2020.11.17
ビジョンを浸透させる重要性とプロセスを紹介
目次
あなたは自社の「ビジョン」を知っていますか? 企業のビジョンは、規模を問わず多くの企業で設定されており、現状ビジョンが明文化されていない企業でもこれから策定をしたい、と思っているところも多いはずです。
ビジョンはただ掲げるだけでは意味がなく、しっかりと浸透させることで企業をあるべき姿へと導くことができます。本記事では企業にとってこのビジョンを浸透させることの重要性と、浸透のプロセスについて解説します。
ビジョンとは
ビジョン(vision)」には本来「将来の見通し」や「展望」といった意味があります。企業におけるビジョンとは、企業の「あるべき姿」や「理想像」を明文化したものです。経営目線で策定されることが多いため、「経営ビジョン」と呼ばれることもあります。
ビジョンとミッションの違い
ビジョンと混同されやすい概念として、「ミッション」があります。ミッション(mission)はもともと「役目」「役割」という意味を持ちますが、企業における文脈では、企業や企業に属する社員一人ひとりが社会において「果たすべき使命」や「任務」、あるいは「存在意義」そのものです。
どちらも観念的なため違いがやや分かりにくいかもしれません。ビジョンは、企業がたどり着こうとする未来と、その時点であるべき状態です。対してミッションは、企業がビジョンを実現するために何をなすべきかを指します。
ビジョンとミッションは、童話の「桃太郎」に例えられることがあります。桃太郎一行におけるビジョン(あるべき姿・理想像)は、「村が平和であること」です。そしてミッション(果たすべき使命・任務)は、「村を守ること」となります。
なお、もう1つの要素として挙げられるのが「バリュー(value)」です。これはそもそもの「価値観」という意味が示すように、企業の「行動指針」を言語化したものになります。桃太郎でいえば、「恐れずに立ち向かう」といったところでしょう。
企業がビジョンを打ち出す目的
企業がビジョンを策定し、社内に浸透させる主な目的を3つ挙げます。
・意見をまとめやすくなる
ビジョンは企業のあるべき姿を形にしたものです。ビジョンが社内に浸透していれば、企業が岐路に立たされたときにも社員の意見をまとめやすくなります。なぜなら、会社のあるべき姿に則ることができ、全社が同じ方向を向きやすくなるためです。
・社員一人ひとりが適切かつ迅速に判断できる
ビジョンが全社に浸透した状態であれば、例えば世界各国に拠点を持つグローバル企業が、それぞれの拠点において現地の判断ですぐに動けるようになります。国をまたいだ企業活動では各国の言語だけでなく文化や現地の状況などまで大きく異なりますが、ビジョンは共通言語の役割を果たしてくれます。
また、採用活動においてわざわざ求職者の一人ひとりに経営層が立ち会うことなく自社にふさわしい人材を人事部門が検討するための判断材料にもなります。
・社員のモチベーションを向上させる
あるべき姿を提示している企業は社員の意欲を高めます。どこへ向かうべきか迷って右往左往する船に率先して乗りたい乗組員は珍しいはずです(そういった乗組員は自ら船を用意して船長になるでしょう)。企業のビジョンは社員に一体感をもたらし、モチベーションを向上させる役割を持つといえます。
ビジョンが浸透してほしいと思っていない社員もいる
残念ながら、経営ビジョンの浸透を歓迎しない従業員もいます。一部の一般社員にとって、ビジョンなどという目に見えないものがあろうとなかろうと、与えられた業務を遂行することに何の支障もなく現場は回ると感じられるためです。そのように組織からの心理的な拘束を嫌う社員からすれば、会社がビジョンを浸透させようと働きかけてもかえって大きな反発を招き、信頼関係の溝が深まる恐れがあります。
多くの経営層は、「社員は会社の成長に尽力すべき」と本心では望んでいるでしょう。一方で、会社と従業員の関係は対等であり、従業員は自由意志で会社に留まることも、去ることもできます。また、とくに若年層は、組織への愛着や忠誠心よりも自己成長につながる仕事や環境であるかどうかを重要視する傾向があります。
したがって、トップダウンの押しつけに反感を持つ従業員のスタンスを頭ごなしに否定せず、優秀な人材を定着させるために動機づけを行うことも経営者の役割といえます。もちろん、彼らの声を代弁する人事部門やマネジメント層も同様です。
ビジョンの浸透に成功した企業
ここで、ビジョンの浸透に成功した実際の企業事例を紹介します。自社におけるビジョン浸透の参考にしてみてください。
西武ホールディングス
1社目は、2006年に西武グループの持株会社として設立された株式会社西武ホールディングスです。同社はグループで働く全従業員の活動の出発点として、また、不変な企業姿勢としてグループビジョンを制定し、掲げ続けています。このグループビジョンを浸透させるため、優れた取り組みを表彰する「チームほほえみ賞・大賞」や、課題や施策を社員が検討し経営層にプレゼンする「ほほえみFactory」、グループビジョンについて考える年に一度の「グループビジョン推進月間」、職場内の風通しをよくする「Good Jobカード」など、同社ではさまざまなグループビジョン浸透活動を行ってきました。
グループビジョンの制定とこれらの活動が実を結び、現在ではグループの一体感が強くなり、またグループ内で各事業がお互いの強みを活かそうとするようになったといいます。実際、2014年には東証一部への上場も果たしており、企業の発展につながった好例です。
参照:https://www.sofia-inc.com/casestudy/comment02.html
無印良品
無印良品を手がける良品計画は、社内に向けたインナーブランディングを展開しています。その主たる例が、経営陣に外部の著名なデザイナーを迎える「アドバイザリーボード」という人事制度です。
外部のクリエイティブな人材をあえて経営層に配置し、彼らがビジョン形成に関わることで、一般消費者にとっても商品から接客サービスに至るまで「これは無印らしい」と思わせる、世界観の見事な統一が図られています。ビジョンを社会的にブランドとしてはっきりと認知させられる状態へと成長させた、こちらもビジョン浸透の良い事例といえるでしょう。
ビジョン浸透のプロセス
では、ビジョンは具体的にどのようにして企業内に浸透し、その過程で従業員にどのような影響を与えるのでしょうか。そのプロセスについて解説します。
認知
最初は当然ながら「ビジョンの存在を知っているかどうか」の段階です。経営理念や経営方針、ビジョンやミッションは多くの会社に当たり前のように存在し、さまざまな手段で社員に伝えられるため、おそらく大半の社員はその存在を認知しているでしょう。しかし、もしかするとその中身はきちんと理解されていないかもしれません。
理解
認知段階では「伝える」ことに重きが置かれていましたが、理解の段階では「伝わる」ようにコミュニケーションする必要があります。具体的には、ビジョンを現場の業務へと紐付けて説明し、「ビジョンは自分に関わるものだ」という従業員の理解へとつなげます。
共感
企業ビジョンは、「どういうものかわかっている」という「理解」から、「ビジョンによって描かれた企業の未来において、従業員の自分がありたいイメージを描けている」という「共感」への過程がもっとも難しいものです。ここでは、理解を共感へ変容させる「ストーリー」作りが重要となります。
理解と共感のステップをしっかりと経ていないと、以後において行う施策は効果を得られなくなるため、特に力を入れたいプロセスです。
実践
共感をベースにして、ビジョンにもとづいた行動を従業員が行う段階です。共感を得ることに成功し、社内に熱量だけがあっても、行動ベースで実践できなければ意味がありません。うまく実践に移行できるよう、施策を打ったり評価に落とし込んだりすることが求められます。
協働/影響
経営ビジョンに則って業務が実践されるようになると、社内の協働意識が強まります。ビジョンをさらに昇華させ、無印良品のように対外的なブランドとしていく場合には、ビジョンを推進できる人物を選出し、コンテンツとしていくとよいでしょう。
ビジョン浸透で大事なポイント
最後に、ビジョンを浸透させるために大事なポイントを3つ解説します。
ビジョンを明確に理解してもらう
先述のとおり、ビジョンの理解がないことにはもっとも難しい「共感」のフェーズにたどり着けません。ここでは焦ることなくしっかりと時間をかけてビジョンの理解に努める必要があります。明確な理解を促すためビジョンを明文化することはもちろん、ビジョンを業務に落とし込んで従業員が自然とビジョンに触れる機会を創出すると効果的です。
ビジョンに基づいた業務に評価制度を設ける
ビジョン浸透の起爆剤となるよう、ビジョンを体現した行動をとる社員を企業はしっかりと報い、労いましょう。ビジョンに基づく行動の度合いを評価制度に加えたり、表彰制度を設けることで、能動的な実践が期待できます。
複数メディアによる間断のないコミュニケーション
ビジョンの浸透にはメディアを活用したインターナルコミュニケーション施策も大いに貢献するでしょう。社内報や社内SNSをベースに、テキストや音声、動画などマルチメディアによる情報の伝達と共有により、伝えたいことが一方的でなく理解され、共感を生む土壌を作り出すことができます。
まとめ
企業において、ビジョンが形骸化してしまっている状態は少なくないでしょう。しかし事例でわかるとおり、ビジョンの浸透に成功した企業は、業績への好影響だけでなく、従業員にとっても好ましい環境になるはずです。時間のかかる取り組みではありますが、ビジョンの浸透はそれに見合うだけの価値が大いにあるといえるのです。
関連事例
よくある質問
- ビジョンを浸透させるプロセスは何ですか?
ビジョン浸透のプロセスは、認知→理解→共感→実践→協働/影響の順に浸透します。中でももっとも難しいのは「理解」から「共感」のフェーズです。「ビジョンによって描かれた企業の未来において、従業員のありたいイメージを描けている」という、理解を共感へ変容させる「ストーリー」作りが重要です。最終的には経営ビジョンに則って業務が実践されるようになると、社内の協働意識が強まります。
- ビジョンの浸透に成功した企業はありますか?
西武ホールディングスは優れた取り組みを表彰する「チームほほえみ賞・大賞」や、課題や施策を社員が検討し経営層にプレゼンする「ほほえみFactory」、グループビジョンについて考える年に一度の「グループビジョン推進月間」、職場内の風通しをよくする「Good Jobカード」など、同社ではさまざまなグループビジョン浸透活動を行ってきました。
https://www.sofia-inc.com/casestudy/comment02.html
- ビジョンの役割は?
企業におけるビジョンとは、「あるべき姿」や「理想像」を明文化したものです。ビジョンはただ掲げるだけでは意味がなく、しっかりと浸透させることで企業をあるべき姿へと導きます。
株式会社ソフィア
コミュニケーションコンサルタント
廣井 和幸
社内報やビジョンブックなどインターナルコミュニケーションのためのコンテンツをつくることが多いですが、外向けも歓迎です。公開社内報「そふぃあと!」の責任編集長でもありますので、そちらもごひいきに!
株式会社ソフィア
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廣井 和幸
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