組織開発とは?人材開発との違いやその手法をご紹介

「組織開発」は、企業にとって必要不可欠な施策ながら、さまざまな解釈が存在していたり、類似する人材開発といった言葉と混同されていたりと、正しく認識されていない場合が多いものです。
本記事では、組織開発とその手法について詳細に解説していきます。

組織開発の概要

組織開発とはどのようなものであり、類似している概念とどこが異なるのか、その定義について解説します。

組織開発と人材開発の違い

組織開発は、その言葉どおり組織に対してアプローチ(開発)するものです。具体的には、組織の構成員、企業であれば社員同士の関係性を改善し、組織の活性化を図ることを目的とします。似た概念として「人材開発」があり、これは個人のスキルや知識を向上させるなど、人材に対してアプローチを行うことを目的としたものです。組織開発と人材開発では対象が異なりますが、組織のパフォーマンスは組織や職場と人材が相互に関係しながら発揮されるものであるため、両者を切り離して考えることはできません。
「組織開発の祖父」と呼ばれるクルト・レヴィン(Kurt Lewin 1890‐1947)は、人間の行動は「個人の内的な特性要因」と「個人の置かれた状況や環境」との相互作用によって決まるという「クルト・レヴィンの法則(場の理論)」を提唱しました。「個人の置かれた状況や環境」とは、企業で言えば雇用条件や職場環境、人間関係などにあたります。この学説からもわかるように、個人と組織のパフォーマンスを向上させるためには、人材開発と組織開発の両方が必要であり、個人のスキルや知識を向上させると同時に、組織の中で個人同士の関係性を深めていくことが重要なのです。

組織内で関係性を深めることが重要

では、組織内で関係性を深めることによって企業にどんな好影響がもたらされるのでしょうか。
まず、社員のエンゲージメントやロイヤルティ、モチベーションが高まります。これらは業務の生産性向上や効率化、離職率の低下、ひいてはブランドイメージアップなどにもつながります。また、関係性が深まると社員同士にシナジー(相乗効果)が生まれ、イノベーティブなアイディアの創出や現場の協働促進といったメリットにもつながるでしょう。
しかし、ここで注意しなければならないのは、「関係性」は目に見えるものだけではないということです。社員の活動や会話など可視化される部分は水面に出た氷山の一角であり、水面下には組織風土や暗黙の了解事項、忖度、周囲からは見えにくい社員同士の関係性やさまざまな感情といったものが隠れています。そして、言語化されず、可視化されていない関係性は、表向きはないものとされていても、確実に社員と組織のパフォーマンスに大きな影響を与えています。
つまり、組織の中の見えない関係性を可視化・共有化していく組織開発のプロセスの中には、組織の変革やイノベーションを推進していく要素が内蔵されているのです。

組織開発のフロー

社会科学者のジョージ・C・ホマンズは、著書の『ヒューマン・グループ』(The Human Group, 1950年)の中で、組織や集団の「活動や事象」(氷山の見える部分)は、構成する人の「感情」(氷山の見えない部分)と「相互作用」(氷山の見えない部分)が密接に絡み合って生成されていると言っています。組織開発では、この「感情」や「相互作用」に対してアプローチします。
組織開発のフローを簡単に説明すると以下の5つのステップがあります。

  1. 心理学・行動科学・組織論などの理論的バックボーンを持つさまざまな手法を用いて、見えない「感情」や「相互作用」を可視化する
  2. 1によって組織の現状(as is)を明らかにするのと並行して、目標とする「あるべき姿(to be)」を描き、現状とあるべき姿との間にあるギャップを埋めるためにどのような課題があるかを洗い出す
  3. 目に見えない感情や相互作用、関係性に着目しながら、課題解決に必要な施策を実行し、組織をあるべき姿へと近づけていく
  4. 効果を検証する
  5. ベストプラクティスを共有する

組織開発にはさまざまな手法が存在しますが、今回はその中でも代表的な「対話型組織開発」という手法を例に挙げて、組織開発のフローを解説します。

対話型組織開発とはその名のとおり、「対話」を通じて、組織内の個人が組織の課題に気付き、自ら変革を成し遂げられるように開発を行うというものです。ここでいう「対話」とは、「本音で話すこと、本音を聞くこと」を指します。これは、社員同士がお互いの仕事上のバックグラウンドやストーリー、価値観や感じていること、想いや理念を伝え、一方で相手の話を受容することです。その上で、組織としてありたい姿を全員で模索し、どうやったら始められるかを考え、自らで実践していくという極めて主体的な組織開発手法です。
対話型組織開発とよく対比される手法として「診断型組織開発」がありますが、これはあるべき組織の状態があらかじめ定義または合意されている場合や、対象組織の構成員の規模が大きいケースに、診断という枠組みを用いて組織に変化を起こすものです。診断型組織開発が、問題を細かく分析して原因を洗い出す「ロジカルシンキング」に基づいて実施されるのに対し、対話型組織開発では「システムシンキング」が重要です。システムシンキングとは、複雑に絡まり合った状況における事象のつながりや影響、因果関係、背景にある物事への理解を深め、根本的で本質的な問題解決に向けて打ち手を考える思考の枠組みです。

市場環境の変化が激しく、今日の勝ちパターンが明日の勝ちパターンとは限らない今日においては、組織のあるべき状態を客観的・分析的に描くことは非常に困難です。そのため、自分たちにとってのベストプラクティスやイノベーションはどのようなものなのか、組織の中の人が自ら創造する、対話型組織開発の必要性が増しているのです。

それでは、対話型組織開発の具体的なフローを以下に解説します。

現状の把握

組織開発を進めるためには、まず現状の把握が必要です。現状把握をする際には、過去をひも解いたり、適切な問いを立てて組織の中の個人の考えや思いを引き出すことで、組織内の現状の関係性や感情を共有し、現状認識に対する合意を形成していきます。この段階で重要なことは社員が胸襟を開いて語ることができる「場」をつくることです。
例えば、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)という対話型組織開発の手法では、2人一組でペアになって「これまでで最高の瞬間」を相互にインタビューし、相手の良い部分やなぜ最高だったのかなど、自分のことように全体へ他己紹介します(ハイポイント・インタビュー)。自分の長所や嬉しかった体験について、他の誰かがあたかもその人自身のことのように周囲に語るところを見る、という体験は、日常の中ではなかなか体験できるものではありません。インタビューされた人は、「相手(インタビューした人)に自分が受け入れられている」、と感じるのと同時に、「その場の全員に自分が受け入れられている」と感じます。参加者全員がこの体験をすることで、全員が「受け入れられている」と感じ、その場は参加者にとって心理的に安全な場となります。この安全性が担保された段階で、組織の現状に対する認識を共有していきます。

目標設定と課題設定

現状把握ができたところで、対話型組織開発の目標を設定します。これは、「理想の未来・組織としてありたい姿」や「組織が成したい事柄」をイメージするとよいでしょう。その後、現状と目標のギャップが明らかになったところで、現状の課題を抽出していきます。ここでいう課題とは、目標達成を阻害している要因に当たります。「理想とする状態に対してこういう問題があるために、現状はここまでの達成度になっている」という組み立て方をするとわかりやすいかもしれません。
課題の洗い出しができたら、それぞれの課題を解決するための施策を導き出していきます。対話型組織開発の手法においては、現状把握から課題の設定、課題の解決に向けた具体的な施策案が対話によって導き出されるよう、ファシリテーターが促していきます。

小規模範囲で実行

課題の解決に向けた施策案が具体的なプランへと落とし込めたら、まず小さな範囲から実行していきます。いきなり全社で行おうとすると、手が回らなかったり細かいところで綻びが生じたりして、施策が止まってしまうリスクが生じやすいためです。まずは職場内のチーム単位からスタートし、職能の部門単位、事業部単位、会社単位へと広げていくとよいでしょう。ここまでのプロセスで対話を重ねて変化したかに見えた組織や職場が、実行フェーズになって元に戻ってしまうことも少なくありません。組織開発的な介入は実行フェーズでも引き続き必要になります。

効果を検証

目標設定と同じくらい重要なのが効果の検証です。このような社内プロジェクトは「やったつもり」で終わりがちです。特に組織開発においては一時的に士気が上がってもそれを持続させることはとても難しく、しっかりと効果測定を行って成果を確認し、それを維持し、さらに向上させる打ち手を積み重ねていく必要があります。また、組織開発はその性質上、経営層に効果を報告することが求められるはずです。その際に効果を数字で可視化できると、経営層の理解を得やすいため、効果検証は怠らずに行いましょう。
なお、昨今ではデジタル上でのコミュニケーションが増え、リアルの場における人の行動をデータ化する技術も発達してきているため、今後はデジタル技術を活用することによってかなりの人間関係やコミュニケーションのデータで可視化でき、分析・活用できるようになっていくでしょう。

成功事例を社内に浸透

施策が成功したら、社内報や社内SNSなどを使って全社に共有していきます。これは、組織開発の有用性を社内に浸透させ、普段から対話が生まれる組織風土を醸成するためです。組織開発の理想は、あらたまった場だけでなく普段の会話の質も変化し、関係性が向上することにあります。そのためには成功事例を活用して社員全員を巻き込み、新たな会話を生み出していくことが重要です。

組織開発の手法

組織開発の手法は非常に多彩です。一般企業がノウハウを持っていることは少ないため、実際に行う際は組織開発コンサルティング会社などの専門家に任せた方が費用対効果は高いでしょう。ただし、組織開発コンサルタントはあくまで媒介者であり、組織開発の主体者にはならないことも覚えておいてください。介入する人間という立場上、どうしても踏み込めない部分、それによるジレンマも生じ得るため注意が必要です。
なお、専門家に依頼する際に、共通言語としていくつかの手法を知っておくと意思の疎通が円滑になるので、以下についてぜひ押さえておいてください。

アクション・ラーニング

アクション・ラーニングは、社員同士でグループを作り、社内外の現実に進行している問題・課題にそのグループ内で対処していき、その対処の過程で生じた行動やリフレクション(振り返り)を読み取ることで、組織の関係性を改善していこうとする手法です。
アクション・ラーニングのグループでは、組織内の上下関係にとらわれず、自由闊達な関係性の中で個々が自発的に発言し、企画し、実行できる雰囲気を作ります。こういった取り組みによって、自発性の促進や戦略立案のスピード化などが組織にもたらされます。

コーチング

コーチングというと個人対個人のイメージが強いかもしれません。組織開発の文脈におけるコーチングは、経営層の理念や想いに則して社員の行動やコミュニケーション、関係性を変容させ、組織全体にビジョンやミッションといった組織風土・組織文化を形成する要素を浸透させます。組織開発のコーチングは、社長や経営陣が会社の理想像を描いており、それを具現化するために組織を改革したいときに用いられる手法です。

ワールド・カフェ

ワールド・カフェも、やはり対話を基にした組織開発手法です。カフェのようなリラックスした雰囲気を作り、参加者を4~6人ずつに分けてテーブルごとに対話をします。また、一定時間が経過したあとにテーブルのメンバーは入れ替えて別のメンバーと対話することを繰り返し行います。少人数でグループを作るため1,000人以上でも実施できる点が特徴で、多くの人と密度の高い対話ができるメリットがあります。ただし大規模なワールド・カフェの場合はファシリテーターのスキルが求められるため、実施する際は専門会社に依頼するほうが望ましいでしょう。

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)

人は何かをなそうとするとき、まずは問題を設定し、その問題を起点にして何をやるかを検討していきます。これは、「できていない状態を見つける」、すなわち「自分(たち)の否定から入る」考え方と捉えることもできます。これをポジティブに転換し、「できている状態を見つける」「肯定から入る」プロセスに変えていこうというのがAIです。
まずは組織の強みを発見(Discover)し、なりたい理想(Dream)像を描きます。そしてその理想像を現実になるよう設計(Design)し、それがまるで定められたもの(Destiny)のように実行していくことで問題を解決するという手法です。これから組織を発展させようという気概や意欲を全社で持てるようになるため、モチベーションやエンゲージメントの向上には最適です。

上にあげた手法の例を見てわかるとおり、組織開発の手法やフレームは色々ありますが、大きく分けて「タスク」に関するものと「コミュニケーション(メンテナンスプロセス)」に関するものの2つがあります。
プロジェクトチームやコミュニティなど、いわゆる人が集まる「組織」には目的やなすべきことが存在します。これは総称するとタスクです。そして人が集まる組織には構成員同士に関係性が生まれます。これを総称するとコミュニケーションです。
組織を円滑に運営するためにタスクとコミュニケーションとの整合性をとる必要があります。そのために組織開発が必要になってくるのです。

まとめ

組織開発を成功させるには、組織の中の「人」の変容をさせる必要があります。そのためには、人材開発と異なり、能力ではなく価値観にアプローチすることがポイントです。能力開発と比べて価値観の変容は極めて難しく、ノウハウを持った専門家に相談したほうが失敗やリスクがありません。ただし、市場や技術の変化が激しい昨今においては、組織のタスクもコミュニケーションも短いスパンで移り変わっていきます。一時的に外部の力を借りることは必要ですが、同時に組織内にノウハウを蓄積していくことも大事です。
ソフィアは組織開発を得意とするコンサルティング会社であり、インターナルコミュニケーションの専門企業です。外部パートナーとして組織開発の支援を行うことも可能ですし、社内で組織開発を実践できるように人材のトレーニングやナレッジマネジメントのお手伝いをすることも可能です。組織開発をお考えの際はぜひお問い合わせください。

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