ピープルマネジメントとは?これからの時代に必要なマネジメント手法を紹介

ピープルマネジメントというマネジメント手法をご存知でしょうか。ピープルマネジメントは、これからの時代に必要とされる新たなマネジメント手法だと考えられています。
マネジメントと聞くと、企業が人や組織を管理するというイメージが強いでしょう。数多くのマネジメント手法がある中で、ピープルマネジメントとは一体どういうものなのでしょうか。
本記事ではこのピープルマネジメントの概念、手法について紹介します。

ピープルマネジメントとは

ピープルマネジメントは、これまでのマネジメント手法とは着目するポイントが異なります。そのため、ピープルマネジメントを知る際は、従来のマネジメントと比較してその違いも知る必要があるでしょう。

従来のマネジメントとの違い

従来の人材領域のマネジメントでは「タレントマネジメント」が重視されてきました。タレントマネジメントは、「タレント(従業員)」の持つスキルや経験を最大限に活かすために、人材配置や人材育成を戦略的に行うマネジメント手法です。そのためにタレントマネジメントシステムが生まれ、従業員の属性をデータ化して管理・分析できる仕組みが作られ、今も活用されています。
対してピープルマネジメントは、人から場(チーム)に着目します。タレントマネジメントで扱うような人事データではなく、さまざまな動機や価値観、意欲や働き方、キャリアを持った「チーム」を、その中の人と併せてマネジメントするものです。ピープルマネジメントで管理すべきものはデータ化しにくい、従業員のいわば「ソフト面」を担うものです。そのため、これまでのマネジメントと比べても、いっそう一人ひとりの従業員に向き合って彼らの成功にコミットすることが求められます。

ピープルマネジメントが必要となる背景

なぜ従来のタレントマネジメントではなく、ピープルマネジメントの必要性が叫ばれるようになったのか疑問に思われる方も多いでしょう。ここからはその背景について解説します。

クルト・レヴィンの法則

ピープルマネジメントの必要性は、社会心理学の父と呼ばれるドイツの心理学者、クルト・レヴィンの提唱した法則から説明ができます。クルト・レヴィンの法則は、「人が取る行動(Behavior)は、人間の特性やスキルなど(Personality)と環境(Enviroment)とが、B=f(P,E) と相互に作用して生じる」というものです。これは決して新しい概念ではありません。
ここでいう特性(Personality)とは人の性格や価値観・スキルなどで、環境とは組織の風土・人間関係・上司など周囲の状況です。
簡潔に言うと、同じ環境であっても人が違えば取る行動は変わり、逆に同じ人でも環境が違えば取る行動は変わってくるということです。
従来のタレントマネジメントは、個人のスキルや経験を可視化しデータ化することでマネジメントの負荷を下げることを目的としていました。タレントマネジメントを実施した次の段階として、マネージャーが強化しなければならないのは環境のマネジメントであり、そのためにピープルマネジメントがあるのです。

ビジネスサイクルへの対応力

ビジネスサイクルとは、景気の拡大や後退、回復や悪化といった、循環的な景気変動を差した言葉です。企業がこのビジネスサイクルに対応するためにはチームの力、ひいては人の力が必要です。
日本が急速に経済成長していた時代は、市場の動きや人々のニーズがある程度予測可能でした。企業は能力の高い人材を終身雇用で囲い込んでイノベーションを創出し、トップダウンによる意思決定のもと、似たような属性や考えの社員が一丸となって動くことで業績を上げてきました。そのため経営が個々の従業員に向き合う必要性は低かったのです。
一方、現在は人々のニーズが多様化し、世の中の変化は経営にとっても予測不可能である上に、人材の流動性も高まっています。イノベーションを起こすのは人であり、人の集合体であるチームです。そのため、企業は人に向き合い、最大限にパフォーマンスを発揮できるような環境を提供する側に回る必要があるのです。そして個人のパフォーマンスを引き出す鍵が、エンゲージメントやカルチャーといった、タレントマネジメントシステムでは管理しにくいものであることがわかってきています。

働き方の多様化

一昔前は終身雇用が当然の時代で、転職の選択肢はほとんど考えられない時代でした。しかし今では、自分が力を発揮できる環境を求めて転職することが当たり前になり、特に人事部門の方々は、この変化を採用においてひしひしと感じていることでしょう。
こうした働き方の変化の中で企業が行うべきは、自社にとって必要な資質を持つ優秀な人材を自社に留めておく組織づくりだといえます。従業員のエンゲージメントを高め、良いカルチャーを社内に醸成するためには、企業がそれを叶えるマネジメントを行わなければなりません。そうした背景からピープルマネジメントに注目が集まってきたという経緯です。
また、人材の流動化と多様化によって、チームやプロジェクトの目的に最適な人材を集めることが可能となりましたが、最適であるということは一人ひとりのメンバーの貢献度が高いことを意味し、一人でもメンバーが欠けるとチームやプロジェクトが立ち行かなくなる可能性もあります。そのため、チームやプロジェクト全体をうまく機能させるマネジメント手法であるピープルマネジメントが企業にとって必要になっているわけです。


テクノロジーの発展

「AIが人間にとって変わる」という言葉が脅し文句のように取り沙汰されていますが、テクノロジーの発展でオートマティックにできる仕事が増え、働く人は「何をすべきか、何ができるのか」をあらためて問われる時代となりました。そのような背景から、デジタルネイティブ世代の若年層には「成長できる環境を求めて会社を選ぶ」という考え方が多く見られます。
働く人はあらためて「自分の仕事に意味はあるのか」という疑問を持ち始めており、モチベーションが揺らぎ始めています。そして、従業員のこういった疑問に応えないまま、企業がこれまでと変わらない活動を続けていれば、エンゲージメントの低下は免れません。人が人だからできることを、人と向き合って任命する必要が出てきたのです。
また、タレントマネジメントに代表されるように、デジタル化によって人のスキルやデモグラフィック(人口統計学的)な属性はほぼ可視化が可能となりました。こういった部分のマネジメントの負荷が下がり始めている一方で、可視化が難しい組織の環境や人の関係は、デジタル化やオートメーション化ができません。これからはこれらの部分のマネジメントに注力すべきであり、テクノロジーの発展に伴って、人の手でマネジメントを行う必要のある範囲が変わってきているともいえるでしょう。

ピープルマネジメントのポイント

ピープルマネジメントのポイントは、「見えない」「可視化できない」「データ化しにくい」内容をマネジメントすることであり、企業においては「場」をマネジメントすることといえます。
ここで重要になってくるのが、コミュニケーションの「深度」と「頻度」です。

アナリティクスツールの導入

ピープルマネジメントのトレンドに合わせて、従業員のエンゲージメントやモチベーションを分析するアナリティクスツールが登場しています。これまでのタレントマネジメントツールのようにパフォーマンスに関する指標(知識や能力、経験など)とは異なる、ピープルマネジメントに必要な項目の測定・管理・分析機能を持ったツールです。

組織開発(OD)

1960年代に日本に導入されたものの、当時は理解されず浸透しなかった「組織開発(OD:Organization Development)」が2015年ごろから再び注目されています。企業の文脈におけるODとは、会社という組織が、その中で動いている従業員自身の手によって組織をよりよくしていく、あるいはそのための支援を行うことを指します。「ビジネスサイクルへの対応力」の項でお伝えした「現代では企業よりも人が力を持っており、イノベーションを起こすのは人であり、人の集合体であるチームである」という考え方は、まさにODに合致するものです。
ODにおいては、組織文化や意欲、満足度、人間関係やコミュニケーションの状態、協働性、リーダーシップ、規範などに働きかけて組織をよりよくしていきます。
これらは総じて「ヒューマンプロセス」と呼ばれ、「個人がどんな感情を持って、どのような動機で、どのような関係でどのように影響を及ぼし合い、どのような企業風土の中でどのようなコミュニケーションが行われているのかという、集団における関係性の質」と定義づけられています。

ピープルマネジメント実践の手がかり

チームメンバーの普段の振る舞いを見ていてマネージャーが思うことや、1on1ミーティングの中で出てきた内容、それぞれが他のメンバーの見ていないところで行っていることなどを統合し、個々と向き合っていきます。それぞれに必要とされているサポートや、チームの環境、キャリアについての対話を通して、従業員一人ひとりに寄り添う姿勢を作り上げていきましょう。これらをチーム単位で実践し、すくいあげた課題をまとめて、チームとして解決していきます。それらが、従業員エンゲージメントを高め、モチベーションを向上させる取り組みへとつながっていくでしょう。

まとめ

ピープルマネジメントは日本での情報がまだ少ないものの、タレントマネジメントに次ぐ現代のマネジメント手法としてHR業界ではトレンドとなっており、すでに実践している企業も見られます。
マネジメントにおける最大の失敗の1つは、「時代に遅れること」です。社会背景の移り変わりによって労働に対する人の価値観が刻々と変化している中で、企業がヒューマンプロセスに合わせてアップデートできないようでは、優秀な人材の流出は回避できません。
記事中でも述べたとおり、今は個人とチームの力が重要性を増しています。会社は、働く人がそれぞれの目指す姿になるためのフィールドへと変化しつつあります。そんな中で自社が選ばれるには、自社の環境が他のどの競合よりも優れていると従業員に感じさせ、エンゲージメントとモチベーションを維持できるようにすることが不可欠です。
もし自社のマネジメントに課題があったり、違和感を覚えたりするようであれば、それは刷新のアラートかもしれません。また、コロナ禍において在宅勤務やリモートワークが導入されている中、ピープルマネジメントは一層重要性を増しつつも、企業において取り組むことが非常に難しい状況となっています。
ソフィアはピープルマネジメントを進める上での手法を持っています。漠然としたマネジメントのお悩みでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問
  • ピープルマネジメントとは何ですか?
  • 人から場(チーム)に着目します。タレントマネジメントで扱うような人事データではなく、さまざまな動機や価値観、意欲や働き方、キャリアを持った「チーム」を、その中の人と併せてマネジメントするものです。ピープルマネジメントで管理すべきものはデータ化しにくい、従業員のいわば「ソフト面」を担うものです。そのため、これまでのマネジメントと比べても、いっそう一人ひとりの従業員に向き合って彼らの成功にコミットすることが求められます。

  • ピープルマネジメントのポイントは何ですか?
  • ピープルマネジメントのポイントは、「見えない」「可視化できない」「データ化しにくい」内容をマネジメントすることであり、企業においては「場」をマネジメントすることです。
    ・アナリティクスツールの導入
    ・組織開発(OD)
    ・ピープルマネジメント実践の手がかり

株式会社ソフィア

先生

ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。

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