2018.11.15
バラバラにやっている社員調査を「ただの数字」から変革のエンジンに変えるために
目次
誰が組織に対するセカンドオピニオンを出せるのか
さまざまなプロジェクトでクライアント企業と関わる中で「社員調査の再分析をしてほしい」という依頼を受けることがある。他社に依頼して行った調査結果が生かせていない、第三者の視点で調査結果を再分析して考察と施策案を出してほしい、ということだ。
この相談を受けると、コンサルタントとしては複雑な気持ちになる。なぜならうちの会社でも社員調査を手掛けているからだ。もし、自分たちが行った調査に対して、クライアントが「結果がいまひとつピンとこない」と他社に調査結果を渡して再分析してもらっているかもしれないと想像すると…、気分の良いものではない。
なぜ第三者に調査の再分析を依頼するのだろうか? クライアントの状況には、大まかに分けて以下のようなパターンがある。
数字は出ているが、それをどう解釈したらいいかわからない
数字やグラフが提示され、どのような傾向が見られるかは明らかになっているが、それが総じてどういうことなのか、自社の理念やビジョンに照らして良いのか悪いのか、具体的に今後何をしていけばいいのか、が明確になっていない。
健康診断に例えると、検査結果の数値は提示されているが、治療の必要があるのかないのか、今後の生活で何に気を付けたらよいかがわからない状態。複数の部署でそれぞれ異なる調査を行っているが、それが統合されていない
社内の異なる部署で社員調査が行われており、それぞれの結果が別々に使われている。例えば社内で従業員満足度調査、ストレスチェック、スキル診断といった複数の調査が行われているが、それを横断的に見て生かすことのできる人や部署が存在しないという状態。
健康診断に例えると、複数の診療科で検査を受け、それぞれに治療方針や処方箋が出されているが、総合的に見てどういう状態なのか、それぞれの症状が相互に関係しているのかといった所見が出ていない状態。具体的な施策案が出ているが、それが最適なのかどうか判断できない
調査結果の分析と、現状に関しての考察、改善のための具体的な施策まで出ている。しかし、調査を依頼した当事者が「その施策でいいのか?」と腑に落ちていない。
調査会社によっては、調査結果から導き出す施策が「自社の提供するサービス、パッケージ(例:研修の実施、グループウェアの導入など)」につながっている場合がある。健康診断に例えるなら、現実にはありえないが「検査を受けた医療機関がスポーツジムや健康食品会社と提携していて、検査の結果、ジムへの入会やサプリメントの購入を薦められている」という状態。
これらを踏まえると、クライアント企業は当社に対し「組織開発やインターナルコミュニケーションの専門家」かつ「自社とも、調査を委託した他社とも特別な利害関係がない」中立的な第三者としての意見を求めているということであろう。つまり、健康診断の結果が腑に落ちない患者が、別の医療機関の医師に診断結果を見せてセカンドオピニオンを求める、ようなものではないだろうか。
「やりっぱなし調査」「集めっぱなしデータ」は宝の山
こういった相談を受けていていつも思うのは、「宝の山のような調査データを活用できていない企業がどれだけ多いのか」ということだ。これらのデータは、調査自体に少なくない費用をかけている上に、回答する社員の人数×時間といった見えない費用をコスト換算すれば、かなり大きな投資の上で得られたものである。従業員エンゲージメントの向上や業務改善、理念や方針の共有と実践…組織の課題を解決するための取り組みを行うにあたって、すでにあるデータを活用すれば、組織変革のエンジンを動かすこともできるかもしれないのに、なんてもったいない。
あなたの組織では、調査項目や調査会社を見直すこともなく、惰性で毎年調査を行っていないだろうか。数字が変化しないことに安心してしまっていないだろうか。数字が変化したとき、適切な仮説を立てて原因を究明し、問題があればそれを解決するための取り組みを行っているだろうか?
データをさまざまな視点から分析したり、他の調査結果と合わせて見たりすることで、組織の強みを見つけたり、課題を見つけたり、目標を立てたりすることができる。それらを生かすことで、調査への投資を回収するだけでなく、より高い成果につなげていくこともできるはずだ。
組織を健康にするには、調査結果を生かして結果が出るまでやり切ること
実際に調査結果を組織に生かすには、何をすればいいのだろうか。データの分析や考察が十分でなかったり、腑に落ちない部分があるならば、社内外の専門家を起用して再分析するのも良いだろう。肝心なのは、そこから導き出された考察から具体的な施策へとつなげ、結果が出るまでやり切るということだ。この「やり切る」ということが実は最も難しい。
健康診断の結果、生活習慣に問題があることがわかった。飲酒や喫煙は控えよう、食生活に気を付けよう、定期的に運動しよう、と決心したのもつかの間、翌年また同じことを繰り返す。そんな経験はないだろうか。そんなとき、職場の同僚と一緒に禁煙してお互いの行動をチェックしたり、夫婦で一緒にダイエットに取り組んで成果を競ったり、パーソナルトレーナーを付けて定期的にトレーニングをしたりすれば、もしかしたらやり遂げることができたかもしれない。
同じことが組織でも起こる。調査から明確な問題点が浮き彫りになり、改善のための有効な施策が導き出されたとしても、担当者がそれを全社に推進し、やり切ることは非常に難しい。担当者に伴走してサポートするパートナーが必要なのだ。それは上司や役員かもしれないし、同僚かもしれないし、異なる部署の協力者かもしれないし、社外の専門家かもしれない。
調査を組織の変革に生かすには、「調査の数字を読み取る力」と「数字から課題を抽出する力」、「課題から、会社と社員の状況を踏まえて、最適な施策を導きだす力」、「施策を結果が出るまでやり切る力」それぞれ異なる専門性が必要になってくる。とくに、施策をやり切るためのカギとなるのは「現状を変えていくために、いかに社員の『体験』をデザインしていくか」ということだ。
あなたの組織に、変化を受け入れる風土はあるか?~エンプロイージャーニーマップが求められる理由~ビジネスの変革を問われるとき、組織はどう変わるべきか?
データを生かすために必要なのは数字を読む力だけではない。協力者を積極的に巻き込むことで、「ただの数字」を、組織を動かすエネルギーに変えていくことができるはずだ。
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株式会社ソフィア
取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント
築地 健
インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。
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