2020.07.29
基幹システムの再構築が必要となる理由とは 再構築を成功させるポイントを解説
目次
近年、基幹システムの再構築が多くの企業で緊急の課題となっています。基幹システムの再構築は企業が抱えるさまざまなリスクに対応するために計画されるものですが、ECサイトなどを運用している企業の中には基幹システムとWebサイトが連動している例もあり、新たなシステムへ作り変える作業は企業にとって想像以上の重労働になってのしかかります。
本記事では基幹システムの再構築が必要な理由と、再構築を成功させるにはどのような点に注意すべきなのかを解説します。
基幹システムの再構築が必要となる理由
なぜ今、基幹システムの再構築が必要なのでしょうか。そこにはいくつかの理由があります。
基幹システムの老朽化(2025年の崖)
基幹システムの老朽化によって起こる「2025年の崖」と呼ばれる問題をご存じでしょうか。効率的なビジネスの展開にはさまざまな情報の活用が必須の時代となりましたが、経営者が自社の持つ情報資源を活用するために解決すべき課題は、大きく分けて2つあります。
まずひとつは、現行のシステムが部門ごとに独立して構築されブラックボックス化していることにより、社内のデータを統合的に活用できていない問題です。カスタマイズを重ねて複雑化しすぎている場合には、システム面の改革を行う必要があります。
続いて、現行システムが抱えている問題を解決して効率化された新システムを構築するには、現場の業務に合わせてシステムをカスタマイズするのではなく、現場の業務の大幅な見直しを行うなど、人と組織を変えていかなければならないという点です。
この2つの課題を解決できない場合、2025年以降に国内全体で最大12兆円もの経済損失が発生してしまうリスクがあると経済産業省は報告しています。(※1)
この一連のリスクが「2025年の崖」と呼ばれ、基幹システムの再構築を早急に進めなければならない理由のひとつとなっています。
(※1)経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」より
IT人材の不足
古い技術を利用したシステムを運用できるIT人材が不足しているため、老朽化した基幹システムから脱却する必要があるという事情も、基幹システムの再構築が叫ばれる理由のひとつです。将来性のない技術を習得して保守にコストを費やすよりも、システムを再構築した方が良いと考える企業が多くなるのは自然なことと言えるでしょう。
運用にかかる人的負担を軽減するため、システムの再構築にあたってクラウドサービスを利用する企業も増えています。複雑にカスタマイズを施した自社独自の基幹システムを構築するのではなく、さまざまな業務機能を統合的に管理できるERPパッケージの導入も、人材不足への対応策として有効でしょう。
基幹システムの再構築で起こり得るリスク
基幹システムを再構築するときには、さまざまなリスクが予想されます。どんなリスクがあるのか、順番に見ていきましょう。
現行システムの調査・要件定義が十分でない
現行システムの仕様書がなく、現場に詳細な仕様を理解している人が誰もいない、といったことがよくあります。現行システムの導入時に適切な要件定義が行われず、前任者が導入したあと後任に引き継ぎが行われないままシステムだけが稼動している、という場合に起こりがちな事態です。
これは部門単位でシステムがブラックボックス化し、長い年月をかけて増改築を繰り返す間に何人も担当者が変わるため、ますますシステムの変遷を知る人がいなくなるという状況に起因します。基幹システムを仕様変更する際にはドキュメントを残すため、ベンダー側がシステム変更の仕様について把握している可能性はありますが、なぜ仕様変更したのかという背景については分からないことが多いようです。しかし、そもそも「自社のことについて、ベンダーに聞かなくてはわからない」という状態に陥ってしまうこと自体がおかしな話です。
こうなってしまうとシステムの再構築を進行していく中で次々と新たな問題が発生し、導入計画の破綻にもつながります。もぐら叩きのように出現する問題への対応に追われればプロジェクトマネジメントは上手くいかず、スケジュールが大幅に遅延するリスクは高まります。
ユーザーが新しいシステムを使えない、以前の方が良かったと言われる
再構築後の基幹システムに社員が不満を持ち、「以前のシステムの方が良かった」と訴えることも少なくありません。
基幹システムは企業のシステム投資の中でもっとも規模が大きい部分です。大規模な予算を投じている分、失敗したときのリスクも大きくなります。
ベンダーが履行すべき契約は「システムを導入すること」であり、組織の中で起こった心理的な抵抗感に対処する義務はありません。そのため、ベンダーとの信頼関係ももちろん大切ではありますが、社員の心理的な側面のケアや抵抗への対処については自社で行う必要があります。自社主導で社内の意識改革を行うか、難しいようならチェンジマネジメントのコンサルタントを雇うなどの対応を検討しましょう。
現行システムの単なる置き換えとなっている
システムを「再構築」するはずが、単に現行のシステムを置き換えるだけの作業になってしまうケースもあります。これには、システム変更を担う部門の社内的な影響力の不足が問題となる場合も多くあります。
どれほど潤沢な予算を用意しても、社内で発言力のある部門の要求を聞き入れざるを得なかったり、業務変革が現場の抵抗にあい、部門ごと個別に開発を実施した結果、一部の人々にのみ使い勝手の良いシステムが出来上がってしまうという事態が起こるのです。これらを防ぐためには、いかに部門間のバランスを調整し、現場のコンセンサスを得たシステムを構築するかが重要になります。
基幹システムを再構築する目的はあくまでも「現状を改善すること」にあり、「新しいシステムを導入すること」それ自体ではありません。何を目的としてシステムを導入するのか、事前にしっかりとビジョンを提示し、計画した上でシステムを再構築しなければ、莫大な開発費用をかけて以前と変わりのないシステムを作ったにすぎない、ということになりかねないリスクがあります。
基幹システムの再構築を成功させるポイント
基幹システムの再構築を成功させるには、注意すべきポイントがいくつかあります。ここでは3つ、順にご紹介していきます。
システム変革のビジョンやコンセプトを明確にする
まずはどのようなシステムを構築するのか、ビジョンコンセプトを明確に定めて社内に浸透させ、社員の共感を得ることが重要です。その上で現行システムをしっかりと精査し、必要な機能と不要な機能を見極めましょう。
社内でヒアリングを重ねるうちに、ほとんど利用されていないことが判明する機能は必ず出てくるものです。必要な機能を網羅しつつ、不要な機能まで実装してしまうことがないよう、機能の棚卸しには時間をかけると良いでしょう。また、ビジョンやコンセプトを現場に説明・説得しながら、ヒアリングをしましょう。
基幹システム導入に対する業務改革 ~チェンジマネジメントの風土醸成とコミュニケーション施策~
概要 / Overview 企業規模: 企業グループ 人数規模: 10,000名以上 目的は『システム導入…
パッケージに合わせて業務を変えるつもりで導入する
カスタマイズを重ねて自社の業務に合わせた独自の基幹システムとは異なり、ERPパッケージはカスタマイズに一定の制約を受ける部分も出てきます。システムを業務に合わせるのではなく、業務をシステムに合わせて変えていくことも時には必要です。
システムはあくまで業務を行うための手段でしかなく、現場を実際に動かしていくのは人の力です。クラウドへの移行が進む現代では、システムや保守に予算の大部分をつぎ込むのではなく、現場を動かす人や業務に対しても予算を割り当てましょう。
また、業務を大きく変革する際には、チェンジマネジメントが重要になります。経営層のトップが自ら社内全体に目を向けて、変革に抵抗感を持つ人がスムーズに新しい環境を受け入れられるよう働きかけると良いでしょう。
システム再構築後の社内浸透まで支援してくれる会社を選ぶ
システムを再構築したあとも、社内に浸透するまでには時間を要します。新しいシステムに対する社員の抵抗感が強く、なかなか積極的に利用されないといった事態が生じることもあるでしょう。
まとめ
現行の基幹システムの老朽化やIT人材の不足により、基幹システムの再構築は企業にとって大きな課題となっています。起こりうるリスクを事前によく検討し、十分に対策を考えた上で再構築を進めていくようにしましょう。
独自のカスタマイズを重ねた基幹システムから、クラウドによるERPパッケージを利用した基幹システムへと時代は移り変わりつつあります。システムや保守に予算をつぎ込むのではなく、現場を動かす人材や業務に対して予算を割り当てることにも目を向けることが大切です。
経営層のトップが陣頭指揮を執り、変革に抵抗感を持つ人も新しい環境を受け入れられるよう積極的に働きかけていくことが、基幹システムの再構築を成功させる近道となるでしょう。
関連サービス
関連事例
よくある質問
- 基幹システムの再構築が必要となる理由は何ですか?
1.基幹システムの老朽化(2025年の崖)
2.IT人材の不足
- 基幹システムの再構築で起こり得るリスクは何ですか?
1.現行システムの調査・要件定義が十分でない
2.ユーザーが新しいシステムを使えない、以前の方が良かったと言われる
3.現行システムの単なる置き換えとなっている
- 基幹システムの導入手順は?
1.システム変革のビジョンやコンセプトを明確にする
2.パッケージに合わせて業務を変えるつもりで導入する
3.システム再構築後の社内浸透まで支援してくれる会社を選ぶ
株式会社ソフィア
取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント
築地 健
インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。
株式会社ソフィア
取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント
築地 健
インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。