組織風土を変えるには?組織風土改革のステップをご紹介

組織風土という言葉は、HR領域の仕事に携わる方々であればしばしば耳にすることがあるでしょう。ただ、組織風土とは何かとあらためて問われると、言語化することが難しいのではないでしょうか。また、自社にはどのような組織風土があって、それがよいものか悪いものなのかを考える機会も、あえて意識しなければなかなか得られるものではありません。
本記事では、組織風土を変えたいと考える企業に向けて、組織風土改革のためのステップをご紹介します。

組織風土とは

企業の文脈における組織風土とは、企業で働く従業員の意欲や動機付け、言動に影響を及ぼす環境面の特性を意味します。
「風土」は「土地の気象・気候」といった、その土地に住む人の生活を左右する特性を意味する言葉であり、それを組織に置き換えたものであると想像できるでしょう。

組織を構成する要素

組織風土の改革について解説する前に、企業戦略におけるいくつかの構成要素の相互関係について、大手コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーの提唱したフレームワークである「7Sモデル」を引用し、解説します。

ハード面

組織を構成するハード面の要素は「戦略」「組織構造」「制度」の3つです。後述するソフト面の要素と比べて、意思やプランがあれば変更しやすいため、組織の変革においても、ハード面にだけに手をつける場合が多いです。

戦略

「戦略(Strategy)」は、企業が事業をどのように進めていくかという指針であり、言語化できるものです。例えば市場をこれから切り拓こうとするベンチャー企業と、すでに市場で十分なシェアを確保した大企業とでは、事業の指針が大きく異なります。

組織構造

ここでの「組織構造(Structure)」は、組織の形態を指します。組織の形態とは組織がどのような構図で成り立っているかを示すもので、少数のトップ層と多数の一般社員から構成されるピラミッド型の企業がほとんどでしょう。この組織の形態にはピラミッド型以外にも実質上のトップがいない型や上下関係のない型なども存在します。

制度

「制度(System))は会社が組織として運営される上で、なくてはならないものです。なじみの深い制度の1つが人事制度なのではないでしょうか。人事制度は文書化され、社員の働きやすさや採用活動などにも大きな影響を及ぼします。

ソフト面

組織のソフト面を構成する要素は、人に関する部分のため「こういうものである」という言語化・可視化が難しく、変えることもまた難しいものです。ハード面を変える際に一緒に取り組んでもなかなか成果の出にくい部分であり、時間がかかります

価値観

企業における「価値観(Shared value)」は、ビジョンやミッション・バリューへ色濃く反映されます。これらの価値観が職場環境に影響を与え、そこで働く人へも影響を及ぼすわけです。たとえば、企業が「絶えず挑戦する」という価値観を持っているならば、価値観に沿った行動を従業員に求めるために、価値観の明文化や可視化、従業員への浸透が行われるでしょう。しかし、後段に挙げる「人材」、「経営スタイル」、「スキル」という要素が価値観と連動していなければ、企業の価値観と実際の企業活動や社員の行動が一致せず、価値観の実現はうまくいきません

人材

「人材(Staff)」は企業にとって不可欠な存在であり、どんな人材を集めるか、あるいはどんな人材が集まるかによって、企業の業績に影響を及ぼします。企業が目標や計画を達成するためには、企業が求める専門性を保有する人材を採用し、その人材の配置などを適切に行うことが必要です。人材市場から自社に必要人材を採用し配置する際に問題になるのが「カルチャーフィット」です。これは、採用する人材が自社の文化に馴染むのかどうかということです。

経営スタイル

「経営スタイル(Style)」は「経営において重視すること」を意味し、これは組織風土そのものとも言えます。経営スタイルは、7Sの中で最も経路依存性が高く、非常に変化しにくい項目になります。経営危機や、経路依存性のない外部人材による経営陣刷新などをきっかけに経営スタイルの変革に成功した事例も過去にはありますが、経営スタイルの変革が原因で企業が衰退するケースもあり、組織にとっては良薬にも毒薬にもなるものです。

組織能力

あまり聞き慣れない「組織能力(Skill)」は、企業が持っている組織的な能力や強みを指し、企業が市場において競争優位性を獲得し、持続的に成長していく上で重要な要因となります。組織能力は、組織が産みだす技術やビジネスそのものではありません。組織能力は経営スタイルや人材と不可分のものであり、それが組織の中で技術やビジネスを産み出す源泉として機能している場合には、他社がまねることできない本質な競争優位性として位置付けられます

このフレームワークで重要なのは、ハード面とソフト面のどちらが大事かということではなく、ハード面とソフト面が整合性を持っているか、ということです。例えば、経営戦略を変更しても、従業員がその戦略に合ったスキルをすぐに身につけることは難しいでしょう。ハード面かソフト面どちらかではなく、どちらも考慮した上で戦略を実行していくことが重要となります。

組織風土の改革が必要な状況とは

組織風土は企業で働く従業員だけでなく、間接的ながら企業にかかわる外部の人間や顧客、一般消費者に影響を与えることもあります。この影響には良いものもあればそうでないものもありますが、一面だけを見て組織風土の良し悪しを判断することは困難であり、危険なことでもあるため、組織風土の改革は慎重に進める必要があります。
ここでは、組織風土(または7Sの「経営スタイル」)に問題があるときにあらわれる兆候をご紹介していきます。組織にこれらの兆候が出ていたら、まず組織風土上の問題を疑い、事業環境や組織内外の状況を全体的に評価して問題を見極めた上で、現状の改善に向けた取り組みを進めましょう

組織風土に問題があるときの兆候

組織風土に問題があると、組織における求心力が低下し、さまざまな兆候があらわれます。以下に代表的なものを挙げます。

社員の成長意識が低い

経営が安定し、守りに入った企業にしばしば見られる状態です。守りに入ること自体は悪いことではないのですが、成長意識の低い社員の割合が高くなると同調圧力が生まれ、新たなことに挑戦しようとする社員が阻まれてしまうようなことも起こり得ます。

競合他社の動向に興味がない

神経質になるほど意識する必要はありませんが、あまりに興味がなさすぎると、気づいたら市場ですべてのライバルに追い抜かれているという状況も想定されます。売上が低迷し、最終的には自社が存続の危機に晒される事態にもなりかねません。独占市場を持つ企業はごくわずかなので、ほとんどの企業は競合他社の動向に注目するべきです。

社内の雰囲気が暗く、社員間のコミュニケーションがない

コミュニケーション上の課題は従業員が離職する大きな原因となります。あえて陰鬱な雰囲気の中で仕事をしたいと思う社員がいるでしょうか。コミュニケーションの多寡についてはそれぞれの好みがあるかもしれませんが、あまりにコミュニケーションが少ないと業務に支障が出るほか、コミュニケーションをとろうとする人への圧力も生じます。早々に改善すべき状態といえるでしょう。

独断で行動する社員が多い

現場の統率がとれていない状態ともいえます。よくいえば「大きな裁量を持たせている」のかもしれませんが、ここではチームワークやチームビルディング、マネジメントが不完全であるという意味です。身勝手な行動で不測の事態が起きたとき、収拾をつけるのは自分だけではありません。

若手社員の離職率が高い

離職率は組織の健康状態を測る1つの指標ともいえます。特に若手社員の離職率が高い場合、新たな人材にとって受け入れにくい組織風土が生まれているのかもしれません。

社員同士が業務上のミスを責任転嫁する

「カスタマーサポートセンターに問い合わせたら、あちこち たらい回しにされた」という状態がこれです。業務が縦割りになりすぎると、「これは自分たちの仕事の範疇ではない」となすりつけあいが始まり、このような組織の状況が間接的にエンドユーザーに影響を与えることもあります。

同僚に対して無関心

こちらもやはりコミュニケーション上の問題といえるでしょう。同僚に対して無関心であることによってメンバーへの配慮が足りなくなったり、自分本位になったりすることが予測されます。


組織風土の問題に関連して、面白い話が一つあります。米国の諜報機関であるCIAをご存知でしょうか? 第二次世界大戦中にCIAの前身である米国の諜報機関OSS(Office of Strategic Services)が作成した、「シンプル・サボタージュ・フィールド・マニュアル」という諜報員向けのマニュアルが公式文書としてCIAの書庫に保管されています。これは、敵国の組織を弱体化するために潜伏した諜報員が活動するためのマニュアルで、いわば、組織風土の問題を作り出すためのものです。自社の組織の問題に気付くためのヒントになるかもしれません。

シンプル・サボタージュ・フィールド・マニュアル より

  • 「何事も決まったルートで行うようにし、決断を早めるための近道を認めるな」
  • 「業務の承認手続きをなるべく複雑にする。一人で承認できる事項でも3人の承認を必須にする」
  • 「会議はできるだけ長く、自分の意見をスピーチしろ。会議で決まったことを蒸し返して再討議を促せ」

 

 守るべき組織風土

組織風土が「人に悪影響を与えるもの」であるということは、問題を見極めて解決する一方で、「人によい影響を与えている」組織風土についてはそのまま維持していくことも重要です。組織が存続している以上は、経営業績だけではなく、ステークホルダーになにかしらの価値を提供している事は間違いありません。守るべき組織風土を見出すためには、組織が生み出している価値と組織風土との関連性や、7Sなどほかの経営要素との関連性を、1つ1つひも解き、明確にしてくことが重要です。

組織風土を変えるステップ

最後に、問題のある組織風土を変えるための5つのステップを解説します。

社員意識調査、社員インタビュー

まずは状況を把握するため、社員に対して調査やインタビューを行います。調査はマクロな視点で、インタビューはミクロな視点で実態を掴むことができますので、必要に応じて使い分けてみましょう。

組織風土を改革すべき理由を経営層から説明する

組織風土の改革をトップダウンのみで進めようとすると十中八九失敗します。組織風土の改革には現場の納得と理解、協力を得ることが不可欠ですが、何かを大きく変えようとする際に現場の抵抗が生じるのも自然なことです。そこで、組織風土を変えたい理由やどう変えていきたいか、それによって組織がどう変わっていくのかを経営層自らが社員に説明することで、納得感を得やすくなります。

組織風土における強みの再分析、行動指針の策定

はじめは、自社のコアな組織風土を再度見直してみるとスムーズかもしれません。自社固有の組織風土において優位性を持つものは何か、それをどう生かしていけるかという強みと行動指針を見つけ出すと、進むべき方向が見えてきます。

コミュニケーションで従業員の本音、感情を表出する場を作る

簡単に言えば「腹を割って話す」機会を作るということです。ここでは上司や部下、同僚の目を気にしてしまうと本音を引き出せないので、会社や仕事において利害関係のないメンバー同士を集めるとよいでしょう。なお、このような機会の創出は定期的に行うことで、組織風土改革後もメンテナンスの意味で役立ちます

改革のためのプロジェクトチームを設立

組織心理学のパイオニアであるエドガー・シャインによれば、組織文化には「明示的文化」と「黙示的文化」が存在します。これは、組織文化がどのように知覚されるかによって分類されます。

黙示的な組織文化は組織風土に影響し、明示的な文化を強要させる性質を持ちます。例えば「みんなで笑顔の絶えない職場を作りましょう」という明示的な組織文化によって、好ましい組織風土を醸成しようとすると、「笑わなければならない(笑っていない人は糾弾されるべき)」という黙示的文化が生まれ、問題のある組織風土につながっていきます。このように、これまでとは異なる組織風土を醸成する取り組みは、ややもすると強要に近くなり、現場の反発が起きやすくなります
組織風土の改革を進める際には、外部の専門家を招聘して社内にプロジェクトチームを設立し、一丸となって取り組む方法をおすすめします。

 

まとめ

組織風土は人に影響を与える重要な要素であり、組織風土を変えることは人が意識・行動を変えることにもつながるため、変革は容易ではありません。組織変革を成功へ導くには、実績を持った専門家と手を取り合いながら進めていくとよいでしょう。ソフィアでは組織風土改革に多くの実績を持っていますので、自社の組織風土に関してお悩みがある際はお気軽にご相談ください。

よくある質問
  • 組織風土改革とは何ですか?
  • 目に見える仕組みから共通の価値観、そして暗黙のルールをも変える取り組みです。

  • 組織風土に問題があるときの兆候はどんなものですか?
  • 組織風土が問題として表出する場合は、外部環境や経営戦略など変化が起点になります。組織風土はそれだけ問題にはなり得ません。例えば、既存事業の縮小均衡になりつつあり、新規事業の創出が急務である中で、既存事業の継続改善から育まれた風土が、逆に大胆な新規事業の意思決定の弊害になる場合もあります。組織風土は、事業活動と並行して、段階的強化され、成果や結果が出ている場合はポジティブに解釈され更に強化されます。しかし、外部環境や経営戦略など変化により、適合していない場合は、ネガティブに認識され問題化します。つまり、組織風土だけ着目しても兆候を見ることはできません。

株式会社ソフィア

事業責任者、シニア・コンサルタント

森口 静香

先が見えない、課題が曖昧でどうすればよいかわからないプロジェクトの伴走をすることが多いです。議論をその場で図解したり、時にはグラレコや動画を使って、みなさんの共通認識をつくることを得意としています。

株式会社ソフィア

事業責任者、シニア・コンサルタント

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