インターナルコミュニケーション

インナーブランディングとは?目的・メリット・手法・事例を徹底解説

目次

近年、インナーブランディング(社内ブランディング)の重要性が急速に高まっています。リモートワークの普及や人材の流動化・多様化により、企業と社員のエンゲージメント低下や組織の一体感の希薄化が課題となっています。その解決策として注目されるのが、企業理念や価値観を社員に浸透させ行動変革を促すインナーブランディングです。しかし、「具体的に何をすれば良いのか」「効果やメリットはあるのか」と戸惑うご担当者も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、インナーブランディングの定義や目的、社外向けブランディングとの違い、そしてメリット・手法・成功事例までを徹底解説します。さらに、弊社ソフィアの調査結果も交え、今日の大企業における社内コミュニケーションの実態やインナーブランディング推進のポイントについても紹介します。大企業の広報・経営企画部門の方々に向けて、社員の意識改革と企業価値向上を実現するインナーブランディングの全てがわかる包括ガイドです。

インナーブランディングとは?目的・メリット・手法・事例を徹底解説

近年、インナーブランディング(社内ブランディング)の重要性が急速に高まっています。リモートワークの普及や人材の流動化・多様化により、企業と社員のエンゲージメント低下や組織の一体感の希薄化が課題となっています。その解決策として注目されるのが、企業理念や価値観を社員に浸透させ行動変革を促すインナーブランディングです。しかし、「具体的に何をすれば良いのか」「効果やメリットはあるのか」と戸惑うご担当者も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、インナーブランディングの定義や目的社外向けブランディングとの違い、そしてメリット・手法・成功事例までを徹底解説します。さらに、弊社ソフィアの調査結果も交え、今日の大企業における社内コミュニケーションの実態やインナーブランディング推進のポイントについても紹介します。大企業の広報・経営企画部門の方々に向けて、社員の意識改革と企業価値向上を実現するインナーブランディングの全てがわかる包括ガイドです。

インナーブランディングとは何か?

インナーブランディングとは、企業の理念ビジョン、ブランドの価値観を社員に共有し、社員の共感を促して意識と行動の変革を目指す活動です。簡単にいえば、「企業を内側から変革し、社員の意識を揃えることで企業価値を高める取り組み」を指します。具体的には、会社のミッションやバリュー(価値観)を定義し、それを社内に浸透させて社員の行動を変えていく活動全般がインナーブランディングに該当します。

なお「インナーブランディング」という言葉は日本で広まった用語ですが、同じ意味でインターナルブランディングインナーマーケティングインターナルマーケティングと呼ばれることもあります(呼称に明確な国際基準はなく、業界や人によって使い分けられています)。今日の日本では「インナーブランディング」の方が一般的ですが、海外の専門家と話す際には「インターナルブランディング」という用語を使う方が誤解がなく適切です(「インナー」は「内面的」の意味合いが強く英語話者には伝わりづらいためです)。

また、インナーブランディングを語る上で欠かせない概念にインターナルコミュニケーション(社内コミュニケーション)があります。国際ビジネスコミュニケーション協会(IABC)はインターナルコミュニケーションを次のように定義しています:

Internal Communication “is the process of exchanging information and creating understanding and behaviors within an organization that reinforce the organization’s vision, values and culture among employees, who can then communicate the company’s message to external audiences.” (「The IABC Handbook of Organizational Communication」(2006/2011 editions))

訳すると、「インターナルコミュニケーションとは、情報交換のプロセスを通じて組織のビジョン・バリュー・カルチャーを社員が理解し体現する行動を促し、社員自らが企業メッセージを外部に発信できるようにすること」です。インナーブランディングはまさにこのインターナルコミュニケーションを土台とする活動であり、両者は車の両輪の関係にあります。インナーブランディングとインターナルコミュニケーションは密接に関わっており、一方だけでは不十分であるため、企業文化醸成には双方に取り組む必要があります。

インナーブランディングの目的とは?

インナーブランディングの目的は、社員に企業理念やブランド価値を深く理解・共感してもらい、企業と従業員の意識や行動のベクトルを統一することです。社員一人ひとりが会社の目指す方向性を「自分ごと化」して主体的に行動するよう促すことで、組織全体の目標達成力を高める狙いがあります。

具体的には、社員のエンゲージメント(愛着心とコミットメント)を向上させ、より顧客志向で生産性の高い業務遂行につなげることが期待されます。社員が何を判断基準に仕事をすべきか、優先すべき価値観が明確になることで、日々の業務に目的意識とやりがいが生まれます。結果として、社員が主体的に動くようになり、サービスや製品の品質向上顧客満足度の向上にも寄与します。

例えば、スターバックスでは「サードプレイス」という企業価値(自宅でも職場でもない、第3のくつろげる場所)をお客様に提供することを掲げています。この価値を実現するために、スターバックスの従業員はアルバイトであっても笑顔を絶やさず最高のサービスを心がけ、心地よい店舗空間づくりに努めています。社員一人ひとりが企業の価値を理解し、自発的に体現することで顧客へのサービス向上につながる好例です。このように、社員が企業の掲げる価値を理解・共有し、自ら進んで体現する状態をつくることこそがインナーブランディングの最終目的と言えるでしょう。

インナーブランディングとエクスターナルブランディングの違いは?

企業のブランディング活動には、社内向けのインナーブランディング社外向けのエクスターナルブランディングがあります。インナーブランディングが社員など内部ステークホルダーに企業理念や価値観を共有し浸透させる活動であるのに対し、エクスターナルブランディングは消費者や取引先など社外に向けてブランド価値を伝える活動を指します。

エクスターナルブランディングの最終目標は製品・サービスを購入してもらうことやブランドに対する好意を醸成することであり、広告宣伝やPR、ロゴ・デザイン、キャッチコピーなどを通じて企業や商品の魅力を発信します。一方、インナーブランディングは社内の価値観共有と行動変革を通じて社員自らが自社のファン・ブランドの体現者になることを目指す点が特徴です。

重要なのは、内部(インナー)と外部(エクスターナル)のブランディングは本来一貫性を持つべきだということです。社員が企業理念を理解し誇りを持って働いている会社は、顧客にも自然と良いブランド体験を提供できます。逆に、社外向けのイメージと社内文化が乖離していると、いずれ綻びが生じます。「人材そのものがサービス」と言われる現代では、インナーブランディングの充実がエクスターナルブランディングの土台となります。社員がブランドの価値を理解し一貫した言動を取ることで、外部へのブランド発信力や企業の信頼構築にもつながるのです。

なぜ近年インナーブランディングが重要なのか?

ここ数年、インナーブランディングが特に重視されるようになった背景には、ビジネス環境や働き方の変化によって社内コミュニケーション上の課題が顕在化してきたことがあります。以下では、現代の企業を取り巻く主な変化と課題を整理し、インナーブランディングが必要とされる理由を解説します。

ビジネスの複雑化・リモート化による組織のサイロ化

企業規模が大きくなるほど組織は多層化・専門分化し、部署間・部門間のサイロ化(縦割り分断)が起こりやすくなります。近年は特にリモートワークやハイブリッドワークが広がったことで、部署間のコミュニケーション機会が減少し、横の連携不足による軋轢が問題化しています。弊社ソフィアの調査では、従業員の58%が「部署間のコミュニケーション」に問題を感じていると回答しており、部門内(上司と部下)でも51%、経営層と現場社員間でも42%がコミュニケーションに課題を抱えることが明らかになりました。

こうした社内の断絶は、情報共有の滞りや意思決定の遅延を招き、企業全体の機動力を低下させます。事業部ごとに異なる目標を追求するあまり「局所最適」に陥り、全社視点での協力が難しくなるケースもあります。実際、同調査では社内コミュニケーション問題の要因として「必要性の共通認識がない」(34%)、「組織の文化や体質の問題」(33%)、「利害関係の違い」(32%)が上位に挙げられました。さらに「コミュニケーションスキルの不足」(27%)や「業務多忙による時間不足」(26%)も指摘されており、忙しさの中で必要な対話すら行われない本末転倒な事態も起きています。

インナーブランディングが重要視される背景には、このような複雑化した組織を共通の理念や価値観で横串を通し、サイロ化を緩和する狙いがあります。全社員が企業のビジョンを共有し、情報や想いをオープンに交流できる文化を醸成することで、部署間の壁を越えた協力体制が生まれやすくなります。

人材の流動化・多様化への対応

終身雇用が当たり前だった時代は終わり、現在は中途採用の活発化やプロジェクト単位の雇用など人材の流動性が高まっています。ひとつの会社に長く勤める社員ばかりではなくなり、世代やバックグラウンドも多様な人材が混在する組織が増えました。社員の在籍期間が短くなれば、従来のように時間をかけて徐々に企業文化が染み渡ることも期待しづらくなります。

そのため企業は従来以上に意識的に企業理念の共有や浸透活動を行い、短期間でも社員に価値観を理解・体現してもらう必要があります。「給与や待遇さえ良ければ働く」という時代ではなくなり、社員一人ひとりが「なぜ働くのか」「自社で働く意味は何か」といったパーパス(存在意義)を求める傾向が強まっています。単に仕事の条件面を整えるだけでなく、社員が心理的に企業とつながる状態を作ることが重要です。

インナーブランディングを通じて企業が自社の存在意義や社会的価値を発信し共有することで、社員は自分の仕事と企業の目的とを結びつけやすくなります。「この会社で働くことに意味がある」「自社の目指す未来に貢献したい」と社員自身が感じられれば、離職の防止や多様な人材のエンゲージメント向上につながります。逆に言えば、企業側が価値観の発信を怠ると、社員は自分のキャリア軸と会社の方向性が合わない場合すぐに離脱してしまう可能性があります。だからこそ人材流動化の時代においては、社員の心を繋ぎとめるインナーブランディングが不可欠なのです。

変化の激しい時代に求められる価値観の共有

現代のビジネス環境は技術革新や市場変化が激しく、企業や社員は常に変化への対応を迫られています。しかし、外部環境の全てにトップダウンで細かく対応し続けることは不可能です。経営陣が全ての現場判断を指示することには限界があり、むしろ属人的なトップダウンだけでは組織が硬直化してしまいます。

そのため、多様な現場に権限委譲し、社員が自律的に判断・行動できる組織への変革が求められます。ただし各社員がバラバラに行動しては組織としてまとまりません。必要なのは、組織の根幹となる価値観や判断基準を全社員で共有することです。いわば企業における「求心力」となる共通理念を定め、それを拠り所に各現場が意思決定できるようにすることが重要です。

インナーブランディングは、この共通の価値観・原則を全社員で共有するための活動です。全社で理念が共有されていれば、新たな状況に直面した現場でも「我々の理念に照らして何が最善か」を考えて行動できます。逆に価値観の共有がなければ、「現場を知らない上層部の指示待ち」になったり、判断のばらつきから混乱を招く恐れがあります。激しい変化の中でもブレない判断軸を現場に与えるという意味で、インナーブランディングは企業の変革対応力を高める基盤となるのです。

リゾーム型組織モデルの示唆

組織論の観点から見ると、現代の企業はフランスの哲学者ドゥルーズが提唱した「リゾーム(根茎)」モデルに近い性質を帯びているとも言えます。リゾーム型の組織では、表面的には各部分が多様でバラバラに見えながらも、地下茎のように見えない部分でしっかり繋がっています。一見バラバラでも、地下の根で結ばれているために組織全体として一定の統制が効いている状態です。

現代の企業も、事業やチームごとに状況は様々ですが、共通の理念という「見えない根」で繋がっていることが理想です。そうすれば各現場が自由に創造的に動いても、組織全体として極端に逸脱することなく一体性を保てます。逆に言えば、共通の根(理念)が無ければ組織は無秩序となり、変化の激しい時代にまとまった力を発揮できません。

インナーブランディングは、この「見えない根」を育む作業とも言い換えられます。企業哲学や企業理念という組織の根幹を改めて見直し、それを全社員に浸透させることで、リゾーム的につながりのある強い組織文化を育てるのです。多様な人財が集まる現代だからこそ、「我が社は何の価値を創造しているのか」という根本を社員全員が共有し、どんな変化にも揺るがない強い軸(求心力)を持つことが重要になっています。

インナーブランディングのメリットは?

インナーブランディングには多くのメリットがあります。ここでは代表的なものを挙げて、それぞれ詳しく説明します。

従業員の企業への理解が深まる

インナーブランディングを推進することで、社員は自社の理念やビジョン、ブランドの方向性を深く理解できるようになります。社員一人ひとりが「自社は何を大切にしているのか」「どんな未来を目指しているのか」を腹落ちすることで、明確な目的意識を持って日々の業務に当たるようになります。結果として社員同士に一体感が生まれ、組織全体で統一された方向へ進む推進力が高まります。会社の価値観が社員に共有されていると、判断に迷った際もその理念に立ち返って考えるようになり、業務品質の向上や生産性アップにもつながります。

従業員同士のつながりが強くなる

企業理念やビジョンへの共感が社員間で醸成されると、「自分たちは同じ目的に向かって働く仲間だ」という意識が芽生えます。インナーブランディング成功後は、部門を超えて社員同士が支え合う文化が生まれ、コミュニケーションが活発化していきます。お互いへの信頼感が高まることで、情報共有や協力体制もスムーズになり、業務上のスピードや正確性も向上するでしょう。このように社員間のつながりが強くなることは、組織への愛着心を育み、さらなるエンゲージメント向上→業績向上という好循環を生みます。

従業員の定着率が上がる

インナーブランディングによって社員の会社に対する信頼や誇りが高まることは、離職防止に直結する大きなメリットです。自社への愛着や「この会社に貢献したい」という気持ちが強まれば、社員は簡単には離れなくなります。結果として定着率の向上が期待できます。また、社員が長く勤続してくれれば社内にノウハウが蓄積され組織の雰囲気も安定します。さらに、企業として採用のミスマッチが減る効果もあります。既存社員が自社の価値観を体現している組織では、その社風に合った人材が集まりやすくなるからです。結果的に定着率向上と相まって、「自社にマッチした人材が集まり長く活躍する」好循環が生まれます。

コンプライアンスへの意識向上

組織への愛着や一体感が高まった社員は、「会社を守りたい」「迷惑をかけたくない」という意識も強くなります。インナーブランディングによって社員が自社の一員である誇りを持てれば、日常業務でも自然と法令遵守や企業倫理に反しない振る舞いを心がけるようになります。従来、多くの企業ではコンプライアンス遵守のためにトップダウンの管理や規則で縛るアプローチを取ってきました。しかしそれでは限界があり、社員の自発的な倫理観醸成には至りません。インナーブランディングで会社へのロイヤリティが高まった状態こそ、真に強いコンプライアンス体制と言えます。社員の「会社を大事にしたい」という思いが違反抑止力となり、結果的にリスク低減につながるのです。

自社に合った従業員の採用が可能となる

インナーブランディングの成果として、企業の理念や価値観が明文化・共有されていることは採用面でも大きな利点になります。まず、採用担当者や面接官が候補者に対し自社の魅力や文化を一貫したメッセージで伝えやすくなります。また、社員自身が自社の理念をよく理解し体現していると、日頃の言動やSNS発信などを通じて社外への良い影響を与えます。その結果、「社員の雰囲気が良さそうな会社だ」「価値観に共感できる会社で働きたい」というカルチャーフィット志向の優秀な人材を引き寄せやすくなるでしょう。インナーブランディングによって組織の価値観が明確になれば、自然と自社にマッチした人だけが集まりやすくなり、結果的に採用の効率化・精度向上につながります。

エクスターナルブランディングの土台となる

社員が自社の経営理念やブランド価値を深く理解し日々実践している組織では、対外的なブランド発信もブレがなくなります。例えば商談やカスタマーサポートの場面でも、社員が企業理念に沿った対応を自然に取れるため、顧客は統一感あるブランド体験を得られます。これはブランドの信頼構築に直結します。逆に社内で理念が浸透していないと、顧客対応の質にばらつきが出たり、広告で謳うブランドメッセージと現場対応にギャップが生じたりしかねません。インナーブランディングで社員という「生きた広告塔」を育て上げることは、結果的にエクスターナルブランディングを強化する最良の方法なのです。「中から強いブランド」は必ず「外にも強いブランド」をもたらします。

インナーブランディング導入の注意点・デメリットは?

多くのメリットがあるインナーブランディングですが、導入・推進にあたって注意すべき点や潜在的なデメリットもあります。事前に理解しておくことで、より効果的に進めることができます。

効果が現れるまでに時間がかかる

インナーブランディングは短期間で劇的な成果が出るものではありません。企業理念や文化を社員に浸透させ行動変容を促すには、どうしても時間がかかります。取り組み開始から数ヶ月で目に見える成果が出ないからといって焦ったり中断したりすると、かえって「やっぱり意味がないのでは」と社員の冷めた反応を招き逆効果になりかねません。中長期的な視点で腰を据えて継続することが大切です。実際、弊社ソフィアの調査でも、多くの企業で導入されている「1on1面談」や「研修・トレーニング」といった施策ですら、約半数の社員が十分な成果を実感できていないという結果が出ています。これは短期間で効果を求めすぎたり、運用が形式的になっているケースがあるためと考えられます。インナーブランディングは長期的な学習と改善のプロセスであることを肝に銘じましょう。

価値観の合わない従業員が離職する可能性

インナーブランディングを推進し社内の価値観を明確に打ち出すことで、その方向性にどうしても馴染めない社員が出てくる可能性もあります。企業として大切にする理念に共感できず、自分には合わないと感じた社員が離職してしまうケースです。もちろん、価値観に賛同しない人も包摂できる多様性は組織にとって重要ですが、あまりに合わない場合は本人にとっても不幸かもしれません。各組織でどこまで多様な価値観を受け入れるかは難しい問題ですが、インナーブランディングを進める際は「反対意見にも耳を傾ける姿勢」を持ち、排他的な雰囲気にならない工夫が必要です。必要に応じて対話を重ね、理解を促す努力も平行して行いましょう。

ブランドコンセプトの理解を従業員に強要しない

企業が新たな理念やビジョンを策定した際、「社員全員に完全に理解・共感してもらわねば」と焦るあまり、押し付けがましい展開をしてしまう危険があります。例えばスローガンを繰り返し唱和させたり、否定的な声を上げづらい空気を作ってしまったりすると、社員の反発心を招き逆効果です。社員一人ひとりの感じ方を尊重し、丁寧に説明・対話することが大切です。価値観の共有には時間がかかるため、理解に消極的な社員がいても頭ごなしに否定せず、フィードバックを受け入れて改善する柔軟性も必要です。「共感しろ」と強制するのではなく、共感が自然に芽生える環境づくりを心がけましょう。

インナーブランディングにはコストがかかる

企業理念の再定義やポスター・冊子の作成、社内イベントの開催、外部コンサルタントの活用など、インナーブランディングには人的・時間的・金銭的コストが伴います。例えば専任プロジェクトチームを組成すれば人件費がかかり、各種施策の制作物にはデザイン費用が発生します。研修を行えば講師費や会場費も必要でしょう。経営陣の中にはこうした費用対効果を懸念する声も上がるかもしれません。しかし、将来的な従業員エンゲージメント向上や離職防止による利益は容易に数値化できないものの非常に大きなものがあります。インナーブランディングは将来への投資と捉え、ある程度予算に余裕を持って臨むことが望ましいです。費用を抑えるあまり中途半端に進めると効果も出ません。「必要経費」と割り切って、本気度を示すことが成功のカギです。

形骸化のリスクと運用上の注意

インナーブランディングの施策は、やり方を誤ると形骸化して効果が発揮されない恐れもあります。例えば社員同士で感謝を伝える「サンクスカード」制度を導入しても、単なる義務的なカード交換になってしまっては本来の目的を果たせません。実際、弊社ソフィアの調査では「サンクスカード・ピアボーナス」を導入している企業の約48%で、その施策は「効果的ではない」と評価されていました。これは運用面に課題があり形だけの取り組みになっているケースが多いことを示唆しています。インナーブランディング施策を実施する際は、現場の声を聞きながら柔軟に改善し、目的に立ち返って運用することが大切です。「やりっぱなし」で終わらず、定期的に効果を検証してテコ入れする姿勢が成功への近道と言えます。

インナーブランディングを成功させるためのポイントは?

インナーブランディングを効果的に実施し、成功へ導くために押さえておきたいポイントを紹介します。以下のポイントに留意することで、より確実に社内への理念浸透と変革を進めることができるでしょう。

ブランドコンセプトを明確にする

成功の第一歩は、自社のブランドコンセプト(企業理念・価値観の核)を明確化することです。ブランドコンセプトとは、企業が大切にする使命や提供価値、目指す方向性を一言で表したものです。これがあいまいだと、社員に何を伝えたいのかブレてしまいます。逆にコンセプトが明確であれば、採用・評価・社外PRなど様々な場面で一貫した指針として機能します。「我が社は何を成し遂げるために存在し、社会にどう貢献するのか?」――この問いへの答えを経営層と担当部門でじっくり議論し、言語化しましょう。明文化したブランドコンセプトは社内ポスターやハンドブックなどに落とし込み、常に社員が目にする形で提示すると効果的です。

効果を定期的に測定し改善する

インナーブランディングの取組みが順調に進んでいるか、定期的に効果測定する仕組みを作りましょう。社員アンケートやエンゲージメントサーベイを活用し、理念浸透度や職場の意識変化を数値で捉えることが重要です。たとえば「経営理念を理解・共感している社員の割合」「部署間で協力し合えていると感じる社員の割合」などの指標を設定し、四半期ごと・半年ごとに追跡します。結果を分析して改善点を洗い出し、次のアクションに反映させましょう。効果測定には数値化できるKPIと、自由記述などで得られる定性的なフィードバックの両方を活用するとベターです。また競合他社の従業員満足度やエンゲージメント指標と比較して、自社の取り組み状況を客観視することも有益です。PDCAサイクルを回し続けることで、インナーブランディングの効果を着実に高めていきましょう。

外国人従業員への多言語対応

グローバル化や人手不足を背景に、外国籍の従業員を雇用する企業も増えています。社内に日本語が十分に理解できない社員がいる場合、インナーブランディングにも多言語対応が欠かせません。具体的には、企業理念やバリューを英語をはじめ必要な言語に翻訳して共有したり、社内報や社内ポータルサイトを多言語化して誰もが母国語で情報を得られる環境を整えたりすることが挙げられます。社内アンケートを実施する際も、質問票を複数言語で用意し外国人社員の声を汲み上げる工夫が必要です。実際、日本の大手メーカーでもWeb社内報を5~7言語に翻訳し、世界中の従業員に経営メッセージを迅速に届けている事例があります。厚生労働省の発表によれば、令和3年時点で外国人労働者数は約172万人に達し過去最高を更新しています。多文化な人材が共に働く時代、言葉の壁を取り除き全員を巻き込むインナーブランディングが求められているのです。

トップを巻き込んで全社で推進する

インナーブランディングを成功させる最大のポイントは、経営トップ自らが旗振り役となり全社一丸で推進することです。トップが本気で取り組まなければ、社員は「またスローガンだけ掲げて現場任せか」と冷めてしまいがちです。例えば経営者が定期的にトップメッセージを発信したり、現場に赴いて直接対話するタウンホールミーティングを開催したりするのも効果的です。トップの熱意やビジョンを直接聞く機会があると、社員の理解度・共感度は一気に高まります。また、各部門の管理職を巻き込んだ横断プロジェクトチームを作り、現場からボトムアップのアイデアを吸い上げながら進めることも成功の秘訣です。インナーブランディングは決して広報部や人事部だけの仕事ではありません。経営層と各現場が一体となって初めて成果が出る取り組みなので、社内のキーパーソン全員を巻き込み推進体制を築きましょう。トップダウンとボトムアップの両面から働きかけることで、社内への浸透力が格段に増します。

インナーブランディングの具体的な施策・手法は?

インナーブランディングは社内の様々な接点を通じて実現されます。ここでは代表的な施策をリストアップします。自社の状況に応じて、適切なものを組み合わせて活用すると良いでしょう。

社内ポスター

企業の理念やブランドメッセージをデザインに落とし込み、オフィス内に掲示する手法です。視覚的な訴求力が高く、社員が日常的に理念に触れることができます。社是やスローガンをポスター化してエレベーターや会議室に貼ることで、社員の意識に浸透させる効果があります。

従業員アンケート

社員の意見や現状認識を把握するためのアンケート調査です。インナーブランディングでは現場の声を知り課題を洗い出すことが重要なため、施策導入前後にアンケートを実施します。質問は簡潔にし、本音を引き出せるよう配慮します。得られたデータは現状分析や施策の改善に活用します。

社内報

社内向けの定期刊行物(ニュースレター)です。経営メッセージや各部署の取り組み紹介、社員インタビューなどを掲載し、全社の情報共有理念浸透に寄与します。近年は紙媒体からWeb社内報に移行する企業も増え、場所を問わず閲覧できタイムリーな情報発信が可能です。

カルチャーブック

企業文化や価値観をまとめた小冊子(ドキュメント)です。自社のミッション・バリュー・行動指針や歴史的エピソードなどを盛り込み、社員が自社の文化を深く理解できるガイドとなります。新入社員研修や全社員への配布物として活用され、読み物として楽しめるデザインにするのがポイントです。

クレド

ラテン語で「信条」を意味するクレドは、企業の行動指針や信念を簡潔にまとめたものです。カードサイズに印刷して社員に携帯させたり、社内掲示したりします。クレドを浸透させることで社員の判断・行動に一貫性を持たせる効果があります。著名な例ではリッツ・カールトンのクレドが有名です(後述事例参照)。

社内イベント

懇親会や運動会、社員旅行、表彰式など社員同士の交流を深めるイベントです。日常業務を離れてリラックスした場を持つことで、部署間の壁を越えた絆づくりに役立ちます。「普段接点のない他部署の人の人柄を知る」「仕事上の立場を離れてフラットに話す」機会となり、社内コミュニケーション活性化につながります。

ワークショップ

社員参加型の体験学習の場です。座学研修よりも双方向・体験重視で行われ、例えば「自社のビジョンを体現する新サービスを考える」「企業理念を題材にディスカッションする」といったテーマで開催します。社員自身に考えさせて気づきを得てもらうことで、理念の腹落ちを促す効果があります。

マネジメント・カンファレンス

経営トップと社員が直接議論し、意思決定まで行う合宿形式の社内会議です。経営陣と現場がチームを組み、会社の将来について本気で議論することで、トップの視点を社員が理解し共有する絶好の機会になります。サイバーエージェントの「あした会議」のように、実際に新規事業が生まれるなど成果を上げている例もあります(後述事例参照)。

タウンホールミーティング

全社員参加の社内説明会・対話集会です。経営トップが企業のビジョンや戦略を直接語りかけ、社員からの質疑にも答える双方向コミュニケーションの場となります。会社の方向性を共有しつつ、社員の声も吸い上げることで信頼関係を築きます。大企業では定期開催することで一体感醸成に大きな効果を発揮します。

日報

毎日の業務報告(日誌)も実は有効なインナーコミュニケーション手段です。上司が部下の日報にコメントを返すことで、経営理念に沿ったフィードバックを日常的に行えます。全社員の日報を経営層が閲覧できる仕組みにすれば、組織全体で情報共有が進み、横のつながりも生まれます。アイワード社では日報内容を翌日の社内報にまとめ全社員で共有する独自施策を35年間も続けている例があります(後述事例参照)。

サンクスカード

社員同士が感謝の気持ちをカードで送り合う施策です。普段直接言いにくい「ありがとう」を形にして伝え合うことで、ポジティブな社風を育みます。JAL(日本航空)ではルールを細かく決めず自主的なカード交換に委ねた結果、社員同士がお互いの存在を意識し合いサービス向上につながったそうです(後述事例参照)。

社内SNS

社内限定のSNSやオンライン掲示板ツールを導入する施策です。部署や拠点を超えて気軽に交流できる場を提供することで、情報共有と一体感の醸成に役立ちます。特に大企業では「顔も知らない同僚」が多数いるため、SNS上で全社員が繋がる仕組みは重要です。社員が自主的に発信し合う文化ができれば、社内コミュニケーションのハブになります。

トップメッセージ

社長や経営トップ自らが、会社の目指す姿や社員への期待を直接語りかけるメッセージ発信です。社内報やイントラネット、動画配信、社内ブログなど媒体は様々ですが、要はトップの肉声で理念を訴え続けることが肝心です。トップの言葉は重みがあるため、継続して発信することで社員の心に徐々に浸透していきます。「トップキャラバン」(経営陣の職場訪問)などもトップメッセージ発信の一環と言えます。

1on1ミーティング

上司と部下が定期的に行う1対1の対話です。評価面談とは異なり、部下の成長支援や悩み相談が目的のカジュアルなミーティングです。1on1を通じて上司が部下に企業のビジョンや期待を伝えたり、部下の意見を吸い上げたりできるため、現場感覚と経営理念の橋渡しとして機能します。弊社調査でも約23%の企業が1on1を導入しており、7~8割の社員が一定の効果を感じているとの結果が出ています(運用によっては効果が感じられないケースもあり注意が必要です)。

トップキャラバン

経営トップや役員が各職場を定期訪問し、現場社員と直接意見交換を行う取り組みです。社員数の多い企業ではトップと現場が直接話す機会は稀なので、トップ自ら足を運ぶことで「自分たちの声を聞いてくれる」という安心感とモチベーション向上につながります。トップキャラバンで語られたエピソードやビジョンは、社員の腹落ちを促進し社内浸透が進む効果があります。

エバンジェリスト(ブランドチャンピオン)育成

社内でブランド価値を伝道し広めるキーパーソン社員を育てる施策です。各部署から情熱的なメンバーを選抜し、インナーブランディング推進の担い手(=エバンジェリスト)になってもらいます。彼らはマーケティング活動やSNS発信、社内イベント企画など様々な場面で活躍し、草の根的に社員の意識改革を牽引します。エバンジェリストがうまく機能すれば、全社員にトップの想いを行き渡らせる強力な推進力となります。

インナーブランディングの成功事例は?

最後に、実際にインナーブランディングに取り組み成功を収めている企業の事例を紹介します。自社で取り組む際のヒントとして参考にしてください。

ライオン株式会社(アンケート調査の活用事例)

日用品大手のライオンでは、全社規模でインナーブランディングに取り組みました。同社は「ライオンという会社が何のために存在しているのか」という存在価値・アイデンティティを再定義するため、部署横断プロジェクトを立ち上げています。社長自ら先頭に立ち、全社員へ企業メッセージ「今日を愛する。」を浸透させるべく奮闘しました。

その中で特に効果を上げたのが社員アンケート調査です。全社員に自社の強み・課題について意見を募り、結果を分析して課題点を洗い出しました。その上でブランド浸透のための具体策リストを作成し経営陣に提言、全社で一丸となって施策を実行したのです。

結果、社員一人ひとりの行動が変わり、企業ビジョンが反映された新商品が生まれるなど具体的成果につながりました。「自社の価値を社員自身が自覚し、それが消費者にも伝わる」という成功体験を社員が得たことで、さらなる主体的な行動変革の好循環が生まれています。

株式会社アイワード(日報・社内報の活用事例)

印刷会社のアイワードでは、なんと35年間にわたり日報と社内報を組み合わせたユニークな取り組みを継続しています。全社員が毎日「仕事や生活での気づき」を日報に記入し、経営者や部門長がそれにコメントを書いて全社に提出します。翌日、その内容の一部を抜粋・編集した社内報「フォーラム」を発行し、全社員で共有しています。

この仕組みにより全社の業務状況が見える化され、経営者と社員の相互理解が深まりました。社員にとっても「自分の責任とは何か」「どう果たせばよいか」を考えるきっかけになっているそうです。長年の継続により、会社の目標に対する社員の自主的・自覚的な行動が根付いており、まさに日々の積み重ねで文化を醸成した好例と言えます。

株式会社サイバーエージェント(マネジメント・カンファレンスの事例)

IT大手のサイバーエージェントでは、役員がチームリーダーとなり若手社員と混成チームを組んで会社の未来を議論する「あした会議」という1泊2日の合宿を定期的に実施しています。各チームが新規事業案や課題解決策を提案し、優秀な案は実際に子会社設立や事業化されます。

これまでにこの会議から32社もの子会社が設立され、累計3259億円の売上・455億円の利益を生み出したといいます。この取り組みを通じて、社員は社長や役員の視点を直接学ぶことができ、また自社を取り巻く環境理解や新規アイデア創出にも寄与しています。経営陣と現場が膝を突き合わせて議論することで、ビジョンの共有と次世代リーダー育成を同時に実現した好事例です。

日本航空株式会社(サンクスカードの事例)

大手航空会社のJALでは、社員一人ひとりの成長と讃え合う風土づくりのため「サンクスカード」制度を導入しました。ユニークなのは「明確なルールを定めない」運用です。「褒めたいことがあったらカードを渡して」とだけ周知し、あとは社員の自主性に任せました。

すると自然にカードを渡し合う文化が醸成され、部署が異なる社員同士でも気軽に感謝を伝える風土が定着しました。その結果、自分の仕事の前後工程にも人がいることを互いに意識するようになり、マニュアルにない部分でもサービス向上に協力し合う姿勢が生まれたそうです。簡素な仕組みですが、「感謝の可視化」が社員のモチベーションを高め、組織の連帯感を強めた好例です。

ザッポス社(クレド浸透の事例)

アメリカのオンライン靴小売であるザッポスは、独自の企業文化で有名な会社です。Amazonに「是非欲しい」と買収されたことでも知られ、全米のビジネスパーソンなら誰もが知る存在となっています。

ザッポスでは「コア・バリュー」と呼ぶ自社のクレド(行動指針)を定めており、社員は意思決定に迷ったときはそのコア・バリューに立ち返ることを徹底しています。社員一人ひとりがクレドを深く理解し実践しているからこそ、顧客対応においても大きな裁量を持たせることができています(有名な例として、ザッポスでは上司の許可なく従業員の判断で顧客サービスに支出できる権限が与えられています)。

これは「最高のサービスのために従業員にエンパワーメント(裁量委譲)する」という文化で、従業員が自社の価値観に基づき主体的に考え行動する好循環を生んでいます。ザッポスはインナーブランディングの成功により卓越した顧客体験を提供している代表例と言えるでしょう。

株式会社ニチレイフーズ(弊社支援の事例)

冷凍食品大手のニチレイフーズでは、弊社ソフィアと共同で社内活性化プロジェクト「ハミダス活動」を推進しました。社員の行動指針として「もっと、思いやりをもって」「もっと、チャレンジして」「もっと、楽しく」仕事をしよう!というスローガン(ハミダス:とらわれず、明るく)を掲げ、それを全社に浸透させる取り組みです。

具体的には、組織横断の「ハミダス推進グループ」を設置して、営業支援、各工場での地域貢献活動、従業員同士のバーベキュー大会や社員旅行など多彩な施策を企画・運営しました。その結果、「ハミダス」という言葉が社内共通語として定着し、社員の間に広く深く浸透しました。活動に理解と共感を得られ、ボトムアップで協力する社員も増加しました。

この取り組みは消費者志向経営優良事例表彰(消費者庁長官表彰)も受賞し、社外からも高く評価されています。わかりやすいスローガンを掲げ、全社員参加型の活動に落とし込んで成功した例として参考になるでしょう。

グローバル部品メーカー(弊社支援の事例)

こちらは社名非公開ですが、弊社ソフィアが支援したグローバル製造業での事例です。同社は国内外で競合が台頭し事業環境が厳しくなる中、社員が自社ブランドの強みを十分理解していないという課題がありました。全社のブランド力や営業力を強化するため、まさにインナーブランディング推進が急務でした。

ソフィアではまず社内コミュニケーション阻害要因の洗い出しのため、オリジナルの社員アンケート調査を実施しました。回答を部署や属性ごとに分析し、ハイパフォーマー社員の特徴や自由記述のテキストマイニングも行って、問題点を可視化しました。その上でブランド浸透のための具体策リストを作成し経営陣に提言、全社で一丸となって施策を実行したのです。

さらに経営層の合意を得て、中期的なブランド浸透シナリオを策定し、施策として表彰制度の新設、表彰者参加の横断ワークショップ、全社員参加のビジョンダイアローグ(対話集会)、具体的に褒める文化醸成の「Good Jobカード」制度などを次々と実行しました。これらの施策群によってグループビジョンの浸透度が飛躍的に向上し、同社らしい新規事業やサービスが生まれるなど成果が現れています。

コングロマリット企業グループ(弊社支援の事例)

こちらも社名非公開の弊社支援事例です。多角事業を展開するある企業グループでは、従来トップダウン文化が強みとして事業を推進してきました。しかしさらなる顧客志向の企業体になるため、新たにグループビジョンを制定し挑戦を開始します。

浸透度調査では98%の社員がそのビジョンを「理解・共感」しているという結果だったものの、実際の社員行動にビジョンが体現されていないという課題が浮上しました。つまり、頭では理解していても行動が変わっていなかったのです。

ソフィアはまず点在していたビジョン浸透施策を統合管理し、浸透の中期シナリオを策定しました。加えて、浸透度調査の改善とKPI設定を支援し、シナリオに基づく具体策のプランニングも行いました。施策としては、表彰制度の刷新、表彰者による横断プロジェクトワークショップ、全グループ従業員参加のビジョンダイアローグ(対話イベント)、そしてGood Jobカード制度の導入などを展開しました。

これらの取り組みにより、グループビジョンの浸透が進み、同グループらしい新規事業・サービス創出へと結実しています。理解から行動への転換という難題に挑み、具体策の積み重ねで成果を上げた好例です。

スターバックス(社員エンパワーメントの事例)

スターバックスでは、冒頭でも触れたように顧客に「スターバックスらしい」ホスピタリティを提供するために、サービスのマニュアルをあえて設けていません。その代わり各店舗スタッフに権限を委譲し、自主的に考え行動してもらう方針を取っています。

これは「現場の従業員一人ひとりがスターバックスらしさを考え、自分ごととして行動するようになってほしい」という狙いからです。例えばある店舗では常連客の好みに合わせた一杯を提供したり、別の店舗では地域のコミュニティ活動を店内で開催したりと、各スタッフが創意工夫しています。

従業員に細かい指示を出すのではなく裁量を与えて信頼することで、結果的に各人が主体的に「らしさ」を追求する文化が根付いています。スターバックスは企業理念の体現を社員に委ね、引き出すタイプのインナーブランディングで成功した例と言えるでしょう。

リッツ・カールトン(社員エンパワーメントの事例)

高級ホテルチェーンのリッツ・カールトンは、サービス品質向上のための独自文化で知られます。リッツ・カールトンでもクレド(従業員心得)が有名ですが、さらに「エンパワーメント(裁量委譲)」という仕組みがあります。

現場スタッフがお客様に最高のサービスを提供するためであれば、上司の許可を得ずに一人当たり最大2000ドルまでの出費を即断で行って良いという権限です。例えば宿泊客が何かトラブルに遭った際、スタッフの判断で花束やシャンパンを手配して部屋に届ける、といった対応ができます。

これにより、スタッフは「最高のサービスとは何か」を自分で考え即行動に移すようになります。結果としてリッツ・カールトンらしいホスピタリティが全世界どのホテルでも実現されています。徹底したブランド理念の共有と、現場への大胆な権限委譲を組み合わせた好例です。

三井化学(社員の視野拡大の事例)

素材メーカーの三井化学では、「オープン・ラボラトリー活動」という独自の社内イベントを開催しています。研究者が自ら自社製品のユーザーや消費者と触れ合う機会を作り、自分の研究が社会でどう使われているかを実感する場となっています。

研究職は往々にして日々の実験に没頭し視野が狭くなりがちですが、自社の研究が世の中に役立つ姿を肌で感じることで、研究者自身が会社の使命やビジョンを再認識する効果があります。「自分の仕事が社会と繋がっている」と実感した社員は、企業理念に対する共感も深まり、さらに良いものを作ろうとモチベーションが向上します。

このように、一見業務と直接関係ないような活動でも社員の視座を上げ理念への共感を醸成するユニークな取り組みとして注目されます。

インナーブランディングにおいて経営理念は常にアップデートされ続けている

歴史の長い会社や、規模が徐々に大きくなった会社では、「経営理念」「企業理念」自体が形骸化しているということが多々あります。役員会議室や応接の額縁に飾る程度、もしくは年次で行われる儀式や対外的なコミュケーションツールとしてアナウンスされている程度で、実際は機能していない例がよく見受けられるのです。

そのような企業であっても、ビジネス自体は問題なく継続しているのが実情であることから、「そもそも経営において理念や上位概念は必要なのか?」という根本的な疑問が湧くでしょう。

しかし、そのような場合でも、雇用契約や人事制度は上位概念から派生している要素であり、従業員はあまたある企業組織の中から、理念を踏まえた上で入社を決意し所属しています。その意味では、経営理念を含めた上位概念は、少なからず組織と個人を結合していると言えます。

上位概念や理念が形骸化しているように思えたとしても、トップやマネジメントのメッセージの根本に影響していたり、個人の処遇の背景になったり、暗示的な風土や文化を醸成していたりするものです。つまり、上位概念や理念は、実際には企業の中心にあるのだと考えることができます。

良いアップデートか悪いアップデートなのかわからないことが問題

役員会議室や応接に飾られている経営理念は、文としては固定されていまが、従業員個々の所属する立場から解釈され、新しい言説を生み、知らず知らずのうちにアップデートされているものです。

その解釈が理念に影響を与えながら、組織風土を醸成していくのです。ただし、その新しい解釈について、各々で確認したり、対話したりせずに、文化や風土やブランドについて立ち返って考えることもないような状態が続く場合は、理念を刷新する必要があるかもしれません。

  フォーマルとインフォーマル

理念には、フォーマルとインフォーマルのものがあります。フォーマルとは、公式に規定されている言語、可視化されている上位概念のことです。つまり、会社のコーポレートサイトや統合報告書に記載されているような内容です。

しかし、前述の通り、組織の全体の内部活動すべてが、上位概念の字面通りに運営されるということはありません。外部の人間であっても、字面通り解釈するとは限らないでしょう。上位概念のいくつかは未来に対する宣言や希望を示しているため、変化や過渡期において、字面通りに進むとは言い切れないのが実情です。

かといって実態が、明示している上位概念とあまりにも乖離している場合は要注意です。社員が詭弁や嘘であると認識していれば、上位概念自体が問題になり得るでしょう。面従腹背を生み、組織としての一体感や信頼を失う可能性があります。

昨今は、企業が社会課題を積極的に経営に取り込むようになり、産業界だけではなく社会を相手に課題解決と収益構造を両立することが求められています。このような時代に、上位概念と実態の乖離が深刻だと、より難しい問題になるのです。いわゆる「SDGsウォッシュ」のように、「言っていること」と「やっていること」のギャップが生じ、社会的な信頼の失墜につながるかもしれません。

  パワーと権力

ここまで説明してきたように、上位概念は権力の源になり、同時に、組織と人をつなぐものでもあります。つまり、上位概念には、パワーになる側面と、求心力になるという側面の、両面性があるということになります。だからこそ大事なのは、理念や上位概念が絶対的であるとは限らないのだと認識することです。

たとえば、新規事業が「優位」で既存事業が「劣位」という概念がある場合、新規事業の失敗が大きな問題になります。逆に既存事業が大事だという概念がある場合は、新規事業が育たないことになります。しかし新規事業と既存事業は対立するものではありません。既存事業の収益があるから新規事業というまだ収益性が不確かな投資を行えるわけです。一方で、新規事業を創造しなければ経営事業の存続はないということも事実です。イギリスの経済思想家でもあるJ.S.ミルが主張したように、「集団組織においても、人は自己の好みや習慣などを一番だと思い込む傾向がある」ため、コミュニケーションを絶えず欠かさず、時に衝突も起こしながら、バランスをとっていくことが重要でしょう。

  具体と抽象

上位概念や理念を日々の問題解決にどう取り入れるか具体化するには注意が必要です。たとえば、「一人ひとりが活躍できる組織」という理念があるとして、これを具体化するときに「働き方改革が大事」→「残業時間を意識する」→「残業代を支払わない」という言説に陥ってしまう可能性もあります。この落としどころは、「一人ひとりが活躍できる組織」という理念で掲げたい内容とは大きく乖離するでしょう。このような間違った具体化がなされる原因は、論理ではなく、コミュニケーションにあります。企業はインナーブランディングを通じて、従業員に対して抽象的な理念や価値観を具体的な行動やタスクに落とし込むよう丁寧に指導する必要があります。

  体験と解釈から生まれる学習

経営理念の浸透・共感がうまくいっている場合、社員や組織は、経営理念に基づいた活動や振り返りを行うことができます。単純な個別の成果や、単なる業績のPDCAサイクルだけでは、一喜一憂しません。事象や数字をどうとらえるか、理念を起点に解釈するのです。

「前年対比より数字が上がった」ことは表面的には良い事かもしれません。しかし、理念においてはどうか、ビジョンにおいてはどうか、パーパスにおいてはどうかを考えると、また違った見え方になる可能性があります。事象や結果をどのように解釈するかという根本的な考え方で振り返ることが可能になり、その学習が次の行動を生み出す源泉になります。だからこそ、上位概念をどう解釈するのか、現場単位でコミュニケーションをとることが大切です。

まとめ

インナーブランディングは会社の価値を内側から高め、持続的成長を実現するために社員や社内関係者の行動を変える取り組みです。社員の意識と行動が変われば、新たな価値が生まれサービスや製品の競争力が向上します。

一方で、インナーブランディングは短期間で成果が見えにくく、地道な努力の積み重ねが必要な活動でもあります。途中で効果が感じられず挫折してしまう企業も少なくありません。

しかし、社員の行動が変われば必ず成果が出るはずです。インナーブランディング成功の鍵は、経営トップが強い意志を持ち、社員全員を巻き込んで本気で取り組むことにあります。トップ自らが「会社が本気で目指す価値」を訴えかけ、現場も巻き込んで一丸となることで初めて大きな力が生まれます。

時間はかかりますが、あきらめず粘り強く続けることで必ず成果は実るでしょう。

弊社ソフィアでは、様々な企業のインナーブランディング活動を専門知見でバックアップしています。「何から始めれば良いかわからない」「自社に合った施策を提案してほしい」といったお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。インナーブランディングの推進を通じて、御社の企業価値向上と持続的成長を全力でサポートいたします。

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よくある質問
  • 「インナーブランディング」と「インターナルブランディング」は違いますか?
  • 意味する内容は同じです。「インナーブランディング」は和製英語的な表現で、海外では通常「インターナルブランディング」と言います。日本のマーケティング・組織開発分野では「インナーブランディング」という呼称が定着していますが、どちらも社内向けのブランディング活動を指します。
    呼び方が違うだけで本質的な違いはありません(ただし海外の方には”Internal Branding”と伝える方が誤解がなくスムーズです)。

  • インナーブランディングの推進は社内のどの部署が担当するべきですか?
  • 一概には言えませんが、多くの企業では広報・コミュニケーション部門や人事・人材開発部門、または経営企画部門が中心となって推進しています。
    重要なのは特定部署だけでなく、経営トップや各部署の管理職を巻き込むことです。広報/人事が旗振り役となりつつ、経営層のコミットメントを得て全社横断プロジェクトとして進めるケースが成功しやすいです。現場の協力も不可欠なので、各部署からメンバーを集めた推進チームを作るのも有効です。

  • インナーブランディングの効果はどのくらいで表れますか?
  • 企業規模や施策内容によりますが、短くても半年以上かけてじわじわ低下するといった長期的な成果指標で捉えると良いでしょう。
    途中経過として社内の声(「最近社内が活発になった」「経営理念を意識するようになった」等)を拾い、小さな変化を積み重ねていくことが大切です。即効性を期待しすぎず、腰を据えて取り組みましょう。

  • インナーブランディングと従業員エンゲージメント向上施策は何が違いますか?<
  • インナーブランディングは企業理念やブランド価値の浸透を通じて社員の意識・行動を変革する「手段・戦略」を指します。一方で従業員エンゲージメント向上は社員の会社に対する愛着心ややる気を高める「目的・成果」を指すことが多いです。
    両者は密接に関連しており、インナーブランディングを進めることがエンゲージメント向上につながります。エンゲージメント向上施策というと報酬制度や福利厚生の充実なども含まれますが、インナーブランディングは理念・文化の共有によってエンゲージメントを高めるアプローチと言えます。
    要は、インナーブランディングはエンゲージメント向上の有力な手段の一つであり、社員の心をひとつにまとめることで結果的にエンゲージメントを高めるものです。

  • インナーブランディングは採用活動にも役立ちますか?
  • はい、非常に役立ちます。インナーブランディングが進んでいる企業は、自社の使命や価値観が明確で社内に浸透しているため、採用時にも自社の魅力を一貫して発信できます。

    社員が自社のブランドに誇りを持っていれば、面接やリクルーター活動で自然と熱意が伝わり、候補者の共感を得やすくなります。さらに社内の雰囲気や社員の声がSNSや口コミで伝わることで、カルチャーに惹かれて応募してくる人材も増えます。

    結果としてミスマッチの少ない、志望度の高い人材の採用につながります。最近では社員のエンゲージメントを高めつつ社外にも発信する「インナーブランディング=最良の採用ブランディング」という考え方も広まっています。

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。