世界的プロゲーマーに学ぶ これからの社会で生き残るための“努力”とは?
目次
しっかり成果を出してきたはずなのに、なぜかモヤモヤしている……
ぼくらはとかく「忙しい社会」で生きている。
合理性、生産性、効率性……昨今、嫌というほど耳にする言葉だ。実際、ぼく自身もそれらを強く意識しながら仕事をしてきた。先人たちの試行錯誤によって無駄が削ぎ落とされた手法やマニュアルで基本的なことを学び、世の中にあふれている便利なツールなどを活用してタスクをこなす。わからないことがあれば、本やネットからピンポイントで必要な情報を入手するなど、ひとりでステップアップしてきた部分が大きい。それが自分にとって最も効率的な方法だからだ。
そんな風に目の前のタスクを次々とこなし、それなりの成果も出してきた。でも、なぜだろうか。「このままでいいのか?」という漠然とした不安が湧き上がってくるのは。
世界の第一線でプロゲーマーとして活躍するときどさんの著書『世界一のプロゲーマーがやっている努力2.0』(ダイヤモンド社)を手に取ったのは、そんな風にモヤモヤし始めた頃だった。
ときどさんは「ストリートファイター」などの格闘ゲームでプレーをする、日本で2人目にデビューしたプロゲーマーだ。「合理化や効率化こそが勝利への近道」と徹底して勝つことにこだわり、世界中の猛者たちを倒してきた豪腕プレーヤーとして知られる。
ところがある時期からまったく勝てなくなってしまう。スランプから脱するためにさまざまな角度から徹底的に原因を分析した結果、それまでの努力1.0に基づく彼のスタイルは「理屈と手順を理解して、操作に習熟すれば誰でもコピーできるもの」であり、「いま勝てるだけのもの」だったと気づくのだ。
攻略法などの情報が容易に入手でき、猛スピードで絶え間なく変化するeスポーツ環境では、誰にも真似できない独自のスタイルを築かなければ、長期的に勝ち続けるプロゲーマーとして生き残ることは不可能だ。そう痛感した彼は、それまでのスタイルをかなぐり捨て、新たな手法へと変えた。
それが著書のタイトルにもなっている、ときど式「努力2.0」だ。
ときど式「努力2.0」は、非線形の「成長のプロセス」をしっかり踏んでいくことが大原則
「ゲーム」を「ビジネス」に置き換えて考えてみても、まったく同じことがいえるのではないか。
情報拡散スピードの加速やIT化による情報処理の高速化、AIによる自動処理領域の拡大……目まぐるしい速度で変化を続け、複雑さを増していくぼくらの社会。必死になって勉強しても新たな情報や技術が次々と生まれ、「最新」はあっという間に「少し前のもの」に変わってしまう。
そのようなビジネス環境で大切になるのは、想像力や創造力、発想力、変化に対する柔軟な思考力など、強い個の力が磨かれたプレーヤーだ。
eスポーツの世界でそんなプレーヤーであり続けるために、ときどさんが実践している努力2.0とはどのようなものか。本書『世界一のプロゲーマーがやっている努力2.0』で、特に大きなインパクトを受けたポイントを以下に絞ってみる。
ときど式努力1.0から努力2.0へ
1.合理的とは思えないことにこそ新たな学びがある
【努力1.0】結果だけにひたすら一直線で、勝つためには関係ない、無駄、遠回りと思えるようなことはすべて切り捨てる
【努力2.0】直接プレーに関係あるとは思えないようなことも、無駄と切り捨てず取り入れる
変化の激しいeスポーツの世界では、何が無関係で何が非効率的なのか「正解」はわからないし、昨日まで有効だったことが明日には無駄になっているということも珍しくない。そのような環境下では「正解」「勝利」「合理性」にこだわりすぎるとプレーの幅を狭めてしまう。状況が変化しても対応できる「自分だけの強さ」を身につけること、そして成長過程そのものが、長期的な勝ちにつながる。
2.インプット→アウトプット→フィードバックの反復
【努力1.0】自分が得た情報や編み出した攻略法は誰とも共有しない(=インプットのみ)
【努力2.0】インプット → アウトプット → フィードバックをスピーディに反復する
後輩などに攻略法や新情報を惜しみなく教えたり、大会で積極的に試してみたりして(=アウトプット)、相手からの感想や試してみた結果を通して自分の学びに生かす(=フィードバック)。変化の速い環境では情報はすぐに古くなるので、インプットした知識や技術はどんどんアウトプットしてフィードバックを得て次につなげていかないと、インプットした努力や時間が無駄になるのでスピードも大切。自分だけの狭い視野であれこれ考えていないで、とっとと試して答えやヒントを得るべし。
3.負けや失敗の中に答えがある。小さな挑戦を繰り返せ
【努力1.0】勝ちにこだわる。負けや失敗は徹底的に避ける。負けるとつまらない
【努力2.0】「負け」や「失敗」を恐れず、自分を成長させる情報の宝庫だと考える
人間は、つまづいたときや失敗したときこそ、自分をしっかり見つめ直したり分析・検証したりするもの。どんなに時間をかけて完璧に準備しても「勝率100%」なんて現実的にあり得ないのだから、完璧さや大きな挑戦、大きな成功は求めないこと。ささいなことでもやってみる機会を増やせば、挑戦した数だけ何かしらの学びを積み重ねていけるのだから、負けや失敗を恐れて挑戦しないというのはもったいない。
思い切って上司にアウトプットしてみたら、意外なフィードバックが待っていた
本書を読んで、心のなかでモヤモヤと渦巻いていた「このままでいいのか?」の正体がつかめた気がする。それは、先行き不透明なこれからの社会において、どのような状況でも対処できるような「成長した自分」がイメージできない不安だったのだ。
これまで、「過去に成果が出ている方法」から学ぶというプロセスを重視していたのは、効率化のためだけでなく、失敗することを恐れて挑戦できずにいたのだということにも気づかされた。当然ながら、挑戦してみなければ失敗もできないし、成長するチャンスを逃し続けることになるだろう。
「1割打者でいい。とにかく打席に多く立て」というときどさんの力強い言葉を思い出し、「とにかくやってみる」という軽い気持ちで小さな挑戦を少しでも積み重ねていきたい。
また、自分の考えを誰かに話してアドバイスを受けたり、自分が学んだことを誰かと共有したり、そのようなアウトプットを一切してこなかったことも、ぼくの視野を狭め「成長」を鈍らせていた大きな要因だろう。
そのことに気づいたぼくは、これまで独学してきたプログラミングの知識や技術をどのように業務に生かせるか、試しに上司に相談してみた。すると、ソフィア社内という範囲に留まらず、それをどのような場で生かせるかについても勉強してみてはどうかというアドバイスをもらった。自分にはない着眼点だった。──こういうことか。
人間はある程度キャリアを積んでいても、いくつになっても、どんな立場になっても、生きている限りずっと成長を続けていかなければならない。もちろん、挑戦だけではなく、日々のタスクでの「成果」もしっかり出していく必要がある。その観点では、努力1.0の世界である「先人たちの試行錯誤によって無駄が削ぎ落とされた手法やマニュアルで基本的なことを学び、世の中にあふれている便利なツールなどを活用して成果を出す」ことも求められる。大切なのは「成果」と「成長」の両輪を回していくことなのだろう。
この先、順調に前進するときもあれば、寄り道したり、来た道を戻ったり、時にはどこかに落っこちて上司や同僚に引き上げてもらったり、そんなことを繰り返していくのかもしれない。だけど、それでいいのだ。そんな風に非線形であることこそが、成長のプロセスにおいて最も大切なことであり面白いところでもあるのだから。
株式会社ソフィア
データアナリスト
伊佐地 雄介
主にExcel等のOffice365製品を活用してデータの集計分析を行うほか、さまざまな業務をより効率的に作業できるような仕組みを構築し、他のメンバーが創造的な仕事ができるよう支援しています。
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