インターナルマーケティングとは?従業員満足度を上げる重要性を解説

昨今は、組織内において企業が従業員に対して行う「インターナルマーケティング」が注目を集めています。「マーケティング」は顧客が商品をより多く購入するよう、企業が顧客に向けて行う活動全般を意味しますが、「インターナルマーケティング」とはどういったものなのでしょうか。
本記事では、このインターナルマーケティングについて基本的な内容とその重要性、自社で実施する際のポイントについて解説していきます。

インターナルマーケティングとは

インターナルマーケティングとは、「インターナル(internal)」という「内部」を意味する英単語が示すとおり、企業の内部におけるマーケティング活動を指す用語です。

インターナルマーケティングの概要

早稲田大学の木村達也教授は、著書『インターナル・マーケティング~内部組織へのマーケティング・アプローチ~』の中で「インターナル・マーケティングとは、組織がその目標を中長期的に達成することを目的として実施する、内部組織の協働のための一連のプロセスあるいはコミュニケーションの活動である」と定義しています。

具体的に、インターナルマーケティングには3つのフェーズがあると、木村氏は自身の発表した論文の中で述べています。

  1.  マーケティングの技術を社内に応用することで、エンプロイー(従業員)エクスペリエンス(体験)(EX) を向上させること
  2.  企業において顧客志向(顧客満足度を向上させるための価値を提供しつつ自社の利益も確保する考え方)を強化すること
  3.  企業が行うマーケティング活動を、全社に対して理解を促し浸透させることで、クライアントだけでなく従業員を含めたすべての関係を統合し、包括的なマーケティング活動を実現すること

一般的なマーケティングが相手にする市場は顧客(クライアント)ですが、インターナルマーケティングの市場は従業員(エンプロイー)であるため、エンプロイーマーケティングと言い換えることができます。

なお、前者で触れた「エンプロイーエクスペリエンス(EX)」とは「従業員体験(従業員経験)」という意味で、会社に属する社員が社内で遭遇するすべての経験を指します。企業変革においてしばしば言及される「従業員満足度」は、エンプロイーエクスペリエンスの一部です。そして、エンプロイーエクスペリエンスを向上させるというのは、社員が社内や業務、待遇などのあらゆる面で快い経験をすることと同義です。

企業がある目標を達成することにおいて、優秀な人材を開発・動機付けし、組織内にとどめておくためには、従業員が企業に求める条件をしっかりと満たしていくことが重要となります。従業員の要望をしっかりと満たしていくためのマーケティング活動を「インターナル・マーケティング」と呼んでいます。

参考:木村 達也(2016)「インターナル・マーケティングの研究 : 内部組織を対象とした、もうひとつのマーケティング・アプローチ」早稲田大学

エクスターナルマーケティング・インタラクティブマーケティング

企業におけるマーケティング活動には、それぞれターゲットが異なる「エクスターナルマーケティング」と「インタラクティブマーケティング」というものも存在します。
エクスターナルマーケティングは、「エクスターナル(external)」、すなわち「外部」という言葉が示すとおり、顧客をターゲットとしたマーケティング活動です。いわゆる既存の社外に向けたマーケティングと捉えてよいでしょう。これは基本的に、企業が顧客へ価値のある情報を一方向的に提供するものです。
そしてインタラクティブマーケティングについては「インタラクティブ(interactive)」という英単語がついていますが、これは「双方向」という意味を持ちます。これは、従業員と顧客の間で双方向のコミュニケーションを通して行われるマーケティング活動を示します。

インターナルマーケティングを実施する目的

インターナルマーケティングの概要が理解できても、その重要性についてはややわかりにくいかもしれません。ここからは企業がインターナルマーケティングを実施する目的と意義について解説します。

企業利益を上げるため

企業利益を上げるにはさまざまな手段がありますが、その中に「企業のブランディング」があります。企業のブランド価値を高めることで、顧客からの信頼を得ることができ、商品の購入やサービス利用の促進につながるためです。
そして企業のブランド力を高めるにはサービスのクオリティを上げる必要があり、そのためには従業員一人ひとりの協力とエンゲージメント強化が極めて重要な要素となります。
インターナルマーケティングを実施することで、下記に挙げた効果が期待できます。

■ 組織に対する従業員のロイヤルティ向上

ロイヤルティ(Loyalty)は「(対象に対しての)愛着・信頼」という意味の英単語です。組織へのロイヤルティは、企業に対する帰属意識に近いものです。従業員にインターナルマーケティングを実施することで、組織へのロイヤルティを意図的に向上させることができます。そしてこれも、従業員のエンゲージメント強化へとつながる要因の一つといえます。

■ 人事のコスト低下・組織のパフォーマンス向上

インターナルマーケティングを実施することには、その計画どおりに従業員の意識を変化させる効果があります。例えば計画が成功し、業務に対して従業員の意欲が高まると、業務効率や生産性が向上し、結果として企業のパフォーマンスアップに大きく寄与します。また、従業員が定着して離職率が低下することで、企業の採用や育成に関するコストが軽減されるなど、企業にとってインターナルマーケティングは十分に意義のある施策だといえるでしょう。

サービスプロフィットチェーンを回していくため

人事用語である「サービスプロフィットチェーン(SPC)」について聞いたことはあるでしょうか。これは、顧客満足と従業員満足、業績の因果関係を示したハーバード・ビジネススクールのへスケット(J.S.Heskett)、サッサー(W.E.Sasser,Jr.)らが提唱したビジネスフレームワークです。
サービスプロフィットチェーンの基本的な概念は、下記となります。

  • 組織が従業員を大切に扱う
  • 従業員は顧客に対して質の高いサービスを提供する
  • 顧客満足が高まり、企業のファンになることでロイヤルティが高まる

これらのサイクルによって企業の売上増加につながり、利益から得たリソースをインターナルマーケティングに投資することで従業員満足はさらに高まり、サービスの質、顧客満足度も比例して向上するという好循環が生まれるわけです。
サービスプロフィットチェーンは、日本のGDPの7割を占めるサービス業(広義)において当てはまりやすいフレームワークとされています(ホテルなどの接客業が特にわかりやすい例でしょう)。顧客と従業員との接点が極めて近く、サービスのクオリティがそのまま企業評価へ反映されるためです。したがって、従業員にむけてインターナルマーケティングを実施し、行動変容や意識醸成に向けた施策を打つことは不可欠といえます。

インターナルマーケティングで従業員満足度(ES)を上げるために社内の市場原理を理解する

インターナルマーケティングにおける市場は従業員である旨はお伝えした通りです。マーケティングにおいて市場原理を理解することは必須ですが、これはインターナルマーケティングにおいても同様です。
インターナルマーケティングにおいて、企業は「売り手」であり、「買い手」は人材です。売り手である企業は、「仕事内容(製品)」や「待遇(価格)」、「通勤場所や勤務形態(流通)」や「採用活動(プロモーション)」といった形でマーケティングを行います。それによって企業は買い手である人材から「労働力」という対価を得ることになります。
マーケティング活動においては、買い手の「買うべき必要性(ニーズ)」や「買いたい欲求(ウォンツ)」の両方を売り手が満たすことで、買い手を満足させられます。
インターナルマーケティングにおいてのニーズは「仕事内容に見合った待遇」であり、ウォンツは「魅力的な社風や福利厚生、モチベーションを刺激する環境」などでしょう。このニーズとウォンツをしっかりと理解することが、企業活動においては重要となります。

インターナルマーケティングの実施手順

インターナルマーケティングを行う手順は、エクスターナルマーケティングと類似しています。この記事をご覧になっている人事ご担当者さまもご存知かもしれませんが、あらためて解説します。

ペルソナの設定

ペルソナとは、ターゲットとして想定される人物像を架空に制作することです。
従来のマーケティングでは、「35歳男性、会社員、家族あり、両親と同居」などの大枠の属性をグルーピングしてターゲットとしていました。ターゲット群が多いほど、幅広くアプローチができると考えられていたからです。しかし、近年ライフスタイルが多様化する中で、そのような大まかなグルーピングでは、個々の思考や行動が想像しにくく、どういった訴求が効果的なのか不明瞭で、アプローチしにくいことがわかってきました。

ビジネスでいえば性別や年齢、学歴、出身地、職務経歴、既婚・未婚、お子さんの有無、所有資格、仕事に対する考え方、性格、趣味など細かく設定したペルソナを複数用意します。履歴書などを参考にすると「東京都練馬区在住の42歳男性、既婚者でお子さんが2人。今回が初の転職で前職でも今回の求人と同じ職務に就いており、和を重んじる性格で協調性が高いが主張できないところがある。趣味はスポーツ全般」…などです。
ポイントは、人事情報=ペルソナではないということをご理解ください。上記にも記載していますが、社員の感情や考え方を浮き彫りした社員像になります。

目的を決める

ペルソナを設計したら、そのペルソナがエンプロイーエクスペリエンスを経てどのような状態になっていることが望ましいのかという目的(ゴール)を設定します。例を挙げるとするなら、業務においてどのくらいのパフォーマンスを出して欲しいか、どのような役割で立ち回ってほしいかなどです。

分析する

インターナルマーケティングの開始後は、施策が効果的に導入されているかどうかを分析する必要があります。「100のパフォーマンスを発揮してほしいのに60しか出ていない」としたら、「モチベーションコントロール」や「育成」、「評価制度」といったインターナルマーケティングがうまくいっていないのかもしれません。
パルスチェック、ストレスチェックの結果や、能力面、賃金面など多方面から従業員を分析し、PDCAを回しながら都度改善を行っていきましょう。

エンプロイージャーニーマップを作成する

エンプロイージャーニーマップとは、エンプロイーエクスペリエンスをフェーズごとに図解化したものです。入社、研修、配属(先)、実務、コミュニケーション、育成、評価、キャリアアップ、退職などと従業員経験を分類して、それぞれのフェーズで従業員が何を期待し、どのような課題を感じ、どのような心理状態になるのかを想定します。そうするとエンプロイーエクスペリエンスを向上させるために打つべき施策、すなわちインターナルマーケティングの内容が定まるわけです。最近では、企業内研修の際には、「Leaner Experience(学習者体験)」、入社(新卒・中途)の際には「Onboarding Experience(入社時体験)」というように、入社から退社までだけなく、フェーズを分けて実施している企業が増えています。

まとめ

企業がインターナルマーケティングを行うと、従業員の満足度向上に大きく寄与するだけでなく、顧客へのサービス価値も上がり、企業の発展につながるということは先に解説したとおりです。内容が極めて広義な上に施策も多岐にわたることから、まずはターゲットを決めてエンプロイージャーニーマップを作成し、課題点を洗い出して、できる部分から段階的に始めるとよいかもしれません。

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よくある質問
  • インターナルマーケティングとは何ですか?
  • 組織がその目標を中長期的に達成することを目的として実施する、内部組織の協働のための一連のプロセスあるいはコミュニケーションの活動である」と定義しています。インターナルマーケティングの市場は従業員(エンプロイー)であるため、エンプロイーマーケティングと言い換えることができます。

株式会社ソフィア

プロデューサー

小林 裕大

調査、メディアコンテンツディレクション、イベント企画、運営を担当しています。一番の得意分野は進め方がわからない、やり方が決まっていないプロジェクトを伴走して推進していくことです。

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