SDGsの達成状況から見るSDGs促進の鍵とは?
目次
企業活動においてSDGsへの対応は必須
近年SDGsへの注目が集まり、企業活動においてもSDGsへの対応が必須と考えられるようになってきました。企業はどのようにSDGsに取り組めばいいのでしょうか。企業活動におけるSDGsの位置づけを見ていきましょう。
CSRからCSV、そしてSDGsへ
企業活動におけるSDGsの位置づけを正しく理解するためには、まずCSRやCSVという考え方を知っておかなければいけません。CSRとは「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)」という意味で、企業は地域社会や自然環境などに対して責任がある、という概念です。
2010年、CSRの規格であるISO26000「社会的責任に関する手引き」が制定されました。これは、国連や国際機関などが連携して決めた国際標準の指標です。単に法令を遵守するだけでなく、環境や人権などの社会的問題についても企業は率先して取り組んでいくべきだ、との考え方が背後にあります。
ISO26000の具体的な内容を見てみると、「説明責任」や「倫理的行動」などの7つの責任原則の遵守と、「組織統治」を中核に「人権」「労働慣行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティへの参画」という7つの中核主題への取り組みが重視されています。法的拘束力はありませんが、国際社会共通の判断基準として、多国籍企業を始めとした多くの企業が注目するようになったのです。
しかしCSRは、企業の「責任」として受け身的な文脈で語られることの多いものでした。それを変えたのが、マイケル・ポーター氏により新たに提唱されたCSV(共有価値の創造、Creating Shared Value)です。寄付や社会貢献活動を通して本業とは別枠で行われるCSRとは異なり、事業を通して社会問題を解決していくべきだ、というのがCSVの基本的な考え方です。
たとえば、メーカーが省エネ製品を開発して二酸化炭素の削減に取り組んだり、リサイクルしやすい家電等を製造して実際にリサイクルの流れを生み出すプログラムを策定したりすることが、CSVへの取り組みに当てはまります。ビジネスの一環として社会課題に取り組むという意味で、「守りのCSR」に対して「攻めのCSV」と表現されることもあるのです。
このようなCSRやCSVの考え方を盛り込みつつ、2015年に採択されたのがSDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)です。国連で全加盟国の賛同を得た国際社会共通の目標で、より良い社会を実現するために2030年までに人々が取り組むべき事柄が示されています。SDGsは「貧困」や「経済成長と雇用」、「気候変動」など17の分野にわたり、国際機関や各国政府、そして企業など、様々なアクターが現在これらの目標に取り組んでいるのです。
SDGsを経営に導入するとはどういうことか
世界的に注目されているSDGsは、企業活動においても重要な指標となります。SDGsを経営に導入するとは、具体的にはどのようなことなのでしょうか。
SDGsの経営への導入の過程を、2つに大別して考えてみましょう。1つは、経営のイニシアティブとしてのSDGsです。SDGsの17の分野の中には、企業が掲げているビジョンとの整合性が高いものがあるはずです。そうした分野に焦点をあて、経営の方針としてSDGsを指標にすることで、SDGsを経営に導入することができます。企業理念を実現するための指標としてSDGsへのコミットメントを表明する、と言い換えることもできるでしょう。
組織の方針としてSDGsへのコミットメントを表明したら、次により実務的な視点でSDGsへの取り組みを検討する必要があります。全社一丸となってSDGsに取り組むためには、従業員の間での理解を深めなければいけません。本当の意味でSDGsを経営に取り入れるためには、現場における具体的業務に落とし込むことが大切だからです。CSVやSDGsの考え方を事業活動や業務に反映させることで、新たな価値の創造を進める必要があるのです。
しかし、SDGsを経営に導入するためには高いハードルがあります。社会や環境へ配慮するSDGsの価値観を具体的な取り組みに落とし込む過程では、金銭的・時間的なコストが発生することもあり、現場からの抵抗や組織内での反発が生まれやすいからです。こうしたハードルを乗り越えてSDGsを導入し、事業の変革を達成することで、社会課題の解決につながったりイノベーションが生まれたりするのです。
SDGs各国のこれまでの取り組み
世界各国が注目しているSDGsですが、どのような取り組みがあり、どのような分野で特に実現が進んでいるのかを確認してみましょう。
世界の動向
まずは、世界の動向を見てみましょう。SDGsの達成状況については毎年、国や分野ごとに報告書が作成されています。報告書によると、国によって取り組みの進展状況に大きな違いがあるほか、17の分野ごとにも達成状況が異なっていることがわかります。
たとえば、目標2「貧困をなくそう」や目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」などの分野は、急速に取り組みが進んでいることが報告されています。極度の貧困状態で暮らす人々の割合は大きく減少し、インターネット環境や交通インフラの整備も世界的に進むなど、人々の暮らしは少しずつですが改善してきているのです。
一方で、あまり進展が見られない分野もあります。たとえば、目標2「飢餓をゼロに」について、報告書によると食料不安を抱える人口の割合は近年むしろ増加しているようです。昨今の気候変動や感染症拡大などの影響で、食料の供給には新たな脅威が生じていることも指摘されています。目標15「陸の豊かさも守ろう」についても、現在多くの生物が絶滅を危惧されているばかりでなく、森林面積が毎年急速に縮小するなど、状況が改善しているとは言えません。
SDGsは17の目標と169のターゲットで幅広い分野を網羅しているため、その達成状況は分野ごとに異なっているのです。
次に、世界のSDGs達成上位国がどのような取り組みを進めているのかも簡単に確認してみましょう。
SDGsへの取り組みが特に高く評価されているのは北欧の国々で、達成状況の上位には毎年、北欧やヨーロッパの国が並んでいます。デンマークは、2019年に達成度ランキングで1位に選ばれました。デンマークのユニークな取り組みとして、SDGsの17の目標をすべて達成することのできるビレッジを建設するプロジェクトが進められています。これは、人々が快適に暮らすことのできる環境と持続可能性を両立しようとするほかに例のない意欲的な取り組みとして、世界中から注目を集めています。
同じく北欧のフィンランドも例年トップ3に位置していますが、フィンランドでは情報発信に力を入れています。首都ヘルシンキの観光情報サイトではサステイナビリティに関する情報がまとめられていて、市民や観光客が情報を得やすい環境が整備されているのです。行政が主体となってSDGsを啓蒙することで、人々の意識向上に寄与していると言えます。
SDGsの達成上位国はこのように、独自の取り組みを続けながら徐々に目標の実現へと近づいているのです。
日本の動向
では、日本ではどのような動向が見られるのでしょうか。2020年のランキングで17位の日本は、アジア圏では最高順位の評価を受けています。
日本が特に評価されているのは、目標4「質の高い教育をみんなに」と目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」です。初等教育が100%かつ進学率も高いことや、全般的な科学技術の水準のおかげで、例年良い評価を受けている分野です。
一方で、社会的な男女平等についてはあまり評価されていません。たとえば、経営層や国会における女性の比率の低さや男女の賃金格差など、日本国内でもたびたび問題提起されている事柄がSDGsの文脈でも指摘を受け、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」についてはさらなる努力が求められています。
目標12「つくる責任 つかう責任」や目標13「気候変動に具体的な対策を」といった自然環境に関わる分野でも、比較的低い評価にとどまっている項目が複数あります。省エネなどの技術力自体は高水準を誇っているものの、環境配慮が社会に浸透しきっていない実態があったり、火力発電が多く二酸化炭素の排出量も削減できていなかったりと、今後ますますの取り組みが必要とされているのです。
また、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」についても、目標の達成にはまだ時間がかかりそうです。企業の透明性や税の効率性などを表す金融秘密度指標が低いことや、途上国に対する政府開発援助などの支援が充分ではないことなどが指摘されているほか、行政と民間に隔たりがあることも影響しているようです。
今後SDGsに取り組む際は、このような面を特に重視しながら活動することが大切でしょう。
SDGs経営ウォッシュが起こっている
SDGsを意識した経営を進めることの重要性について、疑問を差し挟む余地はありません。SDGsは国際機関や政府だけでなく、企業にとっても無視のできない存在です。ただし、企業がSDGsへの取り組みを進める際に気をつけなければいけないことがあります。SDGsウォッシュです。
SDGsウォッシュとは、SDGsに賛同しているように見せかけておきながら、実際には具体的な取り組みを行えていないような状況を指します。なぜそのような状況が生じてしまうのか、理由を考えてみましょう。
企業は、幅広い層から関心の高いSDGsを対外的なアピールとして利用することがあります。SDGsに取り組んでいるという情報を発信することで、自社のイメージアップにもつながるからです。中には、広報戦略の一環としてSDGsへの賛同を打ち出しはするものの実際には達成することにそれほど関心を抱いていない、という経営層もいます。このようなケースでは、SDGsの取り組みが形式的な目標に留まってしまいます。対外的に打ち出す目標と内部の実態との間に乖離が生じ、いわばダブルスタンダードができてしまうのです。これでは、組織としてコミットメントができているとは言えません。
また、積極的にSDGsに取り組もうとしていても、従業員レベルにまでその理念が落とし込めていないような企業もあります。これは、経営層にコミットをする意志はあるものの、組織として具体的な変化を起こせてはいないようなケースです。SDGsの考え方に沿って社内や事業の改革を進めようとしても、現場レベルにまで浸透する形で方針としての共有ができていないのです。中にはSDGsがCSRのように慈善活動に近いものだと誤解している従業員もいる可能性がありますが、事業とは関係のないことだと誤解されてしまうと現場からの協力を得ることができなくなってしまいます。それを防ぐため、経営層は組織としての具体的なビジョンを示すことで従業員の理解を得、全社としての共感を広げなければいけません。現場への落とし込みというのは非常に難しい点ではありますが、戦略の策定や共有に失敗して結果的にSDGsへの取り組みが口先だけになると、具体的な活動を伴わないSDGsウォッシュになってしまうのです。
SDGsに取り組む企業の事例
企業がSDGsに取り組むのは難しい面もありますが、実際に取り組みを進めて成果を上げている企業も日本には数多くあります。その事例を見ていきましょう。
リコー
リコーグループは、SDGsにコミットすることを打ち出して実際に様々な分野で取り組みを行っています。中でも高く評価されているのが、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」への取り組みです。仕事と生活が両立できるよう支援し、社内の環境や制度を整えることで、多様な人材が活躍できる風土を築いているのです。
実際に様々な制度が設けられていて、育児休業や時短勤務、在宅勤務などが従業員のニーズに合わせて使えるようになっています。またそれだけではなく、制度利用者の経験談を共有したり、職場での理解を促進する研修を行ったりすることで、仕組みを形骸化させない工夫をしているのです。こうした取り組みの結果、男女ともに育休などの利用率は非常に高くなっていて、平均勤続年数については女性が男性を上回っているほどです。
さらに、現状維持で満足するのではなく、2021年度末までに女性管理職の割合を10%に引き上げるべく研修やネットワーク構築の支援などのプログラムを用意するなど、女性のさらなる活躍を推進する取り組みを進めています。このような活動が評価され、リコーは女性の活躍推進する企業に与えられる「えるぼし」企業の最も高いランクの認定を受けています。
参照:https://www.sofia-inc.com/blog/5362.html
セブン&アイ・ホールディングス
大手コンビニのセブン・イレブンなどを傘下に持つセブン&アイ・ホールディングスも、SDGsに積極的に取り組んでいる企業の1つです。中でも環境配慮型の取り組みを進めることで、事業の特徴を活かしながら成果を出しています。
全国におよそ2万店舗が展開されているセブン・イレブンは、従来から商品の製造や流通過程で多くのエネルギーを消費したり廃棄物を出したりしていました。そこで、事業活動の中で消費するエネルギーを削減すべく、環境配慮型の車両を取り入れたり、店舗への太陽光発電パネルの設置を行ったりしているのです。また、ペットボトル回収機の設置や環境配慮型の包装容器への変更など、人々の倫理的な消費行動をサポートするような活動を行っています。
これらは目標12「つくる責任 つかう責任」や目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」など、自然環境に関する複数の分野に横断した活動と言えるでしょう。事業規模が大きいため、社会的にも大きなインパクトを残しうるのです。
参考:https://www.sej.co.jp/csr/sdgs/03.html
未来電力
電力会社の未来電力は、クリーンエネルギーの利用によるCO2の削減により目標13「気候変動に具体的な対策を」など複数の分野にコミットしています。
特徴的なのは、未来電力の取り組みが単なる環境配慮型のプロジェクトには留まらないことでしょう。クリーンエネルギーとしてバイオガス発電を進める大分県宇佐市で、地方の雇用創出に貢献したり地元企業との連携を深めたりして、SDGsに分野横断的にコミットしているのです。また、再生エネルギーに関する環境教育プログラムを提供して学びの場を創出し、人々の啓蒙にも力を入れています。
1つのプロジェクトを中心に様々な目標にコミットするケースとして、参考になるのではないでしょうか。
参考:http://www.mirai-power.co.jp/sdgs.html
SOMPOホールディングス
最後にSOMPOホールディングスの取り組みを見てみましょう。SOMPOホールディングスは、グループのビジョンに基づいて「防災・減災」「健康・福祉」「地球環境」「地域社会」「ダイバーシティ」の5つを重点課題としてSDGsに取り組んでいます。中でも注目すべき点は、様々な活動にパートナーシップが重要であることを認識して、すべての取り組みで目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に焦点をあてていることです。
たとえばインドネシアでは、交通事故による死者数を減らすことを目指して、現地の行政やNGOと協働しながら交通インフラの整備や交通安全教育の推進などを行っています。また防災活動の一環として、介護法人などに社員を派遣して知見を共有したり交流を深めたりしているほか、自治体と連携して首都直下型地震を想定した保険の開発を行うなど、様々な活動でパートナーシップを重視しています。
こうした活動や人材活用、環境への取り組みなどが高く評価され、SOMPOホールディングスはESGを重視する企業の1位にも選ばれているのです。
参考:https://www.sompo-hd.com/csr/sdgs/
オムロン
オムロンは、10年間の長期ビジョンである「Value Generation 2020(VG2020)」の中で、「質量兼備の地球価値創造企業」を目指すことを公表しました。全社の方針として「技術の進化を起点に、イノベーションを創造し、自走的成長を実現」を掲げ、技術革新で自社のコア技術を進化させ、社会的課題を解決することに取り組んでいます。
2017年からは、ビジョンの達成に向けた最終の中期経営計画の推進がはじまりました。社会的な課題解決と事業成長を結びつけ、「ファクトリーオートメーション」「ヘルスケア」「ソーシャルソリューション」に注力していきました。
オムロンがSDGsの推進において評価されている特に理由として、役員報酬制度における中長期業績連動報酬の評価項目にサステナビリティ評価を組み込んでいることが挙げられます。サステナビリティ評価とは、企業を経済・環境・社会の3つの側面で統合的に評価・選定するESGインデックスのことで、投資家と企業の間で、SDGsへの貢献度などの非財務情報の開示が強く求められるようになっている背景が伺えます。
参考:https://www.omron.co.jp/vg2020/
まとめ
世界的にSDGsが注目される中、日本もSDGsの達成に向けて取り組みを進めています。これは企業にとっても他人事ではなく、経営にSDGsの視点を取り入れることは現在の社会では必須とも言えるでしょう。しかし、見せかけだけで実態が伴っていない状況にならないよう注意しなければいけません。すでにSDGsへの取り組みで評価を受けている企業の例も参考にしながら、どのような分野で活動を進めるべきかを考えてみるとよいでしょう。特に、日本での取り組みが遅れているとされている分野に注目してみるのも1つの鍵になります。SDGsへの対応戦略は企業によって様々なので、自社に合う方法の検討を始めてみてはいかがでしょうか。
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株式会社ソフィア
先生
ソフィアさん
人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。
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