経産省のDXレポートとは?デジタルトランスフォーメーション実現の手がかりとなる推進指標

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の波は世界中で広がっており、日本も例外ではありません。しかしながら日本国内におけるDX推進は海外諸国と比べると大きく出遅れており、大手コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、「日本では行政・規制がデジタルに対して構造的に遅れており、ビジネスにおいて大きなハンディキャップになっている」と述べています。
こうした状況下で経済産業省(以後「経産省」)は企業におけるDX推進の手がかりとなる資料である「DXレポート」を公表しています。本記事ではこのDXレポートについて解説していきます。

経産省のDXレポートによるDXの現状と課題

DXレポートとは、経産省が2018年9月に公開した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』を指します。

経産省はこのDXレポートにおいて、約8割の企業が「レガシー(=時代遅れの)システム」を抱えており、DX推進ができていないこと、さらにこのレガシーシステムの保守運用に人材とコストがとられていることを明らかにしています(2018年9月時点)。このレガシーシステムこそがDXの足かせとなっており、企業もそれを理解している状況です。にもかかわらず、ほとんどの企業が今も変革に着手できていません。
さらに注目すべきは、「2025年の壁」という経済リスクでしょう。これは2020年現在でも多くの企業において今もなお解決できて極めて危険な状態です。

政府はほかにもDXに関するさまざまな資料を公表しているので、あわせてご覧ください。

キーワードは「2025年の崖」

企業のシステムは特に大企業において刷新が行われず、そのまま複雑化、老朽化、さらに内部構造が見えにくくなるブラックボックス化が進んでいます(=レガシーシステム)。レガシー化したシステムは企業経営だけでなく日本経済にまで大きな打撃を与える大きなリスクがあることをご存知でしょうか。
デジタル技術が日々進化している一方で、レガシーシステムはDX推進を阻害するばかりか、企業の生産性を低下させ、コストを肥大化させています。実際、レガシーシステムに投下されている予算は9割を超え、レガシーシステムの運用・保守にも多くの人が割かれている状態です。そればかりか、DX推進が実現しないことで2025年以降には日本全体で年間最大12兆円という、今の3倍もの経済損失を生む可能性があると経産省が公表しています。それが、DXレポートで言及されている「2025年の崖」です。


DXレポートによる、DX推進を妨げる要因

経産省のDXレポートでは、企業のDXを妨げる要因が特定され、解説されています。

経営層が既存システムの問題点に気づいていない

約8割の企業が現在もレガシーシステムを抱えていることは上記で示したとおりですが、経営層にとってシステムの新旧は、さしたる問題ではないと思われがちです。システムの刷新には莫大なコストと時間がかかる上に、刷新後にどういった好影響があるかを見据えて経営層に進言できるようなDX人材が企業に存在しないことも要因となっているでしょう。そのため、大企業においてレガシーシステムの刷新が遅々として進まないわけです。
しかし現状、日本ではIT関連のコストのうち80%が、既存ビジネスの維持および管理に割り当てられています。これは「ラン・ザ・ビジネス(run the business)」と呼ばれており、2025年の崖への言及とともに問題として挙げられるようになりました。
本来であれば既存ビジネスへのコストは削減し、新たなビジネスを創出にコストを割くことがグローバル市場での競争を勝ち抜く鍵となるのですが、日本企業にその体力が残っていないのはラン・ザ・ビジネスが原因と言えます。

DXに対する経営層のコミットがない

レガシーシステム刷新の必要性を経営層が感じておらず、彼らがコミットしていない状態では、システム刷新は「誰のためでもない」ものと化してしまいます。そうなると現場からは「よくわからないことをやらされて負担が大きくなる」と抵抗が生まれ、もともと失敗しやすいDX推進は案の定失敗に終わります。レガシーシステムから脱却することで企業や社員にどんな影響があり、組織がどう変わっていくのかを経営層自らが描き、未来を示せないことには、DX推進は決して叶わないでしょう。
実際DX推進を行う際は、経営層の声を代弁し、DX推進を牽引するプロデューサーの存在が不可欠となります。

時間とコストがかかる

システムの刷新には非常に大きなコストと長期間の改修期間が必要です。さらに既存システムがブラックボックス化している以上、担当者が異動したり退職したりすれば改修が頓挫し、ビジネスそのものが立ちいかなくなるリスクも大いにあり得ます。さらに、たとえ経産省が警鐘を鳴らしているとしても、投資に見合っただけの効果を見出せるとは限りません。もし失敗すれば企業にとっては大きなダメージでしょう。これらを考慮するとどうしても二の足を踏んでしまう経営者も少なくなく、それがDX推進を妨げる大きな要因のひとつになっています。

ITベンダーとの関係に亀裂

これまでのシステム改修案件では企業がITベンダーに丸投げしてきた場合が多く、要件定義が不明確でトラブルが発生するケースも少なくなくありませんでした。しかし、DX推進の取り組みを経てユーザーたる企業とベンダー企業との関係性が変わってきています。開発手法も増え、既存の契約モデルでは対応できない場合も増えてきました。これらの背景からITベンダーと新たな関係を構築する必要があるものの、特に長年自社のITを特定のベンダーへ丸投げしてきた大手企業ではうまくいかずにDX推進の計画が頓挫するケースが多発しています。

DX人材の不足

DX推進は単に業務のIT化、デジタル化ではありません。DXとは、データやIT・デジタル技術を企業が活用し、組織や組織のビジネスモデルを変革し、価値提供の手法を根本から変えていくことを指します。しかし、この定義はおろか、データやIT・デジタル技術によって企業に何ができ、ビジネスをどう変革できるかを理解し、具現化し、実践できるようなハイパフォーマーの人材が不足しているのが日本の現状です。しかも日本のIT人材は「ラン・ザ・ビジネス」に手を取られ、新たなテクノロジーでの競争領域にシフトしきれていません。これは大企業のDX推進スピードの遅さから見ると顕著でしょう。DX推進を始めようと思っても、DXを理解し、自社を変革できるDX人材を確保できていないため動くに動けないというのが今の状態だといえます。

DXレポートが訴える、DX推進施策

以上のように、DXレポートは企業のDX推進を阻害する要因を挙げ、2025年の崖についても触れつつ警鐘を鳴らしています。ここからは、DXレポートが訴えるDX推進施策について触れていきます。

指標を見える化

まずは経営者自らがDX推進にコミットする必要があります。そのためには、自社のレガシーシステムにどんな問題があり、このままだと2025年にはどうなっていくか、そしてあるべき姿はどういったものかをしっかりと把握しなければなりません。
ここでは、経産省が公表している「DX推進指標」が役立つでしょう。これは、自社のDX推進の成熟度を自己診断できるツールであり、プロジェクトの進行による企業の経年変化も把握できます。以下のURLからフォーマットをダウンロード可能です。
https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxpi.html

DX推進システムガイドラインを策定

DX推進においては、どのような体制で進めるかという「体制のあり方」やどうやって進めていくかという「実行プロセス」を明示する必要があるでしょう。これは長期的かつ大規模なプロジェクトを立案し実行する際と同様です。これらを社内の経営層やDX部門、関連部門だけでなく経営者、取締役会、株主などとも共有し、理解を得るとともに、コーポレートガバナンスのガイダンスや、「攻めのIT経営銘柄」※と連動させることも必要です。
※「攻めのIT経営銘柄」とは、経済産業省が選定したデジタル技術を前提とし、ビジネスモデル等を抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に取り組む企業を意味します。

ITシステム構築におけるコスト・リスク低減に対応

コストを低減させるためには、不要なシステムを洗い出して刷新前に破棄しておくと効果的です。これによって刷新するシステムを軽量化できます。
またリスクについては、マイクロサービスを活用しながら改修を細分化することで、大規模化・長期化に伴うリスクを低減できます。マイクロサービスとは、これまでのように一枚岩でシステムを構築するのではなく、サービス単位でアプリケーションを組み合わせてシステムを作る方法です。柔軟性に優れ、ブラックボックス化を解消できるメリットがあります。
さらに、グループ会社や子会社と協働できる場合は別々ではなくすべての企業に共通で使用できるプラットフォームとしてのシステムを構築することで、コストを割り勘にできるというメリットもあります。
そして何より、刷新後のシステムが実現できるゴールをしっかりとイメージし、共有することで道に迷うことなく最短距離でDXを推進できるため、経営者やDXプロデューサーがきちんと先導しましょう。

ITベンダーとの新たな関係性の構築

DXという大きなシステム再構築や、昨今主流の開発手法となっているアジャイル開発にしっかりと合致した契約ガイドラインを締結できるよう、ITベンダーと協力体制を築いていきましょう。トラブル解決時の対応として、ADR(裁判外紛争解決手続)を活用することも手です。
また、これまでにないサービスを開発するなど、ITベンダーと共同でR&D の要素が強い開発を行う際には、「技術研究組合(産業技術に関する試験研究を協同して行うことを目的として、技術研究組合法に基づき設立された法人)」の活用検討も推奨されています。この技術研究組合は、研究内容に事業化の目処が立てば株式会社や合同会社へと改組できます。また逆に、複数の会社や技術研究組合に新設・分割することも可能です。さらにこの組織を解散し、組合員が研究成果を持ち帰って活用できるというメリットもあります。

DX人材の育成・確保

社内におけるDX人材の確保は、レガシーシステムのラン・ザ・ビジネスから人材を解放し、DX分野にシフトさせることで実現できるでしょう。また、DX人材を外部から採用したり、アジャイル開発・認定制度の導入によってDX人材の育成を行ったりすることも可能です。

もっとも大変なのは人と組織の問題

ここまではDX推進を妨げる外部要因を中心に解説してきましたが、組織内にも大きな要因があります。
DX推進に必要な人材(DX人材)は「プロデューサー」「ビジネスデザイナー」「アーキテクト」「データサイエンティスト」「UXデザイナー」「エンジニア」などが存在しますが、DX部門は業務部門を横断して動くことが多いことから管掌が難しく、さらに今挙げた役割の中には「組織(部門)や人に関する専門性を持った人材」が存在していません。
DX推進に必要なツールやシステム改修については、ITベンダーなど外部企業から助力を受けて推し進めることは可能です。しかしながら、デジタルで働き方やビジネスそのものを変えていくという困難なプロジェクトを達成するには、経営戦略と現場の業務を深く理解し、ツールや仕組みと人や業務をつなげていく、「組織のマネジメント」が重要になってきます。そして、外部企業からもたらされたテクノロジーと社内の人間とをつなげる、すなわち組織のカルチャーを変革していける人材は、日本国内ではまだまだ少ないというのが現状です。
ソフィアは、そんなDX推進の現場での組織風土改革の支援も行っています。どうぞお気軽にご相談ください。

まとめ

2018年の時点からDXレポートでこれだけリスクが指摘されており、コロナ禍のテレワーク普及によって企業のデジタル化の重要性が増しているにもかかわらず、企業のDX推進が進まない裏には、これだけ多くの原因があるわけです。どれも一朝一夕で解決できるものではないにせよ、2025年の崖は着々と迫っています。まずはDXレポートを熟読し、自社の課題とすべきことを把握した上で、変革に向けて戦略的に計画を立てていきましょう。

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