2017.03.31
興味と教養がアイデアをつくる【あの人の本棚 Vol.4 吉備奈緒子】
実学でないからこそ得られること
ワークライフバランスやオープンイノベーションが叫ばれる現代。趣味や社外活動を推奨する企業が増える一方で、突然の変化に戸惑い、その意義や楽しみ方を見出せない人も多い。
メンバーの机に実際に置かれている本を紹介するコーナー「あの人の本棚」。今回は昨年11月にソフィアに入社し、音楽、建築、アート、色彩学と幅広い趣味を持つ吉備奈緒子に、本を通した趣味の楽しみ方や仕事とのつながりを語ってもらった。
《今回の本棚》
『物欲なき世界』菅村雅信著(平凡社)
『読書について』ショーペンハウアー著・鈴木芳子訳(光文社古典新訳文庫)
『自分の中に毒を持て あなたは“常識人間”を捨てられるか』岡本太郎著(青春出版社)
『仕事文具』土橋正著(東洋経済新報社)
『TOKYO図書館紀行』(玄光社)
『色彩論』ゲーテ著・木村直司訳(筑摩書房)
―今回はたくさんの本を持ってきていただきましたね。まずはどの本からご紹介いただきましょうか
ではこの『物欲なき世界』から。現代はモノを買わなくなっている時代だ、モノよりコト、所有よりシェア、そしてシェアによって生まれるコミュニティを売る時代になっている、という内容です。実は新卒の就職活動のときに百貨店業界を目指していたことがあり、そのときに「おそらくこれからはファッションよりライフスタイルを売る時代になるだろう」と漠然と思って、面接でもそんな提案をしていたんです。だから「これは共感できる」と思って購入しました。
この本では、現代はきっぱりと二分化されない世の中になってきているとも言っています。仕事とプライベートの境目がなくなってくる人もいると思いますし、自分自身も在宅勤務で実感することがあります。まさに現代に関する示唆に富んだ本です。
―ソフィア自体にもその傾向はありますよね。モノではなくコトを売る会社だし、メンバーコード(メンバーとして大切にすること)でも、ワークとライフを統合することを重視しています
そうですね。入ってからもう一度読み返してみると、あらためて面白いなと思いました。実は、今回持ってきたものはみんな、前職をやめてからソフィアに入社するまでの間に購入したものなんです。
―前職をおやめになってから、さまざまな本を読んだんですね
自分のキャリアを考える中で、「ああ、そういえばあれも好きだったな。これも好きだったな」と思い出して、いろんな本を買いました。文具が好きだなと思ってこの『仕事文具』を買ってみたり、建築や図書館に興味があったので『TOKYO図書館紀行』を買って、実際に行ってみたりもしました。美術館に行くのも好きです。ミュージアムショップにはちょっと変わった本があるので、楽しくてつい買ってしまいますね。岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て』も、岡本太郎記念館で購入しました。
この『読書について』は哲学者ショーペンハウアーの随筆ですが、ただ読書をするだけでは仕方がない、反芻して噛みしめることだ、そうすることで自分の血となり肉となるのだという内容です。著者の代表作『意志と表象としての世界』は、哲学界では有名な本です。ニーチェやワーグナーにも影響を与えたとされていますし、芸術家の岡本太郎さんも、若い頃にショーペンハウアーにはまったそうです。ショーペンハウアーの文章はとても辛辣で、そこが面白いんですよ。そうとう怒りながら書いていたんだろうな、と(笑) 今、勉強のためにたくさん本を読みたいなと思っているので、彼の辛辣な言葉で自分を戒めています。
―建築やアートなど、興味関心が広いですね。こうしたさまざまな分野には、小さな頃から興味があったのですか
大学に入って美学を学んだことが、一番大きな影響でしょうか。そこで古きも新しきも一通りのものを勉強したので、おかげで今もいろいろと楽しめているなと思います。
―吉備さんはカラーに関する資格もお持ちですよね。このゲーテ『色彩論』もそうした興味からでしょうか
ゲーテと言えば『若きウェルテルの悩み』など文豪のイメージが強いですが、意外と理系にも強い人でした。この本には「色は光からくるものである」として、物理関係のことも書いてあります。彼は体系だった色相環ができあがるよりもずっと前に、独自の色相環を作っていました。カラーセラピーに通じるような色と心理の関係にも言及していて、興味深いです。
実はこの本の中に、特に心に響いたこんな言葉があります。
「興味・偶然あるいは機会に導かれて人間がたとえどの分野へ進もうとも、いかなる現象が特に彼の注意を引き、彼の関心を呼び覚まし、彼の研究に専念させようとも、それは科学に裨益 する(役に立つ・助けとなる)であろう。なぜなら、明るみに出されたいかなる新しい関係も、いかなる新しい研究方法も、不充分なものも、誤謬でさえも役に立つか刺激となり、将来のためにむだにはならないからである。」
どんな分野の関心でも、未来や将来のために無駄にはならないという意味で、大学で文系学部に入ったことを後押ししてくれる言葉です。一時期、もっと実学をやっておいたほうがよかったのではないかと迷うこともありましたが 、ソフィアに入って、大学で美学を学んでおいてよかったなと実感しています。
―そう感じるのはどうしてですか
本を読んだりアートを鑑賞したりすること、そしてそれを学問として学ぶことは何事にも代えがたいと思うんです。実学は、仕事を通じて自然と身につく部分があります。でも社会人になってから哲学や芸術を体系立てて学ぶのは、時間の制約もあって難しいと思いますし、こうした学びの経験があったおかげで、前職とまったく違う業界に飛び込んだ今でも、柔軟な発想ができているのかなと思います。
最近では国立大学から実学以外の文系学部を減らそうという動きもありますが、アイデアのヒントになる学びを選ぶのは必要なことだと思います。少なくとも私は、ソフィアでその必要性を強く感じる毎日です。
《今回のメンバー》
吉備奈緒子
担当分野:組織内コミュニケーション調査・改善に向けたロードマップ策定(ダイバーシティ推進支援)