コミュニケーション部門が経営陣の重要な情報提供者となるには?―データドリブンでCOVID-19に対応した海外企業の事例

コロナ禍において多くの企業組織は「レジリエンス(回復力、しなやかな強さ)」に重点を置いて活動してきました。ステークホルダーの健康と安心、事業継続計画の実行、ITシステムの安定稼働、流動資産や信用リスクや資本の管理と財務の改善など、企業が対処すべきことは沢山あります。

かつて広報部など企業のコミュニケーション部門は、組織において利益を生み出さないコストセンターであるとみなされていました。しかし、ビジネスにおいて顧客や従業員をはじめとするステークホルダーのエンゲージメントが業績に与える大きな影響が明らかになってきている今日において、コミュニケーション部門の担う役割は経営においてより重要性を増しています。

今回は、南ア・ヨハネスブルグのMCCコンサルティング社CEOでグローバルコミュニケーションのスペシャリストであるダニエル・マンスロー氏によるIABCのWeb会員誌『Catalyst』への寄稿記事から、コミュニケーション部門が経営幹部に対する重要な情報提供者となるための条件について、事例を交えてご紹介します。

「戦略的な」コミュニケーション担当者とは

マンスロー氏は、「今日においてコミュニケーション担当者は、コミュニケーションをどのように企業の戦略に位置づけ、経営にインパクトを与えるべきか理解しておく必要がある」と述べています。
新型コロナウイルスの流行で企業が危機に直面する中、組織のコミュニケーションに関する以下の4つの事実が明らかになり、コミュニケーション担当者がこれらを主導するために必要なことも分かってきました。

  1. 世界は変化している。コミュニケーションは、従来のように組織の上から下へ流す(ウォーターフォール)のではなく、より機敏で柔軟(アジャイル)なアプローチに変える必要がある
  2. 事実に基づいてコミュニケーションの戦略や計画を立てるためには、データ主導でインサイトを得ることが重要
  3. 組織内での会社の方向性を語ったり、メッセージ発信したりする上で、マネジャー層はこれまで以上に重要な役割を果たす
  4. コミュニケーション部門が他のコーポレート部門(経営企画や経理・財務、人事、ITなど)と同様に企業経営に影響を与え、ステークホルダーがその専門性を認識したとき、コミュニケーション部門は経営戦略に関する情報の重要な提供者として認められる

4つ目のポイントを補足すると、コミュニケーション部門が経営戦略に関する情報の重要な提供者として認められるためには、戦略実行において世界の一流企業と比較評価するノウハウや、相応のスキルや能力を備えていることが求められます。また、コミュニケーション部門の戦略がインパクトをもたらしたことを目に見える形で証明する必要があるのです。

従業員の健康と安心を担う

COVID-19感染拡大の初期には「従業員の健康と安心」が、経営陣の対応すべき最優先事項となりました。困難な状況において従業員の経済的、肉体的、精神的健康をサポートすることは、企業の重要な役割であり、当然のことともいえます。従業員にとってメンタルヘルスへの影響が高まってきていることも明白だったため、組織は従業員を積極的にサポートする施策を確実に実施できるよう迅速に動きました。

また同時期に、企業の方針をステークホルダーに届ける最前線を担ったのはコミュニケーション部門でした。企業から重要なメッセージを発信すべきステークホルダーとしては、事業プロセス変更やリモートワークへの移行に関する指示やサポートを必要とする従業員、財務上の影響評価を気にしている投資家、または企業が感染対策や事業継続にどのように取り組んでいるか関心を持っている顧客などが存在していました。

なお、ここにおいて企業のコミュニケーションはその役割を強化し、2つの機能に分かれました。一方は、企業のリスクやコンプライアンス、企業倫理やビジネス推進などについてコーポレートの各部門から情報を得た上で、ステークホルダーへ自社のビジネスプランに関する十分な情報を提供し続けるコミュニケーション。他方は、さらに戦略的な経営課題に関する指針を経営陣へ提供するコミュニケーションです。 後者の指針は、将来に向けた新しい働き方を描く戦略的な事業計画へのインプットとして活用されました。

データドリブンの企業コミュニケーション戦略

マンスロー氏の記事では、とある多国籍複合企業の事例が紹介されています。この企業では組織のコミュニケーションチームが、COVID-19の感染拡大初期に人事部門、リスク管理部門と戦略的に連携し、全社の従業員に対する大規模なエンゲージメント調査を実施しました。この調査を通じて、従業員の健康と安心、コミュニケーション、リーダーシップ、マネージメント、リスク、在宅勤務、子育てなどの状況を把握したのです。

調査結果は、同社における健康経営の刷新に影響を与え、子育てプログラムの立ち上げや、在宅勤務とローテーション勤務計画に関する運用リスクの定義、潜在的な行動リスクへの注意喚起、コミュニケーションのシナリオ策定などに際して多くのインサイトをもたらしたといいます。

コミュニケーション部門の担当者にとって、この調査結果は大きな転換点でした。コミュニケーション部門が経営戦略を伝える立場になったことで、コミュニケーションと経営の重なり合う場が生まれたのです。そのことでコミュニケーション担当者は、会社の危機において(脇役ではなく)主導的な役割を果たし、(経営からの指示を待つのではなく)経営陣が対応すべき課題を定義するのを助ける立場となりました。

コミュニケーション部門がビジネスを語る

上記の例では、リアルタイムで取得した従業員の現状調査に基づいて、コミュニケーション部門が経営に関わるさまざまな戦略上の提言を行いました。これによって、経営戦略を現状のまま進めるべきか、部分的に変更すべきかを経営陣に知らせることができたのです。通常、こういったインサイトはコミュニケーション部門から得られるものではありません。しかし、成熟した組織では、コミュニケーション部門をよりビジネスの意思決定の中核に近いものとして位置付けています。

調査結果からは得られた戦略上の提言は次のとおりです。

従業員をサポートする

経済的な安心感を損なうことが、潜在的な行動リスクの発生原因であることをデータは示している。そのため、企業は、従業員の身体的および精神的な健康と安心をサポートするための施策を継続すべきである。

効果的にコミュニケーションを取る

従業員は、会社・経営陣・管理職から、即応的で共感的なコミュニケーションが提供されていると回答した。今後のコミュニケーションのシナリオは、これらの調査結果や、調査から得られたインサイトを元に定義する。

仕事の継続性を担保する

調査データからは、従業員は在宅勤務について不安を持っている一方で、従業員には回復力があり生産的であることも示された。ハイブリッドな働き方における今後の労務管理を考える上で、これらの調査結果が重要な鍵となる。

従業員のプレッシャーに対処する

データにおいては、会社全体および各市場で進行している他の戦略的プログラムと連携しながら、従業員が仕事のストレスと生産性のバランスを取るための要因を探った。

まとめ:コロナ禍で変わるコミュニケーション部門の役割

コロナ禍において私たちは特殊な環境にあり、ビジネスの推進にコミュニケーションが継続的かつ着実な影響を与えてきました。またコミュニケーション部門の担当者は、経営の意思決定に必要なステークホルダーの声を集める仕組みを提供することで、情報に基づいて将来の事業や経営の姿を描く機会を得ました。

企業における変化と意思決定のスピードは、業績に影響を及ぼします。そこにおいてコミュニケーション部門は、従業員に会社の変化についての情報を提供し続けるとともに、複雑に関連し合ったビジネス全体に新しい働き方を安全に導入し、その働き方に社員の賛同を得るべく、変化を主導する役割を果たしたのです。

今後、企業のコミュニケーション担当者が進むべき道は二つあります。一方は、ビジネスに関するデータやインサイトをもとに社内の議論を主導して、長期的な経営戦略につながる可能性のある意思決定をサポートし、それをステークホルダーへ効果的に伝えること。もう一方は、経営が会社組織をどのように導くかに基づいて従業員に方向性を示すとともに、戦術的なコミュニケーションに注力することです。

企業において経営戦略を担う部門は、意思決定と成果の創出に向けて、経営陣に戦略的情報とデータドリブンで得られたインサイトを提供します。コミュニケーション部門が経営陣の重要な情報提供者として認識されるには、こういった役割を担った上で、経営陣が対応すべき優先事項を提言することが必要なのです。

よくある質問
  • 経営陣にとってのコミュニケーション部門とは何ですか?
  • 従業員の現状調査に基づいて、コミュニケーション部門が経営に関わるさまざまな戦略上の提言をする役割を果たします。調査結果に基づき、健康経営の刷新に影響を与えたケースもあります。調査から浮かび上がる課題や潜在的なリスクへの注意喚起、コミュニケーションのシナリオ策定などに際して多くのインサイトをもたらしました。

  • これからのコミュニケーション部門の役割とは何ですか?
  • 企業のコミュニケーション担当者が進むべき道は二つあります。一方は、ビジネスに関するデータやインサイトをもとに社内の議論を主導して、長期的な経営戦略につながる可能性のある意思決定をサポートし、それをステークホルダーへ効果的に伝えること。もう一方は、経営が会社組織をどのように導くかに基づいて従業員に方向性を示すとともに、戦術的なコミュニケーションに注力することです。

  • データドリブンとは何ですか?
  • データドリブンとは、人事部門、リスク管理部門と戦略的に連携し、全社の従業員に対する大規模なエンゲージメント調査を実施しました。そのデータに基づいて判断・アクションする事です。

株式会社ソフィア

ビデオ・プロデューサー、コミュニケーション・コンサルタント

池田 勝彦

主にビデオ制作で撮影から編集までを担当しています。記事原稿も書いていますが、英語による取材・編集もやりますし、翻訳もできます。

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ビデオ・プロデューサー、コミュニケーション・コンサルタント

池田 勝彦

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