心理的安全性を高め、いきいきとしたチームをつくるには? インプロ(即興演劇)の視点から考えてみた【解決編】

IMPRO KIDS TOKYOの下村理愛さんと我妻麻衣さんと株式会社ソフィアの古川貴啓

「会議が重苦しい空気になって意見が出ない」「上司は話す役、部下は聞く役と、役割が固定されてしまい議論ができない」「一人のメンバーに負担がかかりすぎている」――。そんな悩みを抱えている組織やチームのリーダーは多いのではないでしょうか。そうした状況には、メンバーたちが感じている、発言することへの恐れや懸念が隠れている可能性があります。
そこで今回は、人材育成や組織開発の研修を企画・設計しているソフィアの古川貴啓が、インプロと呼ばれる“即興演劇”の手法を取り入れたワークショップや企業研修をおこなっているIMPRO KIDS TOKYOのおふたりに、コミュニケーションの課題や心理的安全性の保たれた場のつくり方などについて伺いました。
本編では、心理的安全性が保たれた場をつくる方法や、職場でリーダーができることなどをご紹介します。

【目次】
・インプロで「失敗を楽しむ」感覚を体験
・セカンドペンギンの存在も大切
・職場でリーダーができること

インプロで「失敗を楽しむ」感覚を体験

古川貴啓(以下、古川):前回の【課題編】で、組織やチームのコミュニケーションがよくない背景には、心理的安全性が保たれていないことがあると教えていただきました。では、心理的安全性が保たれているのは、どんな状態だと思いますか?

下村理愛さん(以下、下村): 組織やチームのメンバー同士が、自分の気持ちや感情を表現しやすくて、みんながお互いの違いを認め合っている状態。自分の気持ちを伝えても不利益が生じなくて、むしろ「隠さず伝えてくれてありがとう」と歓迎される状態が、心理的安全性が保たれた状態だと思います。

古川:企業の研修などで、心理的安全性を感じてもらえる場をつくっているそうですが、具体的にはどのようなことをしているんですか?

我妻麻衣さん(以下、我妻): 身体を動かしながら気軽にできるゲームや、「イベント会社に勤めている先輩と後輩」などの設定を決めておこなう簡単なインプロをしてもらい、失敗やうまくいかない状況を楽しみながら、チャレンジできる場をつくっています。

下村: たとえば、円になって 時計回りに拍手をしていくワーク→ランダムに拍手をパスしていくワーク→相手のニックネームを呼びながらテンポよく拍手をパスしていくワーク、といったようにレベルアップしていき、相手のニックネームがわからなくなったら、両手を挙げて「もう一回!」と言ってもらいます。

IMPRO KIDS TOKYOの下村理愛さん

我妻: この「もう一回!」が出ると、その場が笑いであふれて「わからないこと、間違えたことをオープンにするのは楽しく、チームの雰囲気もよくなる」という意識に変わるんです。

下村: こうしたワークでは、あえて参加者の中でいちばん権力がありそうな人に前に出てもらい(笑)、デモンストレーションをしてもらいます。インプロの創始者キース・ジョンストンいわく、「教師が自由だと、生徒も自由になる」。つまり、「リーダーが自由だと、チームのメンバーも自由になれる」ということです。だから、権力のある人が、困っていたり失敗したりする姿を見せることがとても大事なんです。

我妻: またインプロの中では、斬新なアイデアだけでなく普通のアイデアを大事にします。斬新なアイデアは「個人」の手柄になることが多いですが、実はアイデアを出しやすい雰囲気を作ったチーム全員の手柄でもあるんですよね。普通のアイデアを出すことが、誰かの助けになったりするんです。ワークの中で些細なアイデアでも評価される雰囲気をつくることで、「どんなことでも発言していいんだ」ということに気づいてもらっています。

セカンドペンギンの存在も大切

古川:インプロのワークを通して失敗することが怖くなくなると、組織やチームの中で最初にリスクがあるところに飛び込む、いわゆる「ファーストペンギン」になるのも怖くなくなるかもしれませんね。

我妻: 世の中ではファーストペンギンが評価されることが多いですが、実はそれに賛同してくれる「セカンドペンギン」がいないと、ファーストペンギンはただの“イタい人”になってしまいますよね。

古川:そうですね。セカンドペンギンがないと、次のアクションにつながりませんから。

我妻: 私たちがおこなっている研修では、一人で参加する方が多いんですが、それだと、研修でインプロの効果を実感できても、職場に戻ったときに実践するのが難しい、という声をよく聞きます。セカンドペンギンになってくれる人がいないので。でも、組織やチームから2人以上で参加すると、誰かがファーストペンギンになって思い切った提案したとき、セカンドペンギンになる人が現れて、次のアクションにつなげやすくなると思います。

古川:リーダーが一人で頑張るのではなくて、一緒に飛び込んでくれる仲間を見つけて「ファーストペンギンズ」になれるといいですよね。

株式会社ソフィアの古川貴啓

職場でリーダーができること

古川:心理的安全性を職場に生み出すために、リーダーが実践できることはありますか?

我妻: まずは、不安な気持ちをメンバーに伝えてみるのがいいと思います。

会社員時代、営業のチームに、部下からとても信頼されていた上司がいたんです。その上司は部下たちに「目標数字、達成できなさそうだね。僕は毎日胃が痛いですが、みんなは大丈夫ですか?」「ちなみに、僕はココを狙っているけど、みんなはどこを狙っているのかな?」と、部下にアプローチしていました。

こうやって、上司が自分の不安な気持ちをオープンにしてくれると、部下もミスをしてしまったときなど隠さずに、「実は……」と、打ち明けたりしやすいですよね。

古川:自分が痛みを感じているときほど、ちょっと視点を変えてみて、「あいつも苦しそうだな」と気づいてあげられると、別の解決策が見つかりそうですね。

下村: それから、「振り返り」をするのも、心理的安全性を高めるいい方法だと思います。私たちのインプロのワークでは、シーンを演じた後にチームで振り返りをするんです。

我妻: シーンとシーンの合間に、2、3分くらいで。「最初のシーン、どうだった?」と、一人ひとりに聞いてみて、「あのとき、早く誰か入ってきてくれないかなと思ってた」「私はあのとき、あなたが一生懸命に演じてたから、安心して見守っていたんだよね」「私はどうしようか迷ってたんだよね」などと伝え合って、みんなで「オッケー!」と言って締める。ただ思ったことを言うだけで、議論はしません。

IMPRO KIDS TOKYOの我妻麻衣さん

古川:「議論をしない」というのは新鮮ですよね。「振り返り」というと、一般的に改善点などのアウトプットを出さなくてはならないと思ってしまいがちです。

下村: ただお互いの気持ちを伝え合う、受け止め合うことが重要であって、そこに正しさも答えもいらないんですよ。

我妻: こうした振り返りは、1週間に1回30分するよりも、毎日ちょっとしたタイミングで2、3分やったほうが効果だと思います。これを繰り返すと、相手のことをよく見るようになるんですよ。「あのときは困っていたって言っていたけど、今はどうだろう?」みたいに。こうしたやりとりを積み重ねると、チームの関係性・雰囲気に変化が現れてきます。5,000回くらい積み重ねると、最強のチームが出来るかもしれませんね(笑)

下村: 「Give your partner a good time!(相手にいい時間を与える)」というのも、インプロのとても大事なマインドです。相手と一緒に楽しい時間を過ごすために、自分がいいと思うことも嫌だと感じることも伝える。その繰り返しなんです。

古川:組織やチームでも、みんながこのマインドをもってコミュニケーションできたら、働くことがもっと楽しくなりそうですね。

株式会社ソフィア

ラーニングデザイナー

古川 貴啓

組織の風土、行動を変えていく取り組みを企画設計から、実行継続まで支援しています。ワークショップなどの対話を通して新たな気づきを組織に生みだし、新たな取り組みを始めるための支援を得意としています。

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