあって日本を変える化学変化を起こしてくれることを期待しているんです。だから、コミュニティの多様性という意味でもその人なりのとがった思いや熱意がある人を選びます。逆にその条件がそろっていれば、成績がボロボロでも、TOEICの点数が低くても受かります!(笑)
- 森口
- 実際にはどんな留学生がいるんでしょうか。
- 西川さん
- パルクール(走る・跳ぶ・登るといった移動動作を通じて心身を鍛えるスポーツ)の日本トップ選手で、海外で競技を学んできたという子、「日本の抹茶の可能性を広めたい」と世界3都市を回って抹茶のマーケティングをした子、シリコンバレーのIT企業でインターンをする子、ベトナムでゲストハウスを運営するという子……とにかく自由ですね。十人十色で面白いです。彼らは海外での受け入れ先も自分で見つけて、履歴書を送ってアポを取るんですよ。学生たちと一緒にいると本当に刺激をもらって、自分ももっと頑張らなきゃいけないなと思います。
- 森口
- すごいですね! そんな中で、最近一番面白かったお仕事は何でしょうか。
- 西川さん
- えー、ありすぎて迷いますね……。最近「#せかい部」という高校生向けのソーシャル部活動を立ち上げていて、先日高校生運営メンバーとのキックオフがあったのですが、すごい子ばかりで驚きました。ソーシャルメディアマーケティングの会社を立ち上げて運営している子や、通信制の高校に通って、世界を旅しながらレポートを書いている子もいて、多様化を感じています。場所に縛られずに自分の学びたいことを学ぶ、これからの時代の先陣を切っている子たちに出会えて「面白い時代が来そうだな」とわくわくしました。同時に彼らの好奇心に負けていたら老害化するんだなという恐怖心もあります。だからできるだけ若い彼らの思っていることを聞いて、たくさん刺激を受けるようにしています。
自分らしく、楽しく、世の中を良くしたい
- 森口
- そもそも、どういった経緯で今のお仕事をすることになったのでしょうか。
- 西川さん
- このプロジェクトは、世界経済フォーラムに選出された日本人のヤング・グローバル・リーダーズのメンバーと下村元文部科学大臣との会食がきっかけで立ち上がったものなんです。そのメンバーのひとりで現在「トビタテ!留学JAPAN」のプロジェクト・ディレクターをしている船橋力さんと私がもともと知り合いで、「こんなプロジェクトがあって、民間人材の公募があるよ」と教えてもらいました。
実は、大学の途中までは外交官経由で国際公務員を目指していて、公的な立場から社会貢献することにずっと憧れていたんです。ただ自分が公務員に向いていないことに気がついて挫折して、留学など海外情報メディア事業を行っているベンチャー企業に入社しました。その後、留学関連の事業を営業譲渡してもらい20代にして自分で経営することになりました。いつか社会起業家になりたいという思いもあったので、まず経営経験を積みたいと思って……でも30代になって、自分が狭い業界やビジネスモデルしか知らないなと感じ焦るようになりました。結果として会社を仕事のできる副社長に託して、上場前のトレンダーズ株式会社に転職し、5年間女性の起業支援やPRプランナー・ソーシャルメディアマーケティングの新規事業立ち上げにかかわる仕事などに携わりました。上場も間近で見られて充実した日々ではあったのですが、あるとき社内セミナーの講師としてやってきた株式会社ココナラの南章行社長のお話にすごく感動してしまったんです。その場で飲みに誘って、結局その後ココナラの広報として転職しました。それから1年ほど経った頃に船橋さんに声をかけられ、今の仕事に就きました。
- 森口
- 思い立ったらまっしぐらなところは、自分も身に覚えがあって共感します(笑) さきほど学生時代に自分は公務員に向いていないと気づいて挫折したとおっしゃっていましたが、どのような経緯でそのことに気づいたんですか?
- 西川さん
- 子どもの頃は「国際公務員になれば世界平和に貢献できる」と単純に考えていたんですが、大学入学後に国際NGOでインターンをしたり、外交官や国連職員として働く先輩方からお話を聞いているうちに、世界平和ってそんなに簡単なものじゃないんだな、ということに気がついてきたんです。「働き始めて最初の10年は、お前の意見なんて誰も聞いていない、むしろ緻密な事務処理能力が問われる」と言われて、だったらもっと自分の適性にあったやり方があるんじゃないだろうかと感じ、民間企業の道を選びました。でも今の官民協働プロジェクトでの民間人公募を見つけたとき、民間の立場に立って考えられる人が求められているのであれば、自分でも官公庁で貢献できるんじゃないかと思ったんです。今年で5年目になりますが、実際かなり楽しく仕事ができています。去年は省内の顕彰で、トビタテチームの広報が文部科学大臣賞に選出されたりと、一定の評価もいただいています。
- 森口
- まさに官と民をつなぐコネクター的な存在ですね。
- 西川さん
- そうですね、もはや「トビタテ!留学JAPAN」にとどまらず、官公庁の広報を活性化するハブになりたいと思っています。官公庁って売り上げを立てなくていいこともあり、広報はどちらかというと「仕事が増える」「記事に載る=叩かれる」と後ろ向きに捉えられがちなんです。でも本来、官公庁で行われているのは国民が託した税金で世の中を良くするための取り組みなので、分かりやすい言葉できちんとみんなに伝えたほうが絶対にいいと思うんです。最近は個人的に一般社団法人ヨコグシという産官学のコミュニケーションを促進する組織を設立して、文科省全体の広報戦略アドバイザーとして業務を請け負ったり、霞が関の広報を官民で考えるための、伝動隊というコミュニティを立ち上げて、官公庁の広報に携わっている方々をつなぐ活動もしています。
- 森口
- すごい、公務員以外でそんな動きができるなんて驚きました。
- 西川さん
- 実は官公庁の組織の一員という立場と、民間非営利セクターの立場は、両立できるんです。私が民間出身だからではなく、公務員の皆さんも両立できますが、実行する方はまだ少数派のようです。多忙な上に、民間の自由な立場でのプロジェクト立ち上げイメージがわきにくいのかもしれません。ただ、最近では若手官僚を中心に教育改革のプロジェクトをプライベートで運営する頼もしい方々がいて、微力ながら応援しています。
- 森口
- 変わらず持ち続けている「社会に貢献したい、世の中を良くしたい」という思いの源泉は何なのでしょうか。
- 西川さん
- 昔から理不尽なことや、弱い立場にいる人が、たまたま強い立場にいる人に蔑ろにされることが許せないんです。たとえば私が中学生時代に国連職員を目指し始めたきっかけは、何の罪もないアフリカの子どもたちが飢えに苦しんでいるまま放置されているのが、すごく嫌だと感じたからなんです。大人になるにつれ、理不尽な力関係は世の常なので完全に解決するのは難しいなと無力感に襲われることも多いですが、少しでも改善したい、みんなが最低限ハッピーになれる権利のある世の中にしたいという思いは捨てず、そのための力をつけるために仕事をしてます。
- 森口
- 理不尽なことに対して憤る人は山のようにいますが、その中で実際にアクションを起こせる人はほんの一握りだと思うんです。西川さんの原動力は何ですか?
- 西川さん
- 子どもの頃からずっと、当たり前のように学校に行けて、美味しいご飯が食べられる、こんなに恵まれている環境にたまたまいるからには、何かしらしなければという使命感はありますね。でも、私と違って課題解決のために必死で頑張っている方々が周りにいっぱいいるので、常に怠けている自分への罪悪感と戦っている面もありますよ。
- 森口
- お話を伺っていて、人と比べたりせずに自分の好奇心にまっすぐ突き動かされて進んでいく方という印象を持っていました。西川さんでも他の人と比べて不安になることがあるんですね。
- 西川さん
- 自由な時間の余裕がある状態が好きなので、基本的に100%倒れるまで頑張ったりはしないんです。でも常に走り続けている人たちがいる中で、ギアを緩めにしている自分を俯瞰した時に、自分らしいと認めてあげたい部分と、もうちょっと頑張れるでしょ、なんでそんなにのんびり遊んでいるの、と思う部分があります。最近は、私くらいのんびりやりたいことをやっている人がいてもいいんじゃないかと思うようにして、ゆるゆると亀のように進んでいます。
- 森口
- 私から見るとジャンボジェットくらいの速さですよ(笑)
よそ者・馬鹿者だからこそ霞が関を変えられる
- 森口
- 現在の仕事は、いままでの民間のお仕事とはまた違った大変さがあるのではないでしょうか。
- 西川さん
- もちろん思い通りにいかない部分もありますが、同時に変革を起こすことを期待されている立場でもあるので、逆にどれだけそうした点を変えていけるのかが自分の頑張りどころでもあります。よく地方を変えるのはよそ者・馬鹿者・若者といいますが、大企業や官公庁を変えるのも、きっと私のようなよそ者・馬鹿者なんじゃないかと思って、大したことができていない自分にプレッシャーをかけています。
- 森口
- 仕事をしていく中で、ときには、これから起こるであろう意見の衝突や対立を想像して行動力が鈍ってしまう瞬間もあると思うのですが、どうやって乗り越えていますか?
- 西川さん
- 私の場合は、まずその行動によって目指したいゴールに立ち戻ってみます。そして、そのゴールの重要さに対して、これから起こるだろう衝突がどれくらいのリスクをはらんでいるかを考え、やる価値があるか判断します。でも、どんな問題にも必ず抜け道や突破口があると思っているんです。理屈や正規ルートだけでなく、いろんなコミュニケーションの力を使うことで、衝突の原因になりがちな誤解や不要な不安を取り払っていくことはできます。
- 森口
- 最後に、仕事をする上でのこだわりやポリシーを教えてください。
- 西川さん
- 相手が誰であっても個として尊重し向き合うことでしょうか。新しい価値を生むためには、ヒエラルキーや立場に縛られ過ぎずに腹を割って語り合わないと、進みにくいので。そのスタンスを勝手に霞が関で増殖させたいと企んでいて。例えば私、小さなことですが、役職付けで人を呼ばないようにしています。官公庁の中では、もはや名前を飛ばして役職だけで人を呼ぶことも珍しくありません。たかが呼び方ですが、組織の文化を映すと思うんです。ある官僚の方が「異動が激しいので、引き継ぎしやすいように、仕事に自分の個性は出さない」とおっしゃったのには驚きました。せっかく人間がやっているのだから、事業目的に合致することなら、個の強みを出した方が結果が出ますし、結果的に国民の期待に応えられるはずです。道のりはまだまだ長いですが、なんとかこの霞が関で役職付けで人を呼ばなくなるような文化を作り出したいですね。
【取材後記】
西川さんとは、共通の知り合いを介して出会いました。年齢も近く、親近感を覚えていましたが、よくよく聞くと、実は時期は違えど同じ会社で働いていた事実も発覚。「思い立ったが吉日」的に行動するところ、「どうせやるなら」おもしろく、という考え方など、お話に強く共感しました。
しかし、彼女のそれらは、すべて使命感がベースになっています。世の中から理不尽さをなくして、ハッピーな社会にしたい。その強い想いが軸となり、すべての行動に結びついていました。だからこそ、その明るい笑顔からは想像できないような困難な状況でも、前進することができるのだと感じました。
自分にとっての信念はなんだろうか。そこまで強く想い続けられるものはなんだろうか。
自分の生き方を問われたような気がします。(森口 静香)
(文:岡田耶万葉 撮影:八幡宏)