サステナブル・SDGs

SDGコンパスとは?SDGs経営に欠かせない5つのステップと導入の壁【2025年最新】

最終更新日:2026.03.10

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近年、企業の持続可能性(サステナビリティ)への取り組みは、単なる社会貢献活動の枠を超え、経営戦略の中核を担う重要課題となっています。世界各国で環境保全や人権尊重といったグローバルな課題への要請が強まる中、「SDGs(持続可能な開発目標)」を羅針盤として経営に取り入れようとする動きが加速しています。しかし、多くの経営者や推進担当者は「何から始めればよいかわからない」「本業とどう結びつければよいか悩んでいる」といった課題に直面しているのではないでしょうか。

SDGs経営をスムーズに始め、かつ実効性のあるものにするための世界的な標準ガイドラインが「SDGコンパス(SDG Compass)」です。本記事では、SDGコンパスの概要から、実践に不可欠な5つのステップ、そして多くの企業が直面する「社内浸透」の壁について、弊社ソフィアが実施した最新の「インターナルコミュニケーション実態調査2024」のデータを交えながら、実践的な解決策とともに徹底解説していきます。

SDGコンパスとは

SDGコンパスとは、企業の経営戦略にSDGsを統合させるための指針です。

SDGsという言葉はメディアでも頻繁に取り上げられ、一般的になりつつありますが、「SDGコンパス」という名称には馴染みがない方も多いかもしれません。正式名称は『SDG Compass:SDGsの企業行動指針—SDGsを企業はどう活用するか—』と言います。これは、SDGsが国連で採択された直後の2015年に、以下の3つの国際的な組織によって共同で作成・発表されました。

GRI(Global Reporting Initiative):オランダに本部を置く、サステナビリティ報告の国際基準(GRIスタンダード)を策定する国際NGOです。企業のESG情報の開示において世界的なデファクトスタンダードとなっています。

UNGC(国連グローバル・コンパクト):コフィ・アナン元国連事務総長の提唱により発足した、各国の企業・団体が署名する、国連の持続可能な成長のための自発的な取り組みの枠組みです。人権、労働、環境、腐敗防止の4分野10原則を掲げています。

WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議):持続可能な開発を推進する世界的な企業連合であり、ビジネス界の声を代表してサステナビリティへの移行を主導しています。

このガイドは、大企業や多国籍企業を主な対象として作成されましたが、中小企業やその他の組織にとっても、自社の活動をSDGsに紐づけ、貢献度を可視化するための非常に有用なツールとして活用されています。世界中の企業からのフィードバックを基に開発されており、SDGsを「慈善活動」ではなく「ビジネスチャンス」として捉え直し、経営戦略の中核に据えるための羅針盤(コンパス)の役割を果たします。

SDGコンパスの最大の特徴は、SDGsの17の目標を単にリストアップするのではなく、企業がどのようにしてそれらを「自分ごと」として捉え、具体的なアクションプランに落とし込むかという「プロセス」を提示している点にあります。これにより、企業は抽象的な目標を、測定可能で管理可能な経営指標へと変換することが可能になります。

SDGsに沿った経営を行うことが重要視されてきている現在、多くの企業がSDGsへの取り組みに関心を抱いていますが、経営に取り込む方法がわからないと悩んでいる企業も少なくないのではないでしょうか。

そんな企業にとって頼れる指針となるのが、SDGコンパスなのです。SDGコンパスに示された5つのステップをたどることで、SDGsに貢献した経営を始めるきっかけとなります。SDGs戦略の進捗を管理し貢献を可視化するために、SDGコンパスを活用してみてはいかがでしょうか。

なぜ企業経営にSDGsが重要なのか

SDGコンパスの詳細を説明する前に、まずは企業経営にとってSDGsが重要とされる理由を解説します。

SDGsの概要

SDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)は、2030年までに達成すべき目標として2015年に国連サミットで採択された国際的な指標です。貧困や男女格差、環境汚染といった地球規模の様々な問題について、17のゴールと169のターゲットが設定されました。

誰一人取り残さないよりよい地球を目指して持続可能な社会を築くことをビジョンに多様な課題の解決を目指すSDGsは、世界中から注目されています。平たく言うと、地球の限界を超えることなく持続的な成長を進めるための、国際社会共通の目標なのです。

SDGsの前身には「MDGs(ミレニアム開発目標)」がありましたが、これは主に途上国の課題解決(貧困削減や感染症対策など)を目的としており、先進国の役割は主に支援者としての立ち位置でした。対照的に、SDGsは先進国を含むすべての国と地域、そして民間企業を含むあらゆるステークホルダーが当事者として取り組むべき普遍的な目標として設定されています。

17のゴールは「経済」「社会」「環境」の3つの側面を不可分なものとして統合しています。これは「トリプルボトムライン」の考え方に基づいており、経済成長だけを追求しても、社会的不平等や環境破壊が進めば持続可能ではないという認識が根底にあります。企業活動においても、利益(経済)だけでなく、従業員や地域社会(社会)、そして自然資本(環境)への配慮が求められるようになった背景には、この国際的な合意があるのです。

企業がSDGsに取り組むべき理由

SDGsは国際機関や政府が主体となって取り組むものだと考えている人もいるかもしれませんが、そうではありません。地球規模の課題を解決するためには、行政やNPOなどの各種団体、企業、そして個人など、地球上のすべてのステークホルダーがそれぞれ役割を果たすことが求められるからです。

そのため、企業もSDGsに貢献することが期待されています。

SDGsの推進に貢献することで持続可能な社会の実現に寄与できるのはもちろんですが、企業がSDGsに取り組むことにはほかにもさまざまなメリットがあります。

例えば、企業価値の向上です。世界中の多くの人がSDGsに関心を持つ今、SDGsを重視する企業はそうでない企業よりも高い評価を得ることができます。逆に言えば、持続可能性を無視したビジネスを続ける企業は、企業の評判を悪化させるリスクがあるといえるでしょう。

特に近年は、投資家が企業の「財務情報」だけでなく、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の要素を重視して投資先を選別する「ESG投資」が主流となっています。世界の投資資金の流れは大きく変化しており、SDGsへの取り組みはESG評価に直結し、資金調達の面でも有利に働きます。

一方で、サプライチェーン上で人権侵害(強制労働や児童労働など)や環境破壊に関与していると見なされれば、投資引き上げ(ダイベストメント)や不買運動のリスクに直面することになります。これは「レピュテーションリスク」の管理という観点からも、企業防衛上の必須事項となっています。さらに、ミレニアル世代やZ世代を中心とした若手人材は、就職先を選ぶ際に企業の社会的意義(パーパス)やサステナビリティへの姿勢を重視する傾向があり、優秀な人材の確保という面でもSDGsへの取り組みは不可欠です。

また、SDGsに沿ってビジネスモデルの転換を図ることは、実は企業利益が増大するチャンスでもあります。自然環境や地域社会、働く人々などに大きな負荷をかけて利益を得るような従来型のビジネスモデルは、すでに社会から許容されなくなってきています。その反面、環境や社会と親和性の高い新たなビジネスに転換できる企業は、これからの世の中を先導していくことになるでしょう。長期的にみると、SDGsへの貢献が企業の成長戦略にもなるのです。

現代社会の企業経営においては、SDGsを意識しながら新たなビジネスチャンスを創出することが求められています。ビジネスと持続可能な開発委員会(BSDC)の報告によれば、SDGsの達成は年間12兆ドル以上の市場機会を生み出すと推計されています。これは、SDGsが単なるコスト要因ではなく、イノベーションの源泉であることを示唆しているのではないでしょうか。

SDGs推進を阻む障壁

企業経営におけるSDGsの重要性についてはおわかりいただけたのではないでしょうか。しかし、企業が本格的にSDGsの推進をするうえではさまざまな課題があるのも事実です。どのような障壁があるのでしょうか。

まず第一に、SDGsを推進する上での社内コミュニケーションのあり方には注意が必要です。SDGsの推進には社内全体の理解が必要ですが、経営層と現場の従業員との間で円滑なコミュニケーションができていないことも多いようです。経営層がSDGsの対応方針を定めても、それが従業員に伝わっていなければ、企業全体で取り組んでいるとは言えません。SDGs活動を上辺だけのものにしないためには、社内できちんと対話を行い全社員の共感を生み出すことが大切です。

また、SDGsがCSR(企業の社会的責任)活動と混同されてしまい、取り組みが進まないこともあります。CSRは社会貢献活動に近い性質のものですが、SDGsは事業の一環としてビジネスモデルに組み込まれるべきものであり、SDGsに即した経営を進めるためにその理解は欠かせません。しかし、コミュニケーションや社内教育の不足から、SDGsに対する従業員の理解が追い付いていないために、関係部署の社員以外にはかかわりのないことだと勘違いされてしまうことがあるのです。

さらに、そもそも経営層がSDGsの本質を理解できていない、ということもあります。注目を集めているトピックだからという理由でSDGsに手を出してみたものの、具体的な問題意識があるわけではないために担当部署に丸投げしてしまう、というようなケースです。まずは、経営層が正しくSDGsの理念を理解できていなければいけません。SDGsに効果的に取り組むためには、全社的なコミットメントが必要なのです。

たとえ上記のような課題をクリアし、SDGsに寄与した経営を行っていても、適切な情報発信ができていなければ外部の人々には伝わりません。発信力が低いせいでSDGsへの貢献を評価されないのは大変残念なことです。SDGsを意識した経営に舵を切る際には、対外的なコミュニケーションの方針もあわせて検討する必要があります。

ここで、企業におけるコミュニケーションの実態を示す衝撃的なデータがあります。弊社ソフィアが実施した「インターナルコミュニケーション実態調査2024」によると、会社の戦略や方針に対して「共感している」と回答した従業員は、わずか1割(約10%)に過ぎないことが明らかになりました。

インターナルコミュニケーション実態調査2024(弊社ソフィア調べ)

調査項目:戦略への共感度 結果・実態:社員の約1割しか会社の方針や戦略に共感していない

課題の深刻度:非常に高い。経営層の想いが現場に届いていない。

調査項目:1on1ミーティング 結果・実態:社内施策としての実施率はNo.1だが、「効果がない施策」としても上位に挙がる

課題の深刻度:高い。形式的な実施にとどまり、質の高い対話が行われていない。

調査項目:情報共有の課題 結果・実態:必要な情報が「ない・遅い・見つからない」という三重苦の状態 課題の深刻度:中〜高い。情報のアクセシビリティが低く、業務効率を阻害している。

このデータは、多くの企業において、経営層が発信するSDGs戦略やサステナビリティ方針が、現場の社員にはほとんど「自分ごと」として響いていない現実を浮き彫りにしています。多くの企業で導入されている「1on1ミーティング」も、形骸化し、本来の目的である「対話を通じた相互理解」や「エンゲージメント向上」に寄与していない可能性があります。換言すれば、この「共感の欠如」こそが、SDGs推進における最大の障壁の一つと言えるでしょう。

CSRとの混同と理解不足

また、SDGsがCSR(企業の社会的責任)活動と混同されてしまい、取り組みが進まないこともあります。CSRは社会貢献活動に近い性質のものですが、SDGsは事業の一環としてビジネスモデルに組み込まれるべきものであり、SDGsに即した経営を進めるためにその理解は欠かせません。

具体的には、CSR(Corporate Social Responsibility)は、従来「本業で得た利益の一部を社会に還元する」というフィランソロピー(慈善活動)的な側面が強く意識されてきました。それに対して、SDGs経営において求められるのは「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」に近い考え方です。つまり、社会課題の解決自体をビジネスの目的とし、それによって経済的価値も生み出すというアプローチです。

しかし、コミュニケーションや社内教育の不足から、SDGsに対する従業員の理解が追い付いていないために、関係部署の社員以外にはかかわりのないことだと勘違いされてしまうことがあるのです。

さらに、そもそも経営層がSDGsの本質を理解できていない、ということもあります。注目を集めているトピックだからという理由でSDGsに手を出してみたものの、具体的な問題意識があるわけではないために担当部署に丸投げしてしまう、というようなケースです。まずは、経営層が正しくSDGsの理念を理解できていなければいけません。SDGsに効果的に取り組むためには、全社的なコミットメントが必要なのです。

情報発信力の不足

たとえ上記のような課題をクリアし、SDGsに寄与した経営を行っていても、適切な情報発信ができていなければ外部の人々には伝わりません。発信力が低いせいでSDGsへの貢献を評価されないのは大変残念なことです。SDGsを意識した経営に舵を切る際には、対外的なコミュニケーションの方針もあわせて検討する必要があるでしょう。

SDGコンパスのステップ

ここまで、SDGs推進における障壁についてご説明してきました。では、これらの障壁を乗り越えるためには、どのような方法があるのでしょうか。

上記のような障壁を見ていくと、経営にSDGsを組み込むのは難しそうだと尻込みしてしまう人も出てくるかもしれません。けれど、あまり心配しすぎる必要はありません。SDGコンパスの5つのステップを順にたどっていくことで、企業活動にSDGsを取り込むことができるからです。SDGコンパスを詳しくみていきましょう。

SDGコンパスは以下の5つのステップで構成されています。これらは一度きりのプロセスではなく、PDCAサイクルのように継続的に回していくことが推奨されています。

  1. SDGsを理解する
  2. 優先課題を決定する
  3. 目標を設定する
  4. 経営へ統合する
  5. 報告とコミュニケーションを行う

SDGsを理解する

まず1つめのステップは、SDGsを理解することです。先ほどお伝えしたとおり、SDGsの理念を正しく知ることが非常に重要です。具体的な行動を起こす前に、まずはSDGsについて学び、企業がSDGsに取り組むことにはどのような意味があるのかを把握しましょう。

SDGsには17のゴールがあり、それぞれ世界の喫緊の課題に対応しています。地球上の解決すべき課題はどういったことなのか、ビジネスには何が求められているのか、といった観点から、まずはSDGsの概要を学ぶとよいでしょう。

この段階で重要なのは、「17のゴール」だけでなく、その下に紐づく「169のターゲット」まで目を通すことです。ゴールだけを見ると抽象的ですが、ターゲットには具体的な数値や方向性が示されています。

例えば、ゴール8「働きがいも経済成長も」の下には、ターゲット8.7「強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終わらせる」や、ターゲット8.8「労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する」といった具体的な項目があります。これらを知ることで、自社の事業活動が具体的にどのターゲットに関連しているかを把握することができます。

そして、自社の経営理念と照らし合わせ、SDGsは企業活動をするうえでどのような意味を持つのかということを自社なりに解釈してみるのが大切です。経営層や推進担当者が、なぜ今自社がSDGsに取り組むのか、その「Why(目的)」を明確にし、言語化しておくことが、後のステップでの社内浸透の成否を分けます。単なる流行への追随ではなく、自社のDNA(企業理念や創業の精神)とSDGsの接点を見つける作業が重要です。

ここで、他社の取組事例を参考にすることもあるかもしれません。先行事例を知ることももちろん大切ですが、SDGsを表面的にしか理解せず他社の模倣となってしまうのは失敗のもとです。2030年の目標達成に向かっていくためには、今からSDGsを活用した長期経営計画やビジョンを掲げ、それに向けた取り組みを開始する必要があります。SDGsの価値観を整理し、自社ならではの取り組み方針を検討していきましょう。

優先課題を決定する

SDGsについての理解が進んだら、次は自社の優先課題を決定します。

SDGsでは17のゴールに対してそれぞれ複数のターゲットがあり、合計169のターゲットが設定されていますが、必ずしも1企業がそのすべてに対処できるわけではありません。まずは特に自社に関連のある項目をいくつかピックアップするとよいでしょう。

このステップでSDGコンパスが推奨している重要な手法が「バリューチェーン・マッピング」です。これは、原材料の調達から製造、物流、販売、使用、そして廃棄に至るまでの事業活動全体(バリューチェーン)を洗い出し、それぞれの段階でSDGsに対してどのような「プラスの影響」と「マイナスの影響」を与えているかを特定する作業です。

多くの企業は、自社の直接的な操業(Scope 1, 2)における環境負荷や労働問題には目を向けますが、上流のサプライヤーや下流の製品使用時(Scope 3)における影響を見落としがちです。SDGコンパスは、バリューチェーン全体を俯瞰し、影響が最も大きい領域を特定することを求めています。

事業内容をあらためて振り返ったり、サプライチェーンをブレイクダウンしたりすることで、適切なターゲットが見つかるはずです。例えば、製造過程で多くの二酸化炭素を排出してしまう場合は、技術の導入などで二酸化炭素を削減することで環境配慮を進めることができるかもしれません。あるいは、誰もが働きやすい環境を整えるために、海外のパートナー工場における労働環境を見直す取り組みを進めることも考えられるでしょう。

このように、現在の事業活動の中でSDGsの価値観と照らし合わせてより良くしていくべき点を洗い出してみます。その中で特に事業と関連の深い点や社会的な関心の高い点を検討し、優先して取り組むべき分野を決定しましょう。

この優先順位付けのプロセスでは、「マテリアリティ(重要課題)分析」がよく行われます。具体的には、縦軸に「ステークホルダーにとっての重要度(社会への影響度)」、横軸に「自社のビジネスにとっての重要度(事業への影響度)」をとったマトリクスを作成し、双方が高い領域にある課題を最優先事項(マテリアリティ)として特定します。これにより、限られたリソースを最も効果的な領域に集中させることが可能になります。

目標を設定する

優先すべき課題を決定したら、次は具体的な目標を設定していきます。

SDGsでは、17のゴールをブレイクダウンした169のターゲットについて具体的な数値目標が定められています。目標が具体的であればあるほど、達成状況も可視化しやすいからです。この特徴にならい、SDGsに取り組む企業も選定した優先課題に対して具体的な目標値を設定していきましょう。

KPI(主要業績評価指標)を定めたり、期限を明確化したりすることが、短期的・中期的な道しるべにつながります。同時に、より良い未来に意欲的にコミットするという観点からは、長期的な指針の設定も大切です。

目標設定においてSDGコンパスが強く推奨しているのが、「アウトサイド・イン(Outside-In)」アプローチです。

インサイド・アウト(Inside-Out):過去の自社の実績や現在の延長線上をベースに、「昨年比○%改善」といった積み上げ式で目標を設定する方法です。これは実現可能性が高い反面、地球規模の課題解決に必要なレベルには到達しない可能性があります。

アウトサイド・イン(Outside-In):「世界(地球環境や社会)が何を必要としているか」という外部の科学的・社会的要請を起点に、そこから逆算(バックキャスティング)して自社が達成すべき野心的な目標を設定する方法です。

SDGs経営においては、このアウトサイド・インの発想で、現状の延長線上ではない高い目標を掲げることが求められます。例えば、気候変動対策における「SBT(Science Based Targets)」は、科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標であり、典型的なアウトサイド・インのアプローチです。

目標を設定するにあたっては、「経営業績にどのような影響を与えるのか」という視点も重要なポイントとなりますが、環境配慮に関する項目は、短期的には収益にネガティブな影響を与えることも考えられます。しかしSDGsへの貢献度が高まるものなのであれば、その項目は大切にすべきです。目標に設定することで、新たな商品の開発やイノベーションにつながる可能性も大いにあります。目先の事業収益だけを判断基準にするのは避け、広い視野で考えましょう。

経営へ統合する

優先課題について具体的な目標を設定することができたら、いよいよ、実際に経営に統合していくステップです。

ここでは、経営層のリーダーシップと社内に対するコミュニケーションが重要です。事業を進めるうえで、設定した目標がなぜ重要なのか、どのような価値を生み出すのかといった点を明確にし、組織としての共通の理解を形成しましょう。

この段階で部署や業務ごとにより具体的な目標値に落とし込み、それぞれが達成すべきことを明確化するのがポイントです。目標達成に貢献できるような業務はどの部署にもあるはずですが、取り組むべき事項が可視化されることによって従業員にも理解しやすくなり、組織全体としての推進につながるからです。

ただし、この段階で管理部門と現場での軋轢が生じやすいということも認識しておいてください。

SDGsを経営に統合する際、最も高いハードルとなるのが「社内浸透」です。前述の通り、弊社ソフィアの調査では「社員に戦略が響かない(共感わずか1割)」という深刻な実態が明らかになっています。経営層が立派なSDGs目標やパーパスを掲げても、現場社員にとっては「仕事が増えるだけ」「現場を知らない経営層の自己満足」と受け取られ、心理的な壁が生じることが多々あります。

また、同調査では「1on1ミーティング」が最も実施されている施策(実施率No.1)である一方で、「効果がない施策」としても上位に挙げられているという矛盾が指摘されています。これは、対話の「量」は確保されていても、その「質」が伴っていない、あるいは目的が共有されていないことを示唆しています。単なる業務報告や進捗確認の場になってしまい、SDGsやキャリア、働きがいといった深いテーマについての対話が行われていないのです。

SDGsを真に経営に統合するためには、単に目標を数値として通達するのではなく、以下の「三本柱」をバランスよく進める必要があります。

対話(Dialogue):一方的な通達ではなく、なぜそれに取り組むのかを現場レベルで腹落ちさせるための双方向のコミュニケーション。1on1の質的向上や、タウンホールミーティングでの率直な意見交換などが該当します。

教育(Education):SDGsの本質や自社との関わりを理解するためのリテラシー教育。eラーニングやワークショップを通じて、「なぜ自社がやるのか」を体系的に学ぶ機会の提供です。

ツール(Tools):社内報やイントラネット、社内SNSなどを活用し、経営の想いを継続的に伝え、現場の成功事例を共有する仕組みです。

「自分たちが稼いでいるんだ」というプライドがある現場の従業員にとって、コストや手間が増える施策は本部から降ってきた厄介事と認識され、反発が生じやすくなります。この壁を越えるには、SDGsへの取り組みがいかに自分たちの業務の価値を高め、社会に貢献し、ひいては企業の持続的な利益につながるかを実感できるようなストーリーの共有が不可欠です。

視点を変えれば、企業にとっての変革の好機はむしろこの段階です。自社にとってSDGsがどのような価値を持つのか、ということがステップ1でしっかり整理されているならば、次は社内での共感を生み出せるよう、適切なコミュニケーションを行って考え方を周知しましょう。共通の理解を形成していくことが、SDGsに沿ったイノベーション創出の可能性につながります。

また、より大きな成果を上げるためにはパートナーシップも重要です。取引先やステークホルダーとの間でも、同様の問題意識や理念を共有しましょう。自社単体でなく、サプライチェーンの全体で横断的・複合的にSDGsへの取り組みを行うことにより大きな意味があります。

報告とコミュニケーションを行う

経営にSDGsを統合し、具体的な取り組みを進め始めたら、定期的な報告やコミュニケーションがカギとなっていきます。政府やNPO、消費者といった多くのステークホルダーが、企業のSDGsへの取り組みに関心を払っている中、情報開示の要求も増えており、SDGsに関する取り組みを内外に報告する重要性はますます高まっているからです。

優先課題として目標を設定した項目に対して、進捗状況や達成度などを具体的に報告することで、自社がSDGsの文脈の中でどのように社会への責任を果たしているのかを発信しましょう。

報告の際には、国際的な基準である「GRIスタンダード」や「統合報告書(Integrated Reporting)」のフレームワークを活用することが推奨されます。SDGコンパスはGRIとの親和性が高く、各ゴールに関連する開示項目が整理されています。

また、良い結果だけでなく、課題や未達成の部分も含めて透明性を持って開示することが、ステークホルダーからの信頼獲得につながります。サステナビリティ・レポートや統合報告書、ウェブサイトなどを通じて、定量的・定性的な情報をバランスよく発信し、ステークホルダーとの対話のきっかけとすることが重要です。

多くの企業がすでにSDGsの活動報告書などを公表しているので、参考にできるはずです。効果的な報告により企業の評価や信頼度が高まり、新たな投資や協働につながる可能性もあるでしょう。

SDGsコンパスに沿ったSDGs推進を成功に導くポイント

ここまで、SDGコンパスの5つのステップを詳しく見てきました。このステップは決して直線的なものではなく、施策を進めながら前のステップに立ち返り、再検討しながら進めていっても問題ありません。トライアルアンドエラーを重ねて改善していきましょう。では、取り組みを成功に導くために特に大切なポイントにはどのようなものがあるでしょうか。ここで改めて整理してみます。

自社の経営理念や事業内容に合った活動を選ぶ

もっとも大切なポイントは、自社の経営理念や事業内容に沿った目標を選択するということです。

事業とは別枠で社会貢献活動をすることがSDGsの取り組みだと勘違いする人は少なくありませんが、そうではありません。新しい技術を取り入れたり商流を変えたりすることで持続可能なビジネスにつなげることが、本来のSDGsの理念に沿った取り組みです。本業の中でどのような取り組みができるのか、という視点を忘れないようにしましょう。

SDGsは地球上の多様な課題に焦点をあてているので、自社の理念や事業に合った目標が必ず見つかるはずです。そもそも日本企業には「三方良し」といった考え方が根付いていることも多く、SDGsとの親和性は高いのです。経営方針に沿ってさらなる取り組みを進めましょう。

社内コミュニケーションの重要性を認識する

前述のとおり、SDGsを推進するにあたってはコミュニケーションが重要なカギとなります。なかでも、もっとも重視すべきは社内コミュニケーションです。組織全体でコミットするためには、経営層だけでなくすべての従業員が正しくSDGsの価値観を理解し、それぞれの業務に落とし込んで取り組んでいかなければいけないからです。

弊社ソフィアの調査でも明らかになったように、戦略への共感不足は組織の実行力を著しく低下させます。「戦略共感1割」という現状を打破するためには、トップダウンのメッセージ発信だけでなく、従業員一人ひとりがSDGsを「自分ごと化」できるようなボトムアップの仕掛けが必要です。

例えば、SDGsに関連する社内表彰制度の導入、部門単位でのSDGsワークショップの開催、社内SNSでの成功事例の共有などが挙げられます。また、1on1ミーティングの質を高めるために、管理職向けのトレーニングを行い、部下のキャリアや想いと会社のSDGs戦略を接続できるような対話スキルを育成することも有効です。コミュニケーションの質的転換こそが、SDGs経営の実効性を高める鍵となるでしょう。

自社がSDGsを推進する目的は何なのか、どのような取り組みを行うのか、達成すべき目標は何か、といった情報を社内で共有し、全社的な共通認識を築きましょう。日々の仕事が社会の発展や地球への貢献につながっているのだという理解が広まれば、従業員のモチベーションも高まるはずです。自社が社会課題の解決のための一端を担っているのだという認識を共有するためにも、社内コミュニケーションが重要となります。

SDGsウォッシュを防ぐ

SDGsウォッシュとは、対外的にはSDGsに賛同しているように見せかけながら実態が伴っていないような状態を指します。例えば、自社商品をエコやサステナブルといったイメージで売り出しているにもかかわらず、実際の製造工程では高い環境負荷をかけていたら、SDGsウォッシュと批判されてしまうでしょう。

企業のイメージアップのために意図的にSDGsウォッシュを行うのは論外ですが、気を付けなければいけないのは、意図せずSDGsウォッシュとなってしまう事例です。一例として、自社工場では本当に環境保全のための取り組みを進めているのに、下請けの海外工場では有害物質を排出してしまっている、というようなケースがあります。サプライチェーンを適切に管理できていないために、このような状況が生じるのです。

自社の商流を把握してサプライチェーンを詳細に管理しなければ、SDGsウォッシュを防ぐことはできません。SDGsを推進する責任ある企業の姿勢としては、下請けや取引先の持続可能性にまで配慮し、サプライチェーンを適切にマネジメントすることが重要です。

まとめ

今後企業活動を進めるうえで、SDGsを避けて通ることはできません。経営にSDGs推進を導入する過程ではさまざまな障壁がありますが、SDGコンパスに沿って進めることでスムーズにSDGs経営に参入することができるはずです。グローバルな課題解決に貢献するため、さっそくSDGs経営を始めていきましょう。

まとめると、SDGs経営の成否は、戦略策定だけでなく、それを実行する「人」と「組織」の力にかかっています。弊社ソフィアの調査が示したように、戦略への共感がわずか1割という現状を直視し、それを打破するために全社員が熱意を持って取り組める環境を作ることが、持続可能な成長への最短ルートとなるでしょう。対話、教育、ツールを駆使した社内コミュニケーションの変革こそが、SDGs経営を成功に導くための隠れた、しかし最も重要なステップなのです。

よくある質問
  • SDGコンパスは中小企業でも使えますか?
  • はい、使えます。SDGコンパスはもともと大企業・多国籍企業向けに開発されましたが、その思考プロセスや5つのステップ(理解、優先順位付け、目標設定、統合、報告)は企業規模に関わらず適用可能です。サプライチェーンの一部を担う中小企業にとっても、取引先(大企業)からの要請に応え、新たなビジネスチャンスを獲得するために非常に有効なツールとなります。

  • SDGsに取り組むメリットは何ですか?
  • 主なメリットとして、「企業価値・ブランドイメージの向上」「新たなビジネス機会の創出」「優秀な人材の確保」「資金調達(ESG投資)の円滑化」「持続可能性の向上によるリスク回避」などが挙げられます。特に、社会課題解決を起点としたイノベーションは、飽和した市場における新たな競争優位の源泉となります。

  • 「SDGsウォッシュ」と言われないためにはどうすればよいですか?
  • 実態の伴わないアピールを避け、正直かつ透明性のある情報開示を行うことが重要です。良い面だけでなく、課題や未達成の目標についても率直に報告する姿勢が信頼を生みます。また、第三者機関による認証取得や、ステップ2で触れたバリューチェーン全体まで視野に入れた管理体制の構築も有効です。実態と乖離した過剰なPRは避け、ファクトに基づいたコミュニケーションを心がけましょう。

  • 社内浸透が進まない場合、まず何から始めるべきですか?
  • まずは現状の把握が必要です。弊社ソフィアの調査で示されたように、従業員の多くは会社の戦略に共感していない可能性があります。経営層からのトップメッセージの発信頻度を増やすだけでなく、現場レベルでの対話(タウンホールミーティングや質の高い1on1)の場を設け、従業員の声を聴くことから始めましょう。「なぜやるのか(Why)」を腹落ちさせるプロセスを経ずに、「何をやるか(What)」だけを押し付けても浸透は進みません。

株式会社ソフィア

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ソフィアさん

人と組織にかかわる「問題」「要因」「課題」「解決策」「バズワード」「経営テーマ」など多岐にわたる「事象」をインターナルコミュニケーションの視点から解釈し伝えてます。