コミュニケーション施策のROIを示す方法 世界のインターナルコミュニケーション最前線①

ソフィアの池田です。私は元NY在住で16年ほどテレビ報道の世界にいて、日本に向けて米国や海外の動向を報道していました。現在はソフィアでビデオ制作を中心とした企業向けのコミュニケーション支援を行いながら、グローバルなインターナルコミュケーション団体IABCの日本支部理事も務めています。これから、海外のインターナルコミュニケーション関連記事から、世界の潮流や新しいノウハウをご紹介していきます。


新型コロナウイルスによるパンデミックで、インターナルコミュニケーション担当者の役割が増していることは度々指摘されてきました。パンデミックは危機であると同時に、経営に認められるチャンスでもあるのです。経営に対するアドバイザーとしての力量が試されています。
ではどうしたら、経営陣にインターナルコミュニケーション担当者の価値を示す事ができるでしょうか。

経営を理解する上で大切な指標の一つがROI(Return on Investment)です。経営者は、誰でもROIを考えて経営判断をしています。これまで長い間、広報部は経営からコミュニケーションのROIを示すように求められながら、その答えを出せずにいるのが実情ではないでしょうか。

ROIは、1920年代にデュポンが財務指標として作成したビジネス用語「投資利益率」の略称です。これは、投資の利益から投資のコストを差し引き、それを投資のコストで割って、パーセントで表すことで計算されます。計算式は次のようになります。

ROI = (R – I)/(I)
ここでは R = 利益、 I = 投資コストです。

実際にどうやってコミュニケーションのROIを示すか。今回は、30年以上にわたり効果測定分野のパイオニアである、ケイティ・デラヘイ・ペイン氏がIABCのWeb会員誌 ‘Catalyst’に寄稿した “It’s Time to Reinvent How You Think About ROI”『ROIに対する考え方を新たに考案すべき時』と題した記事で示した「6つのステップ」を紹介します。

ちなみに、ペイン氏はまさに第一人者と言えるでしょう。米国の経済指標CCI(消費者信頼感指数)を毎月発表している非営利民間調査機関カンファレンスボードのマーケティング&コミュニケーションセンターのシニアフェローであり、そのPR測定研究所の創設者です。彼女の著書“Measure What Matters” (Wiley, March 2011) と “Measuring Public Relationships” (KDPaine & Partners, 2007)は、広報やソーシャルメディアの効果測定担当者の必読書となっています。

コミュニケーションで創出すべき価値は何か、経営陣と握る

最初のステップは、組織にとってコミュニケーションが提供する価値とは何なのか、経営陣から合意を得ることです。組織における価値は、効率性の向上やコスト削減まで、さまざまな形でもたらされます。経営陣がリターンとして期待するものは何か、合意に達しない限り、施策を実行するためのフレームワークすらないに等しいのです。

まずコミュニケーション活動の年間計画を作成し、戦略的な優先事項を明確にします。次に、上層部と話をして、計画目標が達成されて成功する場合にコミュニケーションがどんな価値を提供することになるのか、コンセンサスを得ます。
ほとんどの企業にとってコミュニケーションの価値は次のとおりです。

  • ブランド力の保護
  • ブランド価値の向上
  • ブランドロイヤルティの向上
  • 採用コストの削減
  • 人材プールを増やす
  • 株価を上げる
  • 法的費用の削減

経営陣がどのメリットに同意するかを確認してください。これらのメリットが2つ以上あれば、あなたの戦略的計画にゴーサインが出る可能性は十分にあります
一方で、ペイン氏は、経営陣が勘違いしていることもあると指摘します。多くのCEOが「‘成功’とはウォールストリートジャーナルの一面記事に取り上げられること」と考えています。しかし、それが実際にどのように組織に収入をもたらすのかあなたは強く問いかける必要がある、とペイン氏は言います。おそらく、紙面を飾ることと収益は別であるとし、実際収入をもたらすことはないでしょうと強調しています。

コミュニケーションの効果の効果指標を明確にする

次のステップは、チームメンバーを集めてブレインストーミングを行います。チームによる活動が企業の目標や優先事項にどのように貢献しているか、思うところについて話し合います。チームが毎日行う業務が企業目標の達成へどうつながっていくのか、道筋を定義します。

例えば、典型的な道筋は、適切なメッセージを含むコンテンツを作成することから始まるでしょう。そのコンテンツをどこかに投稿すると、ターゲットとするオーディエンスが何らかの反応をします。価値獲得への道筋を示すと次のようになります。

1. ソーシャルメディアなどに注目される高品質のコンテンツを投稿
2. メッセージが認知されエンゲージメントを促進
3. エンゲージメント増大により信頼を獲得
4. 信頼されることで離職率が減り、人材プールが増大
5. 採用コストの低下、ロイヤリティーの増大

ここで目標が「リード獲得」など営業活動に関連している場合、マーケティング部門や営業部門からの意見を取り入れ、その目標への道筋の要素と順序に対する合意を形成しておきます。また消費者調査部門や市場調査部門がある場合は、そこからも意見を得ておきます。
こうしたディスカッションを通じて、提案された測定指標のリストを作成します。これらの指標のことを、ペイン氏は「受け入れ可能なプロキシ(代わりの指標)」と呼んでいます。
例えば目標の 1 つが信頼と信用を築くことである場合、信頼を暗示する行動が測定指標となります。コンテンツの共有、イベントの推奨、ホワイトペーパーのダウンロードなど、オーディエンスがコンテンツを信頼できなければやらないことをすべて想像してみてください。
リードを獲得することが目標の場合は、Web 分析の履歴データを調べて、ユーザーが実際に詳細情報を求めたり営業からの電話連絡を欲しがるまでに、どのような道筋をたどるかを確認します。
発信する情報に関連する部署それぞれに、部署に固有な測定指標を定義づけします。そしてすべてのコンテンツに、広報、ソーシャルメディア、その他の部門など、どの部門がコンテンツを作成し、オーナーになっているのかを明記します。

コミュニケーションの成功を定義し、ベンチマークを設定する

次に測定指標を意味づけするためのベンチマークを決めます。コミュニケーション報告書を上層部とレビューする際に、経営陣から最もよく聞かれるのは、「それは結局どういう意味か?」という質問です。測定した結果の数値が目標達成までの文脈の中で説明されない限り、意味がないのです。結果の数値が何と比較されるかを確立しておく必要があります

経営陣全体の考え方として、「成功」が意味することは何でしょうか。競合に打ち勝つことと捉えているのか? 昨年あるいは四半期で比べて、結果の数値が改善することか? あるいは有料広告、直接販売、またはその他の取り組みと比べて、より多くの結果を生み出すことなのか? このようなベンチマークの対象を明確にしないと、指標の数値を文脈の中で説明することはできません。

効果測定に必要なデータを収集する

効果測定する上で必要なデータを集めることは、非常に重要です。通常、コミュニケーションの結果を示すためには、以下のうち 2 つか3つのデータが必要です。

1.オーディエンスが閲覧・再生しているもの。

すなわち、メディアコンテンツ分析で、人々が何を読んでいるか、見ているか、あるいは再生しているか、を確認します。

2.オーディエンスはどのように感じているか。

人はあなたのブランド、あるいはメッセージについてどう思っていますか? 通常、このデータは市場調査から取得されますが、ソーシャルリスニングデータで補足すると、人々がオンラインでどのように語っているかを確認することができます。

3.オーディエンスはどう反応しているか。

人々はウェブ(イントラ)やソーシャルメディア(社内SNS)上であなたのコンテンツにどのように反応していますか? このデータは、Web 分析、ソーシャル分析、または CRM システムから取得できます。

Cookie やログデータは、通常見えないデータにアクセスする最も簡単な方法です。情報システム部から協力を得られない場合は、最後の手段として欠損しているデータ部分を空白にしたままレポートを配信し、情報システム部が必要なデータを提供しないため、実際の結果を表示できないと経営陣に報告するといい、とペイン氏はアドバイスします。

なぜこの結果が出たのか?ストーリーが分かるまで分析する

次のステップは、収集したデータを分析します。まずあなたの目標に関連する指標のみを抽出し、他の指標は除外します。分析にあたっては、すべてのプログラム、施策、キャンペーン等がいつも同等な価値を生み出すわけではないことを忘れないでください。より優れた結果を生むものもあれば、まったく効果を発揮しないものもあります。素晴らしい結果を生むものであっても、その分コストを費やしたり、スタッフを疲弊させたりするかもしれません。
データを取得する際には、取得期間が同じであることを確認します。理想的には、週ごとに結果を分析すれば、その時点時点で、会社や部門で何が起きていたかを特定し関連づけることができます。
可能であれば、データ間の相関関係を分析します。たとえばポジティブなメディアコンテンツがWebダウンロードに影響を与えたかどうか、または特定のイベントが他のイベントよりもSNS上で大きなエンゲージメントを生み出したかどうかなどを判断します。
次に、目標への貢献度をランク付けします。すべてのキャンペーンを最悪から最高まで10段階で評価します。最悪のものに着目すれば、改善するためには何に集中すべきか推奨事項を特定するのに役立ちます。続いて、リソースに費やした価値を、費用だけでなく、スタッフの時間や士気への影響も考慮して10段階でそれぞれに記載します。正確である必要はありません、単に (1) 「楽勝」から(10)「悪夢のような最悪事態」というようなレベルのランキングで十分です。
チームを集めて、これらの結果について話し合います。なぜ一部のキャンペーンは他のものよりも高い価値を生み出したのか? 何が失敗の原因となったのか? 次回は何を違うようにやればいいのか? これらの疑問に対する回答は、ストーリーで語る報告書の基礎となります

経営陣を唸らせる報告書を作成する

経営陣は必ずしも良いニュースを望んでいるわけではありません。彼らは、自分が心配すべきことは何か、どうしてそのような結果になったのか、次回どのようにすれば改善するのかを知りたいのです
データを分析して、これらの質問に対する回答を見つけましょう。答えが得られたら、データを使用してあなたの結論を説明します。図表やグラフは、説明でよく用いられますが、それだけでは意味がありません。そのデータに関連して何をする必要があるのか、何を考える必要があるのか、それらが分かるストーリーがなければなりません。
経営陣の考えることは全員、基本的にはあなたと同じです、とペイン氏は指摘します。つまり、経営陣もより成功する組織、より効率的な組織であることを望んでいる、ということです。数字とグラフでしか報告しない人も中にはいますが、あなたがすべき分析は、その数字から何を学ぶべきか、ストーリーを彼らに伝えることなのです。

以上が、ケイティ・デラヘイ・ペイン氏が寄稿した、コミュニケーションのROIを示す「6つのステップ」です。コミュニケーション部門が経営から頼りにされるアドバイザーとして力量を発揮できるようになるために、ぜひ活用してみてください。

株式会社ソフィア

ビデオ・プロデューサー、コミュニケーション・コンサルタント

池田 勝彦

主にビデオ制作で撮影から編集までを担当しています。記事原稿も書いていますが、英語による取材・編集もやりますし、翻訳もできます。

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