在宅勤務のメリットとは?導入時の注意点を解説

働き方改革の推進や、感染症拡大など社会情勢の急激な変化により、時間や場所に縛られることなく仕事ができる、テレワークという新しい勤務形態が広がってきています。本来は場所を問わない働き方であるものの、現在はもっとも導入しやすい在宅勤務がテレワークの主流になっています。
本記事ではこの在宅勤務に関して、企業における導入のメリットと導入時の注意点を解説します。

在宅勤務とそのメリットとは

在宅勤務という勤務形態は決して新しく始まった取り組みというわけではなく、働き方改革が盛んになるずっと以前から、大手企業などでは家庭や個人の事情などに応じて一部の社員に導入していました。近年、多くの企業で在宅勤務が取り入れられるようになった背景、メリットを見ていきましょう。

企業が在宅勤務を導入する背景

近年になって在宅勤務の導入が進むようになった背景には、大きく3つの要因があります。社会情勢の変化により国から企業へ在宅勤務の要請・導入支援があること、また、企業側、従業員側それぞれに、従来の働き方では実現できなかったメリットがあるためです。企業側、従業員側それぞれのメリットについては、次に解説します。

在宅勤務制度における企業側のメリット

在宅勤務制度には、雇用される社員だけでなく雇用する企業側にも大きなメリットがあります。

1. ランニングコストを大きく削減できる

会社に出社する従業員の数が少なくなることから、水道・光熱費や清掃費、什器や備品代、交通費などの諸経費を削減できます。出社する社員の人数が限られることで、賃料などのオフィスコストを見直すことまでも可能になるでしょう。

2. 優秀な人材を雇用できる

エンジニアなどの需要過多な職種において、優秀な人材を獲得するために、在宅勤務が可能かどうかが、重要な切り札となる場合があります。また、子育てや介護、自身の病気などの理由で従来の働き方では離職せざるを得なくなっていた優秀な人材を、引き続き雇用し続けられるというメリットもあります。ワーク・ライフ・バランスを重視する人材に対し、他社との差別化をアピールできます。

3. 事業継続性を確保できる

事業継続性とは、不時・不測の事態においても事業を途切れることなく続けられる状態を指します。オフィス以外の場所でも働ける基盤を形成しておくと、災害や疫病の発生に伴って従業員の通勤が困難となったり本社機能が一部損なわれたりという状況下でも、自宅で各々の業務を滞りなく進められます。

また、現在は厚生労働省が「働き方改革推進支援助成金」制度を設けており、企業はこれまでよりずっと在宅勤務を導入しやすくなっています。

在宅勤務制度における従業員のメリット

続いて、従業員にとってのメリットについて解説します。

1. 通勤に伴う精神的・肉体的・物理的負担を軽減できる

特に都心部では、通勤ラッシュに巻き込まれて朝から疲弊している従業員も少なくないでしょう。かといって郊外に住んでいる場合でも早朝から電車に乗る必要があり、往復で2時間から4時間はゆうにかかるといったケースも決して珍しくありません。交通機関に遅延や運休が発生した場合の遅刻を危惧して、早め早めに出社している従業員もいます。
在宅勤務を導入することでこれまで通勤に費やしていた時間を削減できるだけでなく、通勤ラッシュによる疲労、遅刻に対する不安も解消されます。

2. 業務効率が向上し時間外労働を抑止できる

実際に在宅勤務で働いている会社員からは「自宅だと自分に関係のない電話が鳴ったり周囲から突然話しかけられたりすることがないので、集中できて作業がはかどる」といった声が多く挙がっており、従業員の作業能率が向上し業務効率化が期待できるほか、時間外労働の抑止にもつながります。

3. 育児や介護と仕事を両立しやすくなる

在宅勤務本来の「時間に縛られない」働き方によって、従業員の介護や育児の時間を優先し、家庭の事が落ち着いた時間帯に集中して作業ができます。「家のことは大変だけれど仕事もしたい」という従業員の要望に応えることができ、ワーク・ライフ・バランスの向上へとつながるでしょう。

在宅勤務の導入を成功させるポイント

もしあなたの会社で在宅勤務の導入が決まったとしても、現在の業務をそのまま自宅で行えば在宅勤務が実現するという簡単な話ではありません。在宅勤務の導入に失敗してしまうと、現場が混乱し会社の構造を崩しかねない事態となります。ここからは在宅勤務を導入する際に押さえておくべきポイントを解説します。

業務に必要な環境を整える

在宅勤務を導入する際は、オフィスでの就労と比べて不便になりうる点を洗い出し、自宅でも負担なく業務を遂行できるように自宅の環境を整備することが重要です。

1. 情報通信システム・機器を検討する

オフィス内であれば社内ネットワークを介して社内のサーバーやツール群へ簡単にアクセスできますが、在宅勤務を導入する際は、社外からもそれらにアクセスできるよう、情報通信システムを再構築する必要があります。
また、アクセスできる端末を制限したり、IDやパスワードで認証を行ったりと、情報セキュリティにはこれまで以上に万全の注意を払う必要もあります。
システム部門だけでなくコーポレート部門との連携が必要であり、グループウェアの提供会社にも協力を仰ぎましょう。

2. 従業員の労働環境を確認・整備する

在宅勤務によって企業のコストが減ると解説しましたが、従業員には逆に環境整備のコストがかかっています。業務に使用するパソコンの貸与だけでなく、インターネット回線、机や椅子、照明などの整備や、在宅勤務によって増える通信費や光熱費を経費とするかどうかも、導入にあたって検討すべき事項のひとつです。
具体的に例示すると、個人間売買サービスで有名なメルカリ社はテレワーク手当として半年ごとに6万円を従業員に支給しているほか、企業向けブログ構築サービスの先駆けであるシックス・アパート社は2016年からテレワークに移行し、毎月1万5千円を従業員に支給しています。
なお、アルバイトや派遣スタッフ、業務委託スタッフなどの対応についても関係各所と連携した上で、全従業員に不利益が生まれないように策を講じておくことも重要です。

3. 労働時間を適切に把握する

労働時間がきちんと管理されていない場合、従業員の総労働時間は長くなる可能性があります。オフィス内であれば目視で管理ができますが、目に見えない場所で勤務している社員の場合は意識的に管理をしないと労働時間の実態を把握できません。出退勤の概念がなくなるために、定時を過ぎても作業をそのまま続けていたり、集中しすぎて休憩を取らなかったりというケースが実際に指摘されています。
ワークスペースとプライベートな空間が重なりがちな在宅勤務では従業員のメンタル面に負荷がかかるリスクもあるため、これまで以上に勤務時の体調管理が重要になってきます。管理者がチームメンバーの家庭環境と労働時間を適切に把握し、従業員がそれぞれの状況に合わせて無理のない働き方を選択できるように、コーポレート部門からの通達が必要です。

4. コミュニケーションツールを導入する

コミュニケーションの不足やすれ違いはストレスの原因になりうるだけでなく、業務において大きなトラブルを招きかねません。組織内でどのような業務or案件が動いていて、各人がどのような状況にあるのか、Web上で情報をできるだけオープンに共有することがトラブル回避につながります。
電話は二者間、しかも音声でしか情報を共有できないため、オンラインチャットやWebミーティングなどのツールを適宜導入し、コミュニケーションを密に行う必要があります。オンラインチャットはSlackやChatwork、WebミーティングであればSkypeやTeams、Zoom、Google Meetなどのツールが代表的です。

業務を棚卸しして可視化・構造化する

2020年4月17日にパーソル総合研究所が発表した調査結果によると、テレワークの導入率は全国平均で27.9%であり、未だ7割弱がテレワークを導入できていません。テレワークを導入できない理由については、「テレワークを行える業務ではない」という回答が47.3%、次いで「テレワーク制度が整備されていない」が38.9%となっています。
※参考資料:緊急事態宣言(7都府県)後のテレワークの実態について(https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html

製造や物流、ケア業務など、どうしても「モノ」や「人」に直接介することが不可欠な仕事はテレワークに移行できません。ただしそれ以外に、本当はテレワークを行える業務であるにもかかわらず、業務を可視化・構造化できていない状態であるためにテレワークを導入できていない可能性も考えられます。
在宅勤務において不都合が生じる一番の原因は、「在宅勤務に向いている仕事」と「向いていない仕事」の区別が行われていないことです。在宅勤務を導入する前には、以下の観点に基づいて各部署内で業務を棚卸しした上で、可視化・構造化しておくことが重要です。
構造化の一軸は「個人でやるべき仕事か、チームでやるべき仕事か」です。もう一軸は「専門性の高い仕事か、低い仕事か」となります。


専門性/関わる人員 個人 チーム
専門性が高い 専門性の高い仕事(プログラマー、デザイナーなど)

在宅勤務との相性:◎

企画書作成、営業、コンペ準備など

在宅勤務との相性:△

専門性が低い マニュアル化されていない属人化した細々とした業務は、業務管理をしにくい

例えば、資料を探す、上司・部下からの相談を受ける…など

在宅勤務との相性:×

プロジェクトの初期に多い「調査」や「分析」、「データ集計」などの仕事

包括的な進捗管理が必要。

在宅勤務との相性:○


各部署、各チーム、各社員が普段どのような業務を行っており、それらを一度目に見える形にまとめて整理することは、在宅勤務の導入の有無にかかわらず企業の業務効率化においても必要な作業です。骨の折れる作業ではありますが、導入を検討する企業においては、実施することを推奨します。テレワークに向いている業務が何なのかが明確になってさえいれば、テレワーク制度の整備は他社事例が多くあるため比較的解決が容易です。

まとめ

本記事の執筆時点ではCOVID-19パンデミックの影響によって都心部を中心に多くの企業で続々と在宅勤務が導入されるようになっていますが、突然の社会要請のために企業内で十分な準備ができなかったということもあり、導入から数ヶ月経ってさまざまなデメリットや課題が浮き彫りになっています。中でも、業務やコミュニケーションが円滑に行われていない点、労働環境や労働時間の管理が徹底されていない点については早急に対処すべき事項であるといえます。
テレワークや在宅勤務は決して今をしのぐ一時的な対策ではなく、将来的に働き方改革を大きく推進する施策として続いていくでしょう。今後のテレワーク環境の構築や改善に、今回挙げた注意点が参考になれば幸いです。

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