2020.07.14
導入が難しいERP、失敗の原因と対策を紹介!
目次
ERPは数あるシステムの中でも導入に失敗するケースが非常に多く、実際に周囲の人から「ERPの導入に失敗してしまった」という話を聞くと、なかなか踏み切れない企業も多いのではないでしょうか。
ERP導入の失敗にはいくつかの原因があり、それらをあらかじめ対策することで導入を成功させる確率を大きく引き上げられます。本記事では、ERP導入に失敗してしまう原因と、導入を成功させるための対策をご紹介していきます。
ERPとは
ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略称で、企業経営の基本となる資源を有効に活用する計画を指します。この「資源」には人的資源や物的資源、金銭的資源や情報資源などのさまざまな資源が含まれます。
ERPの概要
日本国内におけるERPは「基幹システム」や「業務統合パッケージ」など、さまざまな呼称がありますが、「人事、会計、生産、物流、販売といった、企業にとっての基幹業務を統合したシステム」という点ではすべて同じ意味合いです。
ERPは、企業の基幹業務をひとつのシステムに統合することによって業務の効率化をはかり、情報を統合的に可視化することを目的としています。
矢野経済研究所が2019年に発表した調査(※)によれば、国内のERPパッケージライセンス市場は2018年度の時点で1,123億7,000万円もの規模にのぼり、毎年堅調に市場が拡大しています。
近年は業務の効率化を課題に掲げる企業によって、事業の変革を推し進める機運が高まっており、それに伴って基幹システムへの投資が増加していると言えるでしょう。この傾向は今後も続いていくと予想されており、国内のERP市場はさらなる発展を見込まれています。
また本調査では、今後ERPパッケージのクラウド化が進んでいくだろうとも指摘されています。2017年時点ではわずか22.4%だったクラウド比率は、2020年には45.8%にまで上昇すると予測されています。
もともと、国内で高いシェアを誇るSAP SE社の「SAP ERP」のサポート期限が2025年に迫っていたことから、企業単位で大規模な基幹システムの更改が急がれてきました。その後SAP ERPのサポートは2027年までの延長が発表され、2年間の時間的猶予ができましたが、企業が基幹システムの更改に対応しなければならない事実に変わりはなく、ERPのクラウド化はいっそう広がっていくと考えられます。
(※)株式会社矢野研究所:「2019 ERP市場の実態と展望」より
ERP導入は難しい
ERPの導入は困難であり、失敗する企業が後を絶ちません。
ERPにより企業の基幹業務をひとつに統合し、生産や製造、原価管理、会計などのデータを一括して運用することが可能になります。
しかしながら、部門単位で業務の進め方が異なる点や、顧客・仕入れ先・子会社など取引先が複数にまたがるなどの理由から、企業によってはERPというひとつのシステムにすべての業務を集約することが難しい場合もあります。多様な業務に対応するために機能を拡張していった結果、複雑になりすぎて、かえって使いにくいシステムになってしまうことも起こり得るでしょう。
また、ERPの導入は非常に大がかりになることが多く、準備も長期間にわたるため、「業務効率化」や「BPR(Business Process Re-engineering)」のためにERPを導入するはずが、いつしか「ERPを導入すること、そのものが目的になってしまう」という場合も多く見られます。
導入したERPが広く使われるためには、事前に導入のための社員への教育を行う、既存業務の効率化をはかる、場合によっては組織の見直しをするなど、多くのステップが必要になります。
そのため、導入自体が目的になってしまうと、導入作業の他に必要な事前準備が不足しがちになり、せっかくERPを導入しても利用されない、業務の効率が上がらないなどの失敗につながりやすいのです。
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ERP導入に失敗する原因とは
ERP導入に失敗する原因はさまざまですが、ベンダー側だけではなく、企業側に原因がある場合も多いようです。ここでは6つの原因を見ていきましょう。
導入が目的となってしまい、導入後の体制まで考えられていない
導入後にどういった運用体制を敷くのか、事前に十分な検討を行わないまま導入を進めてしまうと、導入後の運用における責任の所在があいまいになり現場が機能不全に陥る可能性があります。
あらかじめ組織や現場ごとに運用範囲をしっかりと定めておかなければ、導入に失敗する確率が高まりますので注意が必要です。
自社に合っているベンダーやパートナーを選んでいない
自社に合ったベンダーやパートナーを選ぶことができず、導入に失敗してしまうケースも多いようです。この理由のひとつとして、担当者が自社に最適なベンダーを選定できるだけの情報力を持たない場合などが考えられるでしょう。
また、情報システム部門が、システムの構築や運用を外部に丸投げしている傾向が強い会社は、ベンダーの方が、自社の業務内容やシステムの知識も豊富なため、ベンダー主導でプロジェクトが進んでしまい、担当者がプロジェクトを十分にコントロールできない状態に陥るリスクがあります。
ERPの導入を成功させるためには、自社の業務を深く理解し、適切な導入のロードマップを描いてくれるベンダーやパートナーの選定が重要です。ただし、ベンダーに過度に依存したプロジェクトにならないよう、担当者がリーダーシップを発揮しなければなりません。依頼したベンダーがどれほどシステムそのものの開発力に優れていても、現場レベルで自社の業務を深く理解していなければ、十分な機能を有したERPの構築は難しいでしょう。
業務改善とシステム運用が切り離されている
ERPを導入する際は、業務改善とシステムの運用の両方を重視する必要があります。やみくもにシステムを導入するのでは現行の業務の進め方をなぞるだけになりがちで、業務の効率化を実現できません。
ベンダーがSIer(エスアイヤー)やシステムベンダーである場合、彼らにとってはシステムの開発が仕事であり、業務改善は対応範囲外となります。つまり業務の改善や組織変革までは、契約内容に含まれないということです。彼らにシステム導入を依頼すれば、業務改善や組織変革まで実現できると期待するのは間違いです。
現場の業務が変わらない
ERPが業務の実態に即したものにならず、ほとんど使われずに終わってしまうケースもあるでしょう。苦労の末に導入したERPの使い勝手が悪く、効率よく運用するためさらにRPA(Robotic Process Automation)を導入するなど、本末転倒な運用になってしまっている例も少なくありません。
情報システム部門の社内的な影響力の有無や、社内のパワー構造が影響してこのような事態に陥っている場合も考えられます。業務を効率化するだけの実行力や影響力がないまま導入を推し進めてしまうと、現場の意識が追いつかないため、使われないシステムとなってしまうのです。
現場での活用を意識しすぎるあまり、要求に過剰に応じてしまい、機能要件などが膨らみ、かつ導入してもなにも改善されないシステム要件になってしまう。こうなると開発期間はどんどん長引き、コストは無限に増大していくという悪循環に陥ってしまいます。
専門的な知識を持つトップが企業側にいない
ERPの導入に失敗する企業は、十分な知識を持ってリーダーシップを発揮できるチームリーダーが不在である場合が多いようです。
ERPの導入において、陣頭指揮をとるトップの存在は重要です。CIOやCTOなど、情報分野の専門的な知識を豊富に持ち、導入後のあるべきビジョンを先頭に立って提示し進められる人材が企業側にいなければ、現場の満足度と業務効率を両立したシステムを構築することは難しいでしょう。
業務変革およびシステム変革における現場の抵抗
ERP導入の必要性をしっかりと説明できずに現場の抵抗を受けてしまい、導入に失敗してしまうケースもあります。
現場の社員が、忙しさや新しい仕組みを覚えることへの不安を解消できないことを理由に、現在の業務やシステムを変えたくないと主張したり、主張しないまでも不満を抱えた状態になることがあります。ERP導入をめぐって現場の社員が情報部門や経営層と対立したり、あるいは面従腹背になってしまうと、ERPのスムーズな導入は困難でしょう。
ERP導入を成功させるポイント
ERPの導入を成功させるためにはいくつかのポイントがあります。次の6つのポイントに注意して、導入を進めていくと良いでしょう。
事前に導入後の体制を想定し、システムと業務のありたい姿を整理する
ERPは導入するまでも長い道のりですが、導入したあとこそが本番です。スムーズな運用に移れるよう、導入前の段階から導入後の体制をできるだけ詳細に決めておき、運用の流れを具体的にイメージしておくことが大切です。
前述したように、SIerやシステムベンダーにとっては、システムの開発が仕事であり、社内への浸透や、社員の抵抗への対応については契約外となります。
ERPを導入したらどんなシステムでどのように業務を行うのか、こうありたいという姿をしっかり整理しておくことで、導入の成功へと近づきます。
導入前から全社員を巻き込み、理解を得る
ERPをもっとも頻繁に利用することになるのは、経営者ではなく現場の社員です。社員が積極的にERPの導入プロセスへ参加し、業務改革を含めて現場の声を取り入れながら導入を進めることで、はじめて満足度の高いシステムができあがります。
導入する前から現場や経営層を問わずすべての社員を巻き込み、ERPを導入する必要性をよく理解してもらうことが大切です。
自社の課題、導入の目的を明確にする
ERPを導入する目的があいまいなままだと、不要な機能を実装してしまう、逆に必要な機能が実装されていないなど、網羅性が低く無駄の多いシステムになる恐れがあります。
自社の課題がどこにあるのか事前にしっかりと把握して、導入の目的を明確にすることで、過不足なく自社の効率化を最大限に考慮したシステムが導入できるでしょう。
ROI評価を行い、効果を予測する
ERP導入によりどれくらいの投資効果が見込めるのか、ROI評価を行って予測することが大切です。ERPを導入する目的はあくまでも「自社の課題を解決するシステムを導入し、業務の効率化をはかることで利益につなげる」ためであるからです。
また、ROIは継続的な指標として使うことが推奨されており、一度きりの評価では有用な情報を得られません。導入後も定期的な評価を行うことで、ERP導入が自社にどの程度の費用対効果をもたらしているかの見極めが可能になります。
導入当初は現場のトップや担当者主導でROI評価を行っていたものの、時間の経過とともに計測をやめてしまうケースがよくあるので注意しましょう。
ベンダーに依存しない
基幹システムの開発は、会社として高額な費用をかけて行う一大事業です。開発を依頼するベンダーやコンサルは、自社でしっかりと比較検討を重ねた上で、既存ベンダーにこだわることなく選定すべきでしょう。
長年付き合いがあり、自社のことをよく知る外部ベンダーに相談するのは構造的に仕方のないことではあるかも知れませんが、デジタルトランスフォーメーションが進む昨今、システムを取り巻く市場の状況は急速に変化しています。既存の延長線上でのみ考えるのではなく、自社が目指す状態から現状の課題を抽出した上で、最適なパートナーを選定する必要があります。
また、よく検討せずに導入したシステムは、導入時の担当者が異動してしまうと「なぜそのシステムを選定したのか」が担当部署の誰も分からなくなってしまうことがあります。
将来のためにも多くの外部ベンダーやコンサルと常に良好な関係を保ちながら、複数の選択肢を持っておくことが重要です。外部パートナーやベンダーは、ライバルの存在を意識し緊張感を持つことで、より挑戦的な提案をするでしょう。情報システム部もそれらの提案を真摯に検討すれば、契約に至らないベンダーとも良好な関係を保てるはずです。
業務変革およびシステム変革を現場に腹落ちさせる
ERP導入の準備には長い時間が必要になり、導入後は業務の進め方やシステムが大きく変わるため、現場の社員に大きな負担がかかります。そのため「なぜ自社にとって業務改善やシステム変革が必要なのか」ということを、具体的に納得してもらうことが大切です。
効率が上がるから、システムが新しくなって便利になるから、といった漠然とした説明ではなく、「今までと比べて○%効率が上がり売上アップにつながる」、「この業務にかかる時間が○%短縮されて残業を減らせる」など具体性のある説明をすると、自分の問題として意識してもらいやすくなるでしょう。
まとめ
ERP導入の失敗にはさまざまな原因がありますが、上記の通り、ベンダー側だけではなく、企業側に原因がある場合も多いようです。
ERPの導入を成功させるためには、導入前から現場を含めた社員が一丸となって準備を進めることが大切です。今回ご紹介した失敗例と導入を成功させるためのポイントを参考に、失敗しないためのERP対策を考えてみてはいかがでしょうか。
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よくある質問
- ERPとは何ですか?
ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略で、「企業資源計画」とも訳されます。企業の経営資源を一元管理し、経営を効率化するための手法や概念を指します。
これを実現するためのソフトウェアがERP(業務パッケージ)と呼ばれます。経営管理に欠かせないシステムとして、様々な企業に広く導入・利用されています。現在では様々な形態があり、全業務適用型・特定業務型・拡張性のあるコンポーネント型があります。
- ERP導入に失敗する原因とは何ですか?
・導入が目的となってしまい、導入後の体制まで考えられていない
・自社に合っているベンダーやパートナーを選んでいない
・業務改善とシステム運用が切り離されている
・現場の業務が変わらない
・専門的な知識を持つトップが企業側にいない
・業務変革およびシステム変革における現場の抵抗
- ERPを導入することで得られるメリットは?
企業の基幹業務をひとつに統合し、生産や製造、原価管理、会計などのデータを一括して運用することです。
株式会社ソフィア
取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント
築地 健
インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。
株式会社ソフィア
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築地 健
インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。