2018.12.14
日本企業における従業員のエンゲージメント状況を可視化する ~「ソフィア式インターナルコミュニケーション調査」の取り組み~
目次
どうしたら会社やそこで働く社員の人たちが元気になるのだろうか――これはソフィアがずっと追求し続けている命題です。私たちは組織を元気にするための要素として「従業員エンゲージメント」と「インターナルコミュニケーション」の関係に着目し、クライアント企業向けにさまざまなソリューションやサービスを提供しています。そして2018年9月より、日本企業におけるインターナルコミュニケーションの課題解決に幅広く役立てることを目的とした調査・研究の取り組みを開始しました。その背景や内容についてご紹介します。
どうしたら会社が元気になるのだろうか
ソフィアは「人と組織を元気にします」をミッションに掲げています。では、組織が元気である状態とはどういう状態でしょうか。私たちは、これを「変える・生み出すエネルギーが充満し、活動が自己増殖的に生み出されている状態」と定義しています。
会社が生み出す価値の源泉は、社員の総合力にあります。働く社員の一人ひとりが持つ能力や個性を最大限に発揮することが組織の潜在力の発揮につながり、事業におけるパフォーマンスを最大化するのです。しかし、会社の目指す方向が明確でなかったり、目指す方向について一人ひとりが共感していなかったりするために、社員の思いがバラバラのまま、それぞれに働いている会社も多いのではないでしょうか。言われたことをやっていれば文句を言われる筋合いはない、と高を括っているのかもしれません。いくら立派な理念やビジョン、戦略や計画があり、有能な社員が多くいても、会社の目指す方向に向けて個人が持つ力を活かせなければ、組織は元気にならないし業績向上も見込めません。
従業員エンゲージメントの向上が、業績アップと相関関係にあることは近年の研究で明らかにされています。ギャラップ社の2013年の報告 によれば、従業員エンゲージメントが高い会社は、リーマン・ショック後の2011-2012年の間にEPS(一株あたり利益)が147%であったのに対して、従業員エンゲージメントが低い会社は-2%でした。タワーズワトソン社のデータによると、従業員エンゲージメントが高い会社と低い会社では営業利益率に4.3ポイントの差があります。エーオンヒューイット社による2015年グローバル調査 によれば、従業員エンゲージメントが5%上昇すると翌年3%収益が増えることが判明しました。利益率だけではありません。ギャラップ社の同じ調査によれば、従業員エンゲージメントが高い会社は低い会社より、生産性が22%、顧客評価が10%高く、不良品発生率が41%、安全に関わる事故発生率が48%、離職率(低離職率業界)が48%、欠勤率が37%低いという結果が出ています。
こうしたことを背景に、欧米のグローバル企業では従業員エンゲージメントを高めることを経営課題と捉え、インターナルコミュニケーションの目的とする企業が増えてきています。ところが日本企業では、従業員エンゲージメントの重要性がまだ十分に理解されていないのが現状ではないでしょうか。実際、タワーズワトソン社のデータによれば日本人のエンゲージメントのスコアは長年、G8の中で最下位です。エーオンヒューイット社によれば、日本人のエンゲージメントは40%未満と調査対象国の中で最も低く、世界平均の65%と比べてもかなり低くなっています。
従来の従業員エンゲージメント調査の限界
本当に日本人のエンゲージメントは低いのでしょうか。実は日本人は、文化的背景からか5段階の回答のうちで「どちらとも言えない」という回答が他国の人たちより特異的に高くなることが指摘されています。しかし、その点を差し引いても、日本人のエンゲージメントは低いというのが各社の結論です。では、どうしたら従業員エンゲージメントを高めることができるのでしょうか。
ひとつの鍵となるのがインターナルコミュニケーションです。インターナルコミュニケーションで従業員体験の質を向上すること、つまり「自分の会社っていいな」と思える体験を重ねることが従業員エンゲージメントを高め、仕事のやりがい向上や、業務品質の向上、ひいては顧客体験の質向上につながっていきます。そして一人ひとりの従業員の成功体験は周囲へ波及し、業務の仕組みの変革や組織の文化の変革、新たな価値の創造へと結びついていくのです。ソフィアではこの考えに基づき、クライアント企業向けにさまざまなソリューションやサービスを提供しています。
一方、当社のクライアント企業からは、「他社が提供するエンゲージメント調査を実施し、課題は見えたが、施策に生かせていない」「具体的にどのようなインターナルコミュニケーション施策を打てば従業員エンゲージメントが向上するのか、調査結果を見ても分からない」という声が上がっていました。
そこで私たちは、各社のエンゲージメント調査結果を検討しました。検討を始めてまず驚いたのは、各調査研究においては従業員エンゲージメントの定義を明らかにしていなかったり、定義が定まっておらずバラバラであるという事実でした。また設問数が多くて煩雑であったり、要因分析の根拠が職場の人間関係に偏っていたり、望ましい行動の実践度合いを把握できなかったり、必ずしも必要な改善施策への示唆が得られませんでした。検討の結果、当社の主なクライアントである日本企業におけるインターナルコミュニケーションの課題を解決するには、まず従業員エンゲージメントの定義を明確にした上で、その時点の従業員エンゲージメントの状態を正確に把握できる、独自の調査が必要だと判断するに至りました。
この取り組みにおける従業員エンゲージメントの考え方
私たちは従業員エンゲージメントが高い状態を、「従業員の一人ひとりが、会社の成長と自身の成長を結び付け、会社の目標を実現しようとする戦略に則って、自らの力を発揮しようとする自発的(内発的)な意欲をもって、行動すること」と定義しました。そして、このようなエンゲージメントの状態を把握し、さらに改善に向けてインターナルコミュニケーションの具体的施策を展開するための示唆を得られるよう、エンゲージメント調査を設計しました。また回答は「どちらとも言えない」を排除して4段階としました。
調査設問では、「会社の目標」を「中期経営計画」と置き換えています。多くの組織において、中期経営計画は、全組織レベルのものを各本部または事業部単位に落とし込み、さらにその下部組織において、当該組織とその従業員の役割・責務にあうような形に目標設定して運用されています。何を指すのかがあいまいな「会社の目標」よりもアンケート回答者がより想起しやすいものと考え、設問ではこの表現を採用しました。
また、この従業員エンゲージメント調査では、回答者の負担を極力軽減するために全11問、所要時間約3分間のコンパクトな設問内容としました。
得られた調査結果は、意識軸と行動軸のスコア分布によって4象限で分類することで、エンゲージメントの状態が可視化されます。4象限とは、意識も行動も高い「エンゲージメント層」、意識が高いが行動を伴わない「共感層」、行動しているが意識が伴わない「独立自尊層」、意識も行動も今ひとつの「受け身層」です。それぞれのタイプとその要因を分析することで、必要なインターナルコミュニケーション施策が示唆されます。
第1次調査による示唆と課題、今後の展望
私たちは2018年9月に第1次調査を実施し、全503名の回答を得ました。そして10月に日本広報学会第24回研究発表全国大会(東京)にて、その結果をポスター発表しました。第1次調査の分析結果からは「中期経営計画と自己成長との紐づけが従業員エンゲージメントのカギ」、「内発的動機づけを促す承認・評価への取り組みが必要」という2点の洞察を得ました。今回協力していただいた回答者にはエンゲージメント層が多いという結果が出ていますが、まだサンプル数が比較的少ないこともあり、これが本調査の設計による全体的な傾向なのか、今回だけの結果なのか、さらなる調査分析が必要になります。
今後第2次調査を実施して回答サンプル数を増やし、従業員エンゲージメント向上へのキーファクターを探るとともに、調査自体の改善や精度の向上を目指して実験を重ねていきます。また、将来的には海外企業にも対象を拡大して継続的に調査を行うことを予定しています。研究の成果は企業コミュニケーションに関わる国内外の学会やカンファレンス、機関誌、および株式会社ソフィアのWEBサイトなどで情報発信し、インターナルコミュニケーションにおける課題解決に広く役立てていきます。
株式会社ソフィア
ビデオ・プロデューサー、コミュニケーション・コンサルタント
池田 勝彦
主にビデオ制作で撮影から編集までを担当しています。記事原稿も書いていますが、英語による取材・編集もやりますし、翻訳もできます。
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池田 勝彦
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