2021.02.01
従業員へのメッセージを効果的に配信するには―インターナルコミュニケーションを最適化するフレームワーク
目次
企業のインターナルコミュニケーション(社内広報)担当者にとって、「会社から発信するメッセージをいかに従業員に読んでもらい、反応してもらうか」ということは、メッセージ自体の作成よりも難しい問題です。コロナ禍において、企業のインターナルコミュニケーションはこれまで以上に重要度を増しています。しかし、そのメッセージを従業員に届けることはますます難しくなっていると、SnapComms社のマネージャー、フィリップ・ナン氏はIABCのWeb会員誌『Catalyst』への寄稿で指摘しています。今回は、ナン氏が提唱する戦略的フレームワークを紹介します。
増え続けるメッセージが業務効率を低下させている
デジタルツールの普及などを背景に、企業から従業員へのメッセージ発信はかつてよりも容易になり、メッセージの配信量が増加しています。一方で、必ずしもメッセージの目的や内容に合った手段で発信されているとは限らないのが実状です。
複数の部門が同じチャネル(例、eメール、イントラネットの掲示板など)を介してそれぞれメッセージを広く配信していると、情報がガラクタの山となり従業員は混乱します。自分に関連性が低いメッセージが仕事中に絶え間なく流れてくるので、それを受け取る側は気が散って、イライラします。情報過多が生産性を損なっているのです。
より効果的なコミュニケーションを構築するには、メッセージを受け取る従業員の心理を理解することが有効ですが、それだけでは十分ではありません。確実に従業員が読んで、反応してもらえる伝え方でメッセージを配信することが必要です。 そこで役に立つのが、今回ご紹介する「コミュニケーション・スペクトラム」フレームワークです。
コミュニケーションを成功に導く方法を図表化する
ちゃんとフレームワークを活用して戦略的なメッセージ配信を行っているインターナルコミュニケーション担当者は多くはありません。メッセージを配信しても期待したような結果が得られず、成果を出すために試行錯誤が必要になるのはそのためです。
コミュニケーション・スペクトラムは、経営上の目的に沿って最適な形でメッセージを配信するためものであり、コミュニケーション、心理学、マネジメントのベストプラクティスを組み合わせた、企業におけるインターナルコミュニケーション計画に統合可能なフレームワークです。コミュニケーションの目的と、発信するメッセージ、使用するチャネルを結び付けて定義し、実行することで、コミュニケーションを成功に導きます。
コミュニケーション・スペクトラムは大きく3つの階層に分割されており、各階層は経営上の意思決定とコミュニケーションのステップをあらわしています。上段では経営上の目的が定義され、そこから中段にあるコミュニケーションのニーズが導き出されます。下段で目的とニーズに適した情報発信チャネルが選択され、それに応じて担当者が情報発信を行います。
では、順を追ってこのフレームワークの使用方法をご紹介します。
※図はすべてIABCのWeb会員誌『Catalyst』より引用
ステップ1: 経営上の目的
まず、コミュニケーションの目的がどこに位置するかを、上段で決定します。ここでは、重要度が高いものほど左側に、それほど重要でないもの(またはソーシャル目的)は右側に配置します。それぞれの枠ではコミュニケーションの目的(仕事との関連性)を定義付け、そのコミュニケーションによって引き出したい従業員の反応を明記します。
たとえば、「CRITICAL(重大)」は、スタッフが直ちにメッセージを読んで行動する必要がある緊急または切迫したコミュニケーションを指します。「PRIORITY(優先)」は、従業員が可能な限りすぐに読まなければならない、時間が重要となるコミュニケーションを指します。
ステップ2: コミュニケーションのニーズ
次に、これから行おうとしているコミュニケーションがどのような種類のものかを中段で特定します。ここには、特定の部署で発生するコミュニケーション事例や、複数の部署に共通して発生する、社員とのコミュニケーションを必要とする場面の例を挙げ、上段で定義したコミュニケーションの目的と下段で定義するコミュニケーションのチャネルを結びつけます。
コミュニケーション事例としては、たとえば、経営陣からの危機コミュニケーション、IT部門からのシステム停止通告、人事部門からの研修や能力開発の取り組み通知などが挙げられます。
これらの事例は、業界(患者の治療看護が焦点となるヘルスケアなど)やビジネスのタイプ(従業員が主に大きな共有スペースで働く製造業など)で異なってくる場合があります。
ステップ3: チャネル選択
最後に、目的と事例に最適なコミュニケーションチャネルを、下段で特定します。より強力なプッシュ型チャネルでは、即座に、かつ幅広く従業員の注目を集める、インパクトの強い手法を用います。また、それほど押し付けがましくないチャネルでは、持続的な行動変化を達成するために巧妙な手法を用います。
従業員に直ちに行動を起こしてほしければ、絶対に相手が見逃すことのない手法で配信し、従業員の知識や行動を改善することを目的とするなら、継続的に新しい情報を発信する方法で知識や行動を強化していきます。引き出したい従業員の反応に最も適した手法でコミュニケーションを行うことで、確実にメッセージを届けることができるのです。
「従業員が読みたくなるメッセージ」を作成しよう
「コミュニケーション・スペクトラム」フレームワークに従うと、推測による作業がなくなるため、より有効なメッセージ発信が可能になります。他の部門から送信されたメッセージと張り合うことなく、正しい方法で正しいチャネルを通じて適切な書き方でメッセージを配信する能力が得られるのです。
次は、従業員の心理と情報の受け入れ方を踏まえたコンテンツをまとめていきましょう。下に挙げた、よくある職場の事例を参考にしながら、実践してみてください。
例1:職場の安全に関するメッセージ
従業員の安全が脅かされる場合、すべての従業員を直ちに避難させる必要があります。これはスタッフが直ちに読まなければならない重要なメッセージなので、確実に読者の目に留まり、確実に読んでもらう必要があります。メッセージは、深刻さと対応の緊急性が伝わるように作成しなければなりません。
例 2: 従業員のコンプライアンスに関するメッセージ
職場に新しいソフトウェアツールを導入する際には、関連するポリシーやガイドラインを従業員全員が遵守する必要があります。これは、従業員が当日中に読むべき重要なメッセージなので、100%読んでもらえることが確実なチャネルを使用しなければなりません。こういったメッセージは専用の様式で発信し、従業員の承認を義務付ける必要があります。
例 3: 新入社員の受け入れに関するメッセージ
新入社員がチームに加わるときには、職場のスタッフ全員がそのことを認識し、歓迎する環境を作り出す必要があります。読めるときに読んでもらって協力を仰ぐ、こういったタイプのメッセージは、エンゲージメントを促すチャネルで発信する必要があります。メッセージには目立つ写真を添え、インタラクティブなソーシャルメディア型の反応ができる手段を用いるのがよいでしょう。
これらとすべて同じ手順で、あらゆる目的を持ったメッセージに対応できます。サイバーセキュリティ攻撃またはデータ漏洩は、優先メッセージ (オレンジ色の列) です。リーダーシップ・コミュニケーションはビジネスに関連するメッセージ(濃い青色の列)です。スタッフから職場の文化に関するフィードバックを募るのは、エンゲージメントを促すメッセージです(水色の列)。
今日の職場において、集中力を削がれるような要素や、従業員のニーズと対立するような要素は、経営上の脅威となります。効果のないコミュニケーションは従業員を苛立たせ、生産性を低下させ、全体のパフォーマンスを低下させるのです。
コミュニケーション・スペクトラムは、企業においてインターナルコミュニケーションを担当する部門が成果を出すための、戦略的フレームワークです。経営上の目的とメッセージ配信を合致させることで、あなたのコミュニケーションを成功に導くための強力なツールを、ぜひ活用してみてください。
関連事例
よくある質問
- インターナルコミュニケーションとは何ですか?
社内やグループ会社内など、同一の組織内における広報活動のことです。「社内広報」や「インナーコミュニケーション」とも呼ばれ、社内報や社内セミナー、対話集会などを通して、社内におけるコミュニケーションを活性化する活動全般を指します。
こうした活動は、組織の価値観や文化に対する社員の知識・理解を深めることにつながります。会社のビジョンを外部に向けて主体的に発信することのできる社員を育成し、組織全体を良い方向へと導く取り組みとして、インターナルコミュニケーションが行われます。
- 業務効率を低下させている原因は何ですか?
メッセージ発信はかつてよりも容易になり、メッセージの配信量が増加しています。一方で、必ずしもメッセージの目的や内容に合った手段で発信されているとは限らないのが実状です。
複数の部門が同じチャネル(例、eメール、イントラネットの掲示板など)を介してそれぞれメッセージを広く配信していると、情報がガラクタの山となり従業員は混乱します。
株式会社ソフィア
ビデオ・プロデューサー、コミュニケーション・コンサルタント
池田 勝彦
主にビデオ制作で撮影から編集までを担当しています。記事原稿も書いていますが、英語による取材・編集もやりますし、翻訳もできます。
株式会社ソフィア
ビデオ・プロデューサー、コミュニケーション・コンサルタント
池田 勝彦
主にビデオ制作で撮影から編集までを担当しています。記事原稿も書いていますが、英語による取材・編集もやりますし、翻訳もできます。