業務改善に立ちはだかる強敵! 社内にはびこる“ゾンビ業務”を退治するには?

時代の変化や事業内容の変化によってやる意味がなくなり、形骸化した業務をやめたい、でもやめられない――。こんな悩みを抱えながら、増え続ける業務に圧迫されて、悲鳴をあげているコーポレート部門(管理部門、間接部門)の担当者は少なくありません。目的や意義を見失ったまま職場に滞留している、いわば“ゾンビ化”した業務が増殖してしまうのはなぜなのか、なぜやめられないのか。これまで企業の研修体系の見直しや業務改善コンサルを通して数々の“ゾンビ”と闘ってきたソフィアのコンサルタント、平井豊康築地健が、 組織に“ゾンビ”が増殖してしまう背景や、“ゾンビ退治”への第一歩を踏みだす方法を語ります。

株式会社ソフィアの平井豊康と築地健

ゾンビ業務が人と組織の元気を奪う!?

−今回は、形骸化した業務をやめられない組織の現状や、なぜやめられないのかについてお話しいただくということですが、お二人がこうした状況に着目したきっかけは?

社内SNSでの会話(クリックで拡大)

平井: 組織の中には、「あれって、なんでやってるんだっけ?」みたいな、もはや意味がなくなっているとわかっていながら見直されないまま、中途半端に続いていている施策や業務が結構ありますよね。そこに、新しいものがどんどんアドオンされていく。存在意義を失った業務の残骸があると、新しいことを始める足かせになるというか、阻害要因になるんじゃないかと、ずっと気になっていて。形骸化した業務を“断捨離”することを、仕事にできないかと考えていました。

そんなとき、営業の三上さんが社内SNSで共有してくれた、中原淳先生のブログ記事「あなたの会社には『ゾンビ研修』がウヨウヨしていませんか?」を読みました。このブログの中では、存在意義が失われているのにやめることができず、継続されている研修をゾンビになぞらえていて、それって業務も同じだなと思いました。

築地: 僕は、ソフィアの社内SNSでゾンビというキーワードを見つけて、どうしても「バール」の話がしたくて投稿したんです。以前、友達とゾンビ映画の話をしていたとき、その友達が、「ゾンビと闘うときはバールが必要なんだ」と力説していたことを思い出して。そしたらいつの間にか、今回のコンテンツ企画になっていたという感じです(笑)。

―築地さんにとって、会社の中の「ゾンビ」はどんなものだと思いますか?

築地: ゾンビのように、あちこちを徘徊しているけど、目標もなく、どこに向かっているか不明な業務、処理しても処理してもなかなか完結しない業務をイメージします。誰に何を意思決定してもらうか分からないまま行う会議のための会議とか、作業している人もなぜこれが必要なのかわかっていない膨大な事務作業だとかですね。

―では、目的を失った業務や、無駄と思われる業務が滞留してしまうのは、どうしてなんでしょうか?

築地: ゾンビ化した業務には、業務に理念やビジョンといった、「魂」がこもっていません。でも誰も退治しないから滞留してしまう。

創業者は、情熱や魂をもって新しいことを始めます。その時は一つひとつの業務にも魂がこもっていたはずです。でも、言葉やコミュニケーションが足りず、理念やビジョンが熱をもって伝えられていかないと、2年、3年経過していき、やがてみんな「これなんのためにやっているんだっけ……」ということになって業務がゾンビ化していく。

勢いのある会社は、熱をもって社員に理念などを伝え続けていますよね。それを軽視していると、だんだん業務がゾンビ化し、人も組織も生気や熱を失っていくのかもしれません。

平井: 形式だけが残る、形骸化するってことだよね。

業務の生産性向上が従業員エンゲージメントにつながる

―魂が抜けやすいタイミングがあるんでしょうか?

築地: あると思います。トップが変わったり、トップの方針が変わったときが、危ないタイミングなのではないでしょうか。このとき、魂の抜けた過去の業務や施策をそのままにして、新しいものを積み重ねていっても、成果を出すことはできないと思います。意味を失ったものを絶たずに、“なあなあ”にしておくから、ゾンビ化するのではないかと。

―“なあなあ”になってしまうのは、どうしてだと思いますか?

平井: 業務に区切りをつけたり、振り返りをする機会がないんですね。プロジェクトには必ず目的と期限があるけど、特に間接部門・管理部門と言われる、いわゆる「ホワイトカラー」のルーティン業務ではそれがなかったり、あっても忘れられていたりすることが多い。そんな状況が何十年も続いてゾンビ業務が大繁殖してしまい、その状況に慣れ切ってしまっているから誰も見直そうとしないのかもしれない。

築地: そうかもしれないですね。それと、意味のない業務をやめる判断をするための材料が、不十分ということもありますよね。私が業務改善のコンサルティングをする場合、まずは社内の情報を整理します。たとえば、社内ポータルを構築したり、社内SNSを導入したりする前には、現状、社内にどんなツールやコンテンツがあるのかを洗いだします。

その際、情報システム部門に、どこでどんなシステムが使われているのか聞いても、「わかりません」と言われてしまう。そもそも、社内の情報が整理されていないんです。なぜこのツールがあるのかと質問しても、答えられる人がいない。そんな状態で新しいシステムを次々導入すれば、重複があったり足りないものがあったりと、無駄が出てしまいます。

―判断材料を揃えられないのは、一つの部署だけでは対処できない問題だったり、責任の所在が曖昧だったりするからですか?

築地: そもそも、情報システム部門や経営企画部門などが、そのポータルを使うユーザーの声を聴いていないんです。新しいシステムを導入するにあたって情報を整理するために、ユーザーである現場の人にヒアリングしにいくと、6~7割の人から「よくぞ聴きに来てくれました!」と言われますから。

メインのユーザーではないコーポレート部門の人たちが勝手に新しいピカピカのツールを導入して、使いにくいからと現場のユーザーが放置しておくと、情報システム部門から「なんで使わないの?」と言われてしまいます。ツールは使われずにゾンビ化して、コーポレート部門と現場の溝は深まっていく。

―現場の人が置き去りにされているということなんですかね。

平井: そうかもね。必要な判断材料を取りに行っていないから、意思決定を間違える。あるいは、判断材料がないから、意思決定もされない。たとえ判断材料を集めて整理したとしても、その人があまり評価されないから、“ゾンビ業務”が放置されてしまうんじゃないかな。ルーティン業務を見直したり無駄な業務をなくしたりすることが、個人の評価につながっていない。

―なるほど。“ゾンビ退治”は、評価されない仕事だということですね。

平井: でも、自分の仕事を見直せば生産性向上につながるし、業務の生産性が上がれば現場の社員のエンゲージメントが強くなるということを体験できれば、熱をもって取り組めるような気がする。

築地: そういえば、従業員満足度調査やPCF調査()の統計を見てみると、業務の生産性と従業員のエンゲージメントには、強い相関があります。IoTの発展やスマートフォンの普及に伴って消費者としての生活は、どんどん便利になっています。その一方で、社内は10年前と変わらない、時代に追い付いていない。会社で経営層がどんなに働き方改革だデジタルトランスフォーメーションだ何だと立派なことを言っていても、現場の働き方や業務があまりに保守的で社会の変化に追いついていなければ、社員の違和感や不満は蓄積していきます。そんな状態で自社へのエンゲージメントが上がるわけがありません。

※ソフィアがおこなっているコミュニケーション調査。「トップダウン=浸透的コミュニケーション(Penetration)」「ナレッジシェア=協創的コミュニケーション(Cooperation)」「ボトムアップ =提言的コミュニケーション(Feedback)」の3つのコミュニケーションフローの頭文字を取って、「PCF調査」と呼んでいる。

ゾンビ退治のヒントは「コミュニケーション」と「適切なリーチ」

―業務の生産性を高めるためには、形骸化した業務などをやめる必要があり、その判断材料を集めるためには、組織内のコミュニケーションを高める必要があるということなのでしょうか。

平井: そうだと思う。コミュニケーションがうまく取れていれば、ゾンビの繁殖を防ぐことができるかも。きっと、「この状況はまずいな」とか、「あの業務は時代に合わなくなっているから、なくしたほうがいい」とか、思っている人はいるはず。でも、それを口に出すとマネジャー層から「じゃあ、君がやってよ」と言われそうだから、見てみぬふりをする。そんなことが、ゾンビの餌になっている感じがする。

築地: ゾンビは感染力が強いので、退治しておかないと、新しいことを始めても、またゾンビ化していきますからね。

―では、“ゾンビ退治”をするには、どうしたらいいでしょうか?

平井: トップが方針を出して強権発動するのが、一番早くて有効だと思う。プロジェクトのように、業務の目的や期限などを明確化して、定期的な見直しをおこなうことを、会社のルールにするとか。それから、見直しの意義を明確化してくれる人や業務の改善に取り組む人を、きちんと評価することが大事だよね。

築地: 現場にヒアリングして、形骸化した業務などをやめるための判断材料を集める必要もありますよね。先ほど例に挙げたように、ポータルを構築する場合だったら、情報システム部門や経営企画部門などが、ユーザーの声を聴きに行くとか。

あとは、管理職が、最近入ったパートさんや新入社員に、「非効率だと思うことはない?」くらいに声をかけて、判断材料を集めるのもいいかもしれませんね。そういう人たちはまだゾンビを増殖させる組織に染まっていないし、気づいたことや思ったことを気軽に発言しやすいので。

―自分から手を挙げて話すのと、聞かれてから話すのとでは、発言のハードルが違いますよね。

平井: 全然、違うよね。だから、管理職が自分から、現場の人たちに声をかけて情報を取りに行くことが大事だよね。

―形骸化した業務をやめるための判断材料が現場の声で、判断基準はトップの想いや会社の理念なのかもしれませんね。それらに基づいて、やめる判断ができる状態がベストということですね。

築地: ここで、最初に言ったバールについて話したいんですが。ソフィアはゾンビを倒すためのバールだと思うんです。

平井: バールはソフィアなんだ(笑)。

築地: ゾンビを倒すための武器には、ある程度リーチの長さが必要。短い武器だと、すぐゾンビにガブって噛みつかれてしまうので。十分な間合いをとってやっつけるということです。バールには適度な長さがあります。

ゾンビ業務を担当している当事者は、距離が近すぎというか、密着していてなかなかゾンビを倒せないんです。だから、ソフィアのように適度な距離間のある第三者が会社の外部から、組織にはびこるゾンビにリーチするのがいいんですよ。先入観無しにアプローチできるので。

それと、バールって、塞がれた扉をこじ開けることもできます。一見、出口がないように見えるような部屋でも、塞がれていたところを開けて、新しい道、手段をつくる。

最後に、ゾンビの弱点は頭部なんです。バールの利点は尖った先端で頭部を叩くことができる点。仕事の上では、本当に相手の頭を叩いてはいけませんが(笑)、組織や業務の変革が進んでいる企業は、「頭」つまり上層部へのアプローチが上手です。変革を推進しようとするならば、上層部に有用な情報を提供し、密なコミュニケーション関係を作ることも重要です。

平井: “ゾンビ退治”をするために、ソフィアをバールとして使っていただきたいよね。僕たちを使うのは、会社の業務改善などの担当者ってことだよね。適した人が使ってくれないと、会社は変わらない。

築地: 担当者は、ちょうどいいバールを探すことが大事ですよね。リーチがあって、新しい道を開くことができて、部長とも会話できる、みたいな。

平井: でも重すぎると持てないし(笑)。

築地: 高すぎると買えないし。ちょうどいい値段で(笑)。


 

【まとめ】

2人の話をまとめると、職場にゾンビ業務を増殖させないポイントは以下の3点です。

  • 業務の定期的な見直し・振り返りを評価する風土
  • 会社の理念やビジョンに関する日常的なコミュニケーション
  • 管理職が自分から現場の声を集める

そして、ゾンビ退治に有効なのは「トップの強権発動」「外部の第三者によるアプローチ」。あなたの職場には、ゾンビが増殖していませんか? 「素手では戦えない!」と思ったらぜひ、ソフィアという「バール」に頼ってみてください。

(取材日:2019年10月1日)
インタビュアー:瀬尾 真理子
原稿:小笠原 綾子

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よくある質問
  • ゾンビ業務とは何ですか?
  • 事業内容の変化によってやる意味がなくなり、形骸化した業務をやめたい、でもやめられない業務を指します。

  • ソンビ業務が組織にが増殖してしまう背景は何ですか?
  • ゾンビ化した業務には、業務に理念やビジョンといった「魂」がこもっていません。言葉やコミュニケーションが足りず、理念やビジョンが浸透せずに放置した結果、「これなんのためにやっているんだっけ……」ということになって業務がゾンビ化していきます。

株式会社ソフィア

最高人事責任者、エグゼクティブラーニングファシリテーター

平井 豊康

企業内研修をコアにした学習デザインと実践を通じて、最適な学習経験の実現を目指しています。社内報コンサルティングの経験から、メディアコミュニケーションを通じた動機付けや行動変容の手法も活用しています。

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株式会社ソフィア

取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント

築地 健

インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。

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