2016.05.19
インナーブランディングに取り掛かる前に知っておきたい3つのこと。
目次
【この記事のポイント】
・インナーブランディングとは、「組織で働く従業員一人ひとりが自社の目指す姿、ビジョンや経営理念等を深く理解・納得し、自分のこととして行動することにより、お客様に対して提供する価値を向上すること」
・他社の成功事例は、どの企業にも応用できる訳ではない。他社事例を真似するよりも、自社の状況(歴史・従業員・文化など)をしっかり理解し、自社に合ったやり方を模索しよう
・インナーブランディングの効果は一朝一夕には出ない。長期視点で継続して取り組むことが実現への近道。ゴールまでの通過地点をあらかじめ描き、施策に対する反応を可視化して、組織内に理解者を増やしていこう
インナーコミュニケーションからインナーブランディングへ
最近よく耳にする「インナーブランディング」という言葉。Google Trendsを見ると、2007年に検索のピークがあり、一旦落ち込んだものの、近年再び上昇してきていることがわかる。
特に2015年に入ってから、検索数が「インナーコミュニケーション」を上回っている。インナーコミュニケーションとは組織内のコミュニケーションや職場内の風通し等を意味するが、その最終的な目的は組織と人の潜在力を引き出し、会社が目指す姿を組織全体で(商品・サービスやクリエイティブ、社員の行動すべてで)体現することにある。以前からそこに着目し「インナーブランディング」を専門にビジネスをしてきた私たちにとって、インナーブランディング(インターナルブランディング)の重要性に世の中の注目が集まっている現在の状況はとても嬉しいことだ。
インナーブランディングの推進には、地道な積み重ねとチャレンジが必要
私たちは、インナーブランディングとは、「組織で働く従業員一人ひとりが自社の目指す姿、ビジョンや経営理念等を深く理解・納得し、自分のこととして行動することにより、お客様に対して提供する価値を向上すること」と定義付けている。そして、インナーブランディングを推進するためには、従業員のエンゲージメント向上施策や組織改革、業務プロセスの改善などの施策を行うとともに、経営と各部門、従業員との間でスピーディーに情報のやりとりができるコミュニケーション基盤を整えることが必要だと考えている。
しかし、インナーブランディング推進をミッションとしている広報部や経営企画部の担当者から「インナーブランディングをやらなきゃいけないのだけど、他部門と連携していくのはちょっとハードルが高いなぁ」というような声を聞くことがある。
たしかに、インナーブランディングは企業の1部署だけで実現できるものではない。理想は経営トップの強力なコミットのもとに全社一体となった取り組みを進めていくことだが、それができない場合はまず1部署でできることから積み重ね、徐々に周囲を巻き込むムーブメントに育てていくという方法もある。
インナーブランディングの第一歩は「現状を変えなければ」という意識を持った担当者がまず小さなアクションを起こすこと。そして実績を積み重ね、徐々に大きなチャレンジにつなげていくことだ。以下に、これからインナーブランディングに取り組みたいと考えている方へ向けて、取り組みを始める前に知っておきたい3つのことをご紹介する。
1.従業員はそれぞれ個性があり、多様である
一つの組織内でデプスインタビューを行うと、職種・年代・職制が全く異なる従業員が同じ言葉を発していることがよくある。たとえば、50代の管理職が、「会社を変えるためには、もっと社員同士が本音で話し合うべきだ」と言い、20代の一般社員が「誰も本音で話していない。誰もが意見を言い合える文化を作るべきだ」と言う。その一方で、40代の管理職が「今は決められたことをやることで精一杯で、他のことが考えられない」と言う、などだ。
「うちの社員って…」「最近の若者は…」「うちの管理職は…」など、従業員を十把一絡げに語っていることはないだろうか。所属や肩書といった属性は従業員をセグメントするのに便利だが、一人ひとりの価値観や考え方をあらわすものではない。それぞれの従業員が所属する事業の特性や歴史、上長の価値観によっても発言は大きく変わるが、そもそも従業員の一人ひとりが多様であり、さまざまな価値観やモチベーションの源泉を持っていることを忘れずにいたい。
現状に対して余計な先入観を持たないためにも、まずは従業員と向き合って話を聞いてみてほしい。さまざまな従業員のもとに出向き、「どんな場所で、どんな風に働いているのか」よく見て、「どんな思いを持っているのか」よく話を聞き、そのうえで従業員の「考え方」や「具体的な行動様式」、「考えや行動の背景」をデータとして蓄積していってはどうだろうか。一覧にしてみると、一見すると異なる発言や行動が実は似通った背景から発生していたり、その逆もあるということがわかるだろう。考え方や行動様式の傾向を分析してペルソナとして描くことも、ひとつの可視化の手段であり、現状の理解に有効な手法である。
2.他社の事例は手法の参考にはなるが、その効果までは約束されない
「何か事例ないですか?」
インナーブランディングの担当者からよく発せられるフレーズだ。実際に効果があったという他社事例は、予算獲得やプロジェクトの承認に向けて上長を説得する材料としては実に便利なものだ。しかし、他社事例は「その会社」の状況から生まれた「その会社の成果」であり、どの会社にも応用できるものではない。
インナーブランディングに関する取り組みは、社内の取り組みであるがゆえにオープンにされないことが多く、まだまだ未開拓の領域だ。その成功パターンは明確にはなっていない場合が多く、何かの成功パターンが存在したとしても他の組織で同じように成功するとは限らない。確実に成果が上がる方程式が存在しない以上は、「手っ取り早く」他社事例を真似するよりも、自社の状況をしっかりと理解した上で、自社に合ったやり方を模索すべきではないだろうか。
これまで会社はどんな歴史をたどってきたのか、それぞれの時代の従業員は会社の挑戦を、どのようにとらえ、どう考え、働いてきたのか、それによってどんな文化が構築されてきたのか。まずは自社の情報を集め、その文化やDNAについてよく考えてみてほしい。その上で、企業の大小、業種問わず、事例を調べて、自社なりの施策にアレンジしてみてはどうだろうか。
3.今日取り組んで、明日成果がでるものではない
「インナーブランディングをやったら、もうかりまっか?」というのが、経営側の本音ではないだろうか。経営者の理解を得て取り組みを継続するためには、成果を可視化するKPIの設定が絶対に必要だ。
しかし同時に「インナーブランディングの効果は一朝一夕に出るものではない」ということを前提として伝えていくことも大切だ。人の気持ちや行動は、簡単に変わるものではない。時間をかけて、さまざまな角度からアプローチするから成果を得られるのであって、それを従業員の数だけ行うのだから、膨大な時間がかかることは言うに及ばないだろう。
短期ではなく、長期視点でゴールを見据えて、継続して取り組むことがインナーブランディング実現への近道だ。継続するために小さなKPIを用意し、素早くPDCAをまわしていきたい。
私たちは効果測定を、3ステップに分けて考えている。
① 実施(計画したことを、その通りに実施できたか)
② 反応(実施した施策に対してどんな反応があったか)
③ 効果(目指す状態に向けた従業員の変化が見られたか)
効果はすぐに見えなくても、自分たちで引いたマイルストーンや、その中の施策に対する反応は可視化することができる。目に見える結果がないと、取り組みがどのような状態にあるのか自分たちでもわからなくなるし、経営側からも見えなくなってしまう。だからこそ、ゴールにたどり着くまでの通過地点をあらかじめ描いておき、どこまで進んだか常に振り返ることが大切だと考える。
社員と経営のすべての接点を最適化するために
インナーブランディングを進めるにあたって、最終的には社員との接点をすべて目的に合わせて最適化していかなければ、「あっちで言っていることと、こっちで言っていることが違う!」と社員が不信感を持ってしまうことにもなりかねない。社員との接点を持つ部門や各職場の管理職と協力関係を構築し、ともに取り組んでいくことが重要だ。
しかし、多くの企業は縦割り組織で、部門連携での取り組みが非常に難しいという声をよく聞く。また、取り組むべきだと思っても、「時間がない」「大変そう」「自分の仕事じゃない」と賛同してくれる人がいないと悩む担当者も多い。
組織内の人間が矢面に立って部門連携の体制を作ろうとすると困難が多いが、外部のアドバイザーやコンサルタントが複数部門の間に入ることでスムーズな体制づくりができることもある。「なんとなく」「よくわからないけど」という枕詞がついてもかまわないので、「何かを変えたい」「できることからでもやってみたい」そう思う方は、まず味方になってくれそうな人間を社内外から探してみてはどうだろうか。インナーブランディングに関するセミナーや勉強会に出かけ、他社の担当者と交流するのもおすすめだ。もちろん私たちソフィアも力になることができるので、気軽に連絡してほしい。
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