2020.10.15
SDGs推進を全社員の「自分ゴト」にするには? ~仕事と価値観に響くコミュニケーションのポイント~
目次
現在、世界ではSDGsに関する動きがめざましく、さまざまな新しいビジネスが創出されています。しかしその一方、「SDGsを社内でうまく浸透できない」「SDGsにどう取り組めばいいのかわからない」というSDGs推進担当者も少なくありません。そうした悩みに対し、株式会社ソフィアサーキュラーデザイン(以下、ソフィアCD)のサステナブルブランドファシリテーター平林泰直が、SDGs経営に取り組む企業が陥りがちな「落とし穴」を解説。主に社内コミュニケーションの観点から、SDGsを推進していくために必要な考え方をご紹介します。
企業トップと社員の間に横たわる「溝」
「自社でもSDGsに取り組もう」と意気込んで始めたものの、「どのように取り組めばいいのかわからない」と、悩みを抱えるSDGs推進担当者は少なくありません。
ここ数年で耳にする機会が増えたものの、多くの人にとってSDGsは馴染みのない概念であり、公には目標しか明確に定められていないため、具体的に「どうしたらいいのか」ということは、それぞれの企業や団体など実行者に委ねられています。そのため、いざ実行しようと思っても「どうやったらいいの?」と悩むケースが多いのです。
企業のSDGs推進担当者の悩みを総合すると、SDGsを推進しようという企業トップや担当者と、企業の90%以上を占めるその他の社員の間で大きな「溝(キャズム)」が生まれている現状が見えてきます。とりわけ深刻なのは、「わが社もSDGsに取り組んでいく」とトップが宣言した際に社員から聞こえるこのような意見です。
「 SDGsってCSRでしょ。それってCSR部門の仕事だよね。私たちには関係ない」
「SDGsを事業へ取り込むって? 何をしたらいいのかわからない」
「社会課題に取り組むことは大切だけど、儲からないよね」
社員の間からこれらの声が上がる原因を、私たちは、「『べき論』的なSDGsの推進が原因である」とみています。
「面従腹背を呼ぶ『べき論』的な推進」から「自律的なSDGsの推進」へ
べき論とは、義務や理想ばかり強く主張すること。つまり、「SDGsを企業経営に取り込まなければならない」という目的意識ばかりが先行し、社員に具体的な理念が浸透していないために、一人ひとりが「自分ごと」としてSDGsを共感ることができず、理念と現実に大きな乖離を感じているのです。
「今日からSDGsをやれ」とトップダウン方式で命令されても、社員にとっては、そのSDGsにどんな意義があり、将来的にどんな価値を生み出されるのかまったくわかりません。これでは「SDGsを通してどんなことを実現したいのか」と考えることよりも、むしろ「とにかく言われた通りにやること」となってしまい、面従腹背が起こってしまうのもやむをえません。
「べき論的なSDGsの推進」ではなく、社員が一人ひとり共感して、主体的にSDGsを進めていくためには、いったい何が必要なのでしょうか。そのためにはまずSDGsを企業戦略や事業戦略と結びつけ、ビジネスの視点から社員へ浸透させることが大事です。
SDGs≠CSR。SDGsは「事業を通じた社会課題の解決」
SDGsはよくCSRと混同されます。
CSRとは「Corporate Social Responsibility」の頭文字で、直訳すれば「企業の社会的責任」のこと。簡単にいうと「自社の利益を追求するためには、経営として基本的な法令遵守、人権の保護、環境対応などの基盤をしっかりと行う」ということです。
CSRは、企業が事業を行うための土台となり、人権や平和、公正などをテーマとすることが多いため、社会的にも非常に意義のある活動です。しかしCSRは寄付的な活動が多く、「寄付と事業は別物」と考えている社員が少なくないことも事実。そのためCSRと混同されがちなSDGsについても、「事業とは無関係のもの」「企業が行うボランティア」と誤解してしまっている人が多いのです。
また現在は、新しい経営モデルとして「CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)が提唱されています。これは2011年、ハーバード大学経営大学院教授であるマイケル・ポーター氏が語ったもので、「社会課題を解決することによって、社会価値と経済価値の両方を創造していこう」というもの。CSRを基盤に事業と紐付けていくことでCSVが達成されるということです。
SDG sについても同様。これもボランティアではなく、事業として成立させることで、社会価値と経済価値の創造をめざすものです。すなわち、SDGsは2030年に向けたCSVのゴールのひとつであり、すべての企業がSDGsを目指すことで、社会的にCSVが推進されていくのです。
まずは企業ビジョンをSDGs文脈で再解釈する
SDGsと事業がトレードオフではなく、トレードオンの関係にあるということは、どういうことかというと、企業の存在そのものがSDGsの文脈で語ることができるということです。
たとえば以前、企業のSDGs推進担当者からこんな相談がありました。「企業としてSDGsを事業として取り組みたいと思っているのに経営者の理解が得られない、どうしたらいいか」というのです。
これに対し、ソフィアCDは「企業のミッションをもう一度読み直してみたらいかがですか」と答えました。多くの企業ミッションが「豊かな社会をつくる」「社会の公器である」と言っているからです。「豊かな社会とは何か」と突き詰めていくと、必然的にSDGsに行き着くはずです。そうやって企業ミッションや創業理念をSDGsの文脈でとらえ直し、経営陣に腹落ちしてもらうことがSDGs経営の第一歩です。
「面従腹背」を回避するSDGsの社内浸透
SDGsは比較的新しい概念であるため、認知度はまだ高いとはいえません。そのためSDGsの取り組みがいち早く進んでいるところもあれば、まったく手をつけていないところまでさまざまであり、進捗度合いは企業によって大きく異なります。
ソフィアCDでは先述したSDGコンパスに基づき、社員の行動変容を促すプログラムをいろいろとご用意しています。関連会社のソフィアは20年以上にわたって大手企業のビジョン浸透と組織変革を伴走型で支援しており、ソフィアCDもソフィアのノウハウとフレームワークをSDG コンパスのステップ1「SDGsを理解する」で最大限に活用しています。
経営との溝を作らずに、SDGsを事業経営に取り込むには、この図のように社員の感情や意識、行動を的確に捉え、綿密にステップをデザインしていくことが必要です。とはいえ、ソフィアCDにご相談にいらっしゃるSDGs推進担当者の方々のうち、現在直面している問題が明確であることは非常に少なく、ほとんどの方がぼやっとした状態です。私たちは、まずは徹底的にSDGs推進担当者の方々と会話し、その企業が抱えている問題点を浮き彫りにしていきます。
SDGsの活動を推進する上でもうひとつ大事なのは、企業のSDGs担当者は常に中立性を保つべき、ということです。前述のように、「SDGs経営を進めようとする側」と「その他大勢の社員」の間には大きな「溝」があることを決して忘れてはなりません。お互いの価値観や多様性を認めながら、少しずつSDGsに対する理解を促し、関心を高めていくことが必要です。SDGsについて体感するカードゲームもありますから、そうしたものをみんなでプレイするのも良いでしょうし、SDGsに関する動画や映画を鑑賞し、みんなで気付きを共有することもお奨めします。
「SDGsを事業に取り込むことは社会課題の解決につながるだけでなく、結果として新規事業を開発し、ブランド価値を拡大して、新たな投資を誘致し、優秀な人材確保につながるのだ」ということを焦らず、企業内で浸透させる。それには地道な努力と綿密なプランニングが必要です。そして、そうしたことができる企業こそ、これからの時代、多大な存在意義を発揮するサステナブルブランドと言えるでしょう。
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よくある質問
- SDGsとは何ですか?
SDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)は2015年の国連サミットで採択された目標で、「持続可能性」が重要なテーマとなっています。それまで、世界では経済成長に重きが置かれていて、20世紀には各国が大幅な経済発展を遂げることに成功しました。しかしその裏では、自然環境の破壊や格差の拡大など、多くのひずみもあったのです。
そうした世の中の負の状態を正すため、将来の世代から搾取することなく現在の世代のニーズを満たす「持続可能な開発」という考え方のもと、国際社会が一丸となって取り組みを進めることになりました。このような背景からSDGsが採択され、世界各国でさまざまなステークホルダーがSDGsを推進するようになったというわけです。
株式会社ソフィアサーキュラーデザイン
ソフィアサーキュラーデザイン代表取締役社長、サステナブル・ブランド・コンサルタント
平林 泰直
大手メーカー系コミュニケーション部門での責任者としての実績からデジタルマーケティング、インターナル広報、メディア編集など、企業のコミュニケーションに関わる戦略策定、実行支援をお手伝いします。
株式会社ソフィアサーキュラーデザイン
ソフィアサーキュラーデザイン代表取締役社長、サステナブル・ブランド・コンサルタント
平林 泰直
大手メーカー系コミュニケーション部門での責任者としての実績からデジタルマーケティング、インターナル広報、メディア編集など、企業のコミュニケーションに関わる戦略策定、実行支援をお手伝いします。