2016.06.06
全組織の課題を見える化!? 「コミュニケーション調査」は企業の健康診断
目次
労働者の悩みとして、厚生労働省の労働者健康状況調査でも最も上位に入るのが「職場の人間関係」。企業にとっても「会社の理念をしっかり社内に浸透させたい」「横の連携をもっと強固にしたい」「社内の風通しをよくしたい」など、コミュニケーションに関する悩みは多岐にわたる。それらの悩みをきちんと整理して、目指すべき方向の道標とするための「コミュニケーション調査」が、いま企業から圧倒的な支持を集めている。
ソフィアのシニアコミュニケーションコンサルタントである築地健は、企業組織を人体組織にたとえ、コミュニケーション調査は健康診断のようなものだと語る。一体どのような調査なのだろうか?
コミュニケーションは目的ではなく、企業の価値を高めるための「手段」
―そもそも「コミュニケーション調査」とは何ですか?
組織内のコミュニケーション課題を定量データとして見える化し、コミュニケーションの改善施策につなげるための大規模アンケート調査です。
―なるほど。
よく企業の経営層や、広報や人事の方から「組織内のコミュニケーションを良くしたい」と、相談されます。「会社の理念をしっかり社内に浸透させたい」「横の連携をもっと強固にしたい」「社内の風通しを良くしたい」など、その内容はさまざまです。また一方、厚生労働省の労働者健康状況調査(平24年)でも、労働者の悩み事の第一位は「職場の人間関係」、つまりコミュニケーションなんです。会社側も労働者側も常々コミュニケーションに悩んでいるのですが、実は「コミュニケーションをよくする」ということが具体的に何を指しているのか、相談者も言葉に表せないことが多くあります。
―そうなんですね。ソフィアでは「コミュニケーションを良くする」ということをどのように捉えているのですか?
私たちは、「コミュニケーションは手段である」という話をしています。特に組織内コミュニケーションについていえば、その目的は「エンゲージメント(Engagement)」「チェンジ・マネジメント(Change management)」「カスタマー・バリュー(Customer value)」の3つの言葉にあらわされると考えています。また、組織内のコミュニケーションを維持・促進したりするためには、組織内メディアやシステム、研修や職場活動などのリアルの場といったコミュニケーションの「プラットホーム(Platform)」が必要です。
コミュニケーション自体についていうと、大雑把に分類して、上の図のように3種類のコミュニケーションの流れがあります。図の三角形は組織を表しており、それぞれ(1)「トップダウン=浸透的コミュニケーション(Penetration)」、(2)「ナレッジシェア=協創的コミュニケーション(Cooperation)」、(3)「ボトムアップ =提言的コミュニケーション(Feedback)」と呼んでいます。3つのコミュニケーションフローの頭文字を取って 私たちの提供しているコミュニケーション調査のことを「PCF調査」と呼んでいます。
お客さまに、「良くしたいと思っているコミュニケーションはこの中のどれですか?」と図を示しながら尋ねると、「理念やビジョン、中期計画の浸透がうまくいっていないから、そこを強化したい」とか、カンパニー制を敷いているメーカーなどであれば「カンパニー内でもっとチームワークを発揮してもらいたいんだけども、それが十分できていない」という話が出てきます。
―そういった企業のコミュニケーション課題に、傾向などはあるのでしょうか?
最近は、社員の自立や自発性、リスクのエスカレーションなどの点から「ボトムアップ」が重要になってきていますね。例えば、会計粉飾がありそうだというときに、「これはおかしいな」と現場同士、現場と中間層・経営層とでちゃんと話ができれば、不祥事を予防できることもあると思います。そのためには「悪いことは悪いと言える風通しのよさ」が必要です。
みんな組織内コミュニケーションが悪いと悩んでいる。でも証拠がないし、どこが悪いかわからない。だからそれを探して突き止め、改善につなげよう、というのが、PCF調査です。
「攻め」と「守り」のコミュニケーション戦略につながる材料を提供
―具体的は、どのように調査を行うのですか?
Webや紙を使って、組織で働く全従業員、あるいはランダム抽出された従業員を対象にアンケートを行います。それこそ100人程度から数万人規模で実施します。
企業組織は、しばしば人体組織に例えて表現されることがありますが、この調査は健康診断に似ているかもしれません。健康診断に行くと、身長、体重、視力などを測定したり、血液検査をしたりしますよね。「ここが心配なんだけど」というところを伝えると、不安なところの検査や問診はもちろん、「それだったら胃カメラもしたほうがいいですね」とか別の角度からも調べたり。社内コミュニケーションも、人間の身体と一緒で、いろいろな部分で相関があるので、全体的にチェックを行っていきます。
そうすると、もっと強化していかなければいけないところが見えてきます。ここからは体力測定にも通じる部分ですが、たとえば、スポーツ選手は競技によって特に強化が必要な筋肉は異なりますよね。レスリングやボクシングでは打たれ強くなるために首の筋肉だったり、ダンサーであれば、柔軟性だったり。これは企業でも同じで、組織が目指す方向や、担っている使命によって、伸ばしていきたいコミュニケーションも微妙に違ってきます。
―相手の目指す方向や課題によって、出口も違うということですね。この調査を行った企業の反応はいかがですか?
「この結果をうちの部署だけで持っていたらもったいない!」と、役員会で共有したり、社長報告を行ったりしていますね。全組織的な課題を「見える化」しているものだと評価されることが多いんです。そのため、一度この調査をすると、その後の変化を確認するためにも、定点観測的に毎年実施される企業が多いですね。
―企業が社員向けに行う調査と言えば、人事部が主管となって実施される、従業員意識調査や従業員満足度(ES)調査の類が数多くありますが、何が違うのでしょうか?
ソフィアのコミュニケーション調査では「企業のコミュニケーション戦略における『攻め』と『守り』の両方の材料を提供できる」設問設計をしています。
これはとても主観的な考え方になりますが、私は「攻めの広報、守りの人事」とよく言っているんです。
広報って「これからこうやっていこう!」っていう宣伝活動を、時流を捉えて、タイムリーに、また、文字通り広範囲に実施できるところなんですよ。自分たちの媒体を使って、自社の強みや将来に向けたビジョン、従業員の活躍ぶりを共有していける。
―確かに。その点で言うと人事部は評価制度を管理したり、労働組合との合意形成をしたり、より公平な姿勢が求められますし、守りにならざるを得ないですよね。
それゆえか、従業員意識調査やES調査パッケージの設問をみてみると「福利厚生に満足していますか?」「労働時間は適正ですか?」「上司はあなたの話をちゃんと聞いてくれますか?」と、まさに満足度を調べているんですよ。
他方で、管理職研修や理念研修を企画・設計する上で必要なのは、むしろ職場内でのコミュニケーションの実態ですから、先のPCFの3つのコミュニケーションフローの診断結果は、研修においてもとても役立つと評価されます。なぜならば、各組織のコミュニケーション上の弱点が見えてくるからです。例えば、ネガティブな情報が職場内で共有されにくい文化にあるとか、本部長と部長は一枚岩になっているが、部長と課長の間の間で、認識のギャップがあるとか。要は、守備を厚くしないといけない部分が定量的に示されるんです。
調査の先の改善施策に向けて、担当者に伴走し、サポートする
―調査レポートの特徴はありますか?
コンサルティング会社などでは、‟調べておしまい”というところが多いですが、お客様が本当に必要なのは、結果をもとに「じゃあ、どうするの?」という部分です。調査結果にもそのヒントをあらかじめ入れておかないと、結局は対応策を計画するのに何ヶ月も止まってしまって、施策が進まない。だから、私たちは、必ずその足がかりになるものを提供するようにしています。
幸いにも、ソフィアは、組織内のコミュニケーションをよくするためにお手伝いをしてきた実績がたくさんあります。コミュニケーションの戦略計画策定から、社内報や冊子、ポスターなどの紙媒体の制作。Webやシステム開発、さらに研修やワークショップ、イベントのようなリアルな場の企画運営も提供しているので、具体的な施策においてもお役に立てる部分が必ずあると考えています。
―今まで数多くの調査をしてきて、共通する傾向はあるのでしょうか?
先程、「ボトムアップ」が重要になっているとお話ししましたが、調査結果を見るとどこの企業もボトムアップ(Feedback)が弱いように思います。それだけ日本企業には、個人が意見やアイデアを発信する文化が育っていないのではないでしょうか。「意見を言わない」というのは他部署間でも同じで、他の畑は荒らしてはいけないと思っている。「本当はこういうことをやればいいのに」と思っていても他部署に対して言わない。細かい気の遣い合いはマナーとして必要ですが、多くの研究者が指摘するように、気を遣いすぎて全くコミュニケーションしないのは、組織や立場を超えた連携やイノベーションを阻害する要因にもなります。
他方で、トップダウンは比較的できていると思います。そのため、この部分は追加調査や深掘分析をして、考察が多くなりますね。
―「コミュニケーションができていないから、どこが悪いか社内の健康診断をしましょう」というのは広報部や人事部の方も結構勇気がいりますよね。上層部の理解を得て調査を進めるために、担当者の方に対してどのようなサポートをいるのでしょうか?
人事部は比較的調査経験があるので、そうでもないのですが、広報部が主管となっての大規模なアンケート調査をするというのは『前例がない』と障壁になることも多いです。でも、ちゃんと上層部から信任を得て「コミュニケーションは大切なんだ」ということを発信し、実施している企業・組織も多々あります。それだけ、「インターナルコミュニケーション」の重要性がますます認知されてきているということだと思います。まあ、海外企業の方がずっと積極的ですね。
また、アンケート調査をすると「社内広報に時間やお金を費やすのであれば、給料をあげてほしい」というようなコメントがときどき出てくる。そんな回答をみると、だいたい担当者はめげそうになります。普通、モチベーション下がりますよね。だから、パートナーがいた方がいいんです。私はよく、「従業員も人間だから、無記名のアンケートであればこんなコメントを書くこともあります。でもそれは散見される程度で、みなさんこんなに一生懸命時間をかけて書いてくれるんです。自由記述部分の回答率が50%もあります。そこを喜びましょう」って。一人でやっているとめげることもあるし、回答率50%がいいのか悪いのかも判断がつかない。そもそも社内でやっていたら50%という数字を集計していないかもしれない。そこをサポートするのは伴走者としての私たちの役割だと思っています。
調査結果を組織内で広く共有し、主体的なコミュニケーションを推進してほしい
―今後、このサービスをどのようにしていきたいですか?
コミュニケーションを良くし、組織を良くするために、いろんな人たちにこの調査結果を見てもらい、活用してもらいたいです。マルチユースして欲しい。分析された結果を見ることで、コミュニケーションは広報部や人事部だけではなく、経営企画部、情報システム部などさまざまな部署が関わるべき問題だということがわかり、部署を超えて連携した取り組みもしやすくなると思います。
実際、調査結果を一般社員の人たちにもフィードバックしてくださいと今日もお客様にお話してきました。「この内容をフィードバックするのは怖いなー(苦笑)」っておっしゃっていましたが、「でも、全部は無理だけど、概略は伝えたほうがいいね」という結論になりました。社員の方々にもコミュニケーションのオーナーになってもらって「自分だったらこうする」という意見を出したり、「これは納得いかない」という声をあげたり、主体的になってもらいたい。だって、厚労省の調査結果のとおり、働くみなさんはコミュニケーションに悩んでいるんですよね。だから、ただの調査するだけでなく、組織を働きやすくするきっかけにしてほしいです。
―さらにその先で、築地さんが目指しているものは?
今の日本って、名目GDP世界3位の経済大国ですが、OECDその他の調査結果にもあるように、働きやすさ、多様な働き方など課題山積のように評されていて、実際、経済は働いている人々の惨状の上に成り立っているようなイメージがあるじゃないですか(苦笑)。でも、例えば文化や芸術、スポーツなどの分野では「日本、スゴイ!」って世界から賞賛されている部分がある。だから、組織コミュニケーションの分野でも「日本、スゴイ!」と言われたらいいなと思うんです。他国が日本の組織コミュニケーションを研究してくれるような風土を作るお手伝いができたら、すごく素敵だと思っています。
私は哲学本が好きで、トマス・モアとか、ジャン・ジャック・ルソーとか、マックス・ウェーバーとか、歴史の思想家たちの本を読みかじるのですが、私は、人は何らかの理想を持ち、ありたい姿を目指すべきだと思うんですよね。人々がそうやって目指してきた歴史があって今がある。だから私も仕事を通じて理想を目指していきたいと思っています。
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株式会社ソフィア
取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント
築地 健
インターナルコミュニケーションの現状把握から戦略策定、ツール導入支援まで幅広く担当しています。昨今では、DX推進のためのチェンジマネジメント支援も行っています。国際団体IABC日本支部の代表を務めています。
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取締役、シニア コミュニケーションコンサルタント
築地 健
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